しぇいく!

風浦らの

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第一章【挑】

ドライブ

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   試合は派手な幕開けそのままに、派手な撃ち合いで進んでいく。

    【2-3】

     「まっひー先輩、凪咲さんって本当に強いですね……」
     「まあな……」

    チャンスボールとみるや、海香は得意のドライブスマッシュを放った。コース、タイミング共にバッチリの手応えだった。がしかし──、
    凪咲はそのドライブにラケットを合わせ、同じくドライブで返して来た。【カウンタードライブ】だ。
    通常ドライブをドライブで返そうと思ったならば、相手の回転量を上回る回転をかける必要がある。負けてしまえば、ボールが高く浮き上がってしまうためだ。
    【カウンタードライブ】が成功するという事は、海香のドライブの回転量を凪咲が上回ったという事になる。

  そして気になるボールの行方はと言うと、まだ構えきっていない海香の真横を勢いよく通り過ぎて行ったのだった。

   【3-5】

    「凪咲さんは本当にえげつないですよねー」
    「この日の為に死ぬ程練習してきたからな」

    ドライブスマッシュをカウンターで返された海香はまだまだ焦ってはいない。そして返した凪咲もまた、攻略したとも思っていない。海香の強さは、その引き出しの多さにある。ドライブと名の付くショットは全てモノにし、それを駆使して卓球で勝つ術を心得ている。

    「あれ?    海香先輩、ちょっと下がりました?」
    「まあ、そうなるだろうな。あのカウンターを拾うにはどうしたって距離が必要だ」

    乃百合の言うように、海香が今プレーしている場所は、先程までは一、二メートルと言った所だったが、今は台から三メートルは離れている。
    台から離れる事により、確かに相手のカウンターは防ぐ事が出来る。が、逆に自分の攻撃が届くのにも時間がかかる。そして海香にとって一番ネックとなるのはその移動距離だ。
    台から遠い分、左右に振られた時に移動しなければならない距離が格段に増えるのだ。チームメイトの翔子もこの位の位置で構えているが、そのスタミナは雲泥の差だ。
    その全てを受け入れた上で、海香はカウンターを封じにきた。

   そして距離を保ったままでの空中戦。
   海香の放つドライブが飛んでいき、着弾すると共に回転によって弾け飛ぶ。
 
    「凄い……あんな遠くから」
    「ドライブは飛び道具だからな。ある程度距離があっても攻撃できるんだ」
    「うわ。あのカーブドライブ空中で凄い曲がってますよ。今のなんて、ネットの横から入ってるし……まるで蜂みたいですね……蜂の大群」

    距離を変えて海香に流れが傾き始めた。得意のカーブドライブに加え、シュートドライブ、ループドライブを織り交ぜ凪咲を翻弄していく。
    海香の徹底したドライブ攻撃。

    【7-6】

    やはりドライブの打ち合いでは海香に分がある。引き出しの多さがこの距離での二人に差を付けた。
    凪咲もドライブ合戦に付き合わず、カットボールで対抗すればいいと思うかもしれないが、それこそ海香の思う壷。前にまひるが言ったように、進行方向が変わる為に、カットボールをドライブで打つと回転が倍増されて返ってくるのだ。
 
    ──相変わらず凄いドライブだ……この執念はいったいどこから──

    凪咲は押され始め、本来の自分の立ち位置からどんどん後ろに押し込まれていた。しかしこのままではいけない。この距離は海香の距離。多少危険を犯してでも前に出なければならない。
    海香のドライブに対し、上から押さえつけるようなブロックを作った凪咲。狙い通りにボールはネットギリギリを飛ぶ低い弾道で逆サイドに送られた。

    ──この軌道では回り込むのは無理だ。バックで拾うしかない。返ってきた所をカウンターで仕留める!──

    そんな凪咲の思いとは裏腹に、打球に追いついた海香は鮮やかにそれを【バックハンドドライブ】で撃ち抜いた。

     【11-8】

    そして接戦を物にして海香が第一セットを先取し、勝てば勝ちが決まる第五試合を先制した念珠崎チームの熱気が高まった。

    ──第二セット──

    ──きっと次からはブロック主体で来るんだろうなー。嫌だな……──

    第一セットの凪咲は、ドライブ対決であろうと自分の方が海香より上である事を知らしめるための言わば『挑戦』だった。
    しかし、ドライブでは相手が一枚上だと思い知らされた結果となり、選択肢は『何がなんでも勝つ』に絞られた。
    第一セットの最後のように、跳ね上がり直後をねらってラケットで壁を作り、回転を抑え込むようなレシーブが増えるだろう。
    低く浅く飛ばして、何とかして海香を前に引きずり出したい考えだ。

    低く短いブロックに徹した凪咲のレシーブは凄まじい。ラケットの角度を見極め、飛んでくるドライブを尽く撃ち落とした。海香は、下がった位置までボールが飛んでこない為、台から近いところでプレーする事を余儀なくされる。そして近づいて来た所を、まんまとカウンターで刺された。

   【4-7】

    「まっひー先輩、ちょっと流れが変わってきましたね……あのブロック、どうにかならないんですかね?」
    「方法はある」
     「え!?    あるんですか!?    早くタイムアウトを取って海香先輩に教えてあげましょうよ!」
     「待て乃百合。そんな事はとっくに海香も分かってるだろうよ。出し惜しみしてんのさ」

    まひるの言った事は全て正解だ。
    実際この時、海香はもう一つドライブを隠し持っていた。しかし凪咲の対応力を考え勝負を決めるギリギリまで隠しておくつもりだった。

    ──でもそんな事言ってられないよねー。手遅れになるって事も十分考えられるし。よし、次行くぞー──

    少し長めに入ってきたリターンに対し、海香が防がれ続けているドライブを放つと、凪咲はそれをキッチリとボールを抑えるようにブロックした。いつもの様に──、

    しかしボールはいつもの様にネットを越えることが出来なかった。越えるどころか、ネットの遥か手前でバウンドしてしまったのだ。

    ──これは……!?──

    【スピードドライブ】【ループドライブ】【カーブドライブ】【シュートドライブ】【バックハンドドライブ】に次ぐ第六のドライブ──、

    【ナックルドライブ】

     スピードドライブのスイングで軌道もほぼそれと同じボールだが、この二つには決定的な違いがある。それは回転量だ。ナックルドライブはその名の通り、回転を極力抑えたドライブで、空気抵抗によりドライブのような沈み込みを実現している。
    ドライブだと思って浮き上がりを恐れラケットの面を下に向けすぎると、今回の様に思った以上に低空の打球が返ってしまうというトリックだ。
    海香程上手くスピードドライブに似せて打つことが出来れば、近くに来るまでどっちのボールか見分けるのは非常に難しい。

  「原海香。そのドライブへの拘り恐れ入る。それでも勝つのはこの私だ。全てを封殺し、私がナンバーワンだと証明する事を誓おう」
    「私も絶対に負けられない。これだけは譲れない。私のドライブで全て撃ち抜いてみせるよ」

    両者一歩も譲らない第二セット。
    お互いのプライドと闘志がぶつかり合う。
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