しぇいく!

風浦らの

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第二章【越】

☆勝ちに行く

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    ──第二セット再開──

    ブッケンの考えた攻略法、それは──、
    カットで揺さぶり、チャンスボールに対し一気に攻撃に転じる【カット攻撃型】。ここまでは今までと同じだが、ここでブッケンの選択した攻撃が今までとは少し異なった。
    今までは相手の横を抜くショットを選択していたが、今回の打球は相手の正面、ど真ん中。

    最速最短で真っ直ぐに飛んだ【ミドル】(真ん中)打ち。
    手足の長い上浜は、横のボールを拾うのに優れた選手だが、正面の打球に対しては一般選手と変わらない。むしろ、手が長い分ミドルに来たボールは取りづらかったりもする。

    ──フォアに回るか?   いやバックで処理するか──

    上浜は考えが纏まる前に手元に届いた打球に、つい中途半端に手を出しあらぬ方向にレシーブを飛ばしてしまった。
    このフォアと体の間に出来た空間【ミドル】にボールが送られると、フォアでもバックでも取れる為、長年卓球をやっている人でさえ瞬間的に迷いが生じ、ミスを誘う事ができる。

    【3-5】

    左右に揺さぶる、逆を付く、横を抜く。それだけが攻撃ではない。敢えて相手の正面に打ち込むこともまた攻撃なのだ。

    乃百合の押し当てられた手が教えてくれた。体の真ん中。

    ──怖がってたらダメなんだ。逃げずに、正面に、最も強い打球でッ!──

    ブッケンの放ったバックスマッシュ大山スマッシュは、またしても上浜のミドルを突き得点をもたらした。

    【4-5】

    「くっ……またミドルか、だけどミドルだけじゃあ──、」

    ミドル攻めに対し、バック側に回る様な動きをみせた上浜八千代。しかし打球はその動きに合わせて逆方向に飛ばされた。

    【5-5】

    ──ミドルが決まれば、今度はサイドを抜ける!──

 


    タイムアウト後に息を吹き返したブッケンは、完全にゲームの主導権を握っていた。
    上浜の強烈なボールは、以前のブッケンでは拾えていなかっただろう。カットマンを覚え、耐えてこその生きてくるブッケンの攻撃。

     ──朝早く起きて、朝練も頑張った。親に文句を言わせないように勉強もしっかりやった。全ては卓球で勝つために……乃百合ちゃんを越える為に!──

    甘く入った所をブッケンのフリックが上浜のミドルを襲った所で、このセットの幕が下りた。

    【11-8】

    これでセットカウントは【1-1】
    勝負はまだまだ分からない。

    第三セットが始まる前に、上浜八千代はタイムアウトを申告した。カットマン相手のフラストレーションと、執拗に攻められたミドルに対する対策を練るためだ。

    チームに戻った上浜は椅子に座り、ラケットを膝の上に置き下を向いた。

    「どう?   勝てそう?」
    「正直強いかな……本当に万年弱小チームの一年生かと疑うよ」
    「念珠崎はもう弱小校じゃないよ。本気で行かなきゃ勝てない相手、そこまで成長してきいてるよ」
    「……そうだった。第三セット、勝ちに行ってくる」

    ──第三セット──

    このセットを取れば、勝利に大きく近づく大切なセット。試合は両者の気迫がぶつかり合ってはげしいセットとなった。

    【6-6】

    試合中盤──、

   両者の呼吸が次第に早くなる。
   上浜八千代は、長いラリーと気を抜けば攻撃してくるブッケンを相手に、体力、集中力共に疲弊していた。

    しかしそこは強豪校の意地。このまま大人しく負ける訳にはいかない。強烈なスマッシュを、大きな身体でめいっぱい叩き込んだ。

    【6-7】

   ──上浜選手、本当に強い……でも、私だって!    まだ使った事無いけど……乃百合ちゃんが教えてくれたから……たった一球成功させるだけでいいんだ──

    スポーツをするにあたって、技術もさる事ながら大切になってくるメンタル。一際メンタルの弱かったブッケンが、今、大きく変わろうとしている。
    なんの為に練習してきたのか──、
    ここで使わなかったら今までの努力はなんだったのか──、

    ──ミスしてもいい、狙ってた事を分からせるだけでいいんだ──

   少し甘めに入ったバック側の打球に対し、ラケットのグリップ部分を天に向けるような構え。その独特の構えから繰り出された打球は、勢いよく上浜八千代の正面を突いた。

   「チキータ……いやっ」

    上浜のラケットがボールを捉えるも、ボールは大きくサイドから外れてしまった。
    打球の回転を読み間違えたのだ。

    【7-7】

    この光景に、一瞬静まり返った念珠崎ベンチも盛り上がりを見せた。

   「あれって……【逆回転チキータ】……だよね……?」
   「ブッケン……凄い!   やっぱりブッケンは凄いんだ!」

    驚いた藤島桜と抱き合って喜ぶ乃百合。他のメンバーも肩を抱き合い喜んでいる。

    ブッケンの努力は無駄では無かった。
    チキータを活かす為の逆回転チキータが、この状況で決まった事は大きな意味を持つ。

    【9-8】
    【10-9】

    そして遂にマッチポイント。
    同じチキータと言ってもその回転は全くの逆。
    瞬時に回転方向を見極めなければ、取るのは非常に困難だ。攻撃的レシーブとは言ったもので、その打球がまた早い。
    ブッケンのチキータが蘇る。

    ──行っけぇぇぇッ!──

    三度みたび繰り出されたブッケンのチキータ。フォア側の甘いコースだが、勢いは十分だ。そして──

    【11-9】

    上浜八千代の打球が大きくサイドアウトし、このセットをブッケンが制した。

    セットカウント【2-1】


    ──そして迎えた第四セット──

    【0-2】

      耐えて──

     【3-5】

      守って──

     【6-7】

     勝ちに行く────ッ!!

     【8-8】

   ──ありがとう乃百合ちゃん。今は、勝つ事が一番チームの為になるんだよね。私、一番の選択肢を一番に捨てちゃう所だったよ──

    努力は報われる。努力とは積み重ねなのだ。積み重ねて積み重ねて、届かなかった所にやっと手が届く。

    そして最後の一球は上浜八千代の真正面。
    この日一番の打球音と共に放たれた、ブッケンのバックハンドスマッシュ。

     【11-9】

    食らいつく上浜八千代を競り落とし、ブッケンが第二ゲームを制し、長い試合の終わりを告げた。

    「や、やった……勝てた……」

    流れ落ちる汗が激闘を物語っていた。
    時に長いラリー、時に激しいスマッシュ、変化に富んだレシーブを駆使し、ブッケンがまた一つ階段を登った。

    これでゲームカウントは【2-0】となり、念珠崎チームは悲願の県大会へと王手をかけた。
    
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