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貴女が元凶

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「じゃ、じゃあ……ミラージュ様は勘違いで責め立てられて、心を壊したというのですか……?」

 絶句する王太子に変わりルルナがそう尋ねる。
 アンゼリカに恐怖したからというのもあるが、自分が関わったことで一人の人間が心を壊したことにひどくショックを受けたせいかその声は震えていた。

「そうなりますわね。当然ミラージュ様は潔白を示したでしょうけど、殿下は信じなかったのでしょう? 長年婚約していた自分の婚約者よりも、ほぼ他人でしかない側近の婚約者を信じるなんてどうかしていますわ。それと、元凶は貴女だと理解していますかビット男爵令嬢?」

 王太子はアンゼリカへの恐怖とミラージュへの悔恨で、顔色がもう真っ青を通り越して土気色になっている。

 アンゼリカはそんな王太子に見向きもせずルルナへと顔を向けた。

「わ、私が元凶……?」

「そうですよ。先ほど貴女はわたくしやミラージュ様が正論で殿下を追い詰めた、と仰っておりましたが、貴女は『ひどい』という言葉でミラージュ様を追い詰めたではありませんか?」

「え……? そうですけど……それがどうして“追い詰めた”ことになるんです!?」

「だって貴女がミラージュ様に『ひどい』と言い続けたせいで、はそれを信じてしまったのではないですか? ミラージュ様は『ひどい』女なのだと、だから責めても構わないのだと。……殿下もそうなのでは? この世で最も愛しく信頼を寄せる女性がミラージュ様を『ひどい』女だと判断したから、そうなのだと信じ込んでしまった。ミラージュ様は正論を言っていただけですのに、ねえ?」

 冷めた顔のアンゼリカにそう言われた途端、王太子もルルナも奈落の底に落ちたように絶望した。

 王太子は確かにミラージュのことを“ひどい女”だと思っていた。
 最愛のルルナを虐める悪女なのだと。
 ミラージュはずっと自分は何もしていないと潔白を訴え続けていたのに、それに耳を貸さず“ひどい女”だから何を言っても構わないと責め続けた。

 そしてその結果、ミラージュは心を壊してしまい婚約は解消された。
 それについて後味を悪く感じることはあっても、罪悪感を覚えたことはない。

 だってミラージュはルルナが言っていたように“ひどい女”だから。
 愛しい女を虐げる悪女がどうなろうが別に構わなかった。
 だが、当事者ではないアンゼリカから“無実の婚約者を責め立てた”という事実を突きつけられ、王太子は初めて罪悪感を覚える。

「ところで、お二人はミラージュ様に謝罪をしたのですか?」

 こんな重苦しい空気に似つかわしくないほどの可憐な声がアンゼリカの桜色の唇から放たれる。それを聞いたルルナと王太子は真っ青な顔を彼女の方へと向けた。

「……謝罪?」

「ええ、そうです。こんなつまらないことが原因でミラージュ様の御心を壊したのですもの。何の役にも立ちませんが謝罪くらいはすべきではなくて?」

「………………」

 謝っても許してはもらえないだろう。それは彼等も理解しているものの、こうやってオブラートにすら包まない暴言にも近い言い方をされてしまうと辛いものがある。

「だ、だが……王族が簡単に頭を下げるなんて……」

「そうですか。まあ、わたくしは部外者ですし強制する権利もありませんが……多分、後で悔やむと思いますよ?」

 悔やむとはどういうことだ、と王太子は問いかけようとしたが、すでにアンゼリカの目線が自分ではなくルルナの方に向いていたので躊躇してしまった。

「ビット男爵令嬢、今後は殿下とこうして二人で会うのはお止めくださいね。貴女には何の権利もないのですから」

「……貴様! ルルナになんてことを……!!」

 先ほどまで顔面蒼白だった王太子は愛しい相手を愚弄されたと激高した。
 だが、アンゼリカはそれに一切怯える素振りを見せず、それどころか心底理解できないとばかりに首を傾げる。

「え? ビット男爵令嬢は殿下の婚約者でもありませんし、将来妃にも愛妾にもなれないですから何の権利もないでしょう? それに婚約者以外の異性と必要以上に交流する必要性ってありますか?」

 正論を突きつけられ、王太子は一瞬言葉を詰まらせた。
 だが最愛のルルナと離れることなど到底許容できないと己を奮い立たせる。
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