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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
グレイ・ダージリン(144)
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べリーチェ修道女と分かれて聖堂へ戻った僕達。
予行演習を終え、本番でも大丈夫だろうと言う頃になって、カレル様が皇女エリーザベトを連れてやって来た。
花が萎れているかのような皇女殿下の様子にマリーは場所を変えましょうと言って周囲を見渡す。
「聖女様、貴人にご提供出来る最上の部屋は院長室しかございませんが……構いませんか?」
「ご不便をお掛け致しますわ」
メンデル修道院長の好意をありがたく受け取った僕達は移動する。
めいめいが着席。お茶やお菓子等が提供され、挨拶を交わす。
マリーはしばし皇女殿下を見つめて唐突に「はぁ!?」と声を上げた。聖女の能力で驚く事でも知り得たのだろうか?
時間が欲しいと皇女に断った後。精神を集中する為なのだろう、目を閉じるマリー。
暫くの間、僕達は固唾を吞んで彼女を見守っていた。
ややあって、瞼を開けたマリーはエリーザベト殿下を見据える。
「神の啓示がありましたの。リシィ様のご相談なさりたい事、私は把握致しました」
顔を若干青褪めさせるエリーザベト殿下とその侍女。僕もどこか不安を感じていた。
ごくり、と誰かの喉が鳴ったように思う。
「リシィ様のお父様――神聖アレマニア帝国ルードルフ陛下から、帰還命令の手紙を受け取られたのでしょう? ルーシ帝国皇太子殿下との縁談の為に」
――覚えてますかねー、ダージリン領に探りに来た者達の中もいましたよー。
傍に控えていたカールがそっと僕の耳元で囁く。勿論覚えている、と僕は小さく頷いた。
聖女の事を調べに来たのは間違いないんだ、弱みも含めて。
ルーシ帝国について、友人のスレイマンを始め商人達から色々話は聞いたことがあった。
僕は知り得る事を思い出す。
アレマニアの東北にあり、この大陸で一番広大な国土を有している出来たばかりの大帝国だ。厳しい気候と土地で冬は極寒になり雪に閉ざされるのだという。
過去の歴史では四百年程前に騎馬民族の帝国に支配されたり、その後騎馬民族を駆逐して新興国家が起こったり。
西や南側――つまり神聖アレマニア帝国や東方小国群、アヤスラニ帝国側を侵略しようとした時もあったけれど。僕の親や祖父母が若い頃に内乱の末に統一建国されたまだ若いかの帝国は外国に対して戦を起こす余裕は無かった。
直接国境を接している訳ではないトラス王国含む国々は比較的安穏としていられたけれど、平定されて間もないとはいえ、警戒すべき国だろう。
とりわけエリーザベト皇女殿下との婚姻が成立すれば、ルーシ帝国は勢いづいて野心を燃え立たせるに違いなかった。
だけど、どうして神聖アレマニア皇帝はエリーザベト皇女をルーシ皇太子に嫁がせようとしているのだろうか?
ルーシ帝国にも教会があるとはいえ、こちらにある教会とは似て非なる組織だ。
偽教皇も良く認めたよね、と思いかけ、僕は一つの考えに思い至る。
元々初代聖女様が生きていた頃、教会は一つだった。しかし時代を経るにつれて相争うようになり、遂にはお互いが破門する形で東方教会と西方教会に分裂したという歴史がある。
ちなみに僕達が普段教会と呼んでいるのは西方教会を指している。
一方、東方教会は総主教を頂点とした教会で、ルーシ帝国や東方小国群の一部で広まっている。彼らは自分達こそが正しい教えとして『正教会』を名乗っていた。
僕達は区別する為に東方教会と呼んでいるけど、ルーシ帝国では教会と言えば東方教会を指し、逆なのだそうだ。
アブラーモは教皇を僭称したものの、その行為において国内外の不寛容派の聖職者達の水面下で動揺や疑い、亀裂が入っているだろうという事は容易に想像出来る。
権力を一手にしたアブラーモ達に反感を持つ者も居るだろうし、ましてや正式に聖女として正当な教皇サングマ猊下に認められたマリーを魔女と糾弾してしまっているのだ。
今後、疫病が神聖アレマニア帝国に蔓延し始めればその亀裂は大きくなっていくだろう。聖女にしろ神の刻印にしろ、否定していても実際に疫病が近付いて来ると「ひょっとして……」と思うのが人情、誰しも勝者、正義の側に付きたがるものだ。
そうした機敏は身を以ってマリーの力を知った偽教皇アブラーモとて分かっているだろう。奴は一日も早く立場を確固たるものにしなければならない。
であれば、協力な第三勢力を味方につけて人心の安定を図ろうとするのが手っ取り早い。
つまり、総主教の力を借りての偽教皇の立場強化――それが皇女エリーザベトとルーシ帝国皇太子の婚姻ではないか。
予行演習を終え、本番でも大丈夫だろうと言う頃になって、カレル様が皇女エリーザベトを連れてやって来た。
花が萎れているかのような皇女殿下の様子にマリーは場所を変えましょうと言って周囲を見渡す。
「聖女様、貴人にご提供出来る最上の部屋は院長室しかございませんが……構いませんか?」
「ご不便をお掛け致しますわ」
メンデル修道院長の好意をありがたく受け取った僕達は移動する。
めいめいが着席。お茶やお菓子等が提供され、挨拶を交わす。
マリーはしばし皇女殿下を見つめて唐突に「はぁ!?」と声を上げた。聖女の能力で驚く事でも知り得たのだろうか?
時間が欲しいと皇女に断った後。精神を集中する為なのだろう、目を閉じるマリー。
暫くの間、僕達は固唾を吞んで彼女を見守っていた。
ややあって、瞼を開けたマリーはエリーザベト殿下を見据える。
「神の啓示がありましたの。リシィ様のご相談なさりたい事、私は把握致しました」
顔を若干青褪めさせるエリーザベト殿下とその侍女。僕もどこか不安を感じていた。
ごくり、と誰かの喉が鳴ったように思う。
「リシィ様のお父様――神聖アレマニア帝国ルードルフ陛下から、帰還命令の手紙を受け取られたのでしょう? ルーシ帝国皇太子殿下との縁談の為に」
――覚えてますかねー、ダージリン領に探りに来た者達の中もいましたよー。
傍に控えていたカールがそっと僕の耳元で囁く。勿論覚えている、と僕は小さく頷いた。
聖女の事を調べに来たのは間違いないんだ、弱みも含めて。
ルーシ帝国について、友人のスレイマンを始め商人達から色々話は聞いたことがあった。
僕は知り得る事を思い出す。
アレマニアの東北にあり、この大陸で一番広大な国土を有している出来たばかりの大帝国だ。厳しい気候と土地で冬は極寒になり雪に閉ざされるのだという。
過去の歴史では四百年程前に騎馬民族の帝国に支配されたり、その後騎馬民族を駆逐して新興国家が起こったり。
西や南側――つまり神聖アレマニア帝国や東方小国群、アヤスラニ帝国側を侵略しようとした時もあったけれど。僕の親や祖父母が若い頃に内乱の末に統一建国されたまだ若いかの帝国は外国に対して戦を起こす余裕は無かった。
直接国境を接している訳ではないトラス王国含む国々は比較的安穏としていられたけれど、平定されて間もないとはいえ、警戒すべき国だろう。
とりわけエリーザベト皇女殿下との婚姻が成立すれば、ルーシ帝国は勢いづいて野心を燃え立たせるに違いなかった。
だけど、どうして神聖アレマニア皇帝はエリーザベト皇女をルーシ皇太子に嫁がせようとしているのだろうか?
ルーシ帝国にも教会があるとはいえ、こちらにある教会とは似て非なる組織だ。
偽教皇も良く認めたよね、と思いかけ、僕は一つの考えに思い至る。
元々初代聖女様が生きていた頃、教会は一つだった。しかし時代を経るにつれて相争うようになり、遂にはお互いが破門する形で東方教会と西方教会に分裂したという歴史がある。
ちなみに僕達が普段教会と呼んでいるのは西方教会を指している。
一方、東方教会は総主教を頂点とした教会で、ルーシ帝国や東方小国群の一部で広まっている。彼らは自分達こそが正しい教えとして『正教会』を名乗っていた。
僕達は区別する為に東方教会と呼んでいるけど、ルーシ帝国では教会と言えば東方教会を指し、逆なのだそうだ。
アブラーモは教皇を僭称したものの、その行為において国内外の不寛容派の聖職者達の水面下で動揺や疑い、亀裂が入っているだろうという事は容易に想像出来る。
権力を一手にしたアブラーモ達に反感を持つ者も居るだろうし、ましてや正式に聖女として正当な教皇サングマ猊下に認められたマリーを魔女と糾弾してしまっているのだ。
今後、疫病が神聖アレマニア帝国に蔓延し始めればその亀裂は大きくなっていくだろう。聖女にしろ神の刻印にしろ、否定していても実際に疫病が近付いて来ると「ひょっとして……」と思うのが人情、誰しも勝者、正義の側に付きたがるものだ。
そうした機敏は身を以ってマリーの力を知った偽教皇アブラーモとて分かっているだろう。奴は一日も早く立場を確固たるものにしなければならない。
であれば、協力な第三勢力を味方につけて人心の安定を図ろうとするのが手っ取り早い。
つまり、総主教の力を借りての偽教皇の立場強化――それが皇女エリーザベトとルーシ帝国皇太子の婚姻ではないか。
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