貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

聖女はつらいよ。

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 「……一年ひととせの、最も寒き死と眠りの暗夜を越えて、太陽神よ、今こそ子らの呼びかけに応え目覚め給え」

 「この現世に、再び神の光と慈悲をもたらせ給え……」

 今頃、外では日の出を迎えている事だろう。
 グレイと交互に新年の聖句を唱えつつ、長々と祈りを捧げていると、ある時狙ったように初日の出の光が窓からスポットライトのように私に降り注がれた。
 その瞬間、周囲からの驚嘆のようなざわめきが耳朶を打つ。

 蝋燭やランプの灯りでさえもキラキラしていたのだ、初日の出の光に全身キラキラに輝き光度カンデラ数の上がった今の私は、復活した太陽神ソルヘリオスの化身ともいえる存在である。いつでも宝塚やサンバカーニバルに参加出来るに違いない。

 冗談はさておき、前世の太陽神信仰の如く。この世界の太陽神も冬至に一度死を迎え、新年で復活を遂げる、という筋書きで儀式が行われる。
 それはまた信徒達も同じであり、冬至の日には人々は仮初の死を迎えることとなる。
 ちなみに年末の大掃除はこの日に行われる。
 新年に向け、特に炉の掃除がなされて新たな火が灯されるのだ。

 日本でも『冬至粥』という風習があった。
 陰極まった冬至に粥を食べる事で体の中に陽、つまり生命を取り入れ復活していくというものであるのだが、こちらの世界でも国によって多少の差はあるものの似た習慣がある。
 ちなみにトラス王国の場合は、穀物や冬野菜、肉を一緒に煮込んだワイン煮を食べるのだ。

 去年は残念ながら聖地への旅路で海上に居たのでありつけなかったけれど、今年は食べられて良かったと思う。

 「「「「聖なるかな、聖なるかな、太陽神ソルヘリオス」」」」

 新年の祈りの締め括りに全員で神を言祝ぐ聖句を唱和した後、私は頭を垂れる人々に向かって錫杖を掲げた。

 そこから移動しながら厄落としをする神社の神主さんの如くシャンシャンと音を鳴らし、トラス王を始めとする王族や高位貴族達に順番に浄化と祝福を与えていく。
 後ろに引きずる衣装は馬の脚共に持たせ、グレイに支えられながらの歩みである。
 大聖堂では各家の代表として当主とその息子が出席という形だったが、それでもかなりの人数だ。
 ちなみにその他の貴族達は、大聖堂での儀式が終わった後で向かうトゥラントゥール宮殿に集まることになっており、私はそこでも再び祝福の儀式をしなければならない。外国からの客人達も、だ。

 祝福料金貰ってない以上、アイドルの握手会より酷い。
 フーテンのマリーちゃんにとって聖女はつらいよ、である。

 考えただけで憂鬱になりそうだったので、機械的に錫杖を動かしながら、私は別の――ここに来る途中の快挙について考えることにした。

 実は、このトラス王国中の教会を統括する、ノートルサンテヴィヤージュ大聖堂――ちなみにサリューン枢機卿が責任者である――に来るまでの間、私達の馬車を襲撃せんと偽教皇の手の者達が集まっていたのだが、めでたく一網打尽に出来たのである。
 自分が聖女という超能力者で良かったとつくづく思う。

 まあ、聖女とその夫、賢者で元アヤスラニ帝国の皇子、アレマニア皇帝の次男が一つの馬車に乗ると情報を流し、全員亡き者にすれば偽教皇にとって安泰だと思考誘導の上、集団で襲撃してくるように仕組んだのは――何を隠そう隠密騎士や雪山の傭兵達。

 勿論私も出掛けに馬の脚共に頼まれて一枚噛んでいる。
 馬車の中から透視能力と精神感応を駆使して、曲者共の位置を隠密騎士達と共有したのだ。

 馬の脚共を筆頭とした隠密騎士達が馬車を守り、変装したアルトガル達が馬車に注意し過ぎて回りが見えなくなった曲者共を囲い込むというサンドイッチ方式――相手はまさか超能力で位置から何から何までバレているとは思っても居なかったに違いない。
 結果、全くこちらの狙い通りで面白いように捕まった。
 入れ食い、入れ食いである!

 捕らえた奴らは改めて私が脳内精査して情報をすっぱ抜いた後で、いずれ派遣元との交渉を行うことになるだろう。
 身代金はたっぷりと弾んで貰おう、ククク。

 ただ、おおむね問題は無かったとはいえ。
 相手側を釣る為に馬車の速度を不自然に上げたりしたので、異常を感じたのであろう皆の顔は硬かった。
特に幼いヴェスカルは王都に入るなり息を大きく吐いていた。
 大丈夫かとのイドゥリースの問いに対し健気に微笑んでいたが、精神的緊張を強いてしまったのは少し反省。

 ん……? グレイが何だか険しい顔で数人の貴族を睨んでいる。どうしたんだろう?
 ――っと、お次は父とトーマス兄の番だわ。間に合って良かった。
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