上 下
8 / 266
1-1 逆さまの幽霊 side A

7 織歌の仮説1

しおりを挟む


「じゃあ、私の仮説、説明します。ロビンさん、適宜てきぎフォロー、お願いしますね」
「はいはい、良きにはからうよ」

どうしてこうなったのか。
くだんの踊り場に背を向けるようにかばんかかえて座らされた真由まゆは、想定していた通りのあきれを浮かべたままメガネをかけ直して、隣に座るロビンを横目で見た。
織歌おりか微笑ほほえましいほどに自信満々で、三段ほど下がった段に立っている。

「えーっと、説明文のセオリーとしてはショートケーキのイチゴから、ですよね。というわけで、端的に言いますと、アレは思念と情景の焼きつきで、怪談として語られぬ間に潜在せんざい化し、再度語られるようになって顕在けんざい化したのだと私は考えます」
「うん、全然有り得るね」

ロビンがそう相槌あいづちを打って続ける。

「志向性を付与するものの中には、物語storyそれそのものや、文脈contextがある。そこに怪談の内容があると観測者が知っているかどうかで、が現れるかどうかは変わる」
「はい、そうしたがトリガーの怪談もありますから、当然です。今回は語られなくなって忘れられ、潜在化していたと考えられます」

それを聞いて、真由まゆはふと小学生の頃に聞いた、二十歳はたちまで覚えていたら死ぬ言葉を思い出す。
思い出してから、なんで思い出せてしまったんだろう、と少しげんなりした。
織歌おりかは続ける。

「けれど、それは今回、正体を考える上ではあまり重要ではありません。今回、正体を考える上でのポイントは、、です。元々の怪談では、これは『頭から飛び降り自殺した生徒の幽霊』として語られます。この生徒については、少なくともこの怪談で、これ以上のバックグラウンドは語られません。ということは、その生徒自体はのです。それこそ、その飛び降り自殺の理由ですら、どんな憶測おくそくが当てられようとかまわないということです」

織歌おりかのその言葉に、真由まゆはぎょっとする。
それではまるで、その生徒をないがしろにしているかのような物言いだ。
しかし、織歌おりかはそのまま続ける。

「その時点で、この怪談からみちびかれる幽霊に。だって何に恨みを持っているか、のですから」
「そうだね、幽霊の話に恨みを始めとした理由は憶測おくそくであってもつきもの。そうでなければ、他の死者と違ってその死者が幽霊になる理由はない」

だが、真由まゆ先程さきほど覚えた抵抗をぬぐえない。

「……そ、そんな言い方って」
「ナイ、と思う?」

横のロビンが、そう真由の言葉をうばった。
小首こくびかしげたその目の青が、先程さきほどよりも暗くなった中で、イヤに目につく。

「優しいね、マユは。怖い思いをしたのに」
「だって、そんな、飛び降り自殺、ですよ。絶対、何か、誰とも分かち合えない、苦しみがあったはずじゃないですか」
「そう、、幽霊の話というものは存在しているのです。そこに怪奇現象があって、過去にそれらしい相応の何事かがあれば、だから恨みを晴らそうとしているのだと、そういうのです」

織歌おりかがきっぱりと言い切る。
いでロビンが口を開いた。

「これもほぼセンセイの持論の受け売り。だけど、マユ、知らない? スガワラノミチザネって」
「スガワラ……え、菅原道真すがわらのみちざね?」

いくら流暢りゅうちょうに日本語をあやつるとはいえ、どうみても外国人のロビンの口からバリバリの日本史上の人物の名前が出ると、流石さすがに一瞬ワケがわからなくなる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

怖い話短編集

お粥定食
ホラー
怖い話をまとめたお話集です。

餅太郎の恐怖箱

坂本餅太郎
ホラー
坂本餅太郎が贈る、掌編ホラーの珠玉の詰め合わせ――。 不意に開かれた扉の向こうには、日常が反転する恐怖の世界が待っています。 見知らぬ町に迷い込んだ男が遭遇する不可解な住人たち。 古びた鏡に映る自分ではない“何か”。 誰もいないはずの家から聞こえる足音の正体……。 「餅太郎の恐怖箱」には、短いながらも心に深く爪痕を残す物語が詰め込まれています。 あなたの隣にも潜むかもしれない“日常の中の異界”を、ぜひその目で確かめてください。 一度開いたら、二度と元には戻れない――これは、あなたに向けた恐怖の招待状です。 --- 読み切りホラー掌編集です。 毎晩21:00更新!(予定)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

感染

saijya
ホラー
福岡県北九州市の観光スポットである皿倉山に航空機が墜落した事件から全てが始まった。 生者を狙い動き回る死者、隔離され狭まった脱出ルート、絡みあう人間関係 そして、事件の裏にある悲しき真実とは…… ゾンビものです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

龍神の巫女の助手になる~大学生編~

ぽとりひょん
ホラー
大学生になった中野沙衣は、探偵事務所?を開くが雇う助手たちが長続きしない。 沙衣の仕事のお祓いの恐怖に耐えられないのだ。 そんな時、高校性のころから知り合いの中井祐二が仕事の依頼に来る。 祐二は依頼料を払う代わりに助手のバイトをすることになる。 しかし、祐二は霊に鈍感な男だった。

雪山のペンションで、あなたひとり

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ホラー
あなたは友人と二人で雪山のペンションを訪れたのだが……

大江戸あやかし絵巻 ~一寸先は黄泉の国~

坂本 光陽
ミステリー
サブとトクという二人の少年には、人並み外れた特技があった。めっぽう絵がうまいのである。 のんびり屋のサブは、見た者にあっと言わせる絵を描きたい。聡明なトクは、美しさを極めた絵を描きたい。 二人は子供ながらに、それぞれの夢を抱いていた。そんな彼らをあたたかく見守る浪人が一人。 彼の名は桐生希之介(まれのすけ)。あやかしと縁の深い男だった。

処理中です...