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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
GAFAだって夢じゃない!
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しかし彼は馬の脚共に言われたとはいえ、あくまでも私個人に忠誠を誓っている。万が一の場合、グレイではなく私の命令を優先するとなると問題かもしれない。
ふとそんなことを考えていると、準優勝した騎士が挙手をして発言の許可を求めた。
グレイがどうぞと促すと、騎士の礼を取る。
「某はディディエ・シュルドーと申します。伯爵閣下が来られる前よりずっとこの領で騎士団副長として勤めて参りました。
恐れながら申し上げます。ウーファー卿は他国出身の修道騎士。確かに募集要項には出身や門地を問わずとありましたが、聖女様であらせられる夫人個人にお仕えするならばまだしも、この領の防衛をお任せして宜しいのでしょうか!」
そう言って挑発的にロイジウスを見つめる。
ディディエと名乗った騎士に精神感応を使うと、折角鶏口を狙ってこの領に留まったのに、ロイジウスに優勝を奪われたことで出世が遠のくと焦っての言動だった。なかなかの野心家である。
ロイジウスは、目を細めて相手を見つめ返した。
「……私は確かに聖女様に忠誠を誓っている。勿論その夫君であるグレイ枢機卿猊下のことも裏切ることなどせぬ」
「そういうことではないのだ。この領で働くということは伯爵閣下にこそ忠誠を誓うことと同義」
採用された騎士達がざわざわし始める。
内何名かはロイジウスと共に来た修道騎士達もいるからな。他はキャンディ伯爵領出身騎士爵の三男四男坊だったり。元地元騎士団組、修道騎士組、キャンディ伯爵領組……既に主な派閥が出来ていた。
地元組を蔑ろにする訳にはいかない。さりとて、余所者である騎士達も大切にしなければならない。
これは政治的判断も必要だ。人事をよくよく考える必要があるな。
一先ず私はロイジウスに助け舟を出すことにした。
「確かにディディエ卿の仰ることはごもっともですわ。ロイジウス、今後は私の夫であるグレイの言葉は私の言葉と心得なさい」
「ははっ、聖女様の御心のままに!」
ロイジウスは騎士の礼を取って頭を垂れた。グレイが騎士ディディエに声を掛ける。
「ディディエ卿、注意喚起をして下さり感謝します。勿論そのことも考慮して忖度無しに武官の配置を決める予定ですのでご安心を」
そうして場を収め、武官採用試験は終わったのだった。
***
筆記の試験問題を見たい、というアルバート王子にグレイが原本を渡すと、彼はそれをパラパラと捲りながらちらりと私達を見た。
「……あのディディエという騎士、扱いが大変そうならば私が引き抜いても構いませんが?」
「いえ、大丈夫です」
お気遣い無く、とグレイが断る。私も同じ気持ちだ。野心的なだけで待遇さえちゃんとすれば真面目に精力的に働いてくれるようだし、実力もある。それに地元に詳しい者で経験者は確保しておきたい。
残念です、と肩を竦めるアルバート王子。
既に幾人か良さそうな、心から王子に仕えたがってるそこそこ使えそうな騎士を見繕って融通したんだし、勘弁して欲しい。
試験内容を見終わると、アルバート王子はそれをギャヴィンに手渡しながら紅茶を啜った。
「思ったより完成された内容で驚きました。良い参考になりましたよ。内面を推し測る試験等、寡聞にして知りませんでした。国としても是非取り入れたいですね」
「どうぞ、私は構いません。ただ、国の人材登用試験であれば、試験内容の漏洩等に気を付けた方が宜しいわね。貴族達の反発もあるでしょう。後、教育格差がどうしても。貴族であれば、不正な手段で手に入れたり。また十分な教育を受けられる環境にある者ばかりが上に行くでしょう」
メイソンの学歴の例を考えれば当たり前のように替え玉受験というのもやるだろう。
懸念事項を幾つか挙げると、ギャヴィンが「確かにそれはありますね」と頷いた。
「貴族のコネが効かない、人材採用試験専門に機密性を保持できる組織を作ると宜しいかと思いますわ」
そう言うと、アルバート王子とギャヴィンはじっと私を見つめた。
……こっちに丸投げする気だな。
まあいいか、ゴリラ皇子のことで迷惑かけたし。
「……マリー、貴女に頼めますか?」
「私よりも父が行うほうが宜しいかと存じますわ」
父に丸投げする。
私とグレイはまだ若いからどうしても舐められる。それに、ルフナー子爵家や商会が狙われても困るのだ。
その点、裏王家であり、隠密騎士達を抱えて不穏分子を排除するというキャンディ伯爵家の方が向いているだろう。
私の言葉に父サイモンは即答せず、俯き加減に考え込んでしまった。
あんまり気が進まない様子。まあ面倒くさい仕事には違いない。
しかしである。人材採用試験を司るということは父サイモンの宮廷での権力は増す。
受験予備校や試験対策本もやるだけ繁盛し、作るだけ需要があるだろう。講師は食うに困っている貧乏学者や大学生を雇えば。出版はジュルナル新聞社に任せればいいし。
精神感応でそう伝えてみると、父は顔を上げ、じろりとこちらを睨む。
「もし……陛下のご下命と議会の決定があり、国家予算を組んで頂ければ承りましょう」と優雅に礼をした。
***
その後、使用人達の採用試験も滞りなく終了。
全体的にスパイや良からぬ意図を持った人間達をボロボロと炙り出すことが出来た。隠密騎士達は大忙しである。
その他、申し分ないのに惜しくも採用に至らなかった人材達はキーマン商会で雇うことになった。
「これで人手不足がある程度解消されて良かったよ。これから忙しくなって大変だ」
そう言いつつも、グレイはホクホク顔をしている。
倫理観があり、読み書きが出来る。しかも私の精神感応で信頼のおけることが確定している人材は得難いそうだ。
今回の採用に漏れたからと言ってこのまま放流するのは惜しい。声を掛けられた側もダージリン伯爵が経営しているキーマン商会ならばと頷く者が多かったらしい。
「皆さんは選考には惜しくも漏れましたが、本来ならばここに居らっしゃる方々全員を雇いたいところでした。ただ、当家はご存じの通り、キーマン商会と密接な関係にあります。商会で働きを見せ、出世する頃には領地でも更に人手を欲していることでしょう。その時は商会から優先的に引き抜くことをお約束しますわ」
そしてそれは実際に間違っていない。事実、ヤンやシャルマンは商会からの抜擢だし。
私の激励の言葉に、採用試験にギリギリ落ちた人々はめいめいの顔に喜色を浮かべる。口々に「ありがとうございます!」「頑張ります!」「必ず出世します!」等と言っている。
私は「はい、皆様の今後のご活躍を期待し、再びお会いすることをお待ちしておりますわ」と慈悲深き聖女の笑みを浮かべた。
熱心な教会信者も少なからず居た。微笑み一つで動いてくれるのなら安いものである。
おうおう、高度経済成長期の企業戦士のように馬車馬の如く頑張って働いてくれ。
これから温泉リゾート計画に鉄鉱業、綿花や羊毛の紡績業、砂糖や養蜂事業、蒸気機関車、炭鉱業、飲食関連(カフェ、カレーやオコノミ等)事業、その他諸々の事業を展開していくのだ。そうそう、商会の流通網を利用しての郵便事業も展開したい。
キャンディ伯爵家と合同でやっても人手が不足する予測なのである。
独占禁止法のない世界は実に素晴らしい。
――GAFAだって夢じゃない! 巨大なキーマン財閥を築いちゃるきに!
その先にある有閑貴族夫人の優雅なおニート暮らし、最高か。
私は三菱財閥創業者の岩崎弥太郎もかくやとばかりに野望を燃やしたのであった。
ふとそんなことを考えていると、準優勝した騎士が挙手をして発言の許可を求めた。
グレイがどうぞと促すと、騎士の礼を取る。
「某はディディエ・シュルドーと申します。伯爵閣下が来られる前よりずっとこの領で騎士団副長として勤めて参りました。
恐れながら申し上げます。ウーファー卿は他国出身の修道騎士。確かに募集要項には出身や門地を問わずとありましたが、聖女様であらせられる夫人個人にお仕えするならばまだしも、この領の防衛をお任せして宜しいのでしょうか!」
そう言って挑発的にロイジウスを見つめる。
ディディエと名乗った騎士に精神感応を使うと、折角鶏口を狙ってこの領に留まったのに、ロイジウスに優勝を奪われたことで出世が遠のくと焦っての言動だった。なかなかの野心家である。
ロイジウスは、目を細めて相手を見つめ返した。
「……私は確かに聖女様に忠誠を誓っている。勿論その夫君であるグレイ枢機卿猊下のことも裏切ることなどせぬ」
「そういうことではないのだ。この領で働くということは伯爵閣下にこそ忠誠を誓うことと同義」
採用された騎士達がざわざわし始める。
内何名かはロイジウスと共に来た修道騎士達もいるからな。他はキャンディ伯爵領出身騎士爵の三男四男坊だったり。元地元騎士団組、修道騎士組、キャンディ伯爵領組……既に主な派閥が出来ていた。
地元組を蔑ろにする訳にはいかない。さりとて、余所者である騎士達も大切にしなければならない。
これは政治的判断も必要だ。人事をよくよく考える必要があるな。
一先ず私はロイジウスに助け舟を出すことにした。
「確かにディディエ卿の仰ることはごもっともですわ。ロイジウス、今後は私の夫であるグレイの言葉は私の言葉と心得なさい」
「ははっ、聖女様の御心のままに!」
ロイジウスは騎士の礼を取って頭を垂れた。グレイが騎士ディディエに声を掛ける。
「ディディエ卿、注意喚起をして下さり感謝します。勿論そのことも考慮して忖度無しに武官の配置を決める予定ですのでご安心を」
そうして場を収め、武官採用試験は終わったのだった。
***
筆記の試験問題を見たい、というアルバート王子にグレイが原本を渡すと、彼はそれをパラパラと捲りながらちらりと私達を見た。
「……あのディディエという騎士、扱いが大変そうならば私が引き抜いても構いませんが?」
「いえ、大丈夫です」
お気遣い無く、とグレイが断る。私も同じ気持ちだ。野心的なだけで待遇さえちゃんとすれば真面目に精力的に働いてくれるようだし、実力もある。それに地元に詳しい者で経験者は確保しておきたい。
残念です、と肩を竦めるアルバート王子。
既に幾人か良さそうな、心から王子に仕えたがってるそこそこ使えそうな騎士を見繕って融通したんだし、勘弁して欲しい。
試験内容を見終わると、アルバート王子はそれをギャヴィンに手渡しながら紅茶を啜った。
「思ったより完成された内容で驚きました。良い参考になりましたよ。内面を推し測る試験等、寡聞にして知りませんでした。国としても是非取り入れたいですね」
「どうぞ、私は構いません。ただ、国の人材登用試験であれば、試験内容の漏洩等に気を付けた方が宜しいわね。貴族達の反発もあるでしょう。後、教育格差がどうしても。貴族であれば、不正な手段で手に入れたり。また十分な教育を受けられる環境にある者ばかりが上に行くでしょう」
メイソンの学歴の例を考えれば当たり前のように替え玉受験というのもやるだろう。
懸念事項を幾つか挙げると、ギャヴィンが「確かにそれはありますね」と頷いた。
「貴族のコネが効かない、人材採用試験専門に機密性を保持できる組織を作ると宜しいかと思いますわ」
そう言うと、アルバート王子とギャヴィンはじっと私を見つめた。
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まあいいか、ゴリラ皇子のことで迷惑かけたし。
「……マリー、貴女に頼めますか?」
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私とグレイはまだ若いからどうしても舐められる。それに、ルフナー子爵家や商会が狙われても困るのだ。
その点、裏王家であり、隠密騎士達を抱えて不穏分子を排除するというキャンディ伯爵家の方が向いているだろう。
私の言葉に父サイモンは即答せず、俯き加減に考え込んでしまった。
あんまり気が進まない様子。まあ面倒くさい仕事には違いない。
しかしである。人材採用試験を司るということは父サイモンの宮廷での権力は増す。
受験予備校や試験対策本もやるだけ繁盛し、作るだけ需要があるだろう。講師は食うに困っている貧乏学者や大学生を雇えば。出版はジュルナル新聞社に任せればいいし。
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その後、使用人達の採用試験も滞りなく終了。
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私の激励の言葉に、採用試験にギリギリ落ちた人々はめいめいの顔に喜色を浮かべる。口々に「ありがとうございます!」「頑張ります!」「必ず出世します!」等と言っている。
私は「はい、皆様の今後のご活躍を期待し、再びお会いすることをお待ちしておりますわ」と慈悲深き聖女の笑みを浮かべた。
熱心な教会信者も少なからず居た。微笑み一つで動いてくれるのなら安いものである。
おうおう、高度経済成長期の企業戦士のように馬車馬の如く頑張って働いてくれ。
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キャンディ伯爵家と合同でやっても人手が不足する予測なのである。
独占禁止法のない世界は実に素晴らしい。
――GAFAだって夢じゃない! 巨大なキーマン財閥を築いちゃるきに!
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