元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第5章 おっさん、優勝を目指す

第112話 臆病なポロック

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 第二戦、次鋒戦の勝敗は決した。
 結果は3年A組のメサイアの勝利という形で勝負がついたのだ。

「す、すみません先生。全然、歯が立ちませんでした」
 
 震え声で言うセリナの目には大粒の涙が浮かんでいた。
 
「大丈夫、お前はよくやった。達人級の相手に少しでも本気を出させたんだ。誇っていいぞ」
「そう……でしょうか」
「ああ。それに、お前のその最後まで諦めを見せない戦い方は皆の心を突き動かしたみたいだぞ」
「えっ……?」

 クラスの人たちの方を見ると次から次へと聞こえる賞賛の嵐。負けたとはいえ皆の心を熱くした試合に変わりはなかった。
 
「セリナ」
「は、はい?」
「お前にはまだ伸びしろが全然ある。その心意気だけは絶対に忘れるなよ? それがお前の強みであり、最大の武器なんだからな」
「最大の……武器」

 セリナはしばらく考えるような動作を見せるが、すぐに顔を上げ、

「は、はい先生! 絶対に忘れません」
「その意気だ」

 セリナは俺の一礼するとクラスメートの所へと戻っていく。
 
 彼女の精神はこういった状況においては良い見本となる。
 特に格上の相手には効果てきめんだ。

 古くから人間は感情の生き物であると言われてきた。喜怒哀楽、人というのはこういった感情一つでどこまでも成長ができる。
 これは魔族やモンスターにはない、人族のみが持つとされた力だ。天恵といった言い方もできる。
 
 その中でも不撓不屈という強い精神は人をどこまでも強くする大きな要因となる。
 その精神を持ち続ける限り、人の可能性は無限大なのだ。
 だがそれとは逆の精神を持ってしまった場合、人の成長はその瞬間に止まる。一度そうなってしまえば元に戻すのは非常に困難になる。
 だからこそ、強い精神を持ち続ける者は強く生きることができるのだ。

 セリナはそれを皆に教えるための一戦を繰り広げてくれた。働きとしては十分だ。

「―――問題は次か」


 ■ ■ ■


『それでは皆さん、いよいよ最終戦も中盤に差し掛かって参りました! 次なる試合に移りたいと思います!』

 試合は中堅戦へと入る。
 スコアは1:1の同点。三点先取の制のこの一戦はこの中堅戦が一番重要だとされる。
 できる限りならここは取っていきたい試合……なのだが。

「……う、うぅぅぅ」

 震えながらリング上へと立つ一人の男子生徒。彼の名はポロック、召喚術を最も得意とする小太りな男子生徒だ。
 で、相手もまた、召喚術を得意とする相手なようで表情ひとつ変えずにリング上へと上がってきた。

「3年A組、ファルシア=ゲオ・マルク。女性の召喚術士ですか」
「しかもあの女の人……ただの召喚術士じゃないみたいですね」
「お、気づいたかレーナ」
「え、どういうことです?」
「奴の手の甲を見てみろ」
「手の甲?」
 
 ハルカは相手の召喚術士の手の甲を見るとすぐにその真相に気付く。
 
「あ、あれって刻印?……」
「そうだ、あれはマルクの刻印だな」
「ま、マルクの刻印ってあのマルクの刻印ですか!?……」

 俺は無言で首を縦に振る
 
 マルクの刻印。それはかつてこの世界で一世を風靡した召喚術士、マルク・サングリットを称えるべく作られた特別な印だ。
 今は彼の生まれたとされる地であるイーヴァン帝国の家宝として収められているとのことだったが……

「手の甲にあの刻印が押されているということはイーヴァンの国王お墨付きってわけか」
「えっ? イーヴァン帝のお墨付きって……それやばくないですか?」
「ま、相当な手練れなんだろうな。あのファルシアとかいう女召喚術士は」

 イーヴァン帝と言えば広きこの世界でも五本の指には入ると言われた歴戦の元召喚術士だ。
 年老いた今でさえもその力は衰えておらず、マルク・サングリットの再来だの弟子だの言われて持ち上げられている。
 実は昔とある任務で一度だけチラッとその姿を目にしたが、冴えない感じのおじいだったという以外、印象的なものはなかった。
 
「―――ま、実力は確かなんだろうが」

 そんな国王が認めた上であの刻印が押されているというのだけは確かだ。
 どっちにせよポロックにとっては非常に、というかほぼ無謀な試合となることは間違いない。

 唯一期待すべき点とすれば……

(意外性……か)

 彼のこの一戦に対する想いを信じるほかない。
 いつもは臆病なポロックもリングに立つ前に強気な想いを俺に言ってから勝負に向かったんだ。
 きっと……きっと大丈夫だろう。

 俺はそう思い、リング上のポロックを見る。
 
 が……


「……やばい、やばいやばいやばい。無理、俺には無理。こんな人の相手なんか絶対無理ィ!」

 身体中をガチガチに固め、口元がガタガタとしている様子が真っ先に目に入る。
 もう負のオーラがこっちまでムンムン伝わってくる。

 そんな中、対峙するファルシアはずっと表情を変えず、ポロックの方を直視していた。
 あの鋭い目つき……もうその時点で臆病な彼には刺激が強いのだろう。
 
 だが注目すべき点はそこではない。
 皆はまだ気づいたいないようだったが、俺が注目したのはポロックの手元だった。

「ああー、ありゃ無理だな……」

 俺は顔に手を当て、深く息を吐く。

 講師として自らの教え子にそのような認識をするのは良くないことだとは分かっている。
 でも……

「右手に持っているのがお菓子のステッキじゃどうしようもねぇんだよなぁ」

 俺は彼の座していた席に本物の召喚ステッキがあるのを確認し、そのすぐ近くには隠し持っていたのであろうステッキにそっくりな棒菓子が置いてあった。

 そして彼の手に持っていたのは本物ではなくお菓子のステッキだったのだ。
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