貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

インディーズからメジャーへ。

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 ――いつかこうする予定だとは言ってたけどさ、まさか今だなんて思ってなかったんだけど!?

 センセーショナルな山岳国家ヘルヴェティアの聖女従属宣言に、私は白目をむきそうになっていた。
 そういうの、事前に了解を取っておくんじゃないの!? と恨みを込めてアルトガルを見る。
 目が合うと、申し訳なさそうに片手で謝罪のジェスチャーしながらウインクしてきやがった。

 どういう了見だと精神感応を使うと、ハンスユルグ卿アルムのおんじが実際に聖女を直接見てから改めておおやけに保護を求めるかどうか決める等と言っていたらしい。
 だが、この場で宣言するのはアルトガルとしても予想外だったようだ。

 対象をハンスユルグ卿へと移すと、新年の宴が終わった後……約一週間後の聖女降臨節で宣言するように申し合わせるよりも、いっそ今この場で宣言してしまう方が良いということで、こういう事態になったと。
 まあ確かにその頃には帰国している人達もいるだろうし、一番注目を集めるのはこの時がベストということか。

 ――はあ、仕方ない。

 内心溜息を吐き、覚悟を決めた私はグレイにエスコートを頼んで立ち上がる。
 錫杖を手に、山岳国家ヘルヴェティアの申し出を承認する旨を告げた。

 ただそれだけだと周辺国家に要らぬ警戒等を抱かせるだろう。続けて私自身は直接統治に関わったりはしない、所謂お飾りであると付け加えた。

 勿論裏では教会やキーマン商会を通じて砂糖の密造や銀行業等を展開。共存共栄を目指すのだ、ふはははは!

 しかしそんなお飾り宣言も、何がしかのお墨付きめいた効果はあったらしい。

 ハンスユルグ卿アルムのおんじ達が挨拶を終えて下がると、そこからヘルヴェティアの後に続けとばかりに『聖女の庇護』を求める国が続出したのだ。

 曰く、正式には国に持ち帰ってからだがもし庇護を受けられるのであれば受けたいと。

 申し出て来たのは特に、北方諸国や東方小国群の中でも小さな国々。
 私は「基本ヘルヴェティアと同じ条件でなら」と返答した。

 「マリー様。我がカレドニア王国も聖女様の庇護を求めます。受け入れて、下さるでしょうか?」

 そんな国々に混ざってやって来たのは、緊張した面持ちのカレドニア女王リュサイ。私は勿論ですわ、と微笑んだ。


***


 彼女、リュシー様とは友達だと思っているし、何とも水臭い。
 今だって大っぴらにはなっていないだけで、砂糖製造や交易――商売を通じて庇護自体はしているのだ。

 先程のヘルヴェティアと同じで、それが諸国の知るところになっても今更である。バンドがインディーズからメジャーデビューするようなもんだ。
 大広間全体に知れ渡るように『カレドニア王国は公式に聖女の庇護に入るよ』宣言をした後、テーブルに招く。

 椅子に座って貰い、紅茶が淹れられたところでグレイと共に体調はもう大丈夫なのかと訊ねた。
 何だかんだ言って、ガリア王太子対策だの父サイモンとの死の鬼ごっこだのと忙しくて会って話をする時間も取れなかったからな。

 「お二人にも、大変ご心配をお掛けしてしまって申し訳ありませんでしたわ」

 「いいえ、お元気になられたようで良かったですわ」

 新年の宴に参加し、こうして話が出来て何よりだとグレイも言う。

 お礼を言う顔を観察すると、どこか吹っ切れたような清々しい表情をしている。
 色々悩んだ末、彼女なりに折り合いがついたのだろうか。

 だと良いんだけれど…と思っていると、ジャケットの上からカレドニアの民族衣装フェ―リアを着た男が前へ進み出て紳士の礼を取った。

 「陛下」

 「あ、そうでしたわ。マリー様、こちらは我が国の外交官ですの。お見知り置きを」

 「このような晴れがましい宴でお目通り叶った幸運を太陽神に感謝致します。タイグ・フレイザーと申します」

 まあまあ、遠路遥々……等とこちらも自己紹介をして挨拶を交わし、「摂政のオーエン伯はお元気?」等と世間話をする。
 カレドニアの刻印普及について訊くと、ほぼ普及完了。強化した教会組織が相当頑張ったようだ。

 「今年の冬は寒いから、羊毛製品はどこも引っ張りだこになっていますよ。ところで例の物は――」

 暗に砂糖製造についてグレイが問うと、フレイザー卿は姿勢を正した。
 砂糖の製造は順調で、これから生産量を増やしていくという。

 オーエン伯が頑張って弱みを握った元アルビオン派貴族達に二重スパイをやらせつつ、アルビオンに売りさばき始めたとか。
 同時進行でアルビオン側の貴族達に調略を仕掛けているらしい。アグレッシブで良きかな。

 となると、カレドニア国内はほぼ掌握したと考えても良いだろう。このまま春まで様子を見て大丈夫そうだったら、リュシー様は晴れて女王として国に戻れるかも知れない。

 話題はウィスキー製造へと移る。

 フレイザー卿曰く、既に泥炭ピートで乾燥を行った麦で作られた蒸留酒を探し出して確保、違う種類の木で作られた樽にそれぞれ分けて選定した貯蔵場所に運び込んで熟成を待っているところだという。

 ただそれだと品質も供給も安定しない。今は気温の上がる季節ということで春を待ち、確保した酒蔵や職人、厳選された原料で一から作る計画が進行中だとか。

 「研究するのは良い事だわ。少なくとも後三年後――楽しみね」

 「はい、私共としても楽しみでございます」

 お恥ずかしながら個人としても酒が好きなもので、とフレイザー卿は嬉しそうに微笑んだ。
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