貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(162)

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 結論から言うと、アルバート殿下とメテオーラ姫がわざわざやって来たのは、ガリアの王太子についての警告の為だった。
 ガリアの王太子は確かルイージ・セコンド・ガリアだったか。マリーがシルヴィオ殿下と懇意にしている以上に――

 「大方金鉱山の件でしょうね」

 そう言って紅茶を啜るマリー。
 そうだろうな、とぼんやりする頭で僕は思う。ガリア王宮側が全てを知った時は聖女マリーの仲介で教会に差し押さえられた形になっていた訳だから。
 事態をどうにかしようとするにはカレル様の言う通り、彼女に何としてでも会わなければ始まらない。あわよくば、シルヴィオ殿下に取って代わろうと企んでいる事だろう。

 キャロライン様が、ガリアの金鉱山が何故マリーに関係あるのかと疑問を呈した。そこで改めて経緯の説明をする事に。マリーの能力を明かさない為に僕も説明に加わる。

 肝心な事は言わず説明を何とか終えると、アルバート殿下が鋭い眼で僕達を見た。

 「成程、つまり今現在の鉱山の所有権は教会――その最高位である聖女。それでマリーに会いたいということですね。ガリア王家が金・ルビー鉱山を手に入れようとするならば、教会との衝突は避けられない」

 上手く考えたものです、と言いながら、少しの表情の変化も見逃すまいとばかりのアルバート殿下。
 もしかして、何か感づかれたのだろうか。それとも、ガリアの金鉱山について一枚噛ませろ、とか?
 そんな事を考えていると、マリーが妙な圧を感じる微笑みを浮かべ「ガリアの金鉱山にトラスの王族が手を出せば、折角の友好にヒビが入りますわよ?」と釘を刺した。
 その後のアルバート殿下の様子からして、どうやら後者だったようだ。

 話はガリア王太子どう対処すべきか、に移って行く。メテオーラ姫曰く、「実に厄介な人間」なのだそう。
 具体的には、独断的性格王の風格を持っていてしつこく付き纏ってくる一度決めた事を貫き通す人間のようだ。金鉱山がかかっているから、手段を選ばず接触してくるだろう、と。
 メテオーラ姫はそんなガリア王太子の婚約者になるのが嫌で、政敵を利用してまでトラス王国に避難してきたという。ガリア王太子相手に、服従と忍耐を求められるのが耐えられないのだ、と。

 「要は、嫌って避けているのに何かとしつこく言い寄って来られていたのね。更に無理に婚約者にされそうになったから政敵貴族の令嬢をあてがうよう仕向けて逃げて来た、と」

 「……有体ありていに言えばそうよ。本当にうんざりしていたわ」

 マリーの言葉にメテオーラ姫が顔をしかめる。
 彼女は打てば響くような聡明な姫君だ。きっと、ガリア王国に居る頃はなかなか気苦労が絶えなかったのだろうな。気の毒に。

 しかし具体的な人物像を聞いてしまうと、わざわざ警告に来るのも頷ける。
 次期トラス王妃と目されるメテオーラ姫。その祖国のガリア王国とは同盟関係が結ばれる。ガリア王太子が強引にマリーに迫って来たとしても無下には出来ず、下手な対応をすれば折角友好に罅が入ってしまうだろう。

 なるべく穏便な方法でマリーに近付かせないようにしなければならない。
 どうすればいいだろうか――その方法を考え込む僕を他所に、マリーがメテオーラ姫に「トラス王国の王妃になるのは大丈夫なのか」と心配そうに訊ねている。
 しかしそれは大丈夫らしい。「アルバート殿下も私のような女を理解して認めて下さっているから……」とメテオーラ姫は微笑む。

 「聡明で機転の利く貴女の事は頼もしいと思っていますよ」

 見つめ合うメテオーラ姫とアルバート殿下。
 お二人の仲は良好の様だ、と内心ホッとする。最愛の妻マリーが奪われる可能性は少なければ少ない程良い。

 ああ、思考が中断してしまった。寝不足で注意散漫気味になってしまってる。
 ……ええと、何だっけ。
 どうすれば穏便にガリア王太子をマリーから遠ざけ――

 「でも、メティ。大丈夫なの? その……高位貴族や王族の結婚……ええい、はっきり言うわ! 初夜の褥は、身分ある貴族や聖職者の立ち合いの下、エロ同じn……ゴホン、公開処刑同然に行われるらしいじゃない!」

 「え?」

 ――等と、考え始めた僕をむしばんでいる眠気は。


 「「「―――っえぇえぇええええええっ!!?」」」


 マリーの晴天に落雷が直撃してきたような衝撃の発言及びそれを聞いたマリー以外の全員による驚愕の悲鳴によって、一気に雲散霧消させられる事となったのだった。


***


 お、王族の初夜が、公開処刑同然だなんて!

 「いきなりなんてとんでもないことを言うんだよ、マリー!」

 頭に血が上って一気に覚醒した僕は、なりふり構っていられずマリーの肩を掴んで揺さぶった。大体君は、伯爵夫人で淑女で聖女なんだよ!?

 視界の隅にサリーナやナーテ達がお茶を注ごうとした姿のまま凍り付いたように固まっているのが見える。
 馬兄弟やカールも同様だ。ああ、皆きっと時が停止しているのを体感している事だろう。

 顔を青褪めさせたトーマス様とカレル様が「失礼が過ぎる」「王族の婚姻を公開処刑って」等とマリーを非難している。皇女殿下とキャロライン様は顔を赤らめる一方、メテオーラ姫は血相を変えてマリーの言葉は真実なのかとアルバート殿下に詰め寄っていた。

 「そ、そんな筈は!」

 首を凄い速さで横に振って珍しく混乱に陥っている、普段は冷静沈着なアルバート殿下。あ、ちょっと面白いかも。
 きっと今後こんな殿下は滅多に見る事はないだろうな、と頭の片隅でちらりと思う。

 「というか、誰がそんな出鱈目でたらめを貴女に吹き込んだんです!?」

 アルバート殿下は、「事と次第によってはサイモン卿にキャンディ伯爵この家の子女教育内容をお訊ねする事になりますよ」と一部裏返った声でマリーに向かって叫んだ。
 慌てて謝罪を重ねるトーマス様とカレル様。マリーは出鱈目でたらめだと決めつけられて少しムッとしたのか、人差し指を殿下に突き付ける。

 「出鱈目なんかじゃありませんわ! 私しかと目を皿のようにして少なくとも三度は読みましたもの、近代文学の『或る高位貴族の生涯』という本を!」

 僕は天を仰いだ。
 マリー、それ……男達が半分与太話だと思って読む艶本だよ。僕も読んだ事あるけどさぁ。
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