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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
間一髪!
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「聖女様、猊下。本日はありがとうございました。聖女様の庇護国の一つとなった事は摂政に報告し、国として改めて声明を出すつもりです」
「それではお先に失礼致しますわ」
カレドニア王国組と和やかに話が終わった後、そう言って席を離れていくリュシー様達。
疲れたそうで、トラス王族に挨拶をしてから早めに帰るそうだ。
それにしてもトイレ行きたくなったんだけど。
丁度挨拶に並ぶ人も途切れたので休憩時間を所望すると、グレイも賛成。
「ちょっと疲れたよね。お手洗いは僕も……」
よし決まり!
***
「聖女様は本物だった……あれこそ、あれこそ神の奇跡!!」
「お爺様、お気を確かに。落ち着いて下さい」
トラス王国トゥラントゥール宮殿の一室。
譫言のように聖女の事を語る祖父――東方教会総主教エロフェイ・フョードロヴィチ・ウンコフを窘める。
聖女との謁見から祖父を引きずるように逃げて来たルーシ帝国皇太子ゲーリー・ミハイロヴィチ・ウンコフは、想定外の事態に内心舌打ちをしていた。
聖女の真偽を確かめるつもりが、まさかこんな事になろうとは。
確かに祖父の気持ちも分からぬ訳ではない。脳に直接注ぎ込まれるように話しかけられた先刻の現象は、尋常ではない出来事だ。
あまり信心深くない自分からすれば、聖女がたとえ本物だとしても他国の人間である以上警戒すべき存在である。
ルーシ帝国は総主教の血筋が皇帝となることで政教の権力が一致し、統治を始めた国だ。
それなのに祖父が聖女――西方教会に取り込まれてしまえば、差し障りが生じるだろう。
「ゲーリー、これが落ち着いていられようか。聖女様は正しく神の娘。我らは神の奇跡を体験したのだぞ」
「聖女が本物であっても、西方教会に属していることをお忘れなさいますな。東方教会の味方にはなりませんよ」
「そ、それは……だが、聖女様は後日会う機会を設けて下さると仰っていたではないか。今一度お目通りをして」
「東方教会に聖女を取り込むならば良いのですが……それが叶わぬ場合は引いて関わらぬ方が賢明かと」
先程考えた、帝国の統治に関する懸念を話して聞かせる。祖父は渋々ながら、分かったと頷いた。
「狼を恐れていては森に入れぬ――正体が露見した以上、覚悟を決めなければ」
最大の目的、『蒸気機関車』という画期的な技術の試作品は、聖女の住まうキャンディ伯爵邸にあるという。
大広間で聞いた話によれば、実用化されれば物資の輸送の革命が起きるという。
広大なルーシ帝国にとっては喉から手が出る程欲しい技術だ。試作品をこの目で見ずに帰る訳にはいかなかった。
気は進まないが、ゲーリー達は一旦大広間に戻ろうと部屋を出る。
更なる情報収集及びアレマニア皇女エリーザベトと接触を図る為だ。
廊下を歩いていると、遠くに男女の後ろ姿が目に入った。
――あれは、皇女エリーザベトか?
聖女との謁見前に遠目で見たのと同じドレスのようだ。
ゲーリーは祖父に断り、足を早める。
距離はだんだん縮まって行き、彼らが大広間の扉を潜る時にははっきり判別が出来るまでに近付いていた。
――間違いない、皇女だ。
事前情報によれば、隣に居る黒髪の男は皇女が気に入っているという聖女の兄、カレル・キャンディに違いない。
大広間への扉が閉まる前に体を滑り込ませる。
ゲーリーが、皇女に声を掛けるべく息を吸――
「もしかして、ルーシ帝国の方でしょうか?」
おうとしたところで、不意に良く通る若い男の声が掛けられた。
ハッと振り向くと、周囲の貴族達が一様にその人物に対して礼を取っている。
――トラス王国第一王子アルバートか。何故……。
こうしている間にも、皇女達が遠ざかってしまう――内心苛立ちを覚えたが、おくびにも出さずにゲーリーも紳士の礼を取った。
「これは、アルバート第一王子殿下とお見受け致します。私はイワン・セメノビッチ・ティンコフと申します。お声掛け頂き光栄に存じます、お見知り置きを」
まさか聖女が自分の身分を第一王子に伝えたのだろうか?
俄かに警戒心が首をもたげる。そんなゲーリーに、第一王子アルバートはにこりとお手本のような笑みを浮かべた。
「ご丁寧にありがとうございます、ティンコフ卿。ルーシ帝国は広大な領土を治める大帝国として有名です。しかし、我が国とはこれまであまり交流は無かった為、非常に興味があるのですが……宜しければルーシ帝国の事について色々教えて頂けたらと思いまして」
「それではお先に失礼致しますわ」
カレドニア王国組と和やかに話が終わった後、そう言って席を離れていくリュシー様達。
疲れたそうで、トラス王族に挨拶をしてから早めに帰るそうだ。
それにしてもトイレ行きたくなったんだけど。
丁度挨拶に並ぶ人も途切れたので休憩時間を所望すると、グレイも賛成。
「ちょっと疲れたよね。お手洗いは僕も……」
よし決まり!
***
「聖女様は本物だった……あれこそ、あれこそ神の奇跡!!」
「お爺様、お気を確かに。落ち着いて下さい」
トラス王国トゥラントゥール宮殿の一室。
譫言のように聖女の事を語る祖父――東方教会総主教エロフェイ・フョードロヴィチ・ウンコフを窘める。
聖女との謁見から祖父を引きずるように逃げて来たルーシ帝国皇太子ゲーリー・ミハイロヴィチ・ウンコフは、想定外の事態に内心舌打ちをしていた。
聖女の真偽を確かめるつもりが、まさかこんな事になろうとは。
確かに祖父の気持ちも分からぬ訳ではない。脳に直接注ぎ込まれるように話しかけられた先刻の現象は、尋常ではない出来事だ。
あまり信心深くない自分からすれば、聖女がたとえ本物だとしても他国の人間である以上警戒すべき存在である。
ルーシ帝国は総主教の血筋が皇帝となることで政教の権力が一致し、統治を始めた国だ。
それなのに祖父が聖女――西方教会に取り込まれてしまえば、差し障りが生じるだろう。
「ゲーリー、これが落ち着いていられようか。聖女様は正しく神の娘。我らは神の奇跡を体験したのだぞ」
「聖女が本物であっても、西方教会に属していることをお忘れなさいますな。東方教会の味方にはなりませんよ」
「そ、それは……だが、聖女様は後日会う機会を設けて下さると仰っていたではないか。今一度お目通りをして」
「東方教会に聖女を取り込むならば良いのですが……それが叶わぬ場合は引いて関わらぬ方が賢明かと」
先程考えた、帝国の統治に関する懸念を話して聞かせる。祖父は渋々ながら、分かったと頷いた。
「狼を恐れていては森に入れぬ――正体が露見した以上、覚悟を決めなければ」
最大の目的、『蒸気機関車』という画期的な技術の試作品は、聖女の住まうキャンディ伯爵邸にあるという。
大広間で聞いた話によれば、実用化されれば物資の輸送の革命が起きるという。
広大なルーシ帝国にとっては喉から手が出る程欲しい技術だ。試作品をこの目で見ずに帰る訳にはいかなかった。
気は進まないが、ゲーリー達は一旦大広間に戻ろうと部屋を出る。
更なる情報収集及びアレマニア皇女エリーザベトと接触を図る為だ。
廊下を歩いていると、遠くに男女の後ろ姿が目に入った。
――あれは、皇女エリーザベトか?
聖女との謁見前に遠目で見たのと同じドレスのようだ。
ゲーリーは祖父に断り、足を早める。
距離はだんだん縮まって行き、彼らが大広間の扉を潜る時にははっきり判別が出来るまでに近付いていた。
――間違いない、皇女だ。
事前情報によれば、隣に居る黒髪の男は皇女が気に入っているという聖女の兄、カレル・キャンディに違いない。
大広間への扉が閉まる前に体を滑り込ませる。
ゲーリーが、皇女に声を掛けるべく息を吸――
「もしかして、ルーシ帝国の方でしょうか?」
おうとしたところで、不意に良く通る若い男の声が掛けられた。
ハッと振り向くと、周囲の貴族達が一様にその人物に対して礼を取っている。
――トラス王国第一王子アルバートか。何故……。
こうしている間にも、皇女達が遠ざかってしまう――内心苛立ちを覚えたが、おくびにも出さずにゲーリーも紳士の礼を取った。
「これは、アルバート第一王子殿下とお見受け致します。私はイワン・セメノビッチ・ティンコフと申します。お声掛け頂き光栄に存じます、お見知り置きを」
まさか聖女が自分の身分を第一王子に伝えたのだろうか?
俄かに警戒心が首をもたげる。そんなゲーリーに、第一王子アルバートはにこりとお手本のような笑みを浮かべた。
「ご丁寧にありがとうございます、ティンコフ卿。ルーシ帝国は広大な領土を治める大帝国として有名です。しかし、我が国とはこれまであまり交流は無かった為、非常に興味があるのですが……宜しければルーシ帝国の事について色々教えて頂けたらと思いまして」
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