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第四章 ダンジョン騒動編
☆31羞恥に打ち勝つほどの衝動
しおりを挟む抱擁を解くと、カイルは俺の顔に唇を寄せてきた。目を閉じてそっと受け入れる。
「ん……っ」
身体は怠いし恥ずかしさも収まらねえけど、それ以上にカイルの気持ちに応えたくて、俺からも唇を押しつけた。
「は、う……」
日本の俺との繋がりが、完全に消えた影響だろうか。いつも以上にカイルの唇の感触をリアルに感じる気がする。
唇を舌先でなぞられて、腰の奥が甘く痺れた。はあ、やばい。ダンジョンの中だってのに、下半身が反応しそうだ。
「ふ、うぅっ」
舌を絡められながら、カイルに魔力を流しこまれる。
吸われる時もぞわぞわと腰にクる感覚があったが、注入される時は熱の塊を注ぎこまれているかのようで、どんどん体が火照ってくる。
「あ、いやだカイル……」
「イツキ、まだ魔力が足りないだろう? 大人しく受け入れてくれ」
んなこと言われたって、このままキスされていたら不覚にも勃っちまいそうだ。
こんなところで、と思うのに、同時にカイルから離れ難くて、ほどよく筋肉のついた腕をジャケットの上からぎゅっと掴んだ。
気持ちはどっちつかずのまま、それでも嫌々と首を振る俺に、カイルは切羽詰まった表情で懇願してくる。
「お願いだイツキ、お前を失うことなど俺には考えられない」
「もう大丈夫だって。さっきはちょっと気絶してただけで、ちゃんと身体にも戻れたし」
「どういうことだ」
俺は順を追って説明した。さっきまで魂状態で宙ぶらりんになっていたこと。
そして、カイルの元に帰るためにがんばっていたら、今まで保っていた日本の俺との繋がりが、完全に切れたらしいことを。
「そうか、そんなことが……」
カイルは戸惑っていたが、そもそも異世界トリップ自体が不思議で前例がないことだ。
なんで今まで元の俺と繋がっていたのかとか、そもそもこの身体はなんなんだとか、いろいろ説明がつかないことばかりだもんな。
俺の魂がたまたまたくさんの魔力を抱えていたから、異世界の俺の身体を構築できたとか。偶然そっくりさんの身体に入り込んだとか。
コケた拍子に偶然時空のひずみにハマっちまって、魂だけぽろんと飛びでたとか。それか、なんかの条件に当てはまって召喚されたのか。
頭の中で仮説は立てられるものの、証明のしようがないことだ。だからこれ以上考えても無意味だろう。
とにかく、これからもカイルの側にいられそうだ。それだけわかってりゃいい。
肺に空気をいっぱいに吸いこみ、大好きな匂いを楽しむ。情欲をさそうようなセクシーな香りなのに、今はひたすらに安心した。
さっきはどうなることかと思ったもんな。二度とこの身体に帰れない未来だってあったかもしれない。
そう思うと、今こうしてカイルに触れていることが奇跡のように思える。
しっかり視線をあわせてくれるカイルを見て、頬がニヤけてしまうのを抑えられない。
カイルは俺を腕の中に抱えたまま、しばらく考え込んだ後尋ねてきた。
「では、今後イツキが突然俺の前から消えて、この世界からいなくなることはないということか?」
「絶対なんて言い切れないけど、もう起こらないんじゃねえかなって俺は思うよ」
最初に日本からこの世界に飛ばされた時は、予兆もなにもなかったわけだし。また起こらないとは言いきれない。
世の中に絶対なんてないってのが俺の持論だ。だが、少なくとも元の俺とは完全に縁が切れたと感じている。
カイルは赤紫色の目を煌めかせながら、淡く微笑んだ。俺の顔をまっすぐに見つめて、笑みを深めていく。
「不謹慎かもしれないが、とても嬉しい」
「カイル……」
「イツキがいつかこの世からいなくなるかもしれないと考えただけで、胸が張り裂けそうだった」
瞳を潤ませながら見つめられて、柄にもなく俺までつられて泣きそうになる。やめろよ、辛気臭いのは性にあわねえんだから。
「お前が俺を選んでくれたこと、けして後悔させない。幸せにする」
その時のカイルの顔は、今までのどこか不安そうな様子が吹っ切れていて。
アレキサンドライトの宝石みたいに輝く瞳は、強い決意を秘めていた。圧倒的に美しい顔に凄みが加わり、俺は声もなくひたすらにカイルを見つめる。
どくん、どくんと胸が弾みだし、呼吸が浅くなる。ああもう、なんてかっこいいんだ。
元々惚れていたのに、今は胸が痛くなるくらいにときめいているのを自覚する。首までぶわっと熱くなった。
「……イツキ? やはりまだ具合が悪いのか、今度は顔色がよすぎる」
「大丈夫だって、ほら……っ」
「っ、危ない」
立ちあがろうとしたが、身体に上手く力が入らず洞窟の床に肘を打ちつけそうになる。すんでのところでカイルに助けられた。
「ごめん……はは、かっこわりい。なんか最近、カイルに助けられてばっかだな」
「それは俺だって同じだ。今回の事件でも、イツキがいなければ任務は失敗に終わっていただろう」
カイルはおもむろにインベントリから魔酵母の酒を取り出すと、瓶ごとあおるように飲んだ。
いきなりどうした、男らしい喉仏が上下するのは眼福だけれども。
飲み終わった瓶をインベントリに戻して、口元を乱暴に拭ったカイルは、俺を膝の上にひょいと抱えた。
「え、なんだよ」
「魔力を回復させたから、これでイツキに分け与えてやれる」
またさっきみたいにキスするつもりなのかよ? そんなの、どうしようもなく乱れちまう予感しかしない。
しないんだが……それでも俺はカイルの膝にまたがって、腕を首に絡めて、自分から唇を押し当てた。
ふにっと柔らかな感覚がすると同時に、肌の表面から気持ちよさがじわりとひろがっていく。
唇同士を触れあわせると、カイルの熱い体温が伝わってくる。
俺はちゃんとここで、カイルと一緒に生きている。心の器がひたひたと満たされて、胸がいっぱいになった。
「は、カイル……」
「イツキ……いいか? 魔力を流しても」
さっきまで目の前にいるのに触れなくて、こっちを見てくれさえしなくて。ずいぶん焦ったし、その……
俺だって、カイルと一緒にいるってことを実感したいんだ。
魔力なんて寝れば回復するかもしれねえが、今は言い訳にすがってでもカイルと愛しあいたい。そんな気分だった。
ここがダンジョンの中だとか、結界を張る魔力がないことだとか、まだ全ての後片付けが終わっていないことだとか。
全部全部いったん脇に置いて、カイルだけに溺れていたい。
俺は熱くなった頬をそのままさらけだしながら、誘うように微笑んだ。
「ああ、いいぜ。アンタの気が済むまでやってくれ」
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