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第二章【越】
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■■■■
──春滝中学校との一戦──
春滝中は念珠崎と同じく部員の少ない、言わゆる弱小チームである。
同じく弱小チームで全中一回戦負けと言えど、念珠崎はもう弱小チームと呼ぶには強すぎる程の成長を遂げていた。それは結果を見れば一目瞭然。
第一試合、まひるは相手選手に何もさせずストレート勝ちを納め、続くブッケンもまた、新しいスタイルを試しながらもストレートで相手を下した。
これでセットカウントは【2-0】
次のダブルスを勝てば、早くも一回戦突破が決まる。
しかし今の念珠崎には、中盤に一番の山場が控えている。ダブルスだ。
あれ以来念入りにダブルスの練習を積んできた二人だったが、公式戦はこれが初めて。加えて和子は卓球を始めてまだ半年しか経っていない。
「わっ子、緊張してるか?」
「は、はいっ! 足を引っ張らないように頑張ります!」
鼻息荒く気合い十分の和子に対し、まひるは和子の頭に優しく手を触れ声をかけた。
「足引っ張るなら、引っ張られた足ごと引き上げてやるぜ。だから臆せず思いっきりやろうぜ。俺達はベストパートナーだ。それをこの大会で証明しような」
女の子でありながら男らしい言葉を選ぶまひるに、和子はすっかり骨抜きだ。この人なら大丈夫。ついて行けば間違いない。全てをかけて、全てを預けて──、
最初のサーブは相手選手からだ。
伸びのある横回転を効かせたサーブ。それをレシーブするのは和子の役目だ。レギュラーメンバーとしての大切な大切な第一球。
サーブは思った以上の変化を見せ、和子は下がりながらの無理な体制からのレシーブとなった。
──これは落ちる! 先制点貰った!──
相手選手がガッツポーズを見せようかといったその瞬間、和子のラケットが床スレスレ、それも後ろ向きでボールを捉えた。
高く高く。
わた毛が舞うように緩やかに舞い上がった真っ白なそのボール。和子の得意とするロビングボールだ。
いきなりの必殺技。
これは藤島桜の立てた作戦である。
比較的相手の易しいであろう初戦。其れも第一球を狙った、和子に自信を持たせる為の作戦──、
ロビングは真っ直ぐに相手コート奥深くに落下し、再び大きく跳ね上がる。
当然の如く相手は下がって、それを狙い済ましたドライブで撃ち抜いた。
──今度こそ貰った!──
相手は手応えを感じていた。まひるの動きを読み、逆を付いた完璧なまでのスピードドライブ。これを取れる選手なんてそうそういやしない。
だが、それはあくまでも逆を付いた場合である。
ドライブはまひるの正面を付き、カウンターで更に勢いを増して戻って来たのだ。
【1-0】
和子のロビングで誘い、まひるのフェイントでカウンターを狙う。これがこの二人の得点パターンの一つ。二人の呼吸はピタリと合っていた。
ダブルスにおいて、ロビングで相手に返すのは勇気のいることだ。時間を稼ぐ必要が無く、わざわざチャンスボールを与える必要も無い。それが出来るのは、和子がまひるを信用しているからこそである。
その後も和子とまひるの快進撃は続く──、
【8-4】
和子は他校のレギュラーメンバー相手に十分に渡り合えていた。
普段レベルの高い念珠崎チーム内での対戦ばかりで分からなかったが、今日はボールが良く見えているし、体も思った通りに動いてくれる。
「わっ子、どうだ? 楽しいか?」
「はい! すっごい気持ちイイです!」
和子とまひるのアイドルデュオ。周りに居る沢山の他チームは観客で、上から照り付ける体育館の照明はスポットライト。これは和子とまひるの特別ライブ──、
「気持ちイイ、か。勝ったらもっと気持ちイイぜ」
「はい! 絶対勝ちましょう!」
和子は独特のステップで無理と思われたボールを拾い、得意の大きなロビングで相手を翻弄し続けた。回転のかかったロビングで得点することも珍しくなく、流れは完全に念珠崎チームが掴んでいる。
そして流れに乗り第一セットと第二セットを連取し、迎えた第三セット──、
「また来た! ロビング!」
「なんだあの娘! あのロビング高っけぇー」
「ロビングを扱う姫だよ……ロビンちゃん!」
いつしか観客の注目を集めていたのは和子だった。知らずのうちに、その愛らしい容姿と特段大きなロビングによって『ロビンちゃん』と言うあだ名まで付けられていた。
そして──、
「っしゃあ!!」
【11-7】
まひるのスマッシュが相手コートを切り裂いたところでこのセットを奪い、和子&まひるの勝利が決まると同時に、念珠崎チームの一回戦突破が果たされた。
セットカウント【3-0】の百点満点の滑り出し。そして、この試合が和子にとって忘れられない、公式戦初勝利となったのだった。
「おう、ナイスわっ子! おめでとう」
「えへへー」
祝福するようにまひるが頭を撫でると、和子は照れくさそうに笑ってみせた。
次は二回戦。相手は更に強くなるだろうが、二人の力はまだまだこんなものでは無い。
念珠崎VS春滝。
セットカウント【3-0】
トーナメント一回戦、念珠崎チームの勝利。
──春滝中学校との一戦──
春滝中は念珠崎と同じく部員の少ない、言わゆる弱小チームである。
同じく弱小チームで全中一回戦負けと言えど、念珠崎はもう弱小チームと呼ぶには強すぎる程の成長を遂げていた。それは結果を見れば一目瞭然。
第一試合、まひるは相手選手に何もさせずストレート勝ちを納め、続くブッケンもまた、新しいスタイルを試しながらもストレートで相手を下した。
これでセットカウントは【2-0】
次のダブルスを勝てば、早くも一回戦突破が決まる。
しかし今の念珠崎には、中盤に一番の山場が控えている。ダブルスだ。
あれ以来念入りにダブルスの練習を積んできた二人だったが、公式戦はこれが初めて。加えて和子は卓球を始めてまだ半年しか経っていない。
「わっ子、緊張してるか?」
「は、はいっ! 足を引っ張らないように頑張ります!」
鼻息荒く気合い十分の和子に対し、まひるは和子の頭に優しく手を触れ声をかけた。
「足引っ張るなら、引っ張られた足ごと引き上げてやるぜ。だから臆せず思いっきりやろうぜ。俺達はベストパートナーだ。それをこの大会で証明しような」
女の子でありながら男らしい言葉を選ぶまひるに、和子はすっかり骨抜きだ。この人なら大丈夫。ついて行けば間違いない。全てをかけて、全てを預けて──、
最初のサーブは相手選手からだ。
伸びのある横回転を効かせたサーブ。それをレシーブするのは和子の役目だ。レギュラーメンバーとしての大切な大切な第一球。
サーブは思った以上の変化を見せ、和子は下がりながらの無理な体制からのレシーブとなった。
──これは落ちる! 先制点貰った!──
相手選手がガッツポーズを見せようかといったその瞬間、和子のラケットが床スレスレ、それも後ろ向きでボールを捉えた。
高く高く。
わた毛が舞うように緩やかに舞い上がった真っ白なそのボール。和子の得意とするロビングボールだ。
いきなりの必殺技。
これは藤島桜の立てた作戦である。
比較的相手の易しいであろう初戦。其れも第一球を狙った、和子に自信を持たせる為の作戦──、
ロビングは真っ直ぐに相手コート奥深くに落下し、再び大きく跳ね上がる。
当然の如く相手は下がって、それを狙い済ましたドライブで撃ち抜いた。
──今度こそ貰った!──
相手は手応えを感じていた。まひるの動きを読み、逆を付いた完璧なまでのスピードドライブ。これを取れる選手なんてそうそういやしない。
だが、それはあくまでも逆を付いた場合である。
ドライブはまひるの正面を付き、カウンターで更に勢いを増して戻って来たのだ。
【1-0】
和子のロビングで誘い、まひるのフェイントでカウンターを狙う。これがこの二人の得点パターンの一つ。二人の呼吸はピタリと合っていた。
ダブルスにおいて、ロビングで相手に返すのは勇気のいることだ。時間を稼ぐ必要が無く、わざわざチャンスボールを与える必要も無い。それが出来るのは、和子がまひるを信用しているからこそである。
その後も和子とまひるの快進撃は続く──、
【8-4】
和子は他校のレギュラーメンバー相手に十分に渡り合えていた。
普段レベルの高い念珠崎チーム内での対戦ばかりで分からなかったが、今日はボールが良く見えているし、体も思った通りに動いてくれる。
「わっ子、どうだ? 楽しいか?」
「はい! すっごい気持ちイイです!」
和子とまひるのアイドルデュオ。周りに居る沢山の他チームは観客で、上から照り付ける体育館の照明はスポットライト。これは和子とまひるの特別ライブ──、
「気持ちイイ、か。勝ったらもっと気持ちイイぜ」
「はい! 絶対勝ちましょう!」
和子は独特のステップで無理と思われたボールを拾い、得意の大きなロビングで相手を翻弄し続けた。回転のかかったロビングで得点することも珍しくなく、流れは完全に念珠崎チームが掴んでいる。
そして流れに乗り第一セットと第二セットを連取し、迎えた第三セット──、
「また来た! ロビング!」
「なんだあの娘! あのロビング高っけぇー」
「ロビングを扱う姫だよ……ロビンちゃん!」
いつしか観客の注目を集めていたのは和子だった。知らずのうちに、その愛らしい容姿と特段大きなロビングによって『ロビンちゃん』と言うあだ名まで付けられていた。
そして──、
「っしゃあ!!」
【11-7】
まひるのスマッシュが相手コートを切り裂いたところでこのセットを奪い、和子&まひるの勝利が決まると同時に、念珠崎チームの一回戦突破が果たされた。
セットカウント【3-0】の百点満点の滑り出し。そして、この試合が和子にとって忘れられない、公式戦初勝利となったのだった。
「おう、ナイスわっ子! おめでとう」
「えへへー」
祝福するようにまひるが頭を撫でると、和子は照れくさそうに笑ってみせた。
次は二回戦。相手は更に強くなるだろうが、二人の力はまだまだこんなものでは無い。
念珠崎VS春滝。
セットカウント【3-0】
トーナメント一回戦、念珠崎チームの勝利。
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