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七十六話 佐久間家滅亡の危機
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信長から激しく叱責されたにも関わらず、信盛は平然としていた。
織田信長に対する厚い信頼をもっているようであった。
そんな時、信長が右筆として重用している楠木正虎が信長を激しく叱責したとの噂が流布してきた。
それを聞いて信盛はひどく立腹していたようであった。
「新参のくせに生意気な」
信盛は信長の元に向かい、楠木一族を追放するよう訴えた。
先の石山合戦でも楠木の一族は織田信長に徹底抗戦した。
信盛の訴えを聞いて信長は首をかしげた。
「そなたはそのように言うが、正虎は大筋において我の言うことは聞く。
細々とした雑事において我に口答えすることは許す。したが、
大筋において、我が掲げたる武辺の道に背くことは許さぬ。
その事は前々からそなたら佐久間の者たちにも言い聞かせていることだ。
能はさほどでなくてもよい。誠実であること、ウソをつかぬことを重んぜよ。
人が見ていぬところでも手を抜くな。正直であること、信義を守ることこそ武士の道である。
その大筋を守った上で、道を作り、堤を作り、民に職を与え、国を豊かにすることこそ
武士の本道である。その大筋を守るならば、多少我に無礼があってもゆるすものだ」
「それはあくまでも世間的な建前でございましょう。
他国から来た者でも重用したるは、優れたる者だからでしょう。
林秀貞など譜代を退ける中、この佐久間信盛だけを重用されるのは、この信盛が有能であるからこそ。
きれいごとは外に向かって言うは良い事ですが、この内輪の中で言うことではございませぬ」
信盛の言葉を信長は無表情に聞いていた。
「そなたを有能と思ったことはない」
ぼそりと信長が言った。
その言葉を聞いて信盛は口をあんぐりと開けた。
横に居た左居亮は背筋に寒いものを感じた。
信長が再三言っていたことは事実であったのだ。
「ば、ばかな、どういうことでござる。有能たればこそ、この信盛を重んじたのでござろう。
でなければ、これほど多くの所領などお与えにならなんだはず」
「そなたは、我が世間より嘲笑されていた頃より、我に忠節を尽くしてくれた、その誠意、誠実を
重んじて、無能と思えども使ってきた。その誠実さがなければ、そなたを重んじる理由はない」
「な、な、何を仰せか、それではまるで、今の信盛が誠実ではないように聞こえまする」
「誠実ではない。ウソをついた」
「この信盛、上様にウソをついたることなどございませぬ」
「先に、三箇頼照とその配下のキリシタンが清廉潔白な働きをしたと言うたな」
「はい、まことにその通りでございまする」
「三箇頼照の家臣のキリシタンが四天王寺を襲い、国の至宝たる仏舎利を奪って焼いた。
その入れ物を堺の商人に売り払ったものを手に入れた。
四天王寺の僧を集めて聞き取りをしたところ、まことに仏舎利を収めた器であった。
先に唐天竺から堺に来訪した商人どもにも仏舎利焼却のこと、聞こえておった。
ルイス・フロイスが天竺に送った書簡にその事が書いてあり、その事が天竺にまで伝わり、
織田の兵が仏陀の骨を捨てて焼いたかと、遠く唐天竺までこの信長の悪名がとどろいておる。
このような恥辱があろうか」
「な、そ、そのようなこと、この信盛預かり知らぬことでございまする」
「ならば、なぜ調べぬ。念を押してしらべぬ。何のために配下に山岡ら甲賀衆をはべらせておるか」
「そ、それは宣教師に聞きましたゆえ」
「聞いて終わりなら稚児でもできる。先にそなたは我が播磨一国を与えると言うたが、
国より茶器がほしいと言うて、我が珍宝、古作の播知釜をねだった。
なんたる怠惰なことか」
信長の言葉を聞いて左京亮は目を丸くした。
「なんと、播磨一国より茶釜をねだったのか兄上、聞いておらぬぞ、正気か」
「黙れ、今はそれどころではない」
信盛は苦り切った表情をした。
「そこな弟も、安土城と南近江の旧六角領を与えると言ったが、拒んだ。兄弟そろってなんたる怠惰か」
「なっ、南近江といえば商売の中核地ではないか、あんな金が入る場所を拒むとは正気か」
「いや、南近江とは思いませなんだ、まさかこんなこととは」
左居亮は苦り切った表情をした。
「そちらは揃いも揃って武辺の道に背いておる。楠木の一族のほうがよほど尊いというものだ。
失せろ」
信長はまるで犬を追い払うようにうざったそうに手をユラユラと振った。
「ははっ、恐れ入りまする」
信盛は平伏して、その場を足早にたちさった。
「何ということか、南近江をいらぬなどと言うから信長様が怒ったのだぞ」
左京亮を叱責する信盛。
「いや、大領播磨をいらぬと兄上が仰せになったから信長公は不審に思ったのでしょう」
左京亮はそう言い返した。
八月二日、信盛は松井友閑とともに一向宗が石山本願寺を退去するさいの目付役を仰せつかった。
信長からは、一向宗が退去するとき、城を破却したり火をつけてすべてを灰にしたりせぬよう
くれぐれも用心するよう。銭はいくらかかってもよいから、甲賀衆を使って、用心を怠らぬよう
信盛に言い聞かせた。
信盛は「そのような事をしたら、また戦になる、一向宗徒もそれほどバカではあるまい」
と言って甲賀衆は使わなかった。
ただし、退居のさい、一向宗が乱暴狼藉をはたらかぬよう、軍勢をつかって監視させた。
退去は無事終わり、石山本願寺は無事信長のものとなった。
が、その直後、石山本願寺から謎の不審火が起こり、三日三晩燃え続け、石山本願寺はすべて
灰になってしまった。
これに対して信長は激怒して信盛を叱責し、誰がやったか問いただしたが、
信盛は、ただの不審火としか言えなかった。
とにかく、これですべて終わった。
これで無事なにもかもうまくいくと信盛は喜んでいた。
だが、同月二五日、信長は突如、佐久間一族からの所領没収、高野山への追放を言い渡したのであった。
三人の使者が信盛の元を訪れたが、その代表は、楠木一族の楠木長庵であった。
「嘘だ、ウソに決まっておる」
信盛は大声で怒鳴ったが、使者はあくまでも冷静であった。
いくら抗弁をしようとも、使者は信長へのとりつきを拒否した。
いくら怒っても怒鳴っても、どうにもならぬことを悟った信盛は息子とともに高野山に上った。
弟である左京亮もそれに同行した。
しかし、家臣や家族は養ってはゆけぬ。
妻の多紀は熱田の加藤家に預け、主だった家臣も加藤家の世話になることになった。
信盛は完全に絶望していたが、
いざ高野山に上ってみると、信長は信盛のために十分に金子を用意しており、
生活に何不自由はなかった。
このため、信盛は喜ぶとともに、安心して茶の湯にふけった。
そしていたずらに時がすぎた。
「ああ、信長様はやはり我を大事に思ってくだされていた」
信盛は所領を召し上げられたにもかかわらず、安穏としていた。
そんなおり、かつて家臣として佐久間家に仕えていた甲賀衆、山岡景友と平井安斎が
信盛の元を訪れた。
信盛にしてみてば、気まぐれに助けた相手であった。
信盛はこの訪問を大いに喜び、弟の左京亮を山岡家に士官させてはもらえぬかと頼んだ。
山岡景友はこれを承諾し、左京亮は山岡景友に同行することになった。
が、この直後、織田信長は、佐久間信盛がかつての前田利家のように槍をもって戦に
駆けつけないことに激怒し、高野山からの追放を言い渡した。
「あれほど、恥をそそぎたくば槍一本持って参陣せよと書いたのに」
と信長は怒っていたようだが、そもそも信盛は折檻状をろくに読んでもいなかった。
「そのうち、信長様の誤解もとけ、元に戻れるであろう」と気楽な事を言っていた。
しかし、此度の高野山追放はよほど心に堪えたのか、信盛は衰弱して病の床に臥せってしまった。
それを聞いた信長は驚いたのか、金二十枚と医師を用意して、早急に家臣に連れていかせた。
この信長の好意に信盛は痛く感動して、医師から処方された薬を大量に飲んだあと、酒をかっくらって
温泉に入った。
そのまま、昏睡状態となり溺れて死んだ。
信盛の死を知った信長の落胆は激しく、
後悔したのか、息子の佐久間信栄を許し、旧領も復帰させた。
これで、左京亮も無事、旧領に復帰することができた。
旧領に復帰した左京亮は絹の反物を京より取り寄せ、近江の山岡景友の元に向かった。
かつて召し抱えてもらった恩に報いるためだ。
出迎えた山岡景友は大いに喜び、お礼の品以上のもてなしをしてくれた。
そして、その夜、左居亮はぐっずりと眠った。
が、夜中になって山岡景友が左京亮が眠る座敷に走り込んできた。
「一大事でござる」
「何事でござる、まさかまた信長公がお怒りになって信栄様を追放されたか」
「謀反でござる」
「なんと、いずれか、また柴田が謀反か、いや、それはない、なれば織田信勝の息子、
津田信澄か」
「どうやら津田のようでござる。嫁の父である明智光秀を味方に引き入れての謀反のようでござる」
「して、津田の軍勢は」
「どうやら織田信孝様が討ち取られたようでござる」
「それはなにより、では明智光秀は信長公が討ち取られたか」
「それが……」
「どうなされた」
「信長公、信忠公ともにお討ち死にとのことでござる」
「まさか、なんたることか、して、光秀は」
「我が領地、瀬田に進軍してござる」
「ええええええええ」
「い、いかがいたす」
「来させてなるものか、瀬田の唐橋を焼いて動きを止める」
「ま、まて、あの橋はお主の領地の商業の要、あれを失えば、大損失ではないか」
「大恩ある信長公の仇でござる、銭にこだわってはおれぬわ」
景友はそう言い切った。
「おお、よう言われた、この左京亮、合力いたす」
「ありがたい、共の瀬田の唐橋を焼きましょうぞ」
「おう」
左京亮はわずかな手勢を率い、瀬田の唐橋にかけつけ、薪をつみあげ、油をかけて燃やした。
橋は煌々と赤い炎を立ち昇らせ焼け落ちた。
それでも明智は船を使って山岡景友の領地に攻め込んでくると思われたが、
毛利攻めをしていた羽柴秀吉が思いのほか早く明智の背後に攻め寄せたので、
明智の軍は引き返していった。
その後、明智は山崎の合戦で敗退し、最後は落ち武者狩りの農夫どもに襲われて殺害された。
戦が収まったあと、左京亮は安土に向かった。
もしかしてもらえたかもしれない安土城の事がたまらなく気になったのだ。
城は完全に焼け落ちていた。
もし、この城に左京亮が居たならば、左京亮は確実に明智の軍に攻め殺されていたであろう。
人生、何が幸いするかわからぬ。
明智が成敗されると、織田のお世継ぎは、信忠公の嫡子、三法師に決まった。
その後見役として織田信雄様が勢力を広げられ、我ら佐久間の一族も信雄様にお仕えすることとなった。
なんとか、織田の家名が保たれることとなったのは幸いであった。
織田信長に対する厚い信頼をもっているようであった。
そんな時、信長が右筆として重用している楠木正虎が信長を激しく叱責したとの噂が流布してきた。
それを聞いて信盛はひどく立腹していたようであった。
「新参のくせに生意気な」
信盛は信長の元に向かい、楠木一族を追放するよう訴えた。
先の石山合戦でも楠木の一族は織田信長に徹底抗戦した。
信盛の訴えを聞いて信長は首をかしげた。
「そなたはそのように言うが、正虎は大筋において我の言うことは聞く。
細々とした雑事において我に口答えすることは許す。したが、
大筋において、我が掲げたる武辺の道に背くことは許さぬ。
その事は前々からそなたら佐久間の者たちにも言い聞かせていることだ。
能はさほどでなくてもよい。誠実であること、ウソをつかぬことを重んぜよ。
人が見ていぬところでも手を抜くな。正直であること、信義を守ることこそ武士の道である。
その大筋を守った上で、道を作り、堤を作り、民に職を与え、国を豊かにすることこそ
武士の本道である。その大筋を守るならば、多少我に無礼があってもゆるすものだ」
「それはあくまでも世間的な建前でございましょう。
他国から来た者でも重用したるは、優れたる者だからでしょう。
林秀貞など譜代を退ける中、この佐久間信盛だけを重用されるのは、この信盛が有能であるからこそ。
きれいごとは外に向かって言うは良い事ですが、この内輪の中で言うことではございませぬ」
信盛の言葉を信長は無表情に聞いていた。
「そなたを有能と思ったことはない」
ぼそりと信長が言った。
その言葉を聞いて信盛は口をあんぐりと開けた。
横に居た左居亮は背筋に寒いものを感じた。
信長が再三言っていたことは事実であったのだ。
「ば、ばかな、どういうことでござる。有能たればこそ、この信盛を重んじたのでござろう。
でなければ、これほど多くの所領などお与えにならなんだはず」
「そなたは、我が世間より嘲笑されていた頃より、我に忠節を尽くしてくれた、その誠意、誠実を
重んじて、無能と思えども使ってきた。その誠実さがなければ、そなたを重んじる理由はない」
「な、な、何を仰せか、それではまるで、今の信盛が誠実ではないように聞こえまする」
「誠実ではない。ウソをついた」
「この信盛、上様にウソをついたることなどございませぬ」
「先に、三箇頼照とその配下のキリシタンが清廉潔白な働きをしたと言うたな」
「はい、まことにその通りでございまする」
「三箇頼照の家臣のキリシタンが四天王寺を襲い、国の至宝たる仏舎利を奪って焼いた。
その入れ物を堺の商人に売り払ったものを手に入れた。
四天王寺の僧を集めて聞き取りをしたところ、まことに仏舎利を収めた器であった。
先に唐天竺から堺に来訪した商人どもにも仏舎利焼却のこと、聞こえておった。
ルイス・フロイスが天竺に送った書簡にその事が書いてあり、その事が天竺にまで伝わり、
織田の兵が仏陀の骨を捨てて焼いたかと、遠く唐天竺までこの信長の悪名がとどろいておる。
このような恥辱があろうか」
「な、そ、そのようなこと、この信盛預かり知らぬことでございまする」
「ならば、なぜ調べぬ。念を押してしらべぬ。何のために配下に山岡ら甲賀衆をはべらせておるか」
「そ、それは宣教師に聞きましたゆえ」
「聞いて終わりなら稚児でもできる。先にそなたは我が播磨一国を与えると言うたが、
国より茶器がほしいと言うて、我が珍宝、古作の播知釜をねだった。
なんたる怠惰なことか」
信長の言葉を聞いて左京亮は目を丸くした。
「なんと、播磨一国より茶釜をねだったのか兄上、聞いておらぬぞ、正気か」
「黙れ、今はそれどころではない」
信盛は苦り切った表情をした。
「そこな弟も、安土城と南近江の旧六角領を与えると言ったが、拒んだ。兄弟そろってなんたる怠惰か」
「なっ、南近江といえば商売の中核地ではないか、あんな金が入る場所を拒むとは正気か」
「いや、南近江とは思いませなんだ、まさかこんなこととは」
左居亮は苦り切った表情をした。
「そちらは揃いも揃って武辺の道に背いておる。楠木の一族のほうがよほど尊いというものだ。
失せろ」
信長はまるで犬を追い払うようにうざったそうに手をユラユラと振った。
「ははっ、恐れ入りまする」
信盛は平伏して、その場を足早にたちさった。
「何ということか、南近江をいらぬなどと言うから信長様が怒ったのだぞ」
左京亮を叱責する信盛。
「いや、大領播磨をいらぬと兄上が仰せになったから信長公は不審に思ったのでしょう」
左京亮はそう言い返した。
八月二日、信盛は松井友閑とともに一向宗が石山本願寺を退去するさいの目付役を仰せつかった。
信長からは、一向宗が退去するとき、城を破却したり火をつけてすべてを灰にしたりせぬよう
くれぐれも用心するよう。銭はいくらかかってもよいから、甲賀衆を使って、用心を怠らぬよう
信盛に言い聞かせた。
信盛は「そのような事をしたら、また戦になる、一向宗徒もそれほどバカではあるまい」
と言って甲賀衆は使わなかった。
ただし、退居のさい、一向宗が乱暴狼藉をはたらかぬよう、軍勢をつかって監視させた。
退去は無事終わり、石山本願寺は無事信長のものとなった。
が、その直後、石山本願寺から謎の不審火が起こり、三日三晩燃え続け、石山本願寺はすべて
灰になってしまった。
これに対して信長は激怒して信盛を叱責し、誰がやったか問いただしたが、
信盛は、ただの不審火としか言えなかった。
とにかく、これですべて終わった。
これで無事なにもかもうまくいくと信盛は喜んでいた。
だが、同月二五日、信長は突如、佐久間一族からの所領没収、高野山への追放を言い渡したのであった。
三人の使者が信盛の元を訪れたが、その代表は、楠木一族の楠木長庵であった。
「嘘だ、ウソに決まっておる」
信盛は大声で怒鳴ったが、使者はあくまでも冷静であった。
いくら抗弁をしようとも、使者は信長へのとりつきを拒否した。
いくら怒っても怒鳴っても、どうにもならぬことを悟った信盛は息子とともに高野山に上った。
弟である左京亮もそれに同行した。
しかし、家臣や家族は養ってはゆけぬ。
妻の多紀は熱田の加藤家に預け、主だった家臣も加藤家の世話になることになった。
信盛は完全に絶望していたが、
いざ高野山に上ってみると、信長は信盛のために十分に金子を用意しており、
生活に何不自由はなかった。
このため、信盛は喜ぶとともに、安心して茶の湯にふけった。
そしていたずらに時がすぎた。
「ああ、信長様はやはり我を大事に思ってくだされていた」
信盛は所領を召し上げられたにもかかわらず、安穏としていた。
そんなおり、かつて家臣として佐久間家に仕えていた甲賀衆、山岡景友と平井安斎が
信盛の元を訪れた。
信盛にしてみてば、気まぐれに助けた相手であった。
信盛はこの訪問を大いに喜び、弟の左京亮を山岡家に士官させてはもらえぬかと頼んだ。
山岡景友はこれを承諾し、左京亮は山岡景友に同行することになった。
が、この直後、織田信長は、佐久間信盛がかつての前田利家のように槍をもって戦に
駆けつけないことに激怒し、高野山からの追放を言い渡した。
「あれほど、恥をそそぎたくば槍一本持って参陣せよと書いたのに」
と信長は怒っていたようだが、そもそも信盛は折檻状をろくに読んでもいなかった。
「そのうち、信長様の誤解もとけ、元に戻れるであろう」と気楽な事を言っていた。
しかし、此度の高野山追放はよほど心に堪えたのか、信盛は衰弱して病の床に臥せってしまった。
それを聞いた信長は驚いたのか、金二十枚と医師を用意して、早急に家臣に連れていかせた。
この信長の好意に信盛は痛く感動して、医師から処方された薬を大量に飲んだあと、酒をかっくらって
温泉に入った。
そのまま、昏睡状態となり溺れて死んだ。
信盛の死を知った信長の落胆は激しく、
後悔したのか、息子の佐久間信栄を許し、旧領も復帰させた。
これで、左京亮も無事、旧領に復帰することができた。
旧領に復帰した左京亮は絹の反物を京より取り寄せ、近江の山岡景友の元に向かった。
かつて召し抱えてもらった恩に報いるためだ。
出迎えた山岡景友は大いに喜び、お礼の品以上のもてなしをしてくれた。
そして、その夜、左居亮はぐっずりと眠った。
が、夜中になって山岡景友が左京亮が眠る座敷に走り込んできた。
「一大事でござる」
「何事でござる、まさかまた信長公がお怒りになって信栄様を追放されたか」
「謀反でござる」
「なんと、いずれか、また柴田が謀反か、いや、それはない、なれば織田信勝の息子、
津田信澄か」
「どうやら津田のようでござる。嫁の父である明智光秀を味方に引き入れての謀反のようでござる」
「して、津田の軍勢は」
「どうやら織田信孝様が討ち取られたようでござる」
「それはなにより、では明智光秀は信長公が討ち取られたか」
「それが……」
「どうなされた」
「信長公、信忠公ともにお討ち死にとのことでござる」
「まさか、なんたることか、して、光秀は」
「我が領地、瀬田に進軍してござる」
「ええええええええ」
「い、いかがいたす」
「来させてなるものか、瀬田の唐橋を焼いて動きを止める」
「ま、まて、あの橋はお主の領地の商業の要、あれを失えば、大損失ではないか」
「大恩ある信長公の仇でござる、銭にこだわってはおれぬわ」
景友はそう言い切った。
「おお、よう言われた、この左京亮、合力いたす」
「ありがたい、共の瀬田の唐橋を焼きましょうぞ」
「おう」
左京亮はわずかな手勢を率い、瀬田の唐橋にかけつけ、薪をつみあげ、油をかけて燃やした。
橋は煌々と赤い炎を立ち昇らせ焼け落ちた。
それでも明智は船を使って山岡景友の領地に攻め込んでくると思われたが、
毛利攻めをしていた羽柴秀吉が思いのほか早く明智の背後に攻め寄せたので、
明智の軍は引き返していった。
その後、明智は山崎の合戦で敗退し、最後は落ち武者狩りの農夫どもに襲われて殺害された。
戦が収まったあと、左京亮は安土に向かった。
もしかしてもらえたかもしれない安土城の事がたまらなく気になったのだ。
城は完全に焼け落ちていた。
もし、この城に左京亮が居たならば、左京亮は確実に明智の軍に攻め殺されていたであろう。
人生、何が幸いするかわからぬ。
明智が成敗されると、織田のお世継ぎは、信忠公の嫡子、三法師に決まった。
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