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016 踊りのはじまり
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「あれ?」
私は驚いて声を上げる。昼間に来た三人の男性がカウンターから一番近い席に陣取っている。
「よう! 昼間は悪かったな。夜も寄らせてもらってるぜ」
ザックが陽気な声を上げながら、隣に寄り添う女の子の腰をくすぐっていた。当然女の子は声を上げクスクス笑いながらザックの手を叩いている。
「やだ、ザック、くすぐったいわ」
赤髪の女はザックの肩口に顔を倒してクスクス笑っている。体つきはメリハリがある女で、おっぱいもお尻も大きなタイプだった。
さすが入店直後らしいのに女の子が既についている。凄い人気者だ。私は両手いっぱいに持ったお皿を落とさない様に気遣い、笑顔を浮かべた。
「いらっしゃいませ!」
「ああ、ウエイターだったな、そうだ注文がまだだった。ビール三つ頼む」
爽やかな笑顔を浮かべたのはノアだった。
改めて見ても爽やかな王子様だ。私はノアの笑顔に気を取られウエイターと言われた事も気にならず、更に満面の笑みを浮かべる
「はい! 喜んで!」
いけない! 先ほど追加注文も受けたから、テンパって居酒屋の様な受け答えになってしまった。恥ずかしくなりそそくさとカウンターへ戻る。
ノアは爽やかな笑顔を引きつらせながら、マイペースに去っていくナツミの後ろ姿を見つめる。
「くそっ何で嫌味が通じないんだ!」
ノアは顔には笑顔を張り付かせたまま苛ついた声を上げる。もちろん隣に寄り添う女には聞こえない様な小声だ。
「ハハハ! あいつ『喜んで!』とか言っていたぞ。おもしれぇ」
もちろんザックはノアの独り言を聞き逃さない。
ノアとザックは女の子から常に好意の目を向けられる。それが初対面であってもだ。だから、ナツミのこういう態度は新鮮でもありペースを乱されていく。
ナツミはノアやザック相手にも態度を変えない。色男で高給取りの軍人でも媚びる事もしない。それどころか目の前で仕事を黙々と進めていく。
「ノア? これから久しぶりにマリンが踊るのに」
「ああ、悪い」
ノアは笑顔のまま固まっていたがハッと気がついて、女の気をそらせる様に頬を優しく撫でる。
「そうよ! 羨ましいわぁ。マリンはノアの視線を独り占め出来るんだから」
「そうか? 君も踊る機会があったら教えてくれ。見に来るよ」
「ありがとう!」
お世辞だと女は分かっているが嬉しくてたまらない。
ノアに言われるとそれだけでフニャフニャになってしまう。たとえ嘘だと分かっていても──もしかしたら自分に少しでもなびいてくれるのではないかと期待をしてしまう。
「ねぇザックもやっぱりマリンを見に来たの?」
そんなノアとのやり取り見たザックについている女は、口を尖らせて甘えた声を上げる。
「うん? まぁ、それもあるけど──」
ザックがそこまで言うと後ろのナツミが声を上げた。
「じゃぁ注文お願いしまーす。手羽先を揚げたの一つと、鶏肉の香草焼き三つ、あと海老の塩焼き一つと、サラダの中を二つ、ソーセージ単品を三つとソーセージとポテトの盛り皿を一つ、キャベツの酢漬けのポテト添えを一つ以上でーす。あとビール三つ入りますけど入れましょうか?」
あらゆる料理の状態を羅列し、スラスラと言ってのける。
思わずノアとザックとシンは振り向き、目を丸くする
「え? あいつ今、何って言った? そんなメニューあったか?」
「いや聞いた事ない。それにしてもよく覚えていられるな」
もう一度同じ事を言えと言われても自信がないノアとザックだった。
「え? ナツミの事? 確かメニューの正しい名前が覚えにくいから換えてもいいか? ってダンさんや料理人に聞いてたわ。確かに『ポレポレットマシュー』とかファルの町って地物メニューの名前が何か分からないでしょう? だから覚えられないんですって。ナツミが言う様にした方が料理が分かりやすいけどね~」
「な、なるほど」
シンがポンと手を打つ。
「でも本当に記憶力よくて助かるわ。メニューの個数とか全然間違えないし、お客様の名前はすぐに覚えられないけど、特徴をよく掴んでいるから誰が呼んでいたとかすぐ分かるのよね」
「そうそう! さっきもおかしかったわよね。大隊長の事『もみ上げ長めの二重巨人』とか言うのよ~」
「ナツミが凄い真顔でさ『もみ上げ長めの二重巨人』さんが呼んでます! って言うの。誰かと思っていったら大隊長でさ! 思わず吹き出しかけたんだから」
ほんとよね、と言いながら、女二人はしな垂れかかり顔を見合わせて吹き出し笑う。
「……へぇ」
ノアが目を細めて視線だけナツミに向ける。初めての場所でも柔軟な対応が出来る能力があるって事だ。
「もみ上げ長めの二重巨人って……プッ、く、くそっ! 駄目だ笑う。ハハッ」
ザックは思わず呟くと、吹き出し笑いが止まらなくなる。
その大隊長は確実にザックの上官だからだ。すぐに特徴が一致した事がおかしくて笑いが止まらなくなる。
ヤバイ、明日、大隊長に会って顔を見たら絶対に笑ってしまう。
ザックは肩をふるわせて笑いをこらえる。女も口を滑らせて『ザックが笑ってました~』とかい言いかねない。
(ナツミのヤツなんて表現をしてくれたんだ!)
ザックは涙目でこらえた。
「おう。料理は分かった。じゃぁビールは頼んだ」
私は頷いてビールサーバーで早速頼まれたビールを注ぐ。傾けて、そして戻して泡を立たせる。
うん! いい感じ。
「ナツミ。それを持っていったら一度休みに入っていいぞ」
満足げにジョッキ三つを眺めた時、カウンターからダンさんが顔をだした。
「え? 本当ですか。でもまだお客が一杯ですけれど」
「これからミラの歌でマリンが久しぶりに踊るんだ。だから十五分ぐらいみんなそっちの方しか見てねぇからな」
「え! そうなんですか、見たいなぁ」
踊りってどんな様子なのだろう。とても気になる。
「いいぜ、このカウンターからでも十分見えるからビールを渡したらここで休めばいいさ」
「はい」
嬉しい。一番の踊り子で歌い手って言っていたから。見たいと思っていたんだ。
私はビールジョッキ三つを持つと一番テーブルに向かって歩いた。
「お待たせしました!」
私は出来るだけみんなの邪魔にならない様に、人と人の隙間からビールジョッキをそれぞれ差し出した。
「ナツミありがとう」
ノアが軽く手を上げてくれた。クールな対応だが笑顔だった。
格好いい。見た目が王子様ならバラも背負える様だ。
「早速元気でやっているみたいだな」
ザックがまたポコンと頭の上に軽く拳骨を置いて離れた。
このモグラ叩きはどうも挨拶代わりみたいだ。
「はい何とか! ザックさんも、どうぞ」
「呼び捨てで構わないさ。なぁ、ノア、シン」
ザックはノアとシンにも同意を求めた。もちろん二人共嫌な顔をせず頷いた。
「俺達もジルの店には世話になっているからな、気さくに呼んでくれ」
「はい! ありがとうございます。ではごゆっくり」
先ほどから対応している他の軍人達も陽気な人も多い。しかし中には言葉遣いに気をつけないと厳しそうな人もいる。みんな様々だが、この三人は特に優しい。
私は嬉しくてニッコリ笑って、一礼しカウンターの方に戻ろうとした。
そこへ突然片腕をノアに掴まれた。
「どこへ行くんだ?」
「どこへって、カウンターに戻るんです」
「今からマリンが踊るって言うじゃないか、ここから一緒に見ていけよ」
「え!? そんな悪いですよ、お客さんと一緒に見るなんて」
私は驚いて片手を振って否定をした。
「あら、別にいいんじゃない? ノアがこう言ってくれているんだし」
奥の方からジルさんがやって来て、ノアとザックの横でしな垂れかかっている女二人に向かって、パチン、パチンと二回指をならした。
それを聞いた女は顔を見合わせて残念そうにノアとザックから離れた。ジルさんに無言で一礼すると、名残惜しそうに違うテーブルに移動した。
わぁ。今の合図は「外しなさい」かな。格好いい!
ジルは笑いながら近づいてくる。
「夜に来てくれるのは久しぶりね。マリンが踊るって聞いてたの?」
「ああ帰る時にな。溺れたばかりなのに大丈夫か心配だが」
ノアは軽く手を上げてジルに答える。
「体調は溺れる前よりいいらしいわ。何故かしらね。あ、ナツミ私の分もビールを持ってきて、そして自分の飲み物も持ってこちらに来なさい。好きなもの飲んでいいわよ。おごってあげる」
「はい! お待ちください」
ついお客様対応になってしまう。
ノアの手をそっと外してカウンターにビールを注ぐため戻る。
「ふふ。お待ちくださいですって、可愛らしいわ。私にも言ってくれるのね」
ジルはシンとザックの間にわざと割って入る。ギュウギュウに詰まっているところに体を滑り込ませる。
「女を下げさせる必要ないだろ」
ザックが不満そうに声を上げる。
「まぁ~! この私が直々にお相手するのにご不満? それに、じっくりとマリンの踊りも見たいでしょ?」
少しおどけて見せたが、じっくりと踊りを見る事が出来る様に、人払いをして気を遣ってくれたのが分かる。
「……ありがとう」
ノアが目を細めてジルにお礼を言う。
ノアも誰にも邪魔される事なく集中してマリンを見ていたかったのだ。
私は超特急で戻ってジルさんにビールジョッキを差し出した。
「お待たせしました!」
「あら、ありがとう」
ジルさんはビールを受け取りながら、あまり隙間のない自分の右側に座る様に私に促した。
私の左側にジルさんが、右側にザックがいる。
もたもたしながら椅子に座る。──うっ、このスツール足が全く床につかない。よじ登るのにも一苦労だ。すると隣でザックが腕を掴んで一気に引きあげてくれた。
「フッ、全然足がつかねぇな。シンといい勝負だ」
「あはは。すいません、ありがとうございます」
ザックからベルガモットの香りが少しする。いい男でいい匂い。
いいなぁ。私、今汗臭いだろうなぁ。
「ザック隊長酷いっすよ。俺はナツミより背が高いし、足も長いんです!」
「でも床に足はつかないだろ?」
涼しい顔してノアがビールを一口含んだ。
「そうですけど。むぅ」
シンに何故かライバル心を燃やされてしまう。
シンが怨めしそうにザックの足をずっと見ていた。
そうだよね、普通はザックやノアみたいにはならないと思う。心の中で呟く。
「あら? ナツミそれ水じゃない。遠慮しないで何でも好きなもの飲んでいいのよ」
私が手にしていた飲み物を見て目を丸くしたのはジルさんだった。
「いえ大丈夫です。さっきから注文マラソンしていたから、水の方がいいんです」
「ちゅうもんまらそん? 何だそれは」
勝手な命名に反応したのはノアだった。
「えっと、フロアとカウンターを行ったり来たりを繰り返す事なんです」
「ふぅん」
特に興味がなさそうにしているが、何故かじっと見つめられる。
「な、何ですか?」
何とも居心地が悪くて尋ねると
「いや、さっき計算を──」
そこまでノアが言いかけた時だった。
明るかったはずのフロアの光量が段々と暗くなり、音楽が流れはじめた。
すると辺りの客である男達が口笛を吹いたり、ざわついていたが徐々に静かになり音楽だけが辺りに響いた。
ギターの様なつま弾く音色と鈴の音。太鼓の様な音が聞こえる。
踊りのはじまりだった。
私は驚いて声を上げる。昼間に来た三人の男性がカウンターから一番近い席に陣取っている。
「よう! 昼間は悪かったな。夜も寄らせてもらってるぜ」
ザックが陽気な声を上げながら、隣に寄り添う女の子の腰をくすぐっていた。当然女の子は声を上げクスクス笑いながらザックの手を叩いている。
「やだ、ザック、くすぐったいわ」
赤髪の女はザックの肩口に顔を倒してクスクス笑っている。体つきはメリハリがある女で、おっぱいもお尻も大きなタイプだった。
さすが入店直後らしいのに女の子が既についている。凄い人気者だ。私は両手いっぱいに持ったお皿を落とさない様に気遣い、笑顔を浮かべた。
「いらっしゃいませ!」
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爽やかな笑顔を浮かべたのはノアだった。
改めて見ても爽やかな王子様だ。私はノアの笑顔に気を取られウエイターと言われた事も気にならず、更に満面の笑みを浮かべる
「はい! 喜んで!」
いけない! 先ほど追加注文も受けたから、テンパって居酒屋の様な受け答えになってしまった。恥ずかしくなりそそくさとカウンターへ戻る。
ノアは爽やかな笑顔を引きつらせながら、マイペースに去っていくナツミの後ろ姿を見つめる。
「くそっ何で嫌味が通じないんだ!」
ノアは顔には笑顔を張り付かせたまま苛ついた声を上げる。もちろん隣に寄り添う女には聞こえない様な小声だ。
「ハハハ! あいつ『喜んで!』とか言っていたぞ。おもしれぇ」
もちろんザックはノアの独り言を聞き逃さない。
ノアとザックは女の子から常に好意の目を向けられる。それが初対面であってもだ。だから、ナツミのこういう態度は新鮮でもありペースを乱されていく。
ナツミはノアやザック相手にも態度を変えない。色男で高給取りの軍人でも媚びる事もしない。それどころか目の前で仕事を黙々と進めていく。
「ノア? これから久しぶりにマリンが踊るのに」
「ああ、悪い」
ノアは笑顔のまま固まっていたがハッと気がついて、女の気をそらせる様に頬を優しく撫でる。
「そうよ! 羨ましいわぁ。マリンはノアの視線を独り占め出来るんだから」
「そうか? 君も踊る機会があったら教えてくれ。見に来るよ」
「ありがとう!」
お世辞だと女は分かっているが嬉しくてたまらない。
ノアに言われるとそれだけでフニャフニャになってしまう。たとえ嘘だと分かっていても──もしかしたら自分に少しでもなびいてくれるのではないかと期待をしてしまう。
「ねぇザックもやっぱりマリンを見に来たの?」
そんなノアとのやり取り見たザックについている女は、口を尖らせて甘えた声を上げる。
「うん? まぁ、それもあるけど──」
ザックがそこまで言うと後ろのナツミが声を上げた。
「じゃぁ注文お願いしまーす。手羽先を揚げたの一つと、鶏肉の香草焼き三つ、あと海老の塩焼き一つと、サラダの中を二つ、ソーセージ単品を三つとソーセージとポテトの盛り皿を一つ、キャベツの酢漬けのポテト添えを一つ以上でーす。あとビール三つ入りますけど入れましょうか?」
あらゆる料理の状態を羅列し、スラスラと言ってのける。
思わずノアとザックとシンは振り向き、目を丸くする
「え? あいつ今、何って言った? そんなメニューあったか?」
「いや聞いた事ない。それにしてもよく覚えていられるな」
もう一度同じ事を言えと言われても自信がないノアとザックだった。
「え? ナツミの事? 確かメニューの正しい名前が覚えにくいから換えてもいいか? ってダンさんや料理人に聞いてたわ。確かに『ポレポレットマシュー』とかファルの町って地物メニューの名前が何か分からないでしょう? だから覚えられないんですって。ナツミが言う様にした方が料理が分かりやすいけどね~」
「な、なるほど」
シンがポンと手を打つ。
「でも本当に記憶力よくて助かるわ。メニューの個数とか全然間違えないし、お客様の名前はすぐに覚えられないけど、特徴をよく掴んでいるから誰が呼んでいたとかすぐ分かるのよね」
「そうそう! さっきもおかしかったわよね。大隊長の事『もみ上げ長めの二重巨人』とか言うのよ~」
「ナツミが凄い真顔でさ『もみ上げ長めの二重巨人』さんが呼んでます! って言うの。誰かと思っていったら大隊長でさ! 思わず吹き出しかけたんだから」
ほんとよね、と言いながら、女二人はしな垂れかかり顔を見合わせて吹き出し笑う。
「……へぇ」
ノアが目を細めて視線だけナツミに向ける。初めての場所でも柔軟な対応が出来る能力があるって事だ。
「もみ上げ長めの二重巨人って……プッ、く、くそっ! 駄目だ笑う。ハハッ」
ザックは思わず呟くと、吹き出し笑いが止まらなくなる。
その大隊長は確実にザックの上官だからだ。すぐに特徴が一致した事がおかしくて笑いが止まらなくなる。
ヤバイ、明日、大隊長に会って顔を見たら絶対に笑ってしまう。
ザックは肩をふるわせて笑いをこらえる。女も口を滑らせて『ザックが笑ってました~』とかい言いかねない。
(ナツミのヤツなんて表現をしてくれたんだ!)
ザックは涙目でこらえた。
「おう。料理は分かった。じゃぁビールは頼んだ」
私は頷いてビールサーバーで早速頼まれたビールを注ぐ。傾けて、そして戻して泡を立たせる。
うん! いい感じ。
「ナツミ。それを持っていったら一度休みに入っていいぞ」
満足げにジョッキ三つを眺めた時、カウンターからダンさんが顔をだした。
「え? 本当ですか。でもまだお客が一杯ですけれど」
「これからミラの歌でマリンが久しぶりに踊るんだ。だから十五分ぐらいみんなそっちの方しか見てねぇからな」
「え! そうなんですか、見たいなぁ」
踊りってどんな様子なのだろう。とても気になる。
「いいぜ、このカウンターからでも十分見えるからビールを渡したらここで休めばいいさ」
「はい」
嬉しい。一番の踊り子で歌い手って言っていたから。見たいと思っていたんだ。
私はビールジョッキ三つを持つと一番テーブルに向かって歩いた。
「お待たせしました!」
私は出来るだけみんなの邪魔にならない様に、人と人の隙間からビールジョッキをそれぞれ差し出した。
「ナツミありがとう」
ノアが軽く手を上げてくれた。クールな対応だが笑顔だった。
格好いい。見た目が王子様ならバラも背負える様だ。
「早速元気でやっているみたいだな」
ザックがまたポコンと頭の上に軽く拳骨を置いて離れた。
このモグラ叩きはどうも挨拶代わりみたいだ。
「はい何とか! ザックさんも、どうぞ」
「呼び捨てで構わないさ。なぁ、ノア、シン」
ザックはノアとシンにも同意を求めた。もちろん二人共嫌な顔をせず頷いた。
「俺達もジルの店には世話になっているからな、気さくに呼んでくれ」
「はい! ありがとうございます。ではごゆっくり」
先ほどから対応している他の軍人達も陽気な人も多い。しかし中には言葉遣いに気をつけないと厳しそうな人もいる。みんな様々だが、この三人は特に優しい。
私は嬉しくてニッコリ笑って、一礼しカウンターの方に戻ろうとした。
そこへ突然片腕をノアに掴まれた。
「どこへ行くんだ?」
「どこへって、カウンターに戻るんです」
「今からマリンが踊るって言うじゃないか、ここから一緒に見ていけよ」
「え!? そんな悪いですよ、お客さんと一緒に見るなんて」
私は驚いて片手を振って否定をした。
「あら、別にいいんじゃない? ノアがこう言ってくれているんだし」
奥の方からジルさんがやって来て、ノアとザックの横でしな垂れかかっている女二人に向かって、パチン、パチンと二回指をならした。
それを聞いた女は顔を見合わせて残念そうにノアとザックから離れた。ジルさんに無言で一礼すると、名残惜しそうに違うテーブルに移動した。
わぁ。今の合図は「外しなさい」かな。格好いい!
ジルは笑いながら近づいてくる。
「夜に来てくれるのは久しぶりね。マリンが踊るって聞いてたの?」
「ああ帰る時にな。溺れたばかりなのに大丈夫か心配だが」
ノアは軽く手を上げてジルに答える。
「体調は溺れる前よりいいらしいわ。何故かしらね。あ、ナツミ私の分もビールを持ってきて、そして自分の飲み物も持ってこちらに来なさい。好きなもの飲んでいいわよ。おごってあげる」
「はい! お待ちください」
ついお客様対応になってしまう。
ノアの手をそっと外してカウンターにビールを注ぐため戻る。
「ふふ。お待ちくださいですって、可愛らしいわ。私にも言ってくれるのね」
ジルはシンとザックの間にわざと割って入る。ギュウギュウに詰まっているところに体を滑り込ませる。
「女を下げさせる必要ないだろ」
ザックが不満そうに声を上げる。
「まぁ~! この私が直々にお相手するのにご不満? それに、じっくりとマリンの踊りも見たいでしょ?」
少しおどけて見せたが、じっくりと踊りを見る事が出来る様に、人払いをして気を遣ってくれたのが分かる。
「……ありがとう」
ノアが目を細めてジルにお礼を言う。
ノアも誰にも邪魔される事なく集中してマリンを見ていたかったのだ。
私は超特急で戻ってジルさんにビールジョッキを差し出した。
「お待たせしました!」
「あら、ありがとう」
ジルさんはビールを受け取りながら、あまり隙間のない自分の右側に座る様に私に促した。
私の左側にジルさんが、右側にザックがいる。
もたもたしながら椅子に座る。──うっ、このスツール足が全く床につかない。よじ登るのにも一苦労だ。すると隣でザックが腕を掴んで一気に引きあげてくれた。
「フッ、全然足がつかねぇな。シンといい勝負だ」
「あはは。すいません、ありがとうございます」
ザックからベルガモットの香りが少しする。いい男でいい匂い。
いいなぁ。私、今汗臭いだろうなぁ。
「ザック隊長酷いっすよ。俺はナツミより背が高いし、足も長いんです!」
「でも床に足はつかないだろ?」
涼しい顔してノアがビールを一口含んだ。
「そうですけど。むぅ」
シンに何故かライバル心を燃やされてしまう。
シンが怨めしそうにザックの足をずっと見ていた。
そうだよね、普通はザックやノアみたいにはならないと思う。心の中で呟く。
「あら? ナツミそれ水じゃない。遠慮しないで何でも好きなもの飲んでいいのよ」
私が手にしていた飲み物を見て目を丸くしたのはジルさんだった。
「いえ大丈夫です。さっきから注文マラソンしていたから、水の方がいいんです」
「ちゅうもんまらそん? 何だそれは」
勝手な命名に反応したのはノアだった。
「えっと、フロアとカウンターを行ったり来たりを繰り返す事なんです」
「ふぅん」
特に興味がなさそうにしているが、何故かじっと見つめられる。
「な、何ですか?」
何とも居心地が悪くて尋ねると
「いや、さっき計算を──」
そこまでノアが言いかけた時だった。
明るかったはずのフロアの光量が段々と暗くなり、音楽が流れはじめた。
すると辺りの客である男達が口笛を吹いたり、ざわついていたが徐々に静かになり音楽だけが辺りに響いた。
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踊りのはじまりだった。
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