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メイカイ
メイカイ【6】
しおりを挟む「そうだねえ。生前の俺を思い出してほしいんだけど、どうだった? ちゃんと出来てたと思う? 愛情表現。……いや、これは質問の仕方が悪いな。君にとって十分だったかな?」
「愛情表現? うーん……愛されてるなあ、とは常日頃から感じてましたよ。ただ、大半が行動や態度によるものだったので、もうちょっと言葉にしてくれてもいいのに、って思ってました」
「あー……だよねえ。好きとか愛してるとか、もっと正直に伝えられてたらよかったんだけど」
「それを聞いて、少し安心しました。私だけ悩んでるんじゃないかなって思ってたから。今日の甘いセリフの数々は、そういう事だったわけですね。言えなかったぶん、言おうと。でも、そんな急にすらすら言葉が出てくるようになるものですか?」
彼は信号待ちで自由になった右手を額に当て、黙り込んだかと思うと、意を決したように話し出した。
「……やっぱり、君に隠し事なんて出来ないね。さっきの話と繋がってくるんだけど、君と再会するにあたって、ハーさんに相談したんだよ。せっかく君に会えたとしても、うまく伝えられなかったら意味がない。今から不安だって。そしたら、これを貸してくれてさ」
少し節の目立つしなやかな指が指し示す先には、唇を象ったネクタイピンがあった。以前の彼であれば絶対につける事のなかったであろうデザインのそれは、単なるお洒落でも現在の仕事着の一部でもないらしい。
「『お喋りな悪魔の口』っていうんだって。装着してる人の考えを代わりに言語化して、本人の口から強制的に喋らせてくれるものらしいよ」
再び発進した車は細かく右折と左折を繰り返し、徐々にスピードを緩めていく。
「それはまた、便利とも迷惑ともつかないアイテムですが……ええと、つまり、今のあなたはその力を借りて喋ってるってことですか?」
「……うん、そうだよ」
彼は、きまりが悪そうにボリュームを落として答える。
「おっと、話してたらあっという間だったね。着いたよ。ようこそ、久しぶりの我が家へ」
わずかに間が空いたのが引っ掛かったが、次の目的地への到着を告げられ、それ以上追及することはなくその話題は終了となった。
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