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第二章【越】
いよいよ始まる
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■■■■
十一月初週。
日々下がる気温に対し、部員達の熱気は高まっていった。
もうすぐ始まるのだ。
県の頂点を決める大会『新人戦』が──、
念珠崎チームは、体育館に集まり大会前最後のミーティングが行われている最中である。この頃になると、まひるの部長姿も見慣れたもので、部長としての風格もでてきた。
「いよいよ明後日から新人戦地区予選が始まる。先輩達が行けなかった県大会に進む最初のチャンスだ。俺達は十分に努力してきたと胸を張って言えるし、全中では甘芽中相手に接戦だった。自信を持っていい。目指すは優勝だ! 力を合わせて勝ち抜くぞ!」
「「はいっ!」」
まひるの話のあとは顧問の先生による話がなされた。
「言いたいことは部長が全部言ってくれた。あとは当日の事だが、いつもの様に現地集合となる。親御さんに送ってもらえる者は声をかけあって、一緒に連れて行ってくれるようお願いしたい。電車で行く者達も、なるべく団体で行動するように。以上」
一日休日を挟んで、全中が行われた会場で再び皆が集う。
やるべき事はちゃんとやってきた。
それぞれに新たな武器を携え、全中では届かなかった県大会へ──、
■■■■
──新人戦当日──
会場には続々と各校の選手達が集まってきていた。この大会は全三十二校で争われ、準決勝進出に当たる上位四校迄が県大会への切符を手にする。簡単に言うと、三回戦を突破した時点で県大会が約束される、という訳だ。
今回の念珠崎チームは組み合わせに恵まれたと言っていいだろう。全中で圧倒的な強さを見せた甘芽中と、準優勝した虎岡一中は反対側のブロックに割り振られており、当たるとしても決勝戦だ。
運には恵まれたが、チームの目指すのは勿論優勝。悲願の県大会出場とともに、甘芽中を倒してこの地区のチャンピオンになる事だ。
「まっひー先輩、今日はちゃんとラケット持ってきましたか?」
「乃百合、言うな。その事はもう忘れろ……」
和やかな雰囲気漂う念珠崎チームだが、その中にあって唯一藤島桜の表情には笑顔が無い。それと言うのも──、
「ちょっとまっひー」
「どうした?」
「海香が……まだ来てないよ」
「ああ、そうだな。朝連絡した時は起きてたから、そろそろ来るだろ。まだ五分前だし、大丈夫だって」
「なら、いいんだけど……」
桜がここまで心配するのには理由があった。心配になった桜は海香の携帯に電話をかけてみたのだが、何度かけても繋がらないのだ。もうあれから五回はかけている。海香は比較的朝に強く、時間前に来る事が当たり前だっただけに不安は募る。
そしてその不安は的中する事になる。
集合時間の九時になっても海香は姿を現さなかった。
九時半から開会式が始まり、その後直ぐに試合が組まれている事を考えたらもうギリギリだ。
「どうした? また何かあったのか?」
「あ、先生。実は海香がまだ来てなくて……」
「ったくお前らは。毎度毎度、問題なく大会に挑めないのか──、まぁいい。そろそろ開会式が始まるから、まひるは皆を連れて会場に行ってろ。私は海香の家に電話してみる」
「お願いします。よし、俺達は先に行ってるぞ」
部員達はまひるに連れられて開会式に参加する為に会場へと向かった。
その間、顧問の先生は海香の家に電話をかけてみたのだが、これが何度かけても誰も出ない。恐らく家には誰も居ないのだろう。
■■■■
開会式を終えた部員達が続々と戻って来ると。いの一番に海香の事を先生に尋ねた。
「先生、海香は!?」
しかし先生は首を横に振って、連絡がつかなかった事と示した。
「あんにゃろ……」
「ま、まあまあ……海香先輩の事ですから、きっとちゃんと来ますよ。今は信じて待ちましょう!」
乃百合がまひるを宥めるも、このままではオーダーを変えるしかない。
試合はすぐそこまで差し迫っているのだから。
試合前最後の練習を第二体育館で済ませたあとも海香は来ることは無く、結局一回戦が始まる直前になっても海香は現れなかった──、
「仕方ない。今からオーダーを変更する。海香の事は心配だが、気を抜くなよ。私も連絡を取り続けてみる。ではオーダーを発表する──、」
第一試合。興屋まひる。
第二試合。六条舞鳥。
第三試合(ダブルス)。興屋まひる&小岩川和子。
第四試合。藤島桜。
第五試合。常葉乃百合。
第一試合でエースをまひるが倒し、残りの試合で勝ちを拾うようなオーダー。まひるのスタミナを考え連戦を避けようと思ったならば、必然的に一番か五番に据えることになる。
特に弱い相手が続くであろう後半に桜と乃百合を並べて勝ちに行く様な、相手の裏をかくオーダーだ。
■■■■
「それでは一回戦、念珠崎チームVS春滝中チームの試合を開始します。お互い整列して下さい」
審判の試合開始に合わせて両チームが向かい合い試合前の挨拶をし、それぞれ握手を交わしたあと、ベンチに戻っていく。
「こうなった以上、俺達だけで戦うしかねぇ」
「だね。海香は必ず来るよ。私達はそれまで信じて勝ち抜き続けるだけだよ。来た時試合が終わってたら笑われちゃうからね」
「よし! 気合い入れて行きましょーッ! まっひー先輩、あれやりましょう!」
乃百合は円陣を組む事を提案した。全中前に築山文がやっていたアレだ。
まひるを中心に円陣が組まれ、目と目で合図を送る。
「駆け上がるぞッ! 念珠崎ーーッ!!」
「「オーーッ!!」」
エース不在で始まった新人戦。
なんとしても勝ち抜いて、県大会出場を果たしたい。
十一月初週。
日々下がる気温に対し、部員達の熱気は高まっていった。
もうすぐ始まるのだ。
県の頂点を決める大会『新人戦』が──、
念珠崎チームは、体育館に集まり大会前最後のミーティングが行われている最中である。この頃になると、まひるの部長姿も見慣れたもので、部長としての風格もでてきた。
「いよいよ明後日から新人戦地区予選が始まる。先輩達が行けなかった県大会に進む最初のチャンスだ。俺達は十分に努力してきたと胸を張って言えるし、全中では甘芽中相手に接戦だった。自信を持っていい。目指すは優勝だ! 力を合わせて勝ち抜くぞ!」
「「はいっ!」」
まひるの話のあとは顧問の先生による話がなされた。
「言いたいことは部長が全部言ってくれた。あとは当日の事だが、いつもの様に現地集合となる。親御さんに送ってもらえる者は声をかけあって、一緒に連れて行ってくれるようお願いしたい。電車で行く者達も、なるべく団体で行動するように。以上」
一日休日を挟んで、全中が行われた会場で再び皆が集う。
やるべき事はちゃんとやってきた。
それぞれに新たな武器を携え、全中では届かなかった県大会へ──、
■■■■
──新人戦当日──
会場には続々と各校の選手達が集まってきていた。この大会は全三十二校で争われ、準決勝進出に当たる上位四校迄が県大会への切符を手にする。簡単に言うと、三回戦を突破した時点で県大会が約束される、という訳だ。
今回の念珠崎チームは組み合わせに恵まれたと言っていいだろう。全中で圧倒的な強さを見せた甘芽中と、準優勝した虎岡一中は反対側のブロックに割り振られており、当たるとしても決勝戦だ。
運には恵まれたが、チームの目指すのは勿論優勝。悲願の県大会出場とともに、甘芽中を倒してこの地区のチャンピオンになる事だ。
「まっひー先輩、今日はちゃんとラケット持ってきましたか?」
「乃百合、言うな。その事はもう忘れろ……」
和やかな雰囲気漂う念珠崎チームだが、その中にあって唯一藤島桜の表情には笑顔が無い。それと言うのも──、
「ちょっとまっひー」
「どうした?」
「海香が……まだ来てないよ」
「ああ、そうだな。朝連絡した時は起きてたから、そろそろ来るだろ。まだ五分前だし、大丈夫だって」
「なら、いいんだけど……」
桜がここまで心配するのには理由があった。心配になった桜は海香の携帯に電話をかけてみたのだが、何度かけても繋がらないのだ。もうあれから五回はかけている。海香は比較的朝に強く、時間前に来る事が当たり前だっただけに不安は募る。
そしてその不安は的中する事になる。
集合時間の九時になっても海香は姿を現さなかった。
九時半から開会式が始まり、その後直ぐに試合が組まれている事を考えたらもうギリギリだ。
「どうした? また何かあったのか?」
「あ、先生。実は海香がまだ来てなくて……」
「ったくお前らは。毎度毎度、問題なく大会に挑めないのか──、まぁいい。そろそろ開会式が始まるから、まひるは皆を連れて会場に行ってろ。私は海香の家に電話してみる」
「お願いします。よし、俺達は先に行ってるぞ」
部員達はまひるに連れられて開会式に参加する為に会場へと向かった。
その間、顧問の先生は海香の家に電話をかけてみたのだが、これが何度かけても誰も出ない。恐らく家には誰も居ないのだろう。
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開会式を終えた部員達が続々と戻って来ると。いの一番に海香の事を先生に尋ねた。
「先生、海香は!?」
しかし先生は首を横に振って、連絡がつかなかった事と示した。
「あんにゃろ……」
「ま、まあまあ……海香先輩の事ですから、きっとちゃんと来ますよ。今は信じて待ちましょう!」
乃百合がまひるを宥めるも、このままではオーダーを変えるしかない。
試合はすぐそこまで差し迫っているのだから。
試合前最後の練習を第二体育館で済ませたあとも海香は来ることは無く、結局一回戦が始まる直前になっても海香は現れなかった──、
「仕方ない。今からオーダーを変更する。海香の事は心配だが、気を抜くなよ。私も連絡を取り続けてみる。ではオーダーを発表する──、」
第一試合。興屋まひる。
第二試合。六条舞鳥。
第三試合(ダブルス)。興屋まひる&小岩川和子。
第四試合。藤島桜。
第五試合。常葉乃百合。
第一試合でエースをまひるが倒し、残りの試合で勝ちを拾うようなオーダー。まひるのスタミナを考え連戦を避けようと思ったならば、必然的に一番か五番に据えることになる。
特に弱い相手が続くであろう後半に桜と乃百合を並べて勝ちに行く様な、相手の裏をかくオーダーだ。
■■■■
「それでは一回戦、念珠崎チームVS春滝中チームの試合を開始します。お互い整列して下さい」
審判の試合開始に合わせて両チームが向かい合い試合前の挨拶をし、それぞれ握手を交わしたあと、ベンチに戻っていく。
「こうなった以上、俺達だけで戦うしかねぇ」
「だね。海香は必ず来るよ。私達はそれまで信じて勝ち抜き続けるだけだよ。来た時試合が終わってたら笑われちゃうからね」
「よし! 気合い入れて行きましょーッ! まっひー先輩、あれやりましょう!」
乃百合は円陣を組む事を提案した。全中前に築山文がやっていたアレだ。
まひるを中心に円陣が組まれ、目と目で合図を送る。
「駆け上がるぞッ! 念珠崎ーーッ!!」
「「オーーッ!!」」
エース不在で始まった新人戦。
なんとしても勝ち抜いて、県大会出場を果たしたい。
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