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第一章【挑】
因縁の対決
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「部っ長ォォォッ!!」
「やったね! 文ッ!」
第四試合を制し戻ってきた築山文は、チームメイトに囲まれ揉みくちゃにされていた。
「ちょっとヘマして次の試合には出られそうにも無いけど、ちゃんと繋いできたから。県大会行きは皆に任せた! このチームなら絶対に行けるから」
築山文の指はさっきよりも青く腫れ上がり、見るからに痛々しい。直ぐに病院へと顧問の先生に言われたが、この試合だけはと築山文はワガママを通した。
「海香ちゃん。最後だけど緊張しないで、楽しんでやって来て。どんな結果になっても、私達は納得するからね」
「文さん……ありがとうございます。頑張ってきますね」
普段はのらりくらりの海香だが、今は少し身が入った様な印象だ。この試合の大切さをよくわかっているいい表情。
「んじゃま、ホラ。ハイタッチ」
親友のまひるが片手を上げて海香にハイタッチを要求すると、乃百合とブッケンも真似して手を掲げ、海香に要求した。それが他の部員達にも伝染し、ハイタッチの花道が出来上がってしまった。
「何これー。恥ずかしいよー」
「お前以外こんな演出が似合う奴なんざ居ねーって。ほら、来いよ」
「こんなの漫画でしか見たことないよー」
海香は顔を赤らめて一人ずつと丁寧にハイタッチを交わして行く。その手からは皆の思いが確りと伝わってきた。そして振り向きざまにこう言い残す──、
「負けないから。」
──運命の第五ゲームが始まる──
海香は卓球台の前まで来ると、お互いのラケットを交換し合い握手を交わした。
「宜しくお願いします。お手柔らかにお願いしますね、凪咲さん」
「宜しくお願いします──、今日は負けないからな」
原海香は念珠崎卓球部始まって以来の天才だ。
戦型は【ドライブ攻撃型】で、ラケットは両面『裏ソフト』を使用。とにかく多彩な回転で相手を翻弄しチャンスを作るスタイル。得点感覚に優れ、前回の全中では一年生ながら東北大会でベスト16にも輝いた。
「まっひー先輩。相手の選手って強いんですか?」
「強いなんてもんじゃねーよ。五番目に据えられてるのが不思議な位強い。はっきり言って俺じゃ手も足もでねーよ」
団体戦の戦略としては、強い者を先に出してくるのがセオリーである。先に三勝したら勝ちが決まる為、強い人に回ってくる前に試合が終わりかねないからだ。逆にそれをよんで戦略を練るチームもある。
「海香先輩も異常なくらい強いから大丈夫……ですよね!?」
「海香は実際、一年生の時に凪咲さんに勝ってるからな。可能性はある」
「へー」
「乃百合、反応薄いな。凪咲さんってこの県のチャンピオンだぞ?」
「そうなんですか!?」
「一年生で県チャンピオン。その年の新人戦でも県チャンピオン。その次の年の新人戦も県チャンピオン。唯一負けたのが、二年生の時の全中での一回戦。その相手が海香なんだ」
「……因縁の対決ってやつですね」
── 第五ゲーム──
「原さん対遊佐さん、第五ゲーム、原さんサービス、0-0」
最初のサーブは海香からだ。
控えめに上げたトスから、その容姿に似つかわしくない、強烈なトップスピンのかかったドライブサーブ。
相手のコートに着くなり、さらに勢いを増して襲いかかる。
凪咲は必要以上に伸びてくるドライブを下がりながら処理したが、ソレを先制点を狙った海香に狙い撃ちされた。
めいいっぱい力を込めた海香のスマッシュ──、
──────、
【0-1】
「……あの……まっひー先輩……」
「見えたか? アレが凪咲さんの得意とする【カウンタースマッシュ】だ」
【カウンタースマッシュ】相手のスマッシュに合わせてスマッシュを打ち返す技。相手のスマッシュが速ければ速いほど、打ち返された時に戻ってくる時間も短い。まさに必殺の一撃。相手の必殺技を必殺技で打ち返す訳なので当然、難易度は高い。
「折角抜いたと思ったのに、こんなのズルいよー。凪咲さん、また強くなった?」
「私が強くなっているとすれば、それは君のおかげだ」
続く海香のサーブ。
一転して高く高く、天井に届くのではと思う程高くボールをトスした。これは【ハイトスサーブ】。天井サーブや投げあげサーブとも呼ばれる手法。これにはちゃんとした利点がある。
一つは相手の目線の移動。相手の中にはボールを目で追ってしまう選手もいる為、その距離が長ければ長い程撹乱できる。
そしてもう一つ。重力加速度や位置エネルギーを蓄えたボールを打つことが出来る。これによってラケットから更にエネルギーを受けたボールは、通常のサーブよりもより強烈なスピンを生み出す事が可能になる。
海香の放ったカーブドライブサーブは、自分のコートで左に曲がり、更に相手コートで勢い良く左に曲がった。
あまりの曲がり具合に、ラケットに当てるのが精一杯だった凪咲のレシーブに対し、海香は逆サイドにバックスピンを効かせてポトリと落とした。
【1-1】
「あ、あれがドライブサーブの曲がり方ですか!?」
「あの速さであの曲がりは反則だろ……」
乃百合とまひるは揃って驚いた。いくら海香が天才だと分かっていても、実際本気をみせられるとやはり格が違う。
「面白い。やっぱりキミは強いな」
「流れの中だともっと早くて曲がりますよ」
「怪物くんめ……」
お互いが手の内を明かし強さを示した形となった幕開け。
この後、流れを掴むのは一体どちらになるのだろうか。
「やったね! 文ッ!」
第四試合を制し戻ってきた築山文は、チームメイトに囲まれ揉みくちゃにされていた。
「ちょっとヘマして次の試合には出られそうにも無いけど、ちゃんと繋いできたから。県大会行きは皆に任せた! このチームなら絶対に行けるから」
築山文の指はさっきよりも青く腫れ上がり、見るからに痛々しい。直ぐに病院へと顧問の先生に言われたが、この試合だけはと築山文はワガママを通した。
「海香ちゃん。最後だけど緊張しないで、楽しんでやって来て。どんな結果になっても、私達は納得するからね」
「文さん……ありがとうございます。頑張ってきますね」
普段はのらりくらりの海香だが、今は少し身が入った様な印象だ。この試合の大切さをよくわかっているいい表情。
「んじゃま、ホラ。ハイタッチ」
親友のまひるが片手を上げて海香にハイタッチを要求すると、乃百合とブッケンも真似して手を掲げ、海香に要求した。それが他の部員達にも伝染し、ハイタッチの花道が出来上がってしまった。
「何これー。恥ずかしいよー」
「お前以外こんな演出が似合う奴なんざ居ねーって。ほら、来いよ」
「こんなの漫画でしか見たことないよー」
海香は顔を赤らめて一人ずつと丁寧にハイタッチを交わして行く。その手からは皆の思いが確りと伝わってきた。そして振り向きざまにこう言い残す──、
「負けないから。」
──運命の第五ゲームが始まる──
海香は卓球台の前まで来ると、お互いのラケットを交換し合い握手を交わした。
「宜しくお願いします。お手柔らかにお願いしますね、凪咲さん」
「宜しくお願いします──、今日は負けないからな」
原海香は念珠崎卓球部始まって以来の天才だ。
戦型は【ドライブ攻撃型】で、ラケットは両面『裏ソフト』を使用。とにかく多彩な回転で相手を翻弄しチャンスを作るスタイル。得点感覚に優れ、前回の全中では一年生ながら東北大会でベスト16にも輝いた。
「まっひー先輩。相手の選手って強いんですか?」
「強いなんてもんじゃねーよ。五番目に据えられてるのが不思議な位強い。はっきり言って俺じゃ手も足もでねーよ」
団体戦の戦略としては、強い者を先に出してくるのがセオリーである。先に三勝したら勝ちが決まる為、強い人に回ってくる前に試合が終わりかねないからだ。逆にそれをよんで戦略を練るチームもある。
「海香先輩も異常なくらい強いから大丈夫……ですよね!?」
「海香は実際、一年生の時に凪咲さんに勝ってるからな。可能性はある」
「へー」
「乃百合、反応薄いな。凪咲さんってこの県のチャンピオンだぞ?」
「そうなんですか!?」
「一年生で県チャンピオン。その年の新人戦でも県チャンピオン。その次の年の新人戦も県チャンピオン。唯一負けたのが、二年生の時の全中での一回戦。その相手が海香なんだ」
「……因縁の対決ってやつですね」
── 第五ゲーム──
「原さん対遊佐さん、第五ゲーム、原さんサービス、0-0」
最初のサーブは海香からだ。
控えめに上げたトスから、その容姿に似つかわしくない、強烈なトップスピンのかかったドライブサーブ。
相手のコートに着くなり、さらに勢いを増して襲いかかる。
凪咲は必要以上に伸びてくるドライブを下がりながら処理したが、ソレを先制点を狙った海香に狙い撃ちされた。
めいいっぱい力を込めた海香のスマッシュ──、
──────、
【0-1】
「……あの……まっひー先輩……」
「見えたか? アレが凪咲さんの得意とする【カウンタースマッシュ】だ」
【カウンタースマッシュ】相手のスマッシュに合わせてスマッシュを打ち返す技。相手のスマッシュが速ければ速いほど、打ち返された時に戻ってくる時間も短い。まさに必殺の一撃。相手の必殺技を必殺技で打ち返す訳なので当然、難易度は高い。
「折角抜いたと思ったのに、こんなのズルいよー。凪咲さん、また強くなった?」
「私が強くなっているとすれば、それは君のおかげだ」
続く海香のサーブ。
一転して高く高く、天井に届くのではと思う程高くボールをトスした。これは【ハイトスサーブ】。天井サーブや投げあげサーブとも呼ばれる手法。これにはちゃんとした利点がある。
一つは相手の目線の移動。相手の中にはボールを目で追ってしまう選手もいる為、その距離が長ければ長い程撹乱できる。
そしてもう一つ。重力加速度や位置エネルギーを蓄えたボールを打つことが出来る。これによってラケットから更にエネルギーを受けたボールは、通常のサーブよりもより強烈なスピンを生み出す事が可能になる。
海香の放ったカーブドライブサーブは、自分のコートで左に曲がり、更に相手コートで勢い良く左に曲がった。
あまりの曲がり具合に、ラケットに当てるのが精一杯だった凪咲のレシーブに対し、海香は逆サイドにバックスピンを効かせてポトリと落とした。
【1-1】
「あ、あれがドライブサーブの曲がり方ですか!?」
「あの速さであの曲がりは反則だろ……」
乃百合とまひるは揃って驚いた。いくら海香が天才だと分かっていても、実際本気をみせられるとやはり格が違う。
「面白い。やっぱりキミは強いな」
「流れの中だともっと早くて曲がりますよ」
「怪物くんめ……」
お互いが手の内を明かし強さを示した形となった幕開け。
この後、流れを掴むのは一体どちらになるのだろうか。
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