418 / 690
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
某おかめ印のアレ。
しおりを挟む
文官採用面接が終わり、横領犯共及び紛れ込んでいたスパイやなんかをドナドナし、尋問の上で牢にぶち込み片付けた後。
「やれやれ、やっと帰られましたよ。正直なところ、もう二度とお会いしたくありませんね」
アルバート第一王子がそんなことを言いながらひょっこりと戻って来た。
いつものポーカーフェイスも隠す気もなくげっそりとした顔である。何でも、あのゴリラ野郎は船に乗るまでも時間稼ぎなのかウホウホごねまくったらしい。
「往生際の悪さにほとほとくたびれました。お陰で私も『オコノミ』を食べられたのは良かったですけどね……」
『黒鶏亭』という所で食べたのですが、とても美味しかったです。流石に八本足入りは受け付けませんでしたが。
そう言って肩を竦めるアルバート王子。
「それにしても、色々面白い話を聞けて良かったと思います。マリーが作ったというあのソースは素晴らしいものでしたしね。王宮でも食べられたら、と思った程ですよ」
恐らくピエールに聞いたのだろうが……どんな話を聞いたのだろう。
その時、グレイの目がキラリと光ったような気がした。
「アルバート殿下。そんなにお気に召して頂けたのならば、当家より人を王宮に派遣してオコノミ作りを宮廷料理人に教えることも可能です。いかがでしょう、庭園で気軽にオコノミを楽しむ昼食会などをなされては?」
突然のグレイの申し出に、アルバート王子は若干戸惑っているようだった。
「門外不出の秘伝のソースと伺いましたが、良いのですか?」
頼み込んだのですがどうしても売っては貰えなかったのですよ、という。まあ確かに相手が相手だし、今はお墨付きを与えた上でソースも一から作らせているしなぁ。売る程の量は無い。
「ソースも定期的に仕入れる契約を結んで下さるのであれば融通可能です。殿下がお望みであればお売り致しましょう。丁度、アーダム皇子の妹皇女殿下がご滞在だと伺っております。カレドニアの女王陛下もいらっしゃることですし、殿下が召し上がって来た美食として話の種にはなるかと」
お許しを頂けるならば急がせますし、費用等も最初はこちらで全て手配致します。殿下は許可を下さるだけで良いのです。
微笑んで手揉みせんばかりのグレイ。
あ、商人や。商人の顔をしてはる。
まあ彼が考えていることは精神感応使うまでもなく何となく理解出来るので、私は微笑みながら頷いていた。
第一王子殿下が喜ばれた美食として、社交界にオコノミが広まるのだ。これ以上の宣伝はない。
アルバート王子はそうして下さるのであれば、と礼を言って休むべく客室へ戻って行った。
残された私達。
父サイモンがじろりとグレイを見た。
「……そう言えば、アルジャヴリヨンにも店を出して欲しいと民から要望があったのだが?」
「ええ、義父様。勿論そちらも忘れてはおりません。王都への出店も同時に行いましょう」
グレイはホクホク顔をしていた。
話がトントン拍子に進んで行く。私はふと思い出して口を開いた。
「であれば、いっそ株式会社にして、ソースを作る工場を作った方が良さそうね。
オコノミを売るのは人に任せて、私達は契約書を用意してソースを売る。どうかしら?」
オコノミが普及すればする程ソースが売れるというやり方である。
前世のそういう商売を思い出しながら言うと、グレイはそういう商売もあったんだね、と感心していた。
スレイマンとヤンを呼んで、デーツやソヤの輸入量を増やす手配を頼む。私は手に入りやすい材料で作れるソースレシピ等を幾つかピックアップして書き出すことにした。
***
引き続き、武官採用試験が行われたのだが。
文官採用試験の話をギャヴィンから聞いたのか、何とアルバート王子も興味を示して見学を申し出てきた。
クロヴラン・ピュトロワとパトリュック・カルカイムには早速領政に携わって貰っている。新たに採用された文官達に、ギャヴィンはもう少し引継ぎをしてくれるということだったのでアルバート王子の滞在延期が決定。
筆記試験の後、数日間かけた勝ち抜き戦のトーナメント形式の実技試験が行われた。
アルバート第一王子殿下もご臨席、という触れ込みに、彼らはダージリン伯爵家以外にも王族に取り立てて貰える可能性にいっそう張り切っていた。
結果。
「聖女様、そしてヨハン卿、シュテファン卿。このロイジウス・ウーファー、戻って参りました!」
勝ち抜いて優勝に輝いたのは、修道騎士ロイジウス・ウーファーだった。
「教皇猊下には聖女様にお仕えするのならば好きにしても良い、と温かいお言葉を賜っております」
戻って来た時、試験の噂を聞いて急ぎ準備をして採用試験の申し込みを済ませたらしい。
筆記試験の結果も優秀だった。
成程、ロイジウスならば表向きの軍人として適任だろう。
「やれやれ、やっと帰られましたよ。正直なところ、もう二度とお会いしたくありませんね」
アルバート第一王子がそんなことを言いながらひょっこりと戻って来た。
いつものポーカーフェイスも隠す気もなくげっそりとした顔である。何でも、あのゴリラ野郎は船に乗るまでも時間稼ぎなのかウホウホごねまくったらしい。
「往生際の悪さにほとほとくたびれました。お陰で私も『オコノミ』を食べられたのは良かったですけどね……」
『黒鶏亭』という所で食べたのですが、とても美味しかったです。流石に八本足入りは受け付けませんでしたが。
そう言って肩を竦めるアルバート王子。
「それにしても、色々面白い話を聞けて良かったと思います。マリーが作ったというあのソースは素晴らしいものでしたしね。王宮でも食べられたら、と思った程ですよ」
恐らくピエールに聞いたのだろうが……どんな話を聞いたのだろう。
その時、グレイの目がキラリと光ったような気がした。
「アルバート殿下。そんなにお気に召して頂けたのならば、当家より人を王宮に派遣してオコノミ作りを宮廷料理人に教えることも可能です。いかがでしょう、庭園で気軽にオコノミを楽しむ昼食会などをなされては?」
突然のグレイの申し出に、アルバート王子は若干戸惑っているようだった。
「門外不出の秘伝のソースと伺いましたが、良いのですか?」
頼み込んだのですがどうしても売っては貰えなかったのですよ、という。まあ確かに相手が相手だし、今はお墨付きを与えた上でソースも一から作らせているしなぁ。売る程の量は無い。
「ソースも定期的に仕入れる契約を結んで下さるのであれば融通可能です。殿下がお望みであればお売り致しましょう。丁度、アーダム皇子の妹皇女殿下がご滞在だと伺っております。カレドニアの女王陛下もいらっしゃることですし、殿下が召し上がって来た美食として話の種にはなるかと」
お許しを頂けるならば急がせますし、費用等も最初はこちらで全て手配致します。殿下は許可を下さるだけで良いのです。
微笑んで手揉みせんばかりのグレイ。
あ、商人や。商人の顔をしてはる。
まあ彼が考えていることは精神感応使うまでもなく何となく理解出来るので、私は微笑みながら頷いていた。
第一王子殿下が喜ばれた美食として、社交界にオコノミが広まるのだ。これ以上の宣伝はない。
アルバート王子はそうして下さるのであれば、と礼を言って休むべく客室へ戻って行った。
残された私達。
父サイモンがじろりとグレイを見た。
「……そう言えば、アルジャヴリヨンにも店を出して欲しいと民から要望があったのだが?」
「ええ、義父様。勿論そちらも忘れてはおりません。王都への出店も同時に行いましょう」
グレイはホクホク顔をしていた。
話がトントン拍子に進んで行く。私はふと思い出して口を開いた。
「であれば、いっそ株式会社にして、ソースを作る工場を作った方が良さそうね。
オコノミを売るのは人に任せて、私達は契約書を用意してソースを売る。どうかしら?」
オコノミが普及すればする程ソースが売れるというやり方である。
前世のそういう商売を思い出しながら言うと、グレイはそういう商売もあったんだね、と感心していた。
スレイマンとヤンを呼んで、デーツやソヤの輸入量を増やす手配を頼む。私は手に入りやすい材料で作れるソースレシピ等を幾つかピックアップして書き出すことにした。
***
引き続き、武官採用試験が行われたのだが。
文官採用試験の話をギャヴィンから聞いたのか、何とアルバート王子も興味を示して見学を申し出てきた。
クロヴラン・ピュトロワとパトリュック・カルカイムには早速領政に携わって貰っている。新たに採用された文官達に、ギャヴィンはもう少し引継ぎをしてくれるということだったのでアルバート王子の滞在延期が決定。
筆記試験の後、数日間かけた勝ち抜き戦のトーナメント形式の実技試験が行われた。
アルバート第一王子殿下もご臨席、という触れ込みに、彼らはダージリン伯爵家以外にも王族に取り立てて貰える可能性にいっそう張り切っていた。
結果。
「聖女様、そしてヨハン卿、シュテファン卿。このロイジウス・ウーファー、戻って参りました!」
勝ち抜いて優勝に輝いたのは、修道騎士ロイジウス・ウーファーだった。
「教皇猊下には聖女様にお仕えするのならば好きにしても良い、と温かいお言葉を賜っております」
戻って来た時、試験の噂を聞いて急ぎ準備をして採用試験の申し込みを済ませたらしい。
筆記試験の結果も優秀だった。
成程、ロイジウスならば表向きの軍人として適任だろう。
109
お気に入りに追加
5,727
あなたにおすすめの小説

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

〖完結〗愛人が離婚しろと乗り込んで来たのですが、私達はもう離婚していますよ?
藍川みいな
恋愛
「ライナス様と離婚して、とっととこの邸から出て行ってよっ!」
愛人が乗り込んで来たのは、これで何人目でしょう?
私はもう離婚していますし、この邸はお父様のものですから、決してライナス様のものにはなりません。
離婚の理由は、ライナス様が私を一度も抱くことがなかったからなのですが、不能だと思っていたライナス様は愛人を何人も作っていました。
そして親友だと思っていたマリーまで、ライナス様の愛人でした。
愛人を何人も作っていたくせに、やり直したいとか……頭がおかしいのですか?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら
冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。
アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。
国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。
ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。
エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。