19 / 109
嫌がらせの犯人
しおりを挟む
「ビット男爵令嬢……」
「ひっ!? ひゃ、ひゃいっ!」
無表情のアンゼリカに恐怖し、ルルナは体を大袈裟なまでにビクッと震わせた。
「貴女は殿下に婚約者がいると分かっていながら恋仲になったそうですが、それはどうしてですか?」
「へ……? どうしてって……それは、エド様のことを好きになったからです……」
先ほどまで顔面蒼白だったルルナは好きな相手への告白に頬を真っ赤に染めた。
それを見た王太子も目を潤ませ「ルルナ……」と熱っぽく囁く。
そのまま二人の世界に突入しそうな雰囲気が流れたが、アンゼリカがそんな空気を読む義理はない。
案の定その甘い空気は彼女の一言によって壊される。
「なるほど、ビット男爵令嬢は好きになれば相手に婚約者がいても構わないと。まるで発情期の動物ですね! 殿下と同じですわ!」
「はあ!? な……ひ、ひどいっ! 発情期だなんて……何でそこまで言われなければいけないのですか!! そんな傷つける言葉を平気で吐くなんて……貴女は最低です!」
「え? だって、人には理性があって、その理性で他人の伴侶は奪ってはいけないと抑えるものですよ。その理性が働かないのですから、人ではなく動物だと言えるでしょう。動物は理性ではなく本能で動いておりますから。貴女や殿下もそうでしょう? 気に入った異性を手に入れたいという本能しか働いていない、そこに理性はこれっぽっちも働いていない」
「そんなの……貴女が本物の恋を知らないから言えるのです! 本当に好きな人が出来れば……誰だって相手を手に入れるために理性を無くします! 綺麗ごとばかり言わないでください!」
「本物の恋とは人を壊すことへの免罪符になりえるのですか? あなた方はミラージュ様をあそこまで追い詰めて壊しておいて全く罪悪感を覚えていらっしゃらない。そういうところも人というより獣に近いと思うのですが……その点についてビット男爵令嬢はどうお考えで?」
「は……? ちょっと待ってください、ミラージュ様を壊したって……いったい何のことです?」
「あら? もしかして貴女はミラージュ様がどうなったかをご存じない?」
「知りません……。だって、ミラージュ様はエド様から婚約破棄されて領地に戻ったとしか聞いていない……」
「まあまあ、どなたも貴女にミラージュ様の現状を伝えていないのですね? 彼女は今、心を壊して療養中です。なんでも殿下や側近の方々に責められたせいだと聞きましたね」
「え……? 心を壊した? 何それ……どういうことです!?」
「それはわたくしよりも当事者である殿下に聞かれた方がよろしいのでは? ねえ、殿下?」
アンゼリカから話を振られると王太子はバツが悪そうに目を逸らした。
だが、困惑したルルナからも「どういうことです!?」と詰め寄られ、渋々口を開く。
「ちがう……あれは、ルルナを守る為に仕方なく……」
「私を守る為!? 守る為ってどういうこと!?」
「ルルナは多くの令嬢から虐げられていただろう? それを主導したのはミラージュだ。だから私は彼女を断罪した! それを責め立てたと言われればそうかもしれぬ……」
「私の為に……? でも、心を壊すまで責め立てるのはあまりにも……」
「お待ちください、殿下。ビット男爵令嬢への攻撃を主導したのはミラージュ様と仰いましたが、それは違いますよ? 加害者たちはそれぞれ自分の意志でビット男爵令嬢へ危害を加えましたから」
険悪な雰囲気が漂う中、ふと疑問を感じたアンゼリカが彼等の話に割って入った。
淡々とした物言いに二人は勢いよく顔をアンゼリカの方へと向ける。
「お前は何を言っている、首謀者はミラージュだ。あいつは私の寵愛を受けるルルナに嫉妬して非道な行いに手を染めたのだぞ! 自分の手を染めず取り巻きを使うなど卑怯者のすることだ! 王太子としてそんな行いをするものを許してなどおけぬ!」
「いえ、ビット男爵令嬢が階段から突き飛ばされた事件も、ドレスを引き裂かれた事件も、街で誘拐されそうになった事件も、全てその取り巻きが勝手にしたことですよ? ちなみに取り巻きとは殿下の側近方の婚約者ですよね?」
「は……? ちょっと待て! どうしてお前がそれを知っているんだ!? しかもルルナが被害に遭った事件のことまで、どうして……」
ルルナは当時数々の嫌がらせを受けていた。
それこそ先ほどアンゼリカが挙げた大きなものから細かなことまで両手では数えきれないほど沢山の嫌がらせを。
それを当事者でもなく、関係者でもないアンゼリカがどうして知っているのかと王太子は困惑した。
「ひっ!? ひゃ、ひゃいっ!」
無表情のアンゼリカに恐怖し、ルルナは体を大袈裟なまでにビクッと震わせた。
「貴女は殿下に婚約者がいると分かっていながら恋仲になったそうですが、それはどうしてですか?」
「へ……? どうしてって……それは、エド様のことを好きになったからです……」
先ほどまで顔面蒼白だったルルナは好きな相手への告白に頬を真っ赤に染めた。
それを見た王太子も目を潤ませ「ルルナ……」と熱っぽく囁く。
そのまま二人の世界に突入しそうな雰囲気が流れたが、アンゼリカがそんな空気を読む義理はない。
案の定その甘い空気は彼女の一言によって壊される。
「なるほど、ビット男爵令嬢は好きになれば相手に婚約者がいても構わないと。まるで発情期の動物ですね! 殿下と同じですわ!」
「はあ!? な……ひ、ひどいっ! 発情期だなんて……何でそこまで言われなければいけないのですか!! そんな傷つける言葉を平気で吐くなんて……貴女は最低です!」
「え? だって、人には理性があって、その理性で他人の伴侶は奪ってはいけないと抑えるものですよ。その理性が働かないのですから、人ではなく動物だと言えるでしょう。動物は理性ではなく本能で動いておりますから。貴女や殿下もそうでしょう? 気に入った異性を手に入れたいという本能しか働いていない、そこに理性はこれっぽっちも働いていない」
「そんなの……貴女が本物の恋を知らないから言えるのです! 本当に好きな人が出来れば……誰だって相手を手に入れるために理性を無くします! 綺麗ごとばかり言わないでください!」
「本物の恋とは人を壊すことへの免罪符になりえるのですか? あなた方はミラージュ様をあそこまで追い詰めて壊しておいて全く罪悪感を覚えていらっしゃらない。そういうところも人というより獣に近いと思うのですが……その点についてビット男爵令嬢はどうお考えで?」
「は……? ちょっと待ってください、ミラージュ様を壊したって……いったい何のことです?」
「あら? もしかして貴女はミラージュ様がどうなったかをご存じない?」
「知りません……。だって、ミラージュ様はエド様から婚約破棄されて領地に戻ったとしか聞いていない……」
「まあまあ、どなたも貴女にミラージュ様の現状を伝えていないのですね? 彼女は今、心を壊して療養中です。なんでも殿下や側近の方々に責められたせいだと聞きましたね」
「え……? 心を壊した? 何それ……どういうことです!?」
「それはわたくしよりも当事者である殿下に聞かれた方がよろしいのでは? ねえ、殿下?」
アンゼリカから話を振られると王太子はバツが悪そうに目を逸らした。
だが、困惑したルルナからも「どういうことです!?」と詰め寄られ、渋々口を開く。
「ちがう……あれは、ルルナを守る為に仕方なく……」
「私を守る為!? 守る為ってどういうこと!?」
「ルルナは多くの令嬢から虐げられていただろう? それを主導したのはミラージュだ。だから私は彼女を断罪した! それを責め立てたと言われればそうかもしれぬ……」
「私の為に……? でも、心を壊すまで責め立てるのはあまりにも……」
「お待ちください、殿下。ビット男爵令嬢への攻撃を主導したのはミラージュ様と仰いましたが、それは違いますよ? 加害者たちはそれぞれ自分の意志でビット男爵令嬢へ危害を加えましたから」
険悪な雰囲気が漂う中、ふと疑問を感じたアンゼリカが彼等の話に割って入った。
淡々とした物言いに二人は勢いよく顔をアンゼリカの方へと向ける。
「お前は何を言っている、首謀者はミラージュだ。あいつは私の寵愛を受けるルルナに嫉妬して非道な行いに手を染めたのだぞ! 自分の手を染めず取り巻きを使うなど卑怯者のすることだ! 王太子としてそんな行いをするものを許してなどおけぬ!」
「いえ、ビット男爵令嬢が階段から突き飛ばされた事件も、ドレスを引き裂かれた事件も、街で誘拐されそうになった事件も、全てその取り巻きが勝手にしたことですよ? ちなみに取り巻きとは殿下の側近方の婚約者ですよね?」
「は……? ちょっと待て! どうしてお前がそれを知っているんだ!? しかもルルナが被害に遭った事件のことまで、どうして……」
ルルナは当時数々の嫌がらせを受けていた。
それこそ先ほどアンゼリカが挙げた大きなものから細かなことまで両手では数えきれないほど沢山の嫌がらせを。
それを当事者でもなく、関係者でもないアンゼリカがどうして知っているのかと王太子は困惑した。
3,947
お気に入りに追加
7,437
あなたにおすすめの小説
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる