貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

誕生日プレゼントのおねだり。

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 「ねぇ、ダディ~。後数日でマリーの誕生日なんだけど~。買って欲しい物があるんだよね~」

 アルバート第一王子殿下との邂逅から一夜明けて。朝食が終わった席で私は早速切り出した。

 「その奇妙な猫撫で声はやめろ。何だ、欲しい物とは。ドレスか? 宝石か? それとも異国の変わった食べ物か?」

 ダディサイモンは新聞を広げて目を通しながら紅茶を口に含む。確かに自分でもちょっと気持ち悪いと思ったので私は普通に話す事にした。

 「えっとね、新聞事業を買収して欲しいの!」

 ぶふぉっと父が紅茶を噴出した。読んでいた新聞が被害を受ける。
 控えていた侍女が差し出した布巾を受け取ったママンティヴィーナは、紅茶が気管に入ったのか咳込んでいる父の口を拭いてやっていた。

 「マリーちゃん、もっとこう……同じ年頃の女の子が喜ぶようなものとかじゃあいけないのかしら?」

 時々貴女の事が心配になるの、と苦言を呈するママン。しかし二度目の人生の私はそういうのには残念ながらあまり興味がないのである。普段から必要な分は満たされているし。

 「だって、ママン。そういうのはもう十分間に合ってるんだもの」

 「ティヴィーナ、マリーの事は今更だ。……新聞事業買収だと言ったな。理由があるのだろう?」

 「そう。前々から考えていたんだけどね」

 私は改めて経緯を話す。父も既に報告を受けてはいるだろうが……先日第一王子殿下に随行してきたウエッジウッド子爵ギャヴィンが奥向きの場所へ迷い込んで来て邂逅した事。
 婚約式の時の一件の謝罪を受け、私が面白い考えの持ち主だから話をしてみたいと言われたけれど、けんもほろろに断った事。
 奴から話を聞いた殿下も是非私に会ってみたいと仰ったらしいという事。
 最初は理由を付けて逃げ回っていたが、アン姉のたっての願いと面目の為に昨日喫茶室でお会いした事。
 その場で何か民の為になる事はないかと意見を求められたので、教育制度を提案した事。

 父サイモンがアン姉を少しとがめるように見た。

 「アン。マリーは今修道院に通う特殊な身だというのは分かっているな」

 「ウエッジウッド子爵なら兎も角、殿下のお望みとあらば仕方がないわ、お父様。私がお姉様の立場であってもお断り出来ないもの」

 アナベラ姉がアン姉を擁護する。アン姉は少し顔を曇らせた。

 「申し訳ありません、お父様。社交界にも出ておらず、人見知りで殿下にお目通り出来るような妹ではないのだと私も言葉を尽くしたのですが、一度会って話が出来れば十分だからと仰られまして……子爵にも、そこまでして殿下にマリーを会わせないのは何か含むところでもあるのかと言われたのですわ。
 確かに下手に隠し通そうとすれば、却って要らぬ疑念を招きかねないと思いましたの。そこで、一度きりなら、という条件で殿下へお目通りする事になりまして……」

 どことなく歯切れの悪いアン姉。そうだったのか。確かに過剰に隠そうとすれば、何かあると調べられてしまうだろう。要らぬ気苦労を掛けてしまった。

 「アン姉、色々とごめんね。ありがとう」

 礼を言うと、アン姉は良いのよ、と微笑む。「確かにな。そう言う事ならば、仕方があるまい」と父サイモン。
 私は続きを話す事にした。

 「それで、さっきの続きなんだけど。庶民の識字率が上がれば――」

 昨日は語らなかった、真の目的。情報操作の強みについて語る。立法、司法、行政の三権力に次ぐ、第四の権力になり得る事も。

 父は、またお前は……と頭を抱える。
 それまで黙っていたトーマス兄が、「マリーが持つにしては過ぎた力なのでは?」と言い、カレル兄も頷いていた。

 「ええ、そんなの酷い! ちょーっとこれからの時代の成長分野に先行投資しようってだけなのに!」

 「しかしマリーの話を聞けば、新聞事業の将来性はある意味うちと相性が良くないか?」

 「確かに。マリーの事はさておき、是非とも欲しいところだな」

 私の異議をさっくりと無視した兄二人。父が大きく息を吐いた。

 「はぁ……話を聞いてしまえば買収自体はせざるを得ん。ただし、お前への誕生日は事業そのものじゃなく、一部の株式とする。それで我慢しなさい」

 「えー」

 「事業に関わると面倒が多いぞ。お前に経営出来るのか?」

 痛い所を突っ込まれて、私はぐっと言葉を飲み込んだ。
 確かに面倒が多くなれば、のんびりニートは出来なくなるかも……どうせ経営も人にやってもらおうと思ってたし。それなら株式で旨味を貰う方が良いかな。

 「むー、分かったわよ……その代わり、株式は半分だからね!」

 「良いだろう」

 こうして、私の誕生日プレゼントは当初の希望とは少しずれたものの、新聞事業の株式となったのである。
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