超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

文字の大きさ
74 / 91
第四章 ダンジョン騒動編

☆31羞恥に打ち勝つほどの衝動

しおりを挟む

 抱擁を解くと、カイルは俺の顔に唇を寄せてきた。目を閉じてそっと受け入れる。

「ん……っ」

 身体は怠いし恥ずかしさも収まらねえけど、それ以上にカイルの気持ちに応えたくて、俺からも唇を押しつけた。

「は、う……」

 日本の俺との繋がりが、完全に消えた影響だろうか。いつも以上にカイルの唇の感触をリアルに感じる気がする。

 唇を舌先でなぞられて、腰の奥が甘く痺れた。はあ、やばい。ダンジョンの中だってのに、下半身が反応しそうだ。

「ふ、うぅっ」

 舌を絡められながら、カイルに魔力を流しこまれる。

 吸われる時もぞわぞわと腰にクる感覚があったが、注入される時は熱の塊を注ぎこまれているかのようで、どんどん体が火照ってくる。

「あ、いやだカイル……」
「イツキ、まだ魔力が足りないだろう? 大人しく受け入れてくれ」

 んなこと言われたって、このままキスされていたら不覚にも勃っちまいそうだ。

 こんなところで、と思うのに、同時にカイルから離れ難くて、ほどよく筋肉のついた腕をジャケットの上からぎゅっと掴んだ。

 気持ちはどっちつかずのまま、それでも嫌々と首を振る俺に、カイルは切羽詰まった表情で懇願してくる。

「お願いだイツキ、お前を失うことなど俺には考えられない」
「もう大丈夫だって。さっきはちょっと気絶してただけで、ちゃんと身体にも戻れたし」
「どういうことだ」

 俺は順を追って説明した。さっきまで魂状態で宙ぶらりんになっていたこと。

 そして、カイルの元に帰るためにがんばっていたら、今まで保っていた日本の俺との繋がりが、完全に切れたらしいことを。

「そうか、そんなことが……」

 カイルは戸惑っていたが、そもそも異世界トリップ自体が不思議で前例がないことだ。

 なんで今まで元の俺と繋がっていたのかとか、そもそもこの身体はなんなんだとか、いろいろ説明がつかないことばかりだもんな。

 俺の魂がたまたまたくさんの魔力を抱えていたから、異世界の俺の身体を構築できたとか。偶然そっくりさんの身体に入り込んだとか。

 コケた拍子に偶然時空のひずみにハマっちまって、魂だけぽろんと飛びでたとか。それか、なんかの条件に当てはまって召喚されたのか。

 頭の中で仮説は立てられるものの、証明のしようがないことだ。だからこれ以上考えても無意味だろう。

 とにかく、これからもカイルの側にいられそうだ。それだけわかってりゃいい。

 肺に空気をいっぱいに吸いこみ、大好きな匂いを楽しむ。情欲をさそうようなセクシーな香りなのに、今はひたすらに安心した。

 さっきはどうなることかと思ったもんな。二度とこの身体に帰れない未来だってあったかもしれない。

 そう思うと、今こうしてカイルに触れていることが奇跡のように思える。

 しっかり視線をあわせてくれるカイルを見て、頬がニヤけてしまうのを抑えられない。

 カイルは俺を腕の中に抱えたまま、しばらく考え込んだ後尋ねてきた。

「では、今後イツキが突然俺の前から消えて、この世界からいなくなることはないということか?」
「絶対なんて言い切れないけど、もう起こらないんじゃねえかなって俺は思うよ」

 最初に日本からこの世界に飛ばされた時は、予兆もなにもなかったわけだし。また起こらないとは言いきれない。

 世の中に絶対なんてないってのが俺の持論だ。だが、少なくとも元の俺とは完全に縁が切れたと感じている。

 カイルは赤紫色の目を煌めかせながら、淡く微笑んだ。俺の顔をまっすぐに見つめて、笑みを深めていく。

「不謹慎かもしれないが、とても嬉しい」
「カイル……」
「イツキがいつかこの世からいなくなるかもしれないと考えただけで、胸が張り裂けそうだった」

 瞳を潤ませながら見つめられて、柄にもなく俺までつられて泣きそうになる。やめろよ、辛気臭いのは性にあわねえんだから。

「お前が俺を選んでくれたこと、けして後悔させない。幸せにする」

 その時のカイルの顔は、今までのどこか不安そうな様子が吹っ切れていて。

 アレキサンドライトの宝石みたいに輝く瞳は、強い決意を秘めていた。圧倒的に美しい顔に凄みが加わり、俺は声もなくひたすらにカイルを見つめる。

 どくん、どくんと胸が弾みだし、呼吸が浅くなる。ああもう、なんてかっこいいんだ。

 元々惚れていたのに、今は胸が痛くなるくらいにときめいているのを自覚する。首までぶわっと熱くなった。

「……イツキ? やはりまだ具合が悪いのか、今度は顔色がよすぎる」
「大丈夫だって、ほら……っ」
「っ、危ない」

 立ちあがろうとしたが、身体に上手く力が入らず洞窟の床に肘を打ちつけそうになる。すんでのところでカイルに助けられた。

「ごめん……はは、かっこわりい。なんか最近、カイルに助けられてばっかだな」
「それは俺だって同じだ。今回の事件でも、イツキがいなければ任務は失敗に終わっていただろう」

 カイルはおもむろにインベントリから魔酵母の酒を取り出すと、瓶ごとあおるように飲んだ。

 いきなりどうした、男らしい喉仏が上下するのは眼福だけれども。

 飲み終わった瓶をインベントリに戻して、口元を乱暴に拭ったカイルは、俺を膝の上にひょいと抱えた。

「え、なんだよ」
「魔力を回復させたから、これでイツキに分け与えてやれる」

 またさっきみたいにキスするつもりなのかよ? そんなの、どうしようもなく乱れちまう予感しかしない。

 しないんだが……それでも俺はカイルの膝にまたがって、腕を首に絡めて、自分から唇を押し当てた。

 ふにっと柔らかな感覚がすると同時に、肌の表面から気持ちよさがじわりとひろがっていく。

 唇同士を触れあわせると、カイルの熱い体温が伝わってくる。

 俺はちゃんとここで、カイルと一緒に生きている。心の器がひたひたと満たされて、胸がいっぱいになった。

「は、カイル……」
「イツキ……いいか? 魔力を流しても」

 さっきまで目の前にいるのに触れなくて、こっちを見てくれさえしなくて。ずいぶん焦ったし、その……

 俺だって、カイルと一緒にいるってことを実感したいんだ。

 魔力なんて寝れば回復するかもしれねえが、今は言い訳にすがってでもカイルと愛しあいたい。そんな気分だった。

 ここがダンジョンの中だとか、結界を張る魔力がないことだとか、まだ全ての後片付けが終わっていないことだとか。

 全部全部いったん脇に置いて、カイルだけに溺れていたい。

 俺は熱くなった頬をそのままさらけだしながら、誘うように微笑んだ。

「ああ、いいぜ。アンタの気が済むまでやってくれ」
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。