貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

参考と書いてパクりと読む。

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 城の塔の上。
 手に掲げたものをイサークが離すと、それは下へと落ちて行った。身を乗り出して下を見る私達。直ぐに傘が開いて、紐で繋がった熊ノ庄謹製の木彫りの人形を中心に落下速度がゆっくりになった。

 「ふわあ……!」

 「わあ! ゆっくり落ちて行く!」

 「面白いわ、マリーお姉ちゃま!」

 「これは……面白いデス!」

 ヴェスカルがポカンとし、イサークとメリーが嬉しそうに手を叩いて声を上げる。
 イドゥリースやスレイマンは初めて見るのか目を丸くして驚いていた。喜んでもらえて何よりだ。
 金太も誘ったのだが、高所恐怖症のようで断られてしまった。その代わり、落ちたものの回収班としてメイソンと共に下に居る。

 「よしよし、成功率は高そうね。絹を使えば出来そうだわ」

 そう、私達はパラシュートの実験をしていたのである。
 助手を買って出たイエイツ修道士が「一度目は大成功、と」と実験結果の記録を付けていた。
 二度目はメリー、三度目はヴェスカル、その次はイドゥリース……三人共無事に傘が開く。成功率は高そうだ。
 スレイマンが終わったところで、

 「聖女様! 拙僧にもやらせて下され!」

 「いいわよ」

 イエイツは記録の帳面をエヴァン修道士に預けると、いそいそとパラシュートを手に取った。

 「落とさず、投げてみても?」

 私は頷く。「良し、傘が開いたぞ!」とのイエイツの声を聞きながら、お茶の席を整えてくれていたサリーナとナーテに促されて席につく。紅茶が注がれたティーカップを手に取った。
 夏用にグレイが作らせた、柑橘類の爽やかな香りを付けた茶葉。試行錯誤の末、やっと納得いくものが出来たらしい。
 うーん、馥郁としたいい香り。
 これって確か前世では……

 売り出すにあたっては名前を付けるべきだろう。『アールグレイ』と。

 私がクスクスと思い出し笑いをしていると、近付いて来る足音。見ると、アルバート王子とギャヴィンの姿。

 「ここに居たんですか。相変わらず面白いことをしていますね。あれを大きくしたものがあれば、人が高い場所から落ちても助かりそうです。ギャヴィンもそう思いませんか?」

 「……殿下のお考え通りかと」

 意味ありげに目を細めるアルバート王子。結婚式で披露した気球が人を乗せる段階まで進んでいることを察したのだろう。
 私は笑みを崩さず敢えて沈黙を守った。

 「少々喉が渇きました。お茶を頂いても?」と言われたので内心渋々ながらどうぞと承諾する。
 立ちのぼる柑橘類の香りに、二人共おやという顔をした。

 「今の季節に相応しいですね。爽やかな香りです」

 「何でも、ガリア王国産の香りの高い種類の柑橘類を使っているそうですわ」

 「メテオーラ嬢が喜びそうですね。少し融通して頂いても?」

 「実はまだ試作品ですの。どうしてもと仰るのであればグレイに頼んでみますわ。もうそろそろ王都へお帰りになるとなれば急がせなくては」

 「お気になさらず。ここに居ると随分勉強になりますので。先程まで人事を見学させて頂いたのですが、非常に興味深く感じましたよ」

 そう、今現在グレイは私の草案を元に領地の組織改革真最中なのである。
 領地の法が刷新され、採用された官吏や騎士達はそれぞれの役職に振り分けられることとなった。参考にしパクったのは勿論三権分立及び日本の組織制度である。
 というのも、グレイも商会の仕事があるので、可能な限り居なくても領政が回るようにしたかったからだ。

 「立法権・行政権・司法権に分け、互いに監視する機構を作り上げる。そればかりではなく、騎士の人事をあのようにして収めるとは……領主の負担も少なそうです」

 言って、アルバート王子は紅茶で喉を潤した。

 「ギャヴィンはどう思いましたか?」

 「実に見事で素晴らしい形態だと存じます。これならば三権の人事が牛耳られでもしない限り不正は起こりにくいでしょう。人材採用を行ったばかりだからこそすんなり導入出来た。羨ましいことでございます」

 ギャヴィンの声は熱意を帯びていた。本気でそう思っているようだ。
 アルバート王子は頷いて、思案気に顎に手をやった。

 「もし、この国の組織を同じように作り替えようとすれば……貴族達の反発があるでしょうね」

 「はい、間違いなく」

 「どうしたものでしょうか……」

 アルバート王子は紅茶を飲みながらこちらに視線をちらちらし始めた。私は気付かぬふりで視線を逸らし、お茶菓子を手に取る。
 というか、いつまで居座る気なのだろうこいつは。そろそろ王都に帰って欲しいんだけど。

 そんなことを念じていると、

 「まっ、麿にもやらせるでおじゃる――!」

 塔を急いで駆けあがって来たのか、ゼイゼイと息を荒げるオス麿の叫びが響き渡る。
 突然の闖入者にアルバート王子は紅茶を噴き出しこそはしなかったが、運悪く気管に入ったのか咳き込む羽目になった。
 オス麿グッジョブ。


***


 人事について、決まった要点だけをかいつまんで言うと

 領政官改め領政総官としてクロヴラン・ピュトロワを任命。副領政官はパトリュック・カルカイムに。
 その下に財務官二人(歳入担当・歳出担当)、文部官、経済産業官、法務官、渉外官(他所の領土や外国との外務に当たる)、厚生官、労働官、農林水産官、国土交通官、防衛官の十一人の官を置く形である。

 騎士の人事だが、騎士ディディエ・シュルドーを防衛官に任じ、修道騎士ロイジウス・ウーファーを警視長官に任命することで落ち着いた。

 両者の違いはこうだ。

 前者の上司は領政総官クロヴランであり、領軍の指揮監督を業務内容とする。
 後者の上司は法務官であり、業務内容は警察組織の指揮監督である。前世では警察は国家公安委員会の下だったが、こちらでは法務官の下に置くことに決めた。
 二人を一緒の組織に置くと権力争いで揉めそうだったからな。敢えて管轄をずらして任命したのだ。

 元々の軍隊を二つに分けることになったが、領軍の一般兵は普段は領境の見張りや土木工事の仕事に回される。騎士達は土木工事の指揮監督や研修として自衛隊ばりの軍事訓練やお勉強会に明け暮れてもらう。
 文句は言わせない。実際の戦争でも土嚢を積んだりなんだりで工作は大切なのだから。
 警察組織は領内の治安の他に、出入国管理などもやってもらう。

 他、軍事的な組織は私達の直属としてヘルヴェティアの傭兵達や隠密騎士達からなる公安部隊、特殊隠密部隊、諜報部隊の三組織を編成。
 構成員は秘密にしているが、存在自体は知らせているのは公安部隊のみ。他二つは存在すら機密。

 公安部隊は領軍や警察組織の監察及び表向きの領主の身辺警護を司る。公安警察兼セキュリティポリスってやつ。
 長は聖騎士の馬の脚共ヨハン・シュテファンを任命。

 特殊隠密部隊はキャンディ伯爵家と同じように、表向きは庭師だったり料理人だったり。業務内容は影の領主の身辺警護や城の防衛等。
 長は大鹿エルクのヘルフリッツ、副長は中脚カールを任命。

 諜報部隊は混成編成である。
 領政の不正の摘発、スパイ、工作活動、機密活動等の業務を司る。
 新設する隠密騎士の里による商船を装ったナヴィガポールの海軍もここに所属予定。
 領内外や外国の情報を広く収集し、分析。商会や領地経営の戦略に役立てる予定。
 結構ウエイトを占める業務である。これは父サイモンも一枚噛んで、大規模なキャンディ伯爵家との共同経営組織となった。
 長はアルトガル、副長にペーターを任命。

 以上、上記三つは命令・指揮権共に領主にある独立組織である。

 「まだまだ人が足りませんな」

 アルトガルは組織を整えながら時期を見て増援を呼んでくれるようだ。
 三組織の足りない人員は暫く相互にカバーし合って兼任していくしかないだろう。
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