王妃となったアンゼリカ

わらびもち

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彼女は無実だった

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「そんなの調分かることです。殿下がどうしてミラージュ様を首謀者だと判断したかも。その取り巻きの令嬢方が言ったのですよね? 『ミラージュ様から命じられた』と」

「そんなことまで調べたのか!? ……ああ、そうだ。彼女達は皆ミラージュに命じられて仕方なく……と言っていた。未来の王妃がそんな姑息な真似をするなど許せなかったから、私はミラージュを断罪した。全てミラージュの自業自得だ!」

「いや、ですからそれ自体が“嘘”なのですよ。彼女達は自分の罪をミラージュ様になすりつけただけです。ミラージュ様自身はそんなことを命じてはいないそうですよ」

「出鱈目を言うな! だいたい彼女達がミラージュのせいにしたという証拠がどこにある!? それにミラージュが命じていないという証拠もないはずだ!」

 “言った”、“言わない”の証拠は何処にもない。
 だからミラージュの潔白を証明できるはずもないと王太子はそうアンゼリカに突きつける。
 だが彼女は相変わらずの無表情で淡々と答えた。

「ありますよ、証拠。わたくし直接その取り巻き達から聞きましたもの。確認ですが、その取り巻きの令嬢とは……殿下の側近である宰相のご子息と、騎士団長のご子息の婚約者でいいのですよね?」

「あ、ああ……そうだが。直接聞いたとはどういうことだ?」

「ですから直接その取り巻きの令嬢方を問いただしたのです。もちろん人を使ってではなく、わたくし自身で。その結果、ミラージュ様が無実だということが分かりましたの。ああ、発言の信憑性につきましては確かだと思いますよ。何せを使用しましたから」

「え……? 自白剤?」

 王太子はアンゼリカの発言に絶句した。
 自白剤、とは主に騎士が犯罪者に向けて使用していると聞いたことがある。
 つまりはそういった荒事専門の者が使うような代物ということ。
 それを目の前の自分よりも年若い令嬢が何の躊躇いもなく当たり前のように“使った”と口にしたのだ。驚くなという方が無理がある。

「一般的に使用されているものは副作用が酷く廃人になってしまう可能性が大きいのですけれど、わたくしが使用した自白剤はわたくし自身で調合したものなので副作用の心配はありません。ただ服用してすぐに粗相をしてしまうのですよね……。こればかりはいくら改良しても改善しないので困ったものですわ」

 そんなことは聞いていないし、別に知りたくもない。
 それよりどうして自白剤なんて使用したのか、どうして自分で自白剤を調合することが出来るのか。王太子はそちらの方が気になって仕方ない。

「それでどちらの令嬢にもその自白剤を使用したところ、お二人共を話してくださいましたわ。ご自分の婚約者がそちらのビット男爵令嬢に夢中になっていることが許せなかったようで、嫌がらせを始めたそうです」

「な……なんだと? それでは、ミラージュは無実だったというのか?」

「だから先ほどからそう申しているではありませんか? ミラージュ様は彼女達の罪を全てなすりつけられただけの被害者です」

「そんな……! 彼女達はミラージュを慕っていたはずだぞ!? だからミラージュの命令に従ったと……そう言っていたのに……」

「それはだったということですよ。慕っている相手に罪を被せるなんて普通は出来ませんもの。むしろ彼女達はミラージュ様のことを『役立たず』だと蔑んでおりましたわ」

「は……役立たず? ミラージュが? どういうことだ……?」

「彼女達はミラージュ様にビット男爵令嬢をしてほしかったそうですよ。未来の王妃となる方ならば邪魔者一人くらいさっさと排除してほしかった、と。まあ何とも他力本願で情けない人達ですわね。何も排除したいのならさっさと始末でもすればいいのに、すぐに発覚するような嫌がらせに時間を費やして馬鹿みたいですわ」

 アンゼリカが“始末”という言葉を口にすると王太子とルルナは顔面蒼白となった。
 これは脅しや冗談などではない。彼女ならば“邪魔”だと思った人間を何の躊躇もなく始末するという確信がある。

 他人の生殺与奪の権を握る者とは彼女のような人のことを言うのだと、王太子はこの時まさしく本能でそれを察した。今までは自分のような王族がそれに相応しい人間だと思っていたが、そうではなくアンゼリカのようなまるで罪悪感を抱かず簡単に切り捨てられる人間こそがそうなのだと。
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