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一章

俺が貴方と心中する

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「いやぁ……ここまで買われると嬉しいどころか恐縮って感じっすね」

 両手いっぱいに抱えたヒルカは初めて見る量の服に若干引き気味だった。

 商店街にある人気の服屋に向かっている。姿を見られるとその場で処刑されそうなほど嫌われているノイラは姿見を別の者にし、四人に大盤振る舞いしていた。意外にも蓄えがあった。自分に使わないのだ。

「ノイラ様、俺たちは成長期なのですぐに着られなくなると言いましたよね?」
「いーんだよ、お前らは顔だけがいいからな。社交してろ。女引っかけて遊べ。俺のいない所でな!」

 目の前でイチャイチャされると思わず魔法をぶっ放したくなる。
 女子とまともに話したことのないノイラは歳だけで先輩ぶった。

「ふん、俺はたっくさんの女どもを連れて遊び回ったなぁ~?」

 ホラも吹く。

「はんっ、お前たちに俺を越えられるのかなぁ~、100万年経っても無理だろうなぁ~!」

 大ホラを吹く、実に大人気ないノイラを生暖かい目で見る一同。四人には見栄を張っていることなどお見通しで、生暖かい笑顔を浮かべる。

 そうして四人がノイラを上げまくるもので、すっかりノイラは気が良くなっていた。

「ふ!そんなこと言ったって俺が喜ぶとぉ?んなわけねぇだろ!……あ、お前らなんか他に欲しいもんとかあるか?買ってやるよ、特別だからな!」

 財布を取り出し、今日持ってきていた額を確認する。予定していた量の服よりも少なかった為まだ余っていた。

「いや流石にもう要らねーよ……」
「ノイラさん、一回落ち着こ!もう俺たちは満足したから、ね?のい――」
「あれ?フィー?」

 可愛らしくも透き通った声を聞き、ピタッとフィルクの動きが止まる。

「ん?……ん?」

 フィルクを怪訝そうに見てから、声の主を見る。

「……え。……え?えっ、なんでここに……!?」

 ノイラは声の主である女の子を凝視する。彼女は、今ここにいてはいけないはずの人であるはずだ。

 ――聖女レイラン。庶民の出で、圧倒的な平民の支持が多いイメージなのだが、貴族には少ない天真爛漫な性格と容貌に、貴族からの支持も多く得ている、身分差別のない心優しい聖女だ。

 亜麻色のふんわりとした長髪をハーフアップにして結わえ、黄金の瞳を嬉しそうにうるませる。後ろに護衛が四人いた。どれも隙のない手練。

「やっぱフィーだ!やっほー!」
「聖女様?なぜここにいらして……」

 可愛い子は足音まで可愛いのか。パタタッと鳴らしながらフィルクに駆け寄るレイラン。そして、笑みを浮かべ、近寄ってきたレイランをサポートするフィルク。

「やだ、なんで今更そんな呼び方するの?レイって呼んでくれたじゃん。あと敬語。なんか他人行儀で寂しいな……」
「公の場だからね。でもいいのなら、レイと」

 そう言ったフィルクはふふ、と朗らかに笑った。

 そのフィルクの笑みを見てノイラはぼんやりとした頭で考えた。

 最近俺が見るフィルクの表情は苦笑いと困ってるような笑顔だけだな。こんな楽しそうに笑ってるフィルクなんて魔法だけだと思ってた。

 人に対しても、嬉しそうに笑えるんだ。

 胸が痛い。

 なんで?

 正体のわからないズキズキとした痛みに顔をしかめる。そっと胸に手を当てて、痛みを消そうとするが消えない。謎の焦燥感にギュッと強く服を握り締めた。

「ノイラ様!手から血が……!」
「……あ?」

 知らず知らずのうちに、服を握り締めている方とは逆の手に爪がくい込んでいた。

「あ……」

 治さないと。

 そう思いながらなぜか顔は上がり、目はフィルクの姿を探していた。

 フィルクは、いつの間にか少し離れた場所にレイランと楽しげに談笑していた。

「……ノイラ様?」
「あ、あー……すまん。あ、治さないとな」
「……なんで謝るんですか。……てか、なんですかあの聖女は。あからさまにフィルク様を狙ってますよ。そしてフィルク様はでれっでれ……」
「フィルク様ってあんな表情崩せるんっすね。……って、え!?ノ、ノイラ様!?」
「えぇっ!?なにしてんだ!?」

 間違えた。

 たった手のかすり傷になんでか極大魔法を使ってしまった。
 これはまた帰りはフィルクに頼まないとな、と頭で反省しながらもうそろそろ帰ろうかとみんなに声をかけようとするが。

「でも、二人ともお似合いだよな。……あ、聖女様と腕組んだ」

 ストークの言葉に反射的にフィルクを見て、仲睦まじく談笑している二人を視界に捉えた。

 友達にしては距離が近いのも。

 グラッと世界が傾いた。

 いや、違う。

 ノイラが目眩を起こして地面にへたりと座り込んだのだ。

「ノイラ様!?」

 気持ち悪い。

 吐きそうだ。目眩もする。頭も痛い。

 だけど、それ以上に胸が何かに刺されたように痛みを訴えていた。

 気分が悪くて、目眩がして、頭痛もある。

 魔力切れの症状だった。

 そう認識したと同時に、焦ったような顔をする三人に大丈夫だからと言おうとして視線を向けた瞬間、フィルクの声がした。

「ノイラさん!?」

 その声に胸が更に痛む。

 今だけは、フィルクの声を、フィルクを、身体が受け付けなかった。

「大丈夫で――」

 大丈夫ですか?と言いたかったのだろうフィルクの伸ばした手を、ノイラは振り払った。

「……いい、フィルクは。いい。いらない。自分で立てる」
「ノイラ様、姿が……っ」

 ここが路地近くで良かった。人通りが少なくて自分の醜態を見られずに済んだ。

 魔力切れを起こしたノイラは姿形を変える魔法が解けていた。今見られたら好機だと思われて殺される。

 振り払われたフィルクは唖然とする。

 こんなこと今までなかったのに、なぜ急に?なんで拒む?なんでノイラは倒れている?

 なぜ、他人に向けるような目を向けてくる?

 フィルクは胸中に渦巻く疑問の嵐を抑える。

 今は自分のことよりノイラさんだ。

「……ぐ、ぅ……っ」

 ノイラは十分に力が入らず自力で立てないままでいた。

 振り払われても、無理やり手伝おう。

 そう考えたフィルクは近寄ろうとするが、何者かがフィルクの服を引っ張った。

「フィルク、ダメよ!近づいちゃダメ!闇、闇属性は近寄る者を蝕んでしまうの!……うっ、なんて瘴気なの……!?」

 レイランがこれ以上行かせまいとフィルクを抱きすくめる。

「……はっ?……なに言ってるの……いいから、離して、ノイラさんが、ノイラさんが……!」
「ダメ!貴方の瘴気を取り払ったばかりなのに、今近付いたらまた瘴気を纏ってしまうことになるわ!」

 瘴気。

 聖女にだけ見えると言われる、人に害を及ぼし、魔物の増殖を手助けするというものだ。

 それが、俺から出てる?

 ノイラは自分に近寄るツフリを怯えた目で見る。

「ノイラ様、大丈夫?手を貸すから、とりあえず補給を……!」
「や、だ、だめ、だ……おれ、ちかづいたら……」

 瘴気が、ツフリに。

「そんなこと言ってる場合じゃ――」

「……闇属性だ……」

 焦るツフリの言葉遮り、この場の誰でもない声がした。

 ノイラは瞬時に理解し、顔を真っ青にした。

「闇属性が!ここにいるぞー!」
「う、ぅ……!あ、ああ……っ、くそ、くそっ、う、止まれよ……っ!」

 闇属性に敵対する平民だ。

 平民でも基礎魔法は使える。その基礎魔法は、戦闘時に使うとその効果範囲の狭さから殺傷能力に欠け、生活にしか使わないが、それでも、ロウソクほどの小さな火だって人を殺せる。拷問のように。小さな炎はじわじわと身体を包み込み、長い時間をかけて人を殺す。

 カタカタと勝手に震え始める身体に折檻し、力の入らない身体を無理やり立たせようとする。

「ふっ、ぅ……ぐ、……っあ!」

 一人で立とうとしたノイラは、突然人の手が伸びたことに思わず身体を固くする。

「や、はなせ……!」
「なにいってんの!?自分で立てないくせに無理しないで!」
「闇属性が逃げるぞ!囲め囲めぇ!」

 瘴気が伝染る!ツフリに伝染したくない!そう思って身を引こうとするのにツフリはぐっと力を入れて腕が抜けないようにする。

 そしていつの間にか十数人の人が集まっていて、それぞれ斧などの凶器に足りうる物を持っていた。

 それを見た瞬間、ノイラはなぜかそれに心を惹かれた。

 いっそ、自分が死んでしまえばみんなも、自分も、楽になれる?

 レイランの言う瘴気もなくなるはずだ。

 みんなが嫌う、闇属性も。

「……ツフリ、離せ」
「は!?まだそんな――」
「離せ」

 目を斧から逸らさず静かに言った。

 鬼気迫る声色に思わずツフリは腕の力を緩めてしまった。

 すっと腕を抜き取り、ふらふらとした足取りで人だかりに向かう。

「っ、ノイラさん!なにを!?」

 フィルクの声にも反応を示さず、一直線に向かう。

 その場の誰も何も言えず、動けなかった。

「……れ」
「……あん?なんだよ」

 ノイラが口を開くが平民たちは聞き取れず聞き返す。

「やれ。それで」
「…………は?」

 この場の誰もノイラの言葉を疑った。

「なにを、言って……」
「っ、舐めやがって!そんなこと言うなら殺してやる!」

 フィルクの呆然とした声に被せるように平民の一人、男が駆け出した。

「……そうだ、それでいい……」

 そっと目を閉じ、これまでの生涯に別れを告げ、フィルクたちにごめん、と心の中で謝る。

 ごめんな、瘴気で蝕んで、苦しませて。

 ごめんな、師弟関係と言って縛り付けて。

 ごめんな、こんなめんどくさくて。

 男が斧を振りかぶった気配がした。

 だが、一向に衝撃は訪れなかった。

 もしかして、衝撃も痛みも感じずに逝った?苦しまなくていいんなら楽だけど……。と閉じていた目を恐る恐る開ける。

 目の前にフィルクがいた。

「……は……?」
「……勝手に、死のうとしないでください。貴方が他人の手で殺されるくらいなら」

 防御魔法で受け止めた斧を弾き、瞳孔が開いた目で男を見据える。

「俺が貴方と心中する」

 次の瞬間には、男だけでなく、その場にいた平民が全員倒れていた。

 死んではいないらしく、苦しげな呻き声が聞こえるのは中々の恐ろしさだった。

「は……?は、な、なんで邪魔するんだ!」
「邪魔?そんなに死にたいのなら一緒に死んだげますよ。家に帰ってからです」

 忌々しそうに長い前髪をかきあげ、へたりこんだノイラを無表情に見下す。人間ってここまで絶対零度の目になれるんだ、なんて場違いな思考して現実逃避をしようとする。それくらい怖かった。

「ひ、やっ!……はっ!?は、離せっ!降ろせ!おろ……ひっ!」

 ノイラに断りもせず乱暴な手つきで横抱きにし、ノイラは驚く。慌てて抗議し、じたばた暴れるが、フィルクの濁りきった瞳で睨まれて喉がくっと絞まる。

 あ……これ……ヤバいやつだぁ……。

 かつてないほど危機感を感じる。

「は、はは……はは、おじさん、ちょっと困ってる……一人で、立ちたいなぁ……?」
「……おじさん?それ、貴方のことですか?」
「ひ、は、はい、そうだよ~……」
「……そういえば、おじさんでしたね」

 ノイラはピシッと固まった。

 そうじゃん、俺おじさんじゃん。

 なんで横抱きされてんの?これヒロインであろう聖女様ポジじゃ?

「……そうだよ、俺おじさん!今すぐ下ろせ!今絶対イタい!おじさんが横抱きされてる場面を見せられてる方の気持ちにもなれよ!気分最悪じゃねーか!」

 ピクっとフィルクの腕が反応する。

 これはおじさんがキモいとわかってきてるな?押せば、いける!下ろしてもらえる!

「な、わかるだろ?絵面最悪じゃねーか、な?あ、ほら、可哀想に、あそこで震えっぱなしの聖女様のもと、へ……」

 言葉が止まる。別に今回はフィルクが睨んだわけではない。ノイラが、フィルクが聖女のもとへ行くのが嫌がったからだ。

 ここで、自覚する。

 俺、フィルクのことが、好き?

 嘘だろ……おじさんが、若者好きになるとか、キモすぎんだろ……。そもそもフィルクが俺を好きになるわけがない。

 一瞬で失恋。

 じゃあ、さっきの胸の痛みは……聖女様と仲良さげにしてたから?

 思い出すだけで、胸が痛くなる。

 だけど、俺はもう三十路で、対して二人は同い年だったはずで、20丁度だ。

 若い者同士のが、いいよな。

 いい、のに。

 どうしてもフィルクを引き止めたい自分がいた。

 こんな女々しい自分が嫌になる……。

 これだから童貞は、なんて初めて思った。踏ん切りがつかないのも、俺の覚悟が足りないせいだ。

 でも、世間から見ても、聖女と時期公爵。オマケにもう仲がいい。これ以上の最高のパートナーがいるだろうか?

 ノイラはきゅ、と唇を引き締める。

「……ノイラさん?」
「……ほら、聖女様が震えてらっしゃる。可哀想だ、傍に行って慰めてやれ」
「……は?なんで?」

 いつもより低い声がノイラを責め立てるようだった。

「は、なんでって……当たり前だろ?てか、この状態で喋るな。重いだろ、下ろせ」
「……下ろして、立てるんですか?」
「立てるから。下ろせ」
「……ふーん」

 気に食わないというような声色でも、足から優しく下ろしてくれる。

「ん、ありがと。……ほら、行けよ。師匠からの命令だ」
「……命令……わかりました」

 渋々、というようにフィルクが離れ、レイランに向かっていった。

 フィルクが近付くと、レイランはパッと顔を上げ、潤んだ瞳をフィルクに向けながら胸に飛び込んだ。フィルクは優しく受け止め、先程までノイラと接していた時の冷徹な態度ではなく、いつも通りの優しいフィルクの雰囲気に戻っていた。

 刺されるような痛みを訴える胸を無視する。それに、少しほっとしていた。フィルクが幸せな家庭を築けるだろうという安心感、そして、実はさっきから気にしていた瘴気。もうフィルクには近付かないでおこう。離れてくれて、助かった。

「……ノイラ様……」

 ツフリの声がした。振り返ると、三人がバツが悪そうに立っていた。

「っ、あ、お前ら……す、すまん、取り乱してしまって……それで、あのな、今もあんまり近づいてほしくねぇんだ、頼むよ」
「……僕のことが、嫌いなの?」
「ち、違う!ただ、瘴気が……」
「瘴気……」

 そうだ、瘴気。お前たちに近付くと、俺のせいでお前たちが穢れる。お前たちのことを少なからず大事に思ってるから、近付きたくないんだ。

「ああ、わかるだろ?」
「……でも、補給は必要ですよね」
「……へ?」

 補給?なんの話……。

「んっ!?……っ、んむ……!」
「!?おい、ツフリ!抜け駆け!」
「ひどいっすよ!」
「……ぷはっ、な、なに……っ、んっ……!ぅ……ん……っ!?」

 首を捕まれ、ツフリの整った顔が急接近したと思うと、次の瞬間には唇が同じもので塞がれていた。息をする暇もなく沢山角度を変えられて、接吻を。顔を真っ赤にしながら、突然のことに抵抗できないのもあったし、首を押さえられて顔を背けられなくて、次には舌を入れられた。ノイラの舌と絡めるように動かし、すると、なにか暖かいものが流し込まれてきた。魔力だ。

 魔力切れの身体に染み渡るように広がり、それが快感となって身体が勝手にビクビクと反応する。力が勝手に抜けていく。

 やばい、腰が碎ける。

 そう思った時、首の拘束を解かれ、グイッと身体を引っ張られた。

「ぅうおっ!?」
「なに、してるんですか?」

 フィルクがノイラの首を後ろから腕を回して掴み、もう片方は腰を支えていた。

 必死に酸素を取り込み、口についた唾液を慌てて拭う。

「……魔力補給ですが」
「誰の許可を得て?」
「……」
「なに勝手なことをしてくれる?」

 地を這うような低い声。真上から発せられたその声にビクッとノイラの身体が跳ねた。

 え?え、今の声、フィルク?え?

「……だって、フィルク様はノイラ様を捨てるでしょ。拾ったって文句は言えないけど」
「捨てる?」
「ああ。あそこの聖女に骨抜きにされてなぁ。可哀想に、ノイラ様は震えてた。自分の信じてたものが自分を裏切るなんて、衝撃は計り知れないよな。ノイラ様のような人なら、尚更」
「ふ、震えてねぇっ!」

 ノイラを見つめながら薄く笑みを浮かべる。

「……なにが言いたい」
「要するに、フィルク様はもうノイラ様から必要とされていない、ってこと。心の拠り所でなくなった。次からは僕たちがなるよ、安心して見てて」

 最後にニコリと笑った。

 ノイラは、フィルクに抱き込まれている今の状況をなんとか飲み込み、慌てて突き飛ばして離れる。

「……あ、いや、なるべく近寄って欲しくない、っていうか」
「……ツフリにはキスまでさせておいて?俺には、“近付くな”?ノイラさん、それはあんまりじゃないですか?……我儘にも限度というものがありますよ」

 目、目!目がおかしい!光属性のくせに濁りすぎてる!そんなに恨まれるようなことしたっけ!?フィルクから聞いたことない舌打ちが聞こえた時はマジでビビった。震えてはない。うん。

「ひっ、ふぃ、ふぃるく……っ、お、おちつけっ、なんでそんな怒ってるんだ!やっぱ俺に近付いたから瘴気にあてられたんだろ?聖女様のもとへ行って浄化してもらえよ!」

 揉み手でフィルクに媚びる。今は年上だとか師匠だとか、どうでもいい!死にたくない!今のフィルクなら余裕で負ける自信しかない!

「ツフリに渡された魔力で少し回復したから、俺二回の転移魔法くらいは使えるぞ、だからほら、聖女様のもとへ……」
「貴方は、俺をどうしたいんですか?」

 ノイラの言葉を遮って感情が感じられない声で静かに言った。

「……へっ?」
「嫉妬させて、させて、させて、いっそ貴方を殺してしまえばいい?」

 フィルクが一歩、二歩、歩を進めると腕を伸ばし、ノイラの首を正面から両手で掴んだ。親指を喉に少し食い込ませる。

 それはまるで、人を殺す時の動作。

「っ、ぁ、や……っ、はなして……っ」
「いいですよ」

 フィルクからこんなことをされるとは微塵も思わなかったノイラの目には薄らと水の膜が張られていた。
 そんな恐怖の滲んだノイラの目を見て、ようやくフィルクが笑う。

 捕食者の浮かべる、歪な笑みを。

 簡単にノイラから手を離し、ノイラは恐怖で身体が震え始める。

 こんなの、フィルクじゃない。

「フィー!ダメって言ったじゃない!近寄ったら……っ!」
「はぁ……、はは、大丈夫だよ、レイ。これでも光属性であり、聖属性でもあるからね、瘴気を弾くことはできるよ。瘴気の除き方すら知らなかったらこんな長く一緒にいられない」

 フィルクの言葉に身体を固くする。

 瘴気を、弾く?

 フィルクは聖属性なのか?

 じゃあ、穢らわしいと言われる瘴気を常に纏っている俺は。

 フィルクは、俺を弾ける。

「っ、!」

 ほぼ反射的に俺は駆け出していた。三人のもとへ。

「ノイラ様っ!?」

 三人に飛びつき、一纏めにすると、転移魔法を唱えた。

転移魔法ムーブメント!」
「っ、ノイラさん!」

 フィルクの鋭い声を残して、視界は変わった。



“後書き”

話の展開がまるっきり小学生の書いた夢小説ですね。ええ自覚はしてるんです。

小学生じゃないんですけどこういうタイプのしか書けないんです!自分が悲劇のヒロイン的な思考の受けしか書けないんですよ!

まあでも「面倒くさい受け」が好みドンピシャな私にとっては好きな展開なんですけどね。
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