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女官達のお喋り(王太子視点)
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謹慎はそのまま継続しているものの、王宮内を散策することは許可が下りた。
いつまでも部屋に引きこもっているのは辛いから有難い。
しかし数日もするとそれも飽きてしまい、つい興味心で使用人の休憩場所に入ってみた。
そこには女官が数人お喋りに花を咲かせており、それを目にした私は彼女達がどのような会話をしているかが気になってしまった。
なので声が聞こえる傍まで行き、気づかれないようにこっそりと身を壁の隙間に隠す。
そして彼女達の会話にそっと聞き耳を立てた。
「ねえねえ、殿下はいまだにビクトリア様にご執心のようだけど……もしかしてヨリを戻しちゃうかな? だったら嫌なんだけど……」
一人の女官が至極残念そうな声でそう話す。
残念? もしかして私に気があるのか?
やれやれ困ったな、私はビクトリア以外に興味がないというのに……。
「あ~、私も! あの我儘で気分屋のビクトリア様が王太子妃になんてなったらもう最悪! いなくなってやっと楽になったのにねー?」
は? なんだと?
私狙いではなくただ単にビクトリアが嫌だという話か……。
しかしビクトリアはここまで嫌われているのか?
そういえば王宮にいたころも頻繁に癇癪を起していたが……それが原因だろうか?
「そう、そうなのよ! 毎日毎日キャンキャン騒いでうるさいったらなかったわ! まるで癇癪持ちの幼児みたいだったわね? 本当に公爵令嬢なのかと何度思ったことか……!」
「そうそう、それに比べてブリジット様はお優しくて落ち着いていて……まさに淑女の鑑のような御方だったわよね~。婚約者がビクトリア様からブリジット様に代わられたときは嬉しくて涙を流しちゃったくらいよ! あんなに素敵な方なのに、殿下は何が気に食わなかったのかしらね?」
「ほんとよね~、事あるごとにビクトリア様と比べてブリジット様をこきおろしてたわよね? あれは見ていて何度も酷いと思ったわ。そもそもビクトリア様と比べたらブリジット様は女神のように素晴らしい御方じゃない? 外見だってブリジット様の方がお美しいし……殿下の好みが理解できないわ~」
はああ!? ブリジットの方が美しいだと?
確かに綺麗な顔はしていたが、ビクトリアに比べると地味で華がないじゃないか!?
こいつらの目は節穴なのか!?
「あれかしらね……ほら、ビクトリア様って毎日美容に時間をかけていたからさ、肌や髪の質は最高だったじゃない? それに対してブリジット様は詰めた教育のせいで寝食削ってらっしゃったし、そのせいでやつれていらしたから……。その姿を見て地味だとかみすぼらしいだとか思い違いをなさったんじゃない?」
「あー……殿下って表面上しか見ないでしょうしね。ブリジット様が窶れながらも努力なさっていたのは殿下との婚姻に間に合わせるためなのにね? なのに文句ばっかり言われて……本当にお可哀想だったわ……」
「ねー、本当に。帝国では皇太子殿下に大切にされているようよ? お辛い想いをした分幸せになっていただきたいわよねー」
なんだと!? まるでブリジットにとって私との婚約が地獄のような言い草を……!
私だって本当はビクトリアがいいのに我慢してやったんだぞ!?
だったらお互い様じゃないか!
女官の好き勝手な言葉に文句を言おうとしたその時、また別の女官の声が聞こえ、思わず私はその場で足を止めた。
「ねえねえ、聞いた!? ビクトリア様のお家が降爵して公爵から伯爵にまで下がったんだって!!」
は……? 何だって? ケンリッジ公爵家が降爵だと……!?
「えー! 本当に? ならビクトリア様はもう王太子妃にはなれないじゃない!?」
「あれ、知らないの? 殿下は廃嫡になるらしいわよ? だからビクトリア様の身分が公爵令嬢のままだったとしても、彼女は王太子妃にはならないわよ」
は……はあああああ!? どうして一介の女官が私の廃嫡を知っているんだ!?
それにあれは父上が私を脅すための冗談なのではないのか!?
え……まさか、冗談だと思っていたが本当だったのか!!?
「ええっ!? そうなの? あー……でも、それはそうよね。殿下とビクトリア様の所業が帝国の怒りを買ったんだもの。ケンリッジ公爵家を罰するのに殿下に何のお咎めもなし、なんてしたら国中の貴族家から非難されちゃうわよね」
「そうそう、それにもう殿下の年齢に見合う王太子妃の資格のあるご令嬢は国内にも国外にもいないもの」
「そうよね。ブリジット様は帝国に行かれたし、ビクトリア様の身分も下がったしね。あー、それでね、ケンリッジ公爵……いえ、伯爵は少しでも家の資金を用立てたいとかで、ビクトリア様を成金貴族の後妻にするって話よ?」
はあ!? 何だって? ビクトリアが後妻に?
「えー! うっそお! あの高慢なビクトリア様が後妻に? アハハ! いい気味! 散々私達に迷惑かけた罰が当たったのね!」
「ちょっとぉ、笑っちゃ悪いわよ! でも2度も婚約解消したんじゃまともな縁談なんて来ないわよね? 後妻に入れるだけでも有難いんじゃない?」
有難いだと!? 何を馬鹿なことを言っているんだ!
ビクトリアは私のものだ!
それをどこぞの成金爺の嫁にするだなんて……ケンリッジ公爵め! 許せん!
このまま謹慎なんてしていられるか! 今すぐにでもビクトリアを救わねば!
ビクトリアは私の妻になる人だ! これ以上誰にも奪われてなるものか!
いつまでも部屋に引きこもっているのは辛いから有難い。
しかし数日もするとそれも飽きてしまい、つい興味心で使用人の休憩場所に入ってみた。
そこには女官が数人お喋りに花を咲かせており、それを目にした私は彼女達がどのような会話をしているかが気になってしまった。
なので声が聞こえる傍まで行き、気づかれないようにこっそりと身を壁の隙間に隠す。
そして彼女達の会話にそっと聞き耳を立てた。
「ねえねえ、殿下はいまだにビクトリア様にご執心のようだけど……もしかしてヨリを戻しちゃうかな? だったら嫌なんだけど……」
一人の女官が至極残念そうな声でそう話す。
残念? もしかして私に気があるのか?
やれやれ困ったな、私はビクトリア以外に興味がないというのに……。
「あ~、私も! あの我儘で気分屋のビクトリア様が王太子妃になんてなったらもう最悪! いなくなってやっと楽になったのにねー?」
は? なんだと?
私狙いではなくただ単にビクトリアが嫌だという話か……。
しかしビクトリアはここまで嫌われているのか?
そういえば王宮にいたころも頻繁に癇癪を起していたが……それが原因だろうか?
「そう、そうなのよ! 毎日毎日キャンキャン騒いでうるさいったらなかったわ! まるで癇癪持ちの幼児みたいだったわね? 本当に公爵令嬢なのかと何度思ったことか……!」
「そうそう、それに比べてブリジット様はお優しくて落ち着いていて……まさに淑女の鑑のような御方だったわよね~。婚約者がビクトリア様からブリジット様に代わられたときは嬉しくて涙を流しちゃったくらいよ! あんなに素敵な方なのに、殿下は何が気に食わなかったのかしらね?」
「ほんとよね~、事あるごとにビクトリア様と比べてブリジット様をこきおろしてたわよね? あれは見ていて何度も酷いと思ったわ。そもそもビクトリア様と比べたらブリジット様は女神のように素晴らしい御方じゃない? 外見だってブリジット様の方がお美しいし……殿下の好みが理解できないわ~」
はああ!? ブリジットの方が美しいだと?
確かに綺麗な顔はしていたが、ビクトリアに比べると地味で華がないじゃないか!?
こいつらの目は節穴なのか!?
「あれかしらね……ほら、ビクトリア様って毎日美容に時間をかけていたからさ、肌や髪の質は最高だったじゃない? それに対してブリジット様は詰めた教育のせいで寝食削ってらっしゃったし、そのせいでやつれていらしたから……。その姿を見て地味だとかみすぼらしいだとか思い違いをなさったんじゃない?」
「あー……殿下って表面上しか見ないでしょうしね。ブリジット様が窶れながらも努力なさっていたのは殿下との婚姻に間に合わせるためなのにね? なのに文句ばっかり言われて……本当にお可哀想だったわ……」
「ねー、本当に。帝国では皇太子殿下に大切にされているようよ? お辛い想いをした分幸せになっていただきたいわよねー」
なんだと!? まるでブリジットにとって私との婚約が地獄のような言い草を……!
私だって本当はビクトリアがいいのに我慢してやったんだぞ!?
だったらお互い様じゃないか!
女官の好き勝手な言葉に文句を言おうとしたその時、また別の女官の声が聞こえ、思わず私はその場で足を止めた。
「ねえねえ、聞いた!? ビクトリア様のお家が降爵して公爵から伯爵にまで下がったんだって!!」
は……? 何だって? ケンリッジ公爵家が降爵だと……!?
「えー! 本当に? ならビクトリア様はもう王太子妃にはなれないじゃない!?」
「あれ、知らないの? 殿下は廃嫡になるらしいわよ? だからビクトリア様の身分が公爵令嬢のままだったとしても、彼女は王太子妃にはならないわよ」
は……はあああああ!? どうして一介の女官が私の廃嫡を知っているんだ!?
それにあれは父上が私を脅すための冗談なのではないのか!?
え……まさか、冗談だと思っていたが本当だったのか!!?
「ええっ!? そうなの? あー……でも、それはそうよね。殿下とビクトリア様の所業が帝国の怒りを買ったんだもの。ケンリッジ公爵家を罰するのに殿下に何のお咎めもなし、なんてしたら国中の貴族家から非難されちゃうわよね」
「そうそう、それにもう殿下の年齢に見合う王太子妃の資格のあるご令嬢は国内にも国外にもいないもの」
「そうよね。ブリジット様は帝国に行かれたし、ビクトリア様の身分も下がったしね。あー、それでね、ケンリッジ公爵……いえ、伯爵は少しでも家の資金を用立てたいとかで、ビクトリア様を成金貴族の後妻にするって話よ?」
はあ!? 何だって? ビクトリアが後妻に?
「えー! うっそお! あの高慢なビクトリア様が後妻に? アハハ! いい気味! 散々私達に迷惑かけた罰が当たったのね!」
「ちょっとぉ、笑っちゃ悪いわよ! でも2度も婚約解消したんじゃまともな縁談なんて来ないわよね? 後妻に入れるだけでも有難いんじゃない?」
有難いだと!? 何を馬鹿なことを言っているんだ!
ビクトリアは私のものだ!
それをどこぞの成金爺の嫁にするだなんて……ケンリッジ公爵め! 許せん!
このまま謹慎なんてしていられるか! 今すぐにでもビクトリアを救わねば!
ビクトリアは私の妻になる人だ! これ以上誰にも奪われてなるものか!
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