貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

┌(┌^o^)┐疑惑。

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 「ご歓談中、失礼します。あの、ヒラール商会のスレイマン様がお見えなのですが……」

 扉の外にいる商会の人は私達を慮ってか、トラス王国語で声を掛けてくる。グレイが驚いたように腰を浮かせた。

 「スレイマン? 彼が此処に来ているのか!?」

 「お通ししても?」

 トリスタンがちらりとこちらを見てお伺いを立ててくる。私は勿論、と頷いた。
 通されて来たのは二人の男性だった。二人共年の頃は十八、九だろうか、浅黒い肌に掘りの深い中東系の――アヤスラニ帝国風の顔立ちをしている。しかしその身に身に纏っているのはガリア王国の服装でフードを被っていた。
 先頭に入って来た一人が、フードを下ろしながらグレイに目を留めると瞠目して驚きの表情になる。

 「グレイ!」と名を呼び、立ち上がったグレイに多分アヤスラニ帝国語なのだろう、異国語で何やら興奮したように話し始める。グレイも嬉しそうに同じ言葉で答えていた。
 そして、次の瞬間――二人は抱擁するなり、頬をすり合わせ、なんと、チュッチュッと音を立てて頬にキスを落としあったのである!

 「――!!?」

 ボフォッとカレル兄が紅茶を噴き出した。サリューン枢機卿とエヴァン修道士も咳き込んでいる。
 私は思わず口元を押さえた。ショックの余り言葉も出ない。

 ――大変だ、私のグレイが異国人のホモに掘られてしまう! いや、彼も嬉しそうだから実はホモだったの!?

 サリーナが慌てて、「マリー様、気を確かに!」と声を掛けて来るも、時すでに遅し。

 「いっ、いやあああああ――っ! 私のグレイがアヤスラニ帝国のホモに掘られるぅぅぅ――! お尻の穴が危ないぃぃ――!!」

 混乱に陥った私の叫び声が部屋中にビリビリと響き渡った。



 ――三十分後しばらくお待ちください



 「驚かせてスミマセン。これはアヤスラニのアイサツなのデス。仲の良い男同士でもキスをしマス。決して男色ではアリマセン」

 私は、グレイにキスをかましてくれたスレイマンから片言のトラス王国語で謝罪を受けていた。
 申し訳なさそうな表情のスレイマン。もう一人も神妙な顔付きでソファーに大人しく座っていた。
 カレル兄が半笑いで「マジか…」と呟いている。

 「……いえ、こちらこそ失態をお見せしてしまいましたわ。失礼をお詫び申し上げます」

 正気を取り戻した私は淑女の礼を取って謝罪する。
 グレイはどっと疲れが来たのか、魂が抜けたような顔をしてソファーに脱力していた。

 先程までは本当にカオスだった。

 私の叫び声とその内容に、コリピサ支部の職員の方々が「どうしました!?」と集まり、凄い形相になったグレイが私に「僕はホモじゃない、これは違うんだ!」と圧のある剣幕で詰め寄って来る。
 カレル兄から「何が違うんだ、男同士で破廉恥な事をしてたじゃないか」とツッコミが入り、サリューン枢機卿とエヴァン修道士もコクコクと頷く。すると職員達が「えっ、グレイ様は男色だったのですか!?」と騒めきだした。特に女性職員の目がギラギラと輝いている。
 グレイは慌ててそちらにも「違う! 知ってるだろ、アヤスラニ帝国人の作法だよ!」と釈明をし始め、アヤスラニ帝国人二人は元凶となった一人はオロオロ、もう一人は目を点にしてぽかんとなりゆきを見ているばかり。

 我に返ったトリスタンとイズーが「皆様落ち着いて下さい!」と事態を収拾し、職員を解散させ――二人のアヤスラニ帝国人のお客に席とお茶を用意させて今に至る。

 「申し遅れましたが、私はマリアージュ・キャンディと申します。グレイの婚約者ですわ」

 名乗って会釈をすると、スレイマンは「ああ、それで悲鳴を上げたのデスね」と納得したようだった。

 「私はアザール・スレイマン・エフェンディと申しマス。グレイの親友デス」

 胸に手を当ててスレイマンは名乗った。アザールが名前ではないのかと思ってグレイを見ると、「彼らは『誰々の子・何某・職業や身分』という順番で名乗るんだよ」と教えてくれる。ほうほう。

 「『エフェンディ』というのは学者を意味していて、スレイマン自身は学者なんだ。だからさっき彼が名乗ったのをトラス王国語に直せば、『アゼルの息子、学者スレイマン』となる。スレイマンの親のアゼルさんがヒラール商会の長で、うちの取引先。あのデーツもその伝手で手に入れたんだよ」

 「まあ!」

 そうだったのか! あのデーツが無ければ満足の行くお好みソースは再現できなかっただろう。

 「で、スレイマン。何故国を出てここへ? 僕が居たのは偶然だし君も驚いていたからトリスタン達を訪ねて来たんだろうけど。その人が関係あったりするの?」

 グレイがそう問いかけると、スレイマンは頷く。気まずそうに周囲を見渡した。その様子を見て取ったカレル兄が腕を組む。

 「ふむ……訳有りっぽいな。もしかして、ファリエロが言ってた事と関係があるのか?」

 「そう言えば、不審なアヤスラニ帝国人が巷をウロウロしていたんだけど何か君達に関係があるの?」

 グレイが再度問いかけると、彼は顔を曇らせてこくりと頷いた。

 「彼はイドゥリース。スルタン・イブラヒームリ・イドゥリース・アミール」

 スレイマンがもう一人を見ながら声を潜めて名を告げると、グレイはさっと顔色を変えた。トリスタンとイズーも息を飲んでいる。

 ――『スルタン』?

 確かにそう聞こえた。世界史とかでイスラムの国王・皇帝の称号だった筈。
 この世界で概念が同じかどうかは分からないけれど、黙ったままの方の人を良く見て見れば、佇まいに気品があるように思える。

 それまで黙っていたもう一人の帝国人が首を振った。

 「アミール・ディー。ブ・エフェンディ」

 続けて何事かをアヤスラニ帝国語で言う。
 グレイが頭に両手をやり、ぐしゃぐしゃと髪の毛を乱した。

 「あああ、それで僕にどうしろって!?」

 「グレイ、助けて欲しい。彼を、イドゥリースをトラス王国へ逃がしたいのデス」

 一瞬の後。

 「「「「え、ええええええっ!?」」」」

 皆の驚愕の声が響き渡った。

 逃がしたい、それはつまり――亡命させてって事!?
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