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015 ファルの町の男達
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気合いを入れたナツミの姿を、カウンターから出ようとしていたダンが無言で見つめる。
「あっダンさんすみませんでした。折角教えてもらった計算やっぱりもう一度教えてもらいたいんですが……」
トラブルを起こしたウエイターがナツミと同じ様にレジからパタパタ戻って来て、ダンに話しかける。
ダンはその話を聞いておらず今度は両手で六杯のビールを持って、スルスルと人混みをかき分け奥のテーブル向かうナツミの後ろ姿を見つめていた。
「ダンさん?」
「あ、ああ。そうだな、また計算の練習だな。今日はお前も洗い場に戻ってくれ」
「はい!」
元気良くウエイターが答えると、ダンの横をするりと抜けて奥の洗い場に戻っていた。
「計算も出来るのか。これは想定外だな」
と、ダンは一人呟く。そこへ、ドアベルを軽快に鳴らし、新たな客が入ってきた。
ダンは振り向いて無表情のままで答える。
「いらっしゃい何名様で──何だ、お前らか」
振り向くと昼間に来たノア、ザック、シンの三人が片手を軽く上げながら入ってきた。
「ヒデーな「お前らか」はないだろう?」
軽く笑いながらザックがダンの肩をポンと叩いた。ダンと同じ程の身長のザックが店内を見るなり驚きの声を上げる。
「すっげーな、今晩はまた大盛況だな」
「今日はたまたま海上部隊も陸上部隊も来てくれてな。ありがたい事さ」
ダンが軽く案内すると言って、片手を上げた。
ダンの後ろを歩きながら、ノアが声を上げる。
「入り口に立っているなんて珍しいな。確か強面すぎて客が引き返すからいつも奥に引っ込んでいるんじゃなかったか?」
何時だったか旅人が驚いて入り口から外の通りに、飛びだしてくる様を何度か見た事がある。
「あった、あった! あれは傑作だったな!」
その時の事を思い出してザックは笑った。
まるでゴムまりのように飛び出た旅人がいたので驚いた事があった。
強面すぎて初対面の人間が特に驚くのは自覚があるので、特に笑われても気にはならないダンだった。特に怒る事もなくボソボソと呟く。
「それがなぁ、酔っ払いが合計金額が合わないって騒いでいたから、出てきたところだったんだが──」
「えっ。も、も、もしかしてつまみ出したんですか?」
シンが声をひっくり返した。強面のダンだ。バイオレンスな様子しか結びつかない。
「そんなわけないだろ。計算間違いしたのはうちなんだ。だがナツミが再計算をしてくれて、問題なく客を送り出してくれだところだったんだ」
「「え?!」」
ザックもノアも驚きの声を上げる。
「あっという間の計算でな。驚いたのなんのって、更に酔っ払いにもひるまず対応出来てな。俺も驚いていたところだ。おっ丁度そこのカウンター横。一番テーブルが空いたぞ、立ち飲みのとこだけどいいだろ? マリンの踊りを見るついでに飲みに来ただけだろ?」
カウンター近くのテーブルに案内するとダンは軽く手を上げてキッチンに戻っていく。
「あ、ああ。案内ありがとう」
ノアとザックは丸いスツールに腰を下ろす。長い脚はたっぷりと余裕があり、床についたままだ。
シンはノアやザックほど身長がないので、スツールにかけると脚は床にはつかなかった。
ここでいつも長身の二人をうらやむシンだが、ダンの話を聞いて思わず小声になった。
「計算まで出来るんですね」
「驚きだな」
「酔っ払い相手にひるまずだってよ」
コソコソと声を潜める三人だが、大盛況の酒場の中ではそんなに声を潜める必要もない。
フロアを見わたすと、白いシャツに黒いハーフパンツをはいた小さな少年──ではなく、ナツミが客の席に積もった皿を回収しながら、注文を聞いていた。
酔っ払いがナツミの髪の毛の色や瞳の色を茶化す様な声が聞こえた。
「おい、ボウズ! 新入りか? 初めて見る顔だな。しかし、黒髪なんて珍しい! もしかしてすね毛とか脇毛とかも黒いのか?」
ボウズと呼びながら下品な笑い声を上げる。珍しいのでからかっているのだろう。
「あはは~そうですよ~全身真っ黒なんです。お兄さんは赤髪ですね? やっぱり赤いんですか? すね毛も脇毛も」
ナツミはそんな下品な笑いにもひるまず、軽く笑い飛ばし同じ話題で返した。
「あはは。おにーさんだってよ! そんな事を言われたのは何年ぶりかぁ。そんな若くねぇんだ! そうだぜ、あそこの毛も赤いんだ。あっははは!」
すっかり出来上がっている。その上ナツミの軽快な返しに気をよくしている。
ナツミが笑顔なので好印象を与えているのだろう。
改めて笑顔を見ると、少年っぽかった彼女が可愛く見える。
「今……ボウズって呼ばれてましたね」
シンも気が付いてボソッと呟いた。
「ああ。あれじゃあ完全にウエイターだな」
「あれでいいのか……」
自分達も勘違いしたのだが、ナツミの性別・年齢を知った今となっては、なんだか微妙な気分になる。愛嬌を振りまけば、髪の毛が長かったら、スカートをはいていたら、実は女の子としてしっかり認識出来るのではないだろうか? 三人の男は想像してみる。
「しかし計算も出来るなんて。あいつのいた国じゃ当たり前なのか?」
ノアは頬杖をつきながら、ナツミが分からなくなる。
「だとしたら、教育が進んでいるんだな」
ザックも頬杖をつきながら、ナツミに興味が湧いてくる。
この国は特に女性にあまり教養を求めようとはしていない。文字が読める女性も多くはいない。ましてナツミのように計算なんて──
男性は軍の学校に入るなど勉強をする機会が多くある。
しかし、女性は髪の毛が長く、物静かで男性の後ろをついて歩く事を良としている。
男性より知識があったり、能力があったりすると嫁の貰い手がなかなかない。ベッドでの才能があればあるほど喜ばれるという、男性を中心とした考えの国なのだ。
一般的には男性を立てる女性が人気があり、より女性らしくセクシーな女性が好まれる。
だから、女性は髪の毛が長いし、若いうちからセクシーな衣装に身を包みいかに自分に価値があるか、魅力的かをアピールしようとする。
この町の男共はこういう酒場で踊る踊り子や歌の上手い女性なんかをやはり自分の恋人にしようとやってくる。
見目が麗しく、踊りが上手、歌が上手だと男性もうっとりするのだ。
そんな理由で、女性からも公的な場所で働ける踊り子や歌い手は人気のある憧れの職業だったりする。
しかも、ノアやザックのようにいい男が『ファルの宿屋通り』の酒場に座っていたら──
「ノア!」
「ザック!」
高給取りの軍人そして見目麗しい二人目当てに、酒場の女は自然と群がってくるのだ。
女は布地が狭い衣装に身を包んで、ファルの町特有の赤い髪そして小麦色の肌を晒して男達の腕に胸を押し付けるように群がる。
「もぅ久しぶりじゃない! それに来てくれてもいつもマリンとばかり話をしているから寂しかった~」
甘える様な声を耳元で囁かれる。『ジルの店』の女の子は皆ジルに憧れているのか、ジルが好んで着る衣装を真似ている事が多い。
「ああ……悪かったな」
ノアは優しい微笑みを浮かべて、女の頬を優しく撫でる。
「ザックは元気だった? 私寂しかった……」
「ハハッ。そんな事を言ってくれるのお前だけだな」
ザックも調子いい事を言って女の腰を抱きよせる。
そういう二人は隊長クラスなのでとてつもなく女性受けもいい。
だが、シンには誰も近寄ってこない。
「え? 俺! 俺には?」
シンは半泣きな様な声を上げてノアとザックにしな垂れかかる二人の女に抗議をする。
「えーだってシンはミラが目当てなんでしょ~?」
「今日はマリンの踊りの時、ミラが歌う予定だから席に来るのはずっと後よ!」
どちらの赤髪の女もクスクス笑いながら、ノアとザックの首に顔を埋めて甘える。
「えぇ~そんなぁ……」
ミラとはシンの気に入っている女の名前だ。今日はこれから歌ってくれる予定があるため、こういった席には回ってこないのだそうだ。
それにしても小隊長クラスのノアとザックにはすぐに媚びるのに、肩書きのないシンには鳴かず飛ばずだ。シンは悔しくてたまらない。
(俺だっていつかザック隊長みたいになってやるんだから!)
憧れのザックに近づくため、日々ザックの真似をしてみようと奮闘中だが程遠い。
そこへ、洗い物のお皿を両手一杯に抱えたナツミが通りかかった。
「あっダンさんすみませんでした。折角教えてもらった計算やっぱりもう一度教えてもらいたいんですが……」
トラブルを起こしたウエイターがナツミと同じ様にレジからパタパタ戻って来て、ダンに話しかける。
ダンはその話を聞いておらず今度は両手で六杯のビールを持って、スルスルと人混みをかき分け奥のテーブル向かうナツミの後ろ姿を見つめていた。
「ダンさん?」
「あ、ああ。そうだな、また計算の練習だな。今日はお前も洗い場に戻ってくれ」
「はい!」
元気良くウエイターが答えると、ダンの横をするりと抜けて奥の洗い場に戻っていた。
「計算も出来るのか。これは想定外だな」
と、ダンは一人呟く。そこへ、ドアベルを軽快に鳴らし、新たな客が入ってきた。
ダンは振り向いて無表情のままで答える。
「いらっしゃい何名様で──何だ、お前らか」
振り向くと昼間に来たノア、ザック、シンの三人が片手を軽く上げながら入ってきた。
「ヒデーな「お前らか」はないだろう?」
軽く笑いながらザックがダンの肩をポンと叩いた。ダンと同じ程の身長のザックが店内を見るなり驚きの声を上げる。
「すっげーな、今晩はまた大盛況だな」
「今日はたまたま海上部隊も陸上部隊も来てくれてな。ありがたい事さ」
ダンが軽く案内すると言って、片手を上げた。
ダンの後ろを歩きながら、ノアが声を上げる。
「入り口に立っているなんて珍しいな。確か強面すぎて客が引き返すからいつも奥に引っ込んでいるんじゃなかったか?」
何時だったか旅人が驚いて入り口から外の通りに、飛びだしてくる様を何度か見た事がある。
「あった、あった! あれは傑作だったな!」
その時の事を思い出してザックは笑った。
まるでゴムまりのように飛び出た旅人がいたので驚いた事があった。
強面すぎて初対面の人間が特に驚くのは自覚があるので、特に笑われても気にはならないダンだった。特に怒る事もなくボソボソと呟く。
「それがなぁ、酔っ払いが合計金額が合わないって騒いでいたから、出てきたところだったんだが──」
「えっ。も、も、もしかしてつまみ出したんですか?」
シンが声をひっくり返した。強面のダンだ。バイオレンスな様子しか結びつかない。
「そんなわけないだろ。計算間違いしたのはうちなんだ。だがナツミが再計算をしてくれて、問題なく客を送り出してくれだところだったんだ」
「「え?!」」
ザックもノアも驚きの声を上げる。
「あっという間の計算でな。驚いたのなんのって、更に酔っ払いにもひるまず対応出来てな。俺も驚いていたところだ。おっ丁度そこのカウンター横。一番テーブルが空いたぞ、立ち飲みのとこだけどいいだろ? マリンの踊りを見るついでに飲みに来ただけだろ?」
カウンター近くのテーブルに案内するとダンは軽く手を上げてキッチンに戻っていく。
「あ、ああ。案内ありがとう」
ノアとザックは丸いスツールに腰を下ろす。長い脚はたっぷりと余裕があり、床についたままだ。
シンはノアやザックほど身長がないので、スツールにかけると脚は床にはつかなかった。
ここでいつも長身の二人をうらやむシンだが、ダンの話を聞いて思わず小声になった。
「計算まで出来るんですね」
「驚きだな」
「酔っ払い相手にひるまずだってよ」
コソコソと声を潜める三人だが、大盛況の酒場の中ではそんなに声を潜める必要もない。
フロアを見わたすと、白いシャツに黒いハーフパンツをはいた小さな少年──ではなく、ナツミが客の席に積もった皿を回収しながら、注文を聞いていた。
酔っ払いがナツミの髪の毛の色や瞳の色を茶化す様な声が聞こえた。
「おい、ボウズ! 新入りか? 初めて見る顔だな。しかし、黒髪なんて珍しい! もしかしてすね毛とか脇毛とかも黒いのか?」
ボウズと呼びながら下品な笑い声を上げる。珍しいのでからかっているのだろう。
「あはは~そうですよ~全身真っ黒なんです。お兄さんは赤髪ですね? やっぱり赤いんですか? すね毛も脇毛も」
ナツミはそんな下品な笑いにもひるまず、軽く笑い飛ばし同じ話題で返した。
「あはは。おにーさんだってよ! そんな事を言われたのは何年ぶりかぁ。そんな若くねぇんだ! そうだぜ、あそこの毛も赤いんだ。あっははは!」
すっかり出来上がっている。その上ナツミの軽快な返しに気をよくしている。
ナツミが笑顔なので好印象を与えているのだろう。
改めて笑顔を見ると、少年っぽかった彼女が可愛く見える。
「今……ボウズって呼ばれてましたね」
シンも気が付いてボソッと呟いた。
「ああ。あれじゃあ完全にウエイターだな」
「あれでいいのか……」
自分達も勘違いしたのだが、ナツミの性別・年齢を知った今となっては、なんだか微妙な気分になる。愛嬌を振りまけば、髪の毛が長かったら、スカートをはいていたら、実は女の子としてしっかり認識出来るのではないだろうか? 三人の男は想像してみる。
「しかし計算も出来るなんて。あいつのいた国じゃ当たり前なのか?」
ノアは頬杖をつきながら、ナツミが分からなくなる。
「だとしたら、教育が進んでいるんだな」
ザックも頬杖をつきながら、ナツミに興味が湧いてくる。
この国は特に女性にあまり教養を求めようとはしていない。文字が読める女性も多くはいない。ましてナツミのように計算なんて──
男性は軍の学校に入るなど勉強をする機会が多くある。
しかし、女性は髪の毛が長く、物静かで男性の後ろをついて歩く事を良としている。
男性より知識があったり、能力があったりすると嫁の貰い手がなかなかない。ベッドでの才能があればあるほど喜ばれるという、男性を中心とした考えの国なのだ。
一般的には男性を立てる女性が人気があり、より女性らしくセクシーな女性が好まれる。
だから、女性は髪の毛が長いし、若いうちからセクシーな衣装に身を包みいかに自分に価値があるか、魅力的かをアピールしようとする。
この町の男共はこういう酒場で踊る踊り子や歌の上手い女性なんかをやはり自分の恋人にしようとやってくる。
見目が麗しく、踊りが上手、歌が上手だと男性もうっとりするのだ。
そんな理由で、女性からも公的な場所で働ける踊り子や歌い手は人気のある憧れの職業だったりする。
しかも、ノアやザックのようにいい男が『ファルの宿屋通り』の酒場に座っていたら──
「ノア!」
「ザック!」
高給取りの軍人そして見目麗しい二人目当てに、酒場の女は自然と群がってくるのだ。
女は布地が狭い衣装に身を包んで、ファルの町特有の赤い髪そして小麦色の肌を晒して男達の腕に胸を押し付けるように群がる。
「もぅ久しぶりじゃない! それに来てくれてもいつもマリンとばかり話をしているから寂しかった~」
甘える様な声を耳元で囁かれる。『ジルの店』の女の子は皆ジルに憧れているのか、ジルが好んで着る衣装を真似ている事が多い。
「ああ……悪かったな」
ノアは優しい微笑みを浮かべて、女の頬を優しく撫でる。
「ザックは元気だった? 私寂しかった……」
「ハハッ。そんな事を言ってくれるのお前だけだな」
ザックも調子いい事を言って女の腰を抱きよせる。
そういう二人は隊長クラスなのでとてつもなく女性受けもいい。
だが、シンには誰も近寄ってこない。
「え? 俺! 俺には?」
シンは半泣きな様な声を上げてノアとザックにしな垂れかかる二人の女に抗議をする。
「えーだってシンはミラが目当てなんでしょ~?」
「今日はマリンの踊りの時、ミラが歌う予定だから席に来るのはずっと後よ!」
どちらの赤髪の女もクスクス笑いながら、ノアとザックの首に顔を埋めて甘える。
「えぇ~そんなぁ……」
ミラとはシンの気に入っている女の名前だ。今日はこれから歌ってくれる予定があるため、こういった席には回ってこないのだそうだ。
それにしても小隊長クラスのノアとザックにはすぐに媚びるのに、肩書きのないシンには鳴かず飛ばずだ。シンは悔しくてたまらない。
(俺だっていつかザック隊長みたいになってやるんだから!)
憧れのザックに近づくため、日々ザックの真似をしてみようと奮闘中だが程遠い。
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