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第4章 おっさん、祭りに参加する
第74話 小さな巨人
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「信じられんな……」
噂に聞いていた仮面鬼との邂逅を果たし、困惑する。
完全に聞いていた話と違う。ミキからあんな話を聞かされたばかりだというのに驚異はまったく感じなかった。
(……それに魔技祭当日にしか顔を出さないって話じゃなかったか?)
俺的にはもっと屈強で見るからにインテリ系講師、というイメージが頭の中にあった。
だが実態は屈強さをまったく感じず、それにして身体は細身。言葉遣いもやんわりとして少しくたびれた感じの男だった。
顔はマスクですっぽりと覆われ、素顔を見ることはできなかったが声質から察するに年は結構重ねているような感じだった。
(やはりどう考えても信じがたいな……)
人を率いるようなカリスマ的なものも感じなければあっと驚くようなオーラも感じない。
俺の心中では沢山の疑念が交差していた。
「……あれ、レイナード先生?」
廊下を歩いていると後ろから俺の名を呼ぶ声がした。
少し高く澄んだような女子の声だ。
「ん? ああ、オルカか」
呼びかけてきた女子の正体はオルカだった。
オルカは今までロングだった紺色の髪をばっさりと切り、ショートヘアへとイメチェンを遂げていた。
「髪、切ったのか?」
「あ、はい。似合い……ますか?」
「ああ、すごく似合っているぞ」
「よ、よかったぁ……私、髪の毛が短いのはあまり自分には似合わないって思っていたので心配だったんです」
「いや、本当に似合っている。オルカは顔立ちが良いんだ。どんな髪型にしても似合うさ」
「そ、そんなこと……」
オルカは頬を少し赤く染め、すこしはにかむ。
それにしても女という生き物は髪型一つでこうも変わるものなんだな。前のオルカは可憐な所に変わりはないのだが若干、年頃の女の子と言った印象があった。だがショートにしたことで少し大人っぽく見えるようになった気がする。ニッコリ笑った時はオルカそのものなのだが真顔の時はどこか大人びた印象を受けた。
「それにしてもこんな時間まで何をしていたんだ? 初等部はとっくに下校時間のはずだが」
「ちょっと高等部の大書庫で勉強をしてまして……気が付けばこんな時間に」
「高等部の学術書が読めるのか?」
「はい。初等部、中等部にある書庫の学術書は一通り読み終えたので」
(ま、マジかい!)
仮にも此処、アロナード総合魔術学園は大陸でも五本の指に入り、国では最大規模を誇る書庫を持っている特殊な学園だ。
書庫も大きく分けて三つあり初等部、中等部、そして高等部にある大書庫がある。本のバリエーションも様々あり学術書を始め小説、ニュースペーパー、雑誌、標本、はたまた料理本といった趣味的なものまで一式揃っている。噂によれば学術書だけでも全部合わせて数百万点くらいあるとのことだ。
彼女はその半分ほどを既に網羅していたのだ。
「す、すごいな……初等部にいるのが勿体ないくらいだ」
「そんなことはないですよ。私なんてまだまだです。あ、でも今度中等部に飛び級することが決まったんですよ~!」
「そ、そうなのか? そりゃ凄いな」
「えへへ……なんか先生に「君の能力はもう初等部のものじゃない、中等部で新たな学びの場と知識を得てきなさい」って言われたんです」
ああ……こりゃ先生指導を放棄したな。
でもこればかりは仕方がないことなのである。彼女の才能は既に学園でも折り紙付きだ。一人の講師では手に負えなくなると言う気持ちは分からないでもない。つまるところ、その先生は下手したら自分より能力のあるオルカに絶望でもしたのだろう。
これは講師の世界では割とレアなケースであると前に講師統括が朝礼で言っていた。
(ま、オルカの能力は中等部でも手に負えないくらいだろうな)
恐らく数か月もしない内に高等部へ昇格してくるだろう。と、なると高等部1年で入って来るクラスとなればA組かB組になる。
近い未来、オルカに教える立場になる可能性がある。というか絶対にそうなるだろう。
俺はそう確信した。
するとオルカは何かモジモジしながら、
「あ、あの……先生。今、時間ありますか?」
「時間か? ああ、まぁ大丈夫だが」
こう答えるとオルカは少し安心したかのような仕草を見せる。
が、緊張しているのか言いづらいのかわからないが中々口が開かない。
「お、オルカ……?」
問いかけようとした時、彼女は大きな声で、
「そ、その……も、もしよければ私に実戦指導をしていただけないでしょうか!」
「うあっ! びっくりした! 実戦?」
「は、はい!」
いきなり大声を出してきたので思わずビクッとなってしまい終いには変な声まで出てしまった。
だが相当言いづらかったのだろう。少しだけオルカの身体が震えていた。
「だ、大丈夫かオルカ。身体が震えているみたいだが……」
オルカはちょこっと縦に首を振り、返答に答える。
俺はオルカの頭に手を乗せ、そっと撫でまわす。
「別に気にすることはない。俺もオルカがどこまで成長したのか知りたかった所だ」
「そ、そうなん……ですか?」
「ああ。お前の噂は高等部にまで響いているからな。どんな感じなのか気になっていたんだ」
オルカは少し顔と耳を赤らめ、目をそらす。
「よし、今の時間は外の演習場は開いていないから地下演習場へ行くか」
「……は、はい!」
華美で澄んだ美しい瞳を煌々と輝かせ、オルカは俺の元へとついてくる。
噂に聞いていた仮面鬼との邂逅を果たし、困惑する。
完全に聞いていた話と違う。ミキからあんな話を聞かされたばかりだというのに驚異はまったく感じなかった。
(……それに魔技祭当日にしか顔を出さないって話じゃなかったか?)
俺的にはもっと屈強で見るからにインテリ系講師、というイメージが頭の中にあった。
だが実態は屈強さをまったく感じず、それにして身体は細身。言葉遣いもやんわりとして少しくたびれた感じの男だった。
顔はマスクですっぽりと覆われ、素顔を見ることはできなかったが声質から察するに年は結構重ねているような感じだった。
(やはりどう考えても信じがたいな……)
人を率いるようなカリスマ的なものも感じなければあっと驚くようなオーラも感じない。
俺の心中では沢山の疑念が交差していた。
「……あれ、レイナード先生?」
廊下を歩いていると後ろから俺の名を呼ぶ声がした。
少し高く澄んだような女子の声だ。
「ん? ああ、オルカか」
呼びかけてきた女子の正体はオルカだった。
オルカは今までロングだった紺色の髪をばっさりと切り、ショートヘアへとイメチェンを遂げていた。
「髪、切ったのか?」
「あ、はい。似合い……ますか?」
「ああ、すごく似合っているぞ」
「よ、よかったぁ……私、髪の毛が短いのはあまり自分には似合わないって思っていたので心配だったんです」
「いや、本当に似合っている。オルカは顔立ちが良いんだ。どんな髪型にしても似合うさ」
「そ、そんなこと……」
オルカは頬を少し赤く染め、すこしはにかむ。
それにしても女という生き物は髪型一つでこうも変わるものなんだな。前のオルカは可憐な所に変わりはないのだが若干、年頃の女の子と言った印象があった。だがショートにしたことで少し大人っぽく見えるようになった気がする。ニッコリ笑った時はオルカそのものなのだが真顔の時はどこか大人びた印象を受けた。
「それにしてもこんな時間まで何をしていたんだ? 初等部はとっくに下校時間のはずだが」
「ちょっと高等部の大書庫で勉強をしてまして……気が付けばこんな時間に」
「高等部の学術書が読めるのか?」
「はい。初等部、中等部にある書庫の学術書は一通り読み終えたので」
(ま、マジかい!)
仮にも此処、アロナード総合魔術学園は大陸でも五本の指に入り、国では最大規模を誇る書庫を持っている特殊な学園だ。
書庫も大きく分けて三つあり初等部、中等部、そして高等部にある大書庫がある。本のバリエーションも様々あり学術書を始め小説、ニュースペーパー、雑誌、標本、はたまた料理本といった趣味的なものまで一式揃っている。噂によれば学術書だけでも全部合わせて数百万点くらいあるとのことだ。
彼女はその半分ほどを既に網羅していたのだ。
「す、すごいな……初等部にいるのが勿体ないくらいだ」
「そんなことはないですよ。私なんてまだまだです。あ、でも今度中等部に飛び級することが決まったんですよ~!」
「そ、そうなのか? そりゃ凄いな」
「えへへ……なんか先生に「君の能力はもう初等部のものじゃない、中等部で新たな学びの場と知識を得てきなさい」って言われたんです」
ああ……こりゃ先生指導を放棄したな。
でもこればかりは仕方がないことなのである。彼女の才能は既に学園でも折り紙付きだ。一人の講師では手に負えなくなると言う気持ちは分からないでもない。つまるところ、その先生は下手したら自分より能力のあるオルカに絶望でもしたのだろう。
これは講師の世界では割とレアなケースであると前に講師統括が朝礼で言っていた。
(ま、オルカの能力は中等部でも手に負えないくらいだろうな)
恐らく数か月もしない内に高等部へ昇格してくるだろう。と、なると高等部1年で入って来るクラスとなればA組かB組になる。
近い未来、オルカに教える立場になる可能性がある。というか絶対にそうなるだろう。
俺はそう確信した。
するとオルカは何かモジモジしながら、
「あ、あの……先生。今、時間ありますか?」
「時間か? ああ、まぁ大丈夫だが」
こう答えるとオルカは少し安心したかのような仕草を見せる。
が、緊張しているのか言いづらいのかわからないが中々口が開かない。
「お、オルカ……?」
問いかけようとした時、彼女は大きな声で、
「そ、その……も、もしよければ私に実戦指導をしていただけないでしょうか!」
「うあっ! びっくりした! 実戦?」
「は、はい!」
いきなり大声を出してきたので思わずビクッとなってしまい終いには変な声まで出てしまった。
だが相当言いづらかったのだろう。少しだけオルカの身体が震えていた。
「だ、大丈夫かオルカ。身体が震えているみたいだが……」
オルカはちょこっと縦に首を振り、返答に答える。
俺はオルカの頭に手を乗せ、そっと撫でまわす。
「別に気にすることはない。俺もオルカがどこまで成長したのか知りたかった所だ」
「そ、そうなん……ですか?」
「ああ。お前の噂は高等部にまで響いているからな。どんな感じなのか気になっていたんだ」
オルカは少し顔と耳を赤らめ、目をそらす。
「よし、今の時間は外の演習場は開いていないから地下演習場へ行くか」
「……は、はい!」
華美で澄んだ美しい瞳を煌々と輝かせ、オルカは俺の元へとついてくる。
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