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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
グレイ・ダージリン(67)
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面接の場に入って来た領政官エミリュノ・ルグミラマ――横領犯の中核人物は、クロヴランを一目見るなり、驚愕に目を見開き口をパクパクとさせた。震える指先を彼に突き付け、何故お前がここに居るのかと怒鳴る。
「言動を慎まれた方が宜しいのでは? グレイ伯爵閣下とご夫人の前で無礼ですよ」
今は最終面接なのですから、と片眼鏡を上げながら冷ややかな視線で応じるクロヴラン。
領政官エミリュノは、はっと我に返ったように僕達の方を見た。
「この男が何故ここに居るのですか! 彼はこの領で横領を行った男なのですよ!」
おかしいですね、と僕はわざとらしく不思議そうに首を傾げる。
「私が彼に話を聞いた限りでは、貴方に証拠をでっち上げられ一方的に罪に問われ鞭打たれたと言っていますが」
「それは……」
言いよどむエミリュノ。マリーが扇を開き、「そうそう、つい最近ね」と話し出す。
森の中の小屋に監禁されていたもう一人の領政官補佐パトリュック・カルカイムの家族を助け出したことを伝え、彼らから領政官エミリュノに捕らえられていたのだという証言が取れた。
隠密騎士達が密かにパトリュックと接触すると、涙を流しながら感謝されたという。彼はクロヴランと仲が良かった彼に余計なことをすれば家族の命はないと脅されており、ギャヴィン子爵が来るまでは膨大な仕事を押し付けられていたそうだ。
エミリュノは状況のまずさを悟ったのだろう、領政官補佐パトリュックはクロヴランと仲が良く、横領の共犯の可能性があったために人質を取ったのだと言い募る。
マリーが冷ややかに苦しい言い訳だと断じた。
やはり、と僕は思う。
領政官エミリュノは、第二のクロヴランとして次はパトリュックに冤罪を被せるつもりだったのだ。僕達が横領に気付いた時の為に。
だけど残念ながら、そんな姑息な小細工は僕達には通用しない。
「領政官エミリュノ・ルグミラマ。残念ですが貴方は不合格です」
領主ダージリン伯爵として僕は相手に申し渡す。
エミリュノは屈辱を感じたのか顔を醜く歪めた。何故自分が不合格なのかと往生際が悪かったので、僕は合図を送り、その黒い革表紙の本をカールから受け取る。
それを目にした領政官エミリュノの顔が一瞬で青褪めた。
「な、何故見つかって……絶対に見つからぬ場所に隠していた筈!」
わざとらしくパラパラとページを捲って見せると、領政官エミリュノは、語るに落ちた。
それは紛れもなく、厳重に城の隠し通路に隠されていた裏帳簿。ついでに怪しげなやりとりの手紙――正直、金は何とかなる。重要なのは、後者の方だった。
マリーが裏帳簿の隠し場所を詳細に告げ、ヨハンとシュテファンが止めとばかりに詰め寄る。
領政官エミリュノは、観念したのかがっくりとその場に崩れ落ちた。
***
「クロヴラン、無事だったのか! 良かった……本当に良かった……」
領政官エミリュノの取り巻き達も全員面接の中で次々と捕縛して行き、無事に面接を終えた後。
試験に参加せず仕事をしていた領政官補佐パトリュックが呼び出された。
明るい茶髪に青い瞳の彼は優し気な顔立ちをした青年だ。黒髪の細面で神経質そうなクロヴランとは印象が真逆なのが面白い。真逆だからこそ上手くかみ合っているのだろう。
室内に入って来るなり、パトリュックはクロヴランの姿を認め、喜びの声を上げて抱きしめた。
「痛っ……」
「あっ、すまない!」
顔を顰めるクロヴランに気付いたパトリュックはぱっと離れた。
「普通に動ける程で、まだ完全には癒えていなくてな。それよりも……ありがとう、パトリュック。出来る限りエミリュノを邪魔してくれていたんだろう? こっそりと手を回して食事を届けてくれたりもした。家族を人質に取られていたのにもかかわらず」
成程、元領政官エミリュノが危惧した程、二人は親しい間柄のようだ。
クロヴランの礼に、パトリュックは肩を落として床を見る。
「いや、大したことは出来なかった……」
「そんなことは無い。本当に感謝している。それよりも、パトリュック。君はまだ新領主様にご挨拶をしていないだろう?」
「あっ、これは……大変失礼を致しました」
指摘をされたパトリュックは僕達が見ているのに気付くと、顔を赤らめて非礼を詫びた。
マリーが「あんなことがあったんですもの、宜しいのよ」と微笑んでいる。侍女達も「麗しい友情に水を差すような無粋な真似は致しません」「そうですわ、お気になさらず」等と目を細めていた。
でも何故だろう。彼女達が碌でもないことを考えているような気がして――背筋が薄ら寒い。
僕は仕切り直す為にコホンと咳ばらいをした。
「言動を慎まれた方が宜しいのでは? グレイ伯爵閣下とご夫人の前で無礼ですよ」
今は最終面接なのですから、と片眼鏡を上げながら冷ややかな視線で応じるクロヴラン。
領政官エミリュノは、はっと我に返ったように僕達の方を見た。
「この男が何故ここに居るのですか! 彼はこの領で横領を行った男なのですよ!」
おかしいですね、と僕はわざとらしく不思議そうに首を傾げる。
「私が彼に話を聞いた限りでは、貴方に証拠をでっち上げられ一方的に罪に問われ鞭打たれたと言っていますが」
「それは……」
言いよどむエミリュノ。マリーが扇を開き、「そうそう、つい最近ね」と話し出す。
森の中の小屋に監禁されていたもう一人の領政官補佐パトリュック・カルカイムの家族を助け出したことを伝え、彼らから領政官エミリュノに捕らえられていたのだという証言が取れた。
隠密騎士達が密かにパトリュックと接触すると、涙を流しながら感謝されたという。彼はクロヴランと仲が良かった彼に余計なことをすれば家族の命はないと脅されており、ギャヴィン子爵が来るまでは膨大な仕事を押し付けられていたそうだ。
エミリュノは状況のまずさを悟ったのだろう、領政官補佐パトリュックはクロヴランと仲が良く、横領の共犯の可能性があったために人質を取ったのだと言い募る。
マリーが冷ややかに苦しい言い訳だと断じた。
やはり、と僕は思う。
領政官エミリュノは、第二のクロヴランとして次はパトリュックに冤罪を被せるつもりだったのだ。僕達が横領に気付いた時の為に。
だけど残念ながら、そんな姑息な小細工は僕達には通用しない。
「領政官エミリュノ・ルグミラマ。残念ですが貴方は不合格です」
領主ダージリン伯爵として僕は相手に申し渡す。
エミリュノは屈辱を感じたのか顔を醜く歪めた。何故自分が不合格なのかと往生際が悪かったので、僕は合図を送り、その黒い革表紙の本をカールから受け取る。
それを目にした領政官エミリュノの顔が一瞬で青褪めた。
「な、何故見つかって……絶対に見つからぬ場所に隠していた筈!」
わざとらしくパラパラとページを捲って見せると、領政官エミリュノは、語るに落ちた。
それは紛れもなく、厳重に城の隠し通路に隠されていた裏帳簿。ついでに怪しげなやりとりの手紙――正直、金は何とかなる。重要なのは、後者の方だった。
マリーが裏帳簿の隠し場所を詳細に告げ、ヨハンとシュテファンが止めとばかりに詰め寄る。
領政官エミリュノは、観念したのかがっくりとその場に崩れ落ちた。
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「クロヴラン、無事だったのか! 良かった……本当に良かった……」
領政官エミリュノの取り巻き達も全員面接の中で次々と捕縛して行き、無事に面接を終えた後。
試験に参加せず仕事をしていた領政官補佐パトリュックが呼び出された。
明るい茶髪に青い瞳の彼は優し気な顔立ちをした青年だ。黒髪の細面で神経質そうなクロヴランとは印象が真逆なのが面白い。真逆だからこそ上手くかみ合っているのだろう。
室内に入って来るなり、パトリュックはクロヴランの姿を認め、喜びの声を上げて抱きしめた。
「痛っ……」
「あっ、すまない!」
顔を顰めるクロヴランに気付いたパトリュックはぱっと離れた。
「普通に動ける程で、まだ完全には癒えていなくてな。それよりも……ありがとう、パトリュック。出来る限りエミリュノを邪魔してくれていたんだろう? こっそりと手を回して食事を届けてくれたりもした。家族を人質に取られていたのにもかかわらず」
成程、元領政官エミリュノが危惧した程、二人は親しい間柄のようだ。
クロヴランの礼に、パトリュックは肩を落として床を見る。
「いや、大したことは出来なかった……」
「そんなことは無い。本当に感謝している。それよりも、パトリュック。君はまだ新領主様にご挨拶をしていないだろう?」
「あっ、これは……大変失礼を致しました」
指摘をされたパトリュックは僕達が見ているのに気付くと、顔を赤らめて非礼を詫びた。
マリーが「あんなことがあったんですもの、宜しいのよ」と微笑んでいる。侍女達も「麗しい友情に水を差すような無粋な真似は致しません」「そうですわ、お気になさらず」等と目を細めていた。
でも何故だろう。彼女達が碌でもないことを考えているような気がして――背筋が薄ら寒い。
僕は仕切り直す為にコホンと咳ばらいをした。
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