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一章
補給します?
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ノイラたちが転移したのは先程の魔動物に荒らされたという集落だ。
「なんで急に!」
「黙れ。それよりお前ら、ここがどこかわかるか?」
ストークを一睨みし静かになったところでそう問いかけた。
「……。……シュクテス街」
「正解」
「シュクテス街、か。資料で見た時は絵からも活気が伝わってきたんだけなぁ」
「はぁ……まーそんなもんだろ。魔動物は容赦ねぇからなー。さっ!切り替えて掃除しようぜ!」
目の前の惨い光景を見ても眉一つ動かさないどころか軽口を叩く。ツフリは相変わらず微笑む。
外見は子供だが中身は殺しに慣れた殺し屋だ。相手を油断させるという理由だけで幼い頃から暗殺を嗜みだと叩き込まれた子供。それを初めて知った時のノイラは驚愕したものだ。
“掃除”とは、魔物や魔動物が荒らした場所を綺麗にすることだ。いつもの日常のように。骸を然るべき場所にて転送、処理し、崩壊した建物は散乱した瓦礫、家具などを魔法で然るべき場所へと転送する。
然るべき場所とは、これまた残虐で非合法な場所なのだが、王もこの場がなければ、国はじわじわと火事場泥棒だけでなく、スラムの人々が増えるなど無法地帯と化すのを心得ていた為、黙認されている。
「じゃあ行け、素早く終わらせるんだ」
「えノイラ様やらんの?」
「……今日は、お前たちの手際を見ておこうかな、と」
自然な流れでお暇しようと思ったのに、今まで手伝っていたせいで今日もやるだろ?とストークはきょとんとする。
「……え?今までも見てるでしょ?」
「……だるいんだよ!今日魔力使いすぎた!」
魔力枯渇になって仮死状態。そんな急にはならない。魔力枯渇になる前に“魔力切れ”という、身体の魔力を全身に巡らせる機能が落ちる。所謂スリープモードだ。今は帰るための転移魔法の魔力を残していて、転送魔法を次々に使うとこの場で寝てしまい、魔力が回復するまで帰れない。
「そうなんすか!?早めに言ってくださいよ!休んでてください!それとも補給します?」
ヒルカが当たり前のことのように言った「補給」という言葉にノイラの顔は一瞬のうちに朱に染まった。
「は!?ほ、補給とか、そんな戯言……っ!いいから行け!俺は休んでるから!」
赤い顔を手で隠しながらそっぽ向いてシッシッと追い払うように手を振るが、三人共目を見開き、行こうとしない。
「え……補給なんてしたことあるっすよね?」
「…………ああ、あるとも」
「……経験って、しました?」
経験。閨のことだ。
また更にノイラの顔が赤くなる。
「はっ!?な、なんでそんな、いや、っていうか早く行けよ!帰るからな!一人で!」
「それは困りますけど……まさか受ける方を経験したとかは……」
「は?受ける方……?……ふっ、お前らもまだまだ子供なんだな。あんな迷信信じて。男が受け入れられるわけねーだろ」
ツフリの問いにこいつらもまだ子供だなと勘違いしたノイラは見下すように鼻で笑う。
それを見て未経験なのだと三人は直感した。補給でさえあんな真っ赤になっていたのだから、恐らく童貞であろうことも。
「そっかぁ……そっか!良かった!」
「は?なに……」
「ううん、なんにも」
これまでで一番の笑顔のツフリを気味悪げに横目で見る。
ふんふんと鼻歌を歌いそうなにこにこ笑顔のまま「じゃあ掃除してくる」と、なぜか嬉しそうに笑顔を湛える二人の首根っこを掴み、引きずって行った。
「んだよ……?」
◇◆◇
掃除が終わり、いつの間にか翌日の薄明。掃除前とは驚くほどの変わりようの光景ももうここにいる四人には見慣れていた。
「おーわりました!」
「……ん」
これでも一応三人をずっと見ていたノイラは睡魔に襲われていた。魔法で作り上げた椅子から立ち上がり、ぼーっとした頭で三人の顔を見る。ゆっくりとした手つきで三人の肩を押し、纏める。
「……大丈夫?」
「おいおい、可愛すぎんだろ。そんなんでまともに転移位置わかんのかよ」
「……じゃあ……転移するぞー……」
とろとろと緩慢な動きと喋りで三人は中々見られない貴重なノイラを見てほんのり赤くなる。ツフリに至ってはいつも触れられないノイラの身体に、ここぞとばかりに支えるように手を添えていた
魔力を解放し、転移した。
◇◆◇
「……え?」
てっきり城に報告すると思っていた三人は目の前のこじんまりとした家に呆ける。いつの間にか森奧にいるらしい。
ノイラの家だ。
「……俺の家。……寝る。……ついてこい」
今にでも寝そうなノイラ。
段々と理解していく三人。
ここは、想い人の家なのだと。そして、家に入る許可をもらってしまった。
「え……なにそのサービス……」
「でもなんで急に……?」
「……いや、好機だろ。眠気覚めたら追い出されるかもしれん。俺はそれまでに寝顔を堪能する!」
もう隠すこともしていないストークは意気揚々とノイラについていった。残りの二人もその考えに少なからず賛同し、すごすごとついていく。
ノイラが緩慢な動きで扉を開け、カ、チャ……と静かな開閉音が聞こえる。のろのろと家に入り、自室に直行する。どこに、なにをすればいいのかわからなかった三人はとりあえずノイラについていこうとし、奥で人影が動いたのを視界の端で捉えた。
「ノイラさん?お帰りですか?」
よく通る、爽やかさが溢れ出ている声がする。
「……んー……!」
閉じかかっている瞼をピクリと動かし、その声の人に届くように精一杯の大声を上げる。
三人は同居人が?と顔を見合わせ、駆け寄ってくる人影を緊張した面持ちで見る。
「ノイラさん、おつか……っへ?」
「……わ……!」
「……おお……」
「……え?」
人影、フィルクは見慣れない整った顔立ちの子供たちに思いがけず間抜けな声を出す。三人は、フィルクの人離れした美貌に感嘆の声が漏れる。
「……えっと……?どちらさま、かな?」
「……あ、えっと、僕達、その」
「……僕達はノイラ様の配下、です」
どもるヒルカに変わってツフリが手短に答える。
本当を言うと複雑でこんがらがりすぎて細かなところまで説明すると長くなるので手短に配下と答えた。そもそも初対面で長々とした話は聞きたくないだろうし話したくない。
「配下……?へぇ……。あっ、とりあえず上がって」
「あ、ありがとうござ……」
くぅ。
誰かの腹の虫が鳴った。
「ふふっ、お腹空いた?なにか作ってあげるから待っててね」
「そんな……押しかけたのは僕達ですし」
「いいよいいよ、ノイラさんの配下となっては大事にしないとね」
ふわりと微笑みを浮かべるフィルクの底抜けの優しさにぐぅと心臓を押さえる。
「優しすぎる……!」
ヒルカはそうボソッと言った。フィルクは聞こえなかったようで笑顔のままリビングに案内する。
「ゆっくりしてて。リゾットは食べられる?」
「あ、はい、食べられます」
「よかった。他に食べられないものとか……」
「ない、です」
「わかった。ノイラさんの様子を見てきてから作るね」
「ノイラ様!わ、わかりました。……あの、ついていっても……?」
「え?いいけど……」
四人はノイラの部屋へ行った。フィルクが扉をノックするが、中からは反応はない。
「ノイラさん?開けますよ」
反応がないことを確認し、そっと扉を開ける。
中には、入った瞬間力尽きたであろうノイラが大の字に仰向けでベッドに沈み込んでいた。曲がった両足はベッドからはみ出している
すー、すー、と規則的な寝息を立て、それに合わせて胸が上下に動いていた。
いつも吊り上げられている眦は下がっていて、なんだか幼子のようなあどけない寝顔だった。
三人は初めて見るノイラの寝顔を興味津々に覗き込む。
「もー、また布団をかけないで……」
困った子を見るように眉を下げるフィルクは、ノイラの身体を横抱きで抱き上げ、姿勢を直す。布団を被せ、身動ぎしたノイラの頭を撫でるとお疲れ様、と小声で呟くと愛おしそうに目を細めた。すぐにいつもの表情に戻し、四人は部屋から出た。
「……なんか、すごく、仲がいいんすね」
ぽつりとヒルカはそう零した。
「えっ?……そうかな」
「はい。頭撫でたりとか」
「……あー……なんか、くせで。起きてる間はノイラさん、撫でたら怒っちゃうから寝てる時にしか撫でられなくて……」
ダメだよね、直さないと。子ども扱いするなってノイラさんに怒られちゃう。と頭をかくフィルクは、幸せそうだった。
◇◆◇
「美味かったな……」
「うん、複雑」
食事をして満腹になった三人は今のところ非の打ち所が一つもないフィルクに遠い目をしていた。
「どうだった?口に合ったかな……」
「めっちゃ美味かったっす!」
「よかったよ……ノイラさん以外の人に食べてもらうのって初めてだったから」
へにゃりと相好を崩したフィルク。
「……綺麗な人があの笑顔だと、変な気持ちになるんだな……」
「……思った」
三人はボソボソと話す。
「あ、お皿片付けていい?」
「て、手伝います!」
思い出したように言ったフィルクの言葉に慌てて立ち上がる三人。
「あはは、いいよ、お客様なんだし」
「流石に!やらせてください!」
「そう?そこまで言うなら……手伝ってもらおうかな」
そして、手伝いや雑談を交わし、程よく仲良くなった四人。黄昏時になり、ようやくノイラが目を覚ました。
カチャ、と扉を開ける音がし、四人がそちらに目を向けると、不機嫌そうに眉をひそめたノイラが壁に寄りかかって腕を組んで立っていた。
「ノイラさん、おはようございます」
「……おはよう。……で聞きたいんだがなぜ起こしてくれなかった?俺の弟子だろ?弟子が師を蚊帳の外に置いていいんか?ん?」
ぐちぐちと自分だけを外したフィルクを恨めしそうに睨む。苦笑いするフィルクは椅子から立ち上がり、自分を睨むノイラのもとへ歩いた。
「……すみません。お疲れのようでしたので。起こすと機嫌が悪くなるでしょう?」
(今でも機嫌悪いけど)
ノイラを落ち着かせるように笑みを浮かべながら心で付け足す。
「……それは……そう、だが……」
「でしょ?だから、怒らないでください。みんなノイラさんの身体を考えてのことですよ」
「ん……」
照れたようにそっぽ向いてスタスタ机に向かってくる。
(ノイラ様が言い負かされた……!?てか、フィルク様の口が達者……!)
これが三人の心の声だ。
ノイラは口を尖らせ、先程までフィルクが座っていた椅子にどかっと座る。
「どうだ?ここは」
「どうって……フィルク様?めっちゃ優しいよ」
「居心地は?」
「最高」
「そうか。地下室に私物はあるのか?」
「私物……いや……ない。ないよな?」
「うん、お金すらないかも、あはは」
ストークは短い時間頭を悩ませて思い出そうとするが持ち物はなにもなかった。ヒルカがやばいっすねぇと笑う。
「じゃあ服買いに行くぞ」
「「「「……え?」」」」
ノイラを除いた全員の声が重なった。
「あ?なんだよ、みんなして」
「いやいや、え、……え?服ってどういうこと?あ、ノイラ様の?」
「は?なんで俺なんだよ。お前らのに決まってんだろ。ついでにフィルクも買ってけ。しばらく買ってなかったらな」
「えっ、お、俺も!?」
「俺がケチみたいになるからな。ぐちぐち言ってねーで行くぞ。俺魔力温存してたいからフィルク、転移よろしく」
「え、あ、はい……」
展開が早すぎて呆然とする四人。
行動力高ぇ……というストークの呟きにノイラ以外は共感したのだった。
“後書き”
嘘つきました。毎日はキツイです。やっぱ二日に一回にさせて頂きます。マジですみません!
「なんで急に!」
「黙れ。それよりお前ら、ここがどこかわかるか?」
ストークを一睨みし静かになったところでそう問いかけた。
「……。……シュクテス街」
「正解」
「シュクテス街、か。資料で見た時は絵からも活気が伝わってきたんだけなぁ」
「はぁ……まーそんなもんだろ。魔動物は容赦ねぇからなー。さっ!切り替えて掃除しようぜ!」
目の前の惨い光景を見ても眉一つ動かさないどころか軽口を叩く。ツフリは相変わらず微笑む。
外見は子供だが中身は殺しに慣れた殺し屋だ。相手を油断させるという理由だけで幼い頃から暗殺を嗜みだと叩き込まれた子供。それを初めて知った時のノイラは驚愕したものだ。
“掃除”とは、魔物や魔動物が荒らした場所を綺麗にすることだ。いつもの日常のように。骸を然るべき場所にて転送、処理し、崩壊した建物は散乱した瓦礫、家具などを魔法で然るべき場所へと転送する。
然るべき場所とは、これまた残虐で非合法な場所なのだが、王もこの場がなければ、国はじわじわと火事場泥棒だけでなく、スラムの人々が増えるなど無法地帯と化すのを心得ていた為、黙認されている。
「じゃあ行け、素早く終わらせるんだ」
「えノイラ様やらんの?」
「……今日は、お前たちの手際を見ておこうかな、と」
自然な流れでお暇しようと思ったのに、今まで手伝っていたせいで今日もやるだろ?とストークはきょとんとする。
「……え?今までも見てるでしょ?」
「……だるいんだよ!今日魔力使いすぎた!」
魔力枯渇になって仮死状態。そんな急にはならない。魔力枯渇になる前に“魔力切れ”という、身体の魔力を全身に巡らせる機能が落ちる。所謂スリープモードだ。今は帰るための転移魔法の魔力を残していて、転送魔法を次々に使うとこの場で寝てしまい、魔力が回復するまで帰れない。
「そうなんすか!?早めに言ってくださいよ!休んでてください!それとも補給します?」
ヒルカが当たり前のことのように言った「補給」という言葉にノイラの顔は一瞬のうちに朱に染まった。
「は!?ほ、補給とか、そんな戯言……っ!いいから行け!俺は休んでるから!」
赤い顔を手で隠しながらそっぽ向いてシッシッと追い払うように手を振るが、三人共目を見開き、行こうとしない。
「え……補給なんてしたことあるっすよね?」
「…………ああ、あるとも」
「……経験って、しました?」
経験。閨のことだ。
また更にノイラの顔が赤くなる。
「はっ!?な、なんでそんな、いや、っていうか早く行けよ!帰るからな!一人で!」
「それは困りますけど……まさか受ける方を経験したとかは……」
「は?受ける方……?……ふっ、お前らもまだまだ子供なんだな。あんな迷信信じて。男が受け入れられるわけねーだろ」
ツフリの問いにこいつらもまだ子供だなと勘違いしたノイラは見下すように鼻で笑う。
それを見て未経験なのだと三人は直感した。補給でさえあんな真っ赤になっていたのだから、恐らく童貞であろうことも。
「そっかぁ……そっか!良かった!」
「は?なに……」
「ううん、なんにも」
これまでで一番の笑顔のツフリを気味悪げに横目で見る。
ふんふんと鼻歌を歌いそうなにこにこ笑顔のまま「じゃあ掃除してくる」と、なぜか嬉しそうに笑顔を湛える二人の首根っこを掴み、引きずって行った。
「んだよ……?」
◇◆◇
掃除が終わり、いつの間にか翌日の薄明。掃除前とは驚くほどの変わりようの光景ももうここにいる四人には見慣れていた。
「おーわりました!」
「……ん」
これでも一応三人をずっと見ていたノイラは睡魔に襲われていた。魔法で作り上げた椅子から立ち上がり、ぼーっとした頭で三人の顔を見る。ゆっくりとした手つきで三人の肩を押し、纏める。
「……大丈夫?」
「おいおい、可愛すぎんだろ。そんなんでまともに転移位置わかんのかよ」
「……じゃあ……転移するぞー……」
とろとろと緩慢な動きと喋りで三人は中々見られない貴重なノイラを見てほんのり赤くなる。ツフリに至ってはいつも触れられないノイラの身体に、ここぞとばかりに支えるように手を添えていた
魔力を解放し、転移した。
◇◆◇
「……え?」
てっきり城に報告すると思っていた三人は目の前のこじんまりとした家に呆ける。いつの間にか森奧にいるらしい。
ノイラの家だ。
「……俺の家。……寝る。……ついてこい」
今にでも寝そうなノイラ。
段々と理解していく三人。
ここは、想い人の家なのだと。そして、家に入る許可をもらってしまった。
「え……なにそのサービス……」
「でもなんで急に……?」
「……いや、好機だろ。眠気覚めたら追い出されるかもしれん。俺はそれまでに寝顔を堪能する!」
もう隠すこともしていないストークは意気揚々とノイラについていった。残りの二人もその考えに少なからず賛同し、すごすごとついていく。
ノイラが緩慢な動きで扉を開け、カ、チャ……と静かな開閉音が聞こえる。のろのろと家に入り、自室に直行する。どこに、なにをすればいいのかわからなかった三人はとりあえずノイラについていこうとし、奥で人影が動いたのを視界の端で捉えた。
「ノイラさん?お帰りですか?」
よく通る、爽やかさが溢れ出ている声がする。
「……んー……!」
閉じかかっている瞼をピクリと動かし、その声の人に届くように精一杯の大声を上げる。
三人は同居人が?と顔を見合わせ、駆け寄ってくる人影を緊張した面持ちで見る。
「ノイラさん、おつか……っへ?」
「……わ……!」
「……おお……」
「……え?」
人影、フィルクは見慣れない整った顔立ちの子供たちに思いがけず間抜けな声を出す。三人は、フィルクの人離れした美貌に感嘆の声が漏れる。
「……えっと……?どちらさま、かな?」
「……あ、えっと、僕達、その」
「……僕達はノイラ様の配下、です」
どもるヒルカに変わってツフリが手短に答える。
本当を言うと複雑でこんがらがりすぎて細かなところまで説明すると長くなるので手短に配下と答えた。そもそも初対面で長々とした話は聞きたくないだろうし話したくない。
「配下……?へぇ……。あっ、とりあえず上がって」
「あ、ありがとうござ……」
くぅ。
誰かの腹の虫が鳴った。
「ふふっ、お腹空いた?なにか作ってあげるから待っててね」
「そんな……押しかけたのは僕達ですし」
「いいよいいよ、ノイラさんの配下となっては大事にしないとね」
ふわりと微笑みを浮かべるフィルクの底抜けの優しさにぐぅと心臓を押さえる。
「優しすぎる……!」
ヒルカはそうボソッと言った。フィルクは聞こえなかったようで笑顔のままリビングに案内する。
「ゆっくりしてて。リゾットは食べられる?」
「あ、はい、食べられます」
「よかった。他に食べられないものとか……」
「ない、です」
「わかった。ノイラさんの様子を見てきてから作るね」
「ノイラ様!わ、わかりました。……あの、ついていっても……?」
「え?いいけど……」
四人はノイラの部屋へ行った。フィルクが扉をノックするが、中からは反応はない。
「ノイラさん?開けますよ」
反応がないことを確認し、そっと扉を開ける。
中には、入った瞬間力尽きたであろうノイラが大の字に仰向けでベッドに沈み込んでいた。曲がった両足はベッドからはみ出している
すー、すー、と規則的な寝息を立て、それに合わせて胸が上下に動いていた。
いつも吊り上げられている眦は下がっていて、なんだか幼子のようなあどけない寝顔だった。
三人は初めて見るノイラの寝顔を興味津々に覗き込む。
「もー、また布団をかけないで……」
困った子を見るように眉を下げるフィルクは、ノイラの身体を横抱きで抱き上げ、姿勢を直す。布団を被せ、身動ぎしたノイラの頭を撫でるとお疲れ様、と小声で呟くと愛おしそうに目を細めた。すぐにいつもの表情に戻し、四人は部屋から出た。
「……なんか、すごく、仲がいいんすね」
ぽつりとヒルカはそう零した。
「えっ?……そうかな」
「はい。頭撫でたりとか」
「……あー……なんか、くせで。起きてる間はノイラさん、撫でたら怒っちゃうから寝てる時にしか撫でられなくて……」
ダメだよね、直さないと。子ども扱いするなってノイラさんに怒られちゃう。と頭をかくフィルクは、幸せそうだった。
◇◆◇
「美味かったな……」
「うん、複雑」
食事をして満腹になった三人は今のところ非の打ち所が一つもないフィルクに遠い目をしていた。
「どうだった?口に合ったかな……」
「めっちゃ美味かったっす!」
「よかったよ……ノイラさん以外の人に食べてもらうのって初めてだったから」
へにゃりと相好を崩したフィルク。
「……綺麗な人があの笑顔だと、変な気持ちになるんだな……」
「……思った」
三人はボソボソと話す。
「あ、お皿片付けていい?」
「て、手伝います!」
思い出したように言ったフィルクの言葉に慌てて立ち上がる三人。
「あはは、いいよ、お客様なんだし」
「流石に!やらせてください!」
「そう?そこまで言うなら……手伝ってもらおうかな」
そして、手伝いや雑談を交わし、程よく仲良くなった四人。黄昏時になり、ようやくノイラが目を覚ました。
カチャ、と扉を開ける音がし、四人がそちらに目を向けると、不機嫌そうに眉をひそめたノイラが壁に寄りかかって腕を組んで立っていた。
「ノイラさん、おはようございます」
「……おはよう。……で聞きたいんだがなぜ起こしてくれなかった?俺の弟子だろ?弟子が師を蚊帳の外に置いていいんか?ん?」
ぐちぐちと自分だけを外したフィルクを恨めしそうに睨む。苦笑いするフィルクは椅子から立ち上がり、自分を睨むノイラのもとへ歩いた。
「……すみません。お疲れのようでしたので。起こすと機嫌が悪くなるでしょう?」
(今でも機嫌悪いけど)
ノイラを落ち着かせるように笑みを浮かべながら心で付け足す。
「……それは……そう、だが……」
「でしょ?だから、怒らないでください。みんなノイラさんの身体を考えてのことですよ」
「ん……」
照れたようにそっぽ向いてスタスタ机に向かってくる。
(ノイラ様が言い負かされた……!?てか、フィルク様の口が達者……!)
これが三人の心の声だ。
ノイラは口を尖らせ、先程までフィルクが座っていた椅子にどかっと座る。
「どうだ?ここは」
「どうって……フィルク様?めっちゃ優しいよ」
「居心地は?」
「最高」
「そうか。地下室に私物はあるのか?」
「私物……いや……ない。ないよな?」
「うん、お金すらないかも、あはは」
ストークは短い時間頭を悩ませて思い出そうとするが持ち物はなにもなかった。ヒルカがやばいっすねぇと笑う。
「じゃあ服買いに行くぞ」
「「「「……え?」」」」
ノイラを除いた全員の声が重なった。
「あ?なんだよ、みんなして」
「いやいや、え、……え?服ってどういうこと?あ、ノイラ様の?」
「は?なんで俺なんだよ。お前らのに決まってんだろ。ついでにフィルクも買ってけ。しばらく買ってなかったらな」
「えっ、お、俺も!?」
「俺がケチみたいになるからな。ぐちぐち言ってねーで行くぞ。俺魔力温存してたいからフィルク、転移よろしく」
「え、あ、はい……」
展開が早すぎて呆然とする四人。
行動力高ぇ……というストークの呟きにノイラ以外は共感したのだった。
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