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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
グレイ・ダージリン(145)
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だが、偽教皇が本当にそう考えてこの縁談を推し進めているとすれば、きっと上手くいかないだろう。
そもそも東方教会は聖女を認めるかどうかにおいて立場を表明してはいない。また、皇女エリーザベトが自国の皇太子に嫁いだからという理由で偽教皇を東方教会が認めるとは僕には到底思えなかった。
僕が総主教なら、偽教皇を西方教会の力を削る為に利用するだけ利用する。
偽教皇の事はさておき、神聖アレマニア皇帝が皇女エリーザベトをルーシ帝国に嫁がせる事で得られる利点は何だろうか。
その時、考え込む僕の耳に「ルーシ帝国の皇太子とのお話はまだ本決まりではないようですわ」とマリーの声が飛び込んで来た。
「ほ、本当ですか?」
少し嬉しそうに上ずった声で皇女エリーザベト。
「ええ。リシィ様のお父様はルーシ帝国が国内の混乱に乗じて攻め込んで来る事を危惧していらっしゃるようなんですの。
皇帝選挙が終わるまで婚姻の話をちらつかせ、ルーシ帝国の皇太子をリシィ様を口実に皇宮へお招きする等の時間稼ぎをする。
西側、つまり寛容派諸侯に対しては兵糧や武器を東側諸侯に供給することを命じ、守りを固める。同時に私のお友達となったリシィ様に寛容派貴族達を懐柔させる事も期待……という訳なのですわ。
教皇僭称で崩れた均衡を元に戻そうと苦心されているみたいですわね」
皇帝の心を覗いたのだろう、滔々と語るマリー。
成程、寛容派・不寛容派貴族で二分された権力を纏め直して安定化させ、またルーシ帝国の脅威を減らす為の時間稼ぎが狙いだったのか。
もしかしなくても、神聖アレマニア皇帝は偽教皇を持て余しているのかも知れない。
他にも皇帝選挙を控えているというのも理由の一つだろうと思う。
エリーザベト皇女の後ろでは難しい顔で腕を組むカレル様。きっと僕も似たような表情をしているに違いない。
しかし、こうしたルーシ帝国への工作はあまり良い手とは言えない、と小首を傾げるマリー。だろうね、と僕は頷いた。
「疱瘡の病がアレマニア帝国に広まれば、刻印をしていない地域は悲惨な事になるでしょう。そこにもし、ルーシの皇太子が居たとして、病に倒れたら……」
言葉を濁す僕。カレル様も同じような想像をしたようで、続けるように口を開く。
「神聖アレマニア帝国に殿下がお戻りになれば、要らぬ争いに巻き込まれる事になるだろうな」
「そうね、私も同意見よ。お考えの通り、手紙を受け取らなかった事にしてしまうのが無難かと思いますわ」
マリーの言葉に口を手で覆い、「全てを見通していらっしゃるのですね」と打ち震える皇女エリーザベト。
聖女の能力を知った時は僕も驚いたからなぁ、と懐かしく思っていると。
「聖女様! 恐れながら、発言を宜しいでしょうか!」
皇女の侍女が強張った表情で挙手。どうぞとマリーが促すと、「リシィ様の願いをどうか、叶えては頂けませんか?」と言って深く頭を下げた。
「ヘルミーネ、止めて!」
狼狽を見せて侍女の名を呼んで制止しようとする皇女。マリーは困ったように曖昧な笑みを浮かべた。
「……その事に関して、私には決定権はありません」
本人の同意と両親の理解と許しが必要だと続けるマリー。
決定権? 本人? 両親はサイモン様とティヴィーナ様を指しているんだろうけど、一体何の事だろう?
マリーは「それで、どうなさいます?」と皇女に促す。
「私から申し上げましょうか、それとも――」
意味が分からず成り行きを見守っていると、暫し何かを考えるように顔を俯けていた皇女は決意を思わせる眼差しで顔を上げた。
「……いいえ、マリー様の仰る通りです」
自分自身で伝えるべきだった、とエリーザベト皇女はカレル様の方を向いた。
「カレル様、私は貴方様を心よりお慕い申し上げております。貴方様が共に居て下さるなら、全てを捨てても構わない程に。どうか、どうか……私を、妻にして頂けませんか?」
……は?
唐突な婚姻の申し込み。僕の頭は真っ白になった。
そもそも東方教会は聖女を認めるかどうかにおいて立場を表明してはいない。また、皇女エリーザベトが自国の皇太子に嫁いだからという理由で偽教皇を東方教会が認めるとは僕には到底思えなかった。
僕が総主教なら、偽教皇を西方教会の力を削る為に利用するだけ利用する。
偽教皇の事はさておき、神聖アレマニア皇帝が皇女エリーザベトをルーシ帝国に嫁がせる事で得られる利点は何だろうか。
その時、考え込む僕の耳に「ルーシ帝国の皇太子とのお話はまだ本決まりではないようですわ」とマリーの声が飛び込んで来た。
「ほ、本当ですか?」
少し嬉しそうに上ずった声で皇女エリーザベト。
「ええ。リシィ様のお父様はルーシ帝国が国内の混乱に乗じて攻め込んで来る事を危惧していらっしゃるようなんですの。
皇帝選挙が終わるまで婚姻の話をちらつかせ、ルーシ帝国の皇太子をリシィ様を口実に皇宮へお招きする等の時間稼ぎをする。
西側、つまり寛容派諸侯に対しては兵糧や武器を東側諸侯に供給することを命じ、守りを固める。同時に私のお友達となったリシィ様に寛容派貴族達を懐柔させる事も期待……という訳なのですわ。
教皇僭称で崩れた均衡を元に戻そうと苦心されているみたいですわね」
皇帝の心を覗いたのだろう、滔々と語るマリー。
成程、寛容派・不寛容派貴族で二分された権力を纏め直して安定化させ、またルーシ帝国の脅威を減らす為の時間稼ぎが狙いだったのか。
もしかしなくても、神聖アレマニア皇帝は偽教皇を持て余しているのかも知れない。
他にも皇帝選挙を控えているというのも理由の一つだろうと思う。
エリーザベト皇女の後ろでは難しい顔で腕を組むカレル様。きっと僕も似たような表情をしているに違いない。
しかし、こうしたルーシ帝国への工作はあまり良い手とは言えない、と小首を傾げるマリー。だろうね、と僕は頷いた。
「疱瘡の病がアレマニア帝国に広まれば、刻印をしていない地域は悲惨な事になるでしょう。そこにもし、ルーシの皇太子が居たとして、病に倒れたら……」
言葉を濁す僕。カレル様も同じような想像をしたようで、続けるように口を開く。
「神聖アレマニア帝国に殿下がお戻りになれば、要らぬ争いに巻き込まれる事になるだろうな」
「そうね、私も同意見よ。お考えの通り、手紙を受け取らなかった事にしてしまうのが無難かと思いますわ」
マリーの言葉に口を手で覆い、「全てを見通していらっしゃるのですね」と打ち震える皇女エリーザベト。
聖女の能力を知った時は僕も驚いたからなぁ、と懐かしく思っていると。
「聖女様! 恐れながら、発言を宜しいでしょうか!」
皇女の侍女が強張った表情で挙手。どうぞとマリーが促すと、「リシィ様の願いをどうか、叶えては頂けませんか?」と言って深く頭を下げた。
「ヘルミーネ、止めて!」
狼狽を見せて侍女の名を呼んで制止しようとする皇女。マリーは困ったように曖昧な笑みを浮かべた。
「……その事に関して、私には決定権はありません」
本人の同意と両親の理解と許しが必要だと続けるマリー。
決定権? 本人? 両親はサイモン様とティヴィーナ様を指しているんだろうけど、一体何の事だろう?
マリーは「それで、どうなさいます?」と皇女に促す。
「私から申し上げましょうか、それとも――」
意味が分からず成り行きを見守っていると、暫し何かを考えるように顔を俯けていた皇女は決意を思わせる眼差しで顔を上げた。
「……いいえ、マリー様の仰る通りです」
自分自身で伝えるべきだった、とエリーザベト皇女はカレル様の方を向いた。
「カレル様、私は貴方様を心よりお慕い申し上げております。貴方様が共に居て下さるなら、全てを捨てても構わない程に。どうか、どうか……私を、妻にして頂けませんか?」
……は?
唐突な婚姻の申し込み。僕の頭は真っ白になった。
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