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失望
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「父上! 今すぐにビクトリアと結婚させてください!」
「………………いきなり何を言っているんだ、お前は?」
執務室にいきなり押し入ってきた挙句に世迷言を喚く息子に国王は頭が痛くなった。
長い謹慎に少しは考えを改めたかと思いきや、残念な頭はそのままだったと。
「このままではビクトリアが成金爺の花嫁になってしまうのです! ビクトリアは私の妻だ! 誰にも渡すものか!」
こいつの頭はビクトリア以外ないのか、と国王はため息をついた。
「ケンリッジ家は帝国への賠償金で資産が大幅に減ってしまったからな。その原因となった娘を金持ちの貴族に嫁がせるという話は聞いたが……自業自得だろうよ」
「もとはといえばケンリッジ公爵が悪いのではないですか! ビクトリアはただの被害者だ!!」
「ビクトリアは被害者ではなく加害者だろうが……」
ビクトリア以外眼中になく、彼女のことになると国まで巻き込んで騒ぎを起こすレイモンドに国王はいい加減うんざりしていた。
こんなことならビクトリアを息子の婚約者にするんじゃなかったな、と国王は過去の自分の選択を今更ながら後悔した。
「レイモンド、お前はビクトリア以外を妻に迎える気はないのか? 王太子にならないのだから身分関係なく選ぶことが出来るぞ?」
「私が王太子にならない? 何故ですか!?」
「何故だと……? 余は以前にお前を廃嫡すると言っただろうが! 人の話を聞いていないのかお前は!!」
「えっ!? あれって本当だったのですか? てっきり冗談だとばかり……」
「冗談で廃嫡を宣言する国王がどこにいるというのだ馬鹿者!! それにブリジット嬢と婚約解消した時点でお前が王太子になれないのは分かっていただろう!?」
「ブリジットと……? あっ! 閃きました父上! 私が王太子になれるいい方法があります!」
何か思いついたようで目をキラキラ輝かせる息子に国王は嫌な予感しかしなかった。
こいつのいい方法なんてろくなものではないと。
「ブリジットを私の正妃にしてビクトリアを側妃にすればいいんです! 正妃は侯爵家以上の令嬢でないと無理ですが、側妃ならば身分を問いませんからね!」
いい考えでしょう? とドヤ顔をするレイモンドに国王は全てを諦めた。
これ以上愚息を野放しにすればまた迷惑ごとを引き起こし、最悪国が亡びる事態にまで発展してしまうだろう。
そうなる前に国王として手を打たねば。
「……………………そうか、お前はビクトリアさえいれば満足するんだな? なら望むようにしてやろう」
「本当ですか父上!? ありがとうございます!!」
レイモンドはこの時国王が自分の望み全てを叶えてくれるものだと勘違いをしたまま部屋から出て行った。
嵐のような王子が出て行くのを確認した後、その場にいた国王の側近が口を開く。
「陛下、殿下にあのようなことを言ってよろしかったのですか? あれでは殿下はご自分が王太子になると誤解してしまうのでは?」
側近は長年仕えていたので国王の発言の意図を理解していた。
国王はレイモンドを王太子の座に戻すと言う意味で『望むようにする』と言ったわけではないのだと。
「構わぬ。どうせあれはまともに人の話を聞かないからな。望み通りビクトリアを宛がってやれば満足するだろうよ。臣籍降下させて二人共領地に押し込めることにする」
もともと国王はレイモンドに王家所有の領地を与え、爵位授与のもと臣籍降下させるつもりだった。
ただその領地は豊かとは言い難く、特産品もない鄙びた土地で、煌びやかな生活に慣れた王子が住むにはひどく退屈な場所である。
せめてもう少し栄えた領地に住まわせてあげたいという親心もあり、国王はダメ元でレイモンドの婿入り先を探しはしたが、結果は全滅。あんな愚行を犯した王子を婿にもらってくれる家などあるはずもなかった。
ならせめて生活で苦労しないようにと、資金援助してくれそうな家の令嬢を妻にと考えていたのだが、先ほどのレイモンドの発言でその気遣いすら無駄だったと気づく。
あの瞬間、国王はレイモンドを完全に見限った。
親の苦労も気遣いも台無しにするような息子にこれ以上かけてやる情はないと。
「どこでどう教育を間違えたかの……。すでに皇太子妃となったブリジット嬢を己の正妃にすると世迷言をほざくとは……。自分が彼女に何をしたのか理解しておらぬのだろうな……」
あれだけブリジットを蔑ろにして罵倒していたにも関わらず、また己の妃にしようなどと考えるレイモンドに国王は失望した。しかもそれがビクトリアを助けるためだと言うのだから救いようがない。
「皇太子妃となられたブリジット様に接触されても困りますからね。皇太子殿下のブリジット様へのご寵愛ぶりは我が国にも伝わるほどですから」
「ああ、万が一にでもレイモンドがブリジット嬢に接触を図ろうとしたら今度こそ我が国は終わりだ。さっさとビクトリアと婚姻をさせ、監視付きで領地に押し込める。当人たちがその場所から出たら始末させることにしよう」
本来であれば国王もここまでするつもりはなかった。
だが皇太子妃となったブリジットを愚弄するような発言が出たため、息子を危険視し、生涯監視下に置くことを決意した。
「ビクトリアが後妻に入る前にケンリッジ家に王命を下す。娘をレイモンドの妻とするようにとな」
ビクトリアを後妻に入れ、資金を得ようとしたケンリッジ元公爵の思惑はこれで潰え、あの家は衰退の一途をたどるだろう。散々王家を馬鹿にしたケンリッジ家に一泡吹かせられるな、と国王は薄く笑った。
「………………いきなり何を言っているんだ、お前は?」
執務室にいきなり押し入ってきた挙句に世迷言を喚く息子に国王は頭が痛くなった。
長い謹慎に少しは考えを改めたかと思いきや、残念な頭はそのままだったと。
「このままではビクトリアが成金爺の花嫁になってしまうのです! ビクトリアは私の妻だ! 誰にも渡すものか!」
こいつの頭はビクトリア以外ないのか、と国王はため息をついた。
「ケンリッジ家は帝国への賠償金で資産が大幅に減ってしまったからな。その原因となった娘を金持ちの貴族に嫁がせるという話は聞いたが……自業自得だろうよ」
「もとはといえばケンリッジ公爵が悪いのではないですか! ビクトリアはただの被害者だ!!」
「ビクトリアは被害者ではなく加害者だろうが……」
ビクトリア以外眼中になく、彼女のことになると国まで巻き込んで騒ぎを起こすレイモンドに国王はいい加減うんざりしていた。
こんなことならビクトリアを息子の婚約者にするんじゃなかったな、と国王は過去の自分の選択を今更ながら後悔した。
「レイモンド、お前はビクトリア以外を妻に迎える気はないのか? 王太子にならないのだから身分関係なく選ぶことが出来るぞ?」
「私が王太子にならない? 何故ですか!?」
「何故だと……? 余は以前にお前を廃嫡すると言っただろうが! 人の話を聞いていないのかお前は!!」
「えっ!? あれって本当だったのですか? てっきり冗談だとばかり……」
「冗談で廃嫡を宣言する国王がどこにいるというのだ馬鹿者!! それにブリジット嬢と婚約解消した時点でお前が王太子になれないのは分かっていただろう!?」
「ブリジットと……? あっ! 閃きました父上! 私が王太子になれるいい方法があります!」
何か思いついたようで目をキラキラ輝かせる息子に国王は嫌な予感しかしなかった。
こいつのいい方法なんてろくなものではないと。
「ブリジットを私の正妃にしてビクトリアを側妃にすればいいんです! 正妃は侯爵家以上の令嬢でないと無理ですが、側妃ならば身分を問いませんからね!」
いい考えでしょう? とドヤ顔をするレイモンドに国王は全てを諦めた。
これ以上愚息を野放しにすればまた迷惑ごとを引き起こし、最悪国が亡びる事態にまで発展してしまうだろう。
そうなる前に国王として手を打たねば。
「……………………そうか、お前はビクトリアさえいれば満足するんだな? なら望むようにしてやろう」
「本当ですか父上!? ありがとうございます!!」
レイモンドはこの時国王が自分の望み全てを叶えてくれるものだと勘違いをしたまま部屋から出て行った。
嵐のような王子が出て行くのを確認した後、その場にいた国王の側近が口を開く。
「陛下、殿下にあのようなことを言ってよろしかったのですか? あれでは殿下はご自分が王太子になると誤解してしまうのでは?」
側近は長年仕えていたので国王の発言の意図を理解していた。
国王はレイモンドを王太子の座に戻すと言う意味で『望むようにする』と言ったわけではないのだと。
「構わぬ。どうせあれはまともに人の話を聞かないからな。望み通りビクトリアを宛がってやれば満足するだろうよ。臣籍降下させて二人共領地に押し込めることにする」
もともと国王はレイモンドに王家所有の領地を与え、爵位授与のもと臣籍降下させるつもりだった。
ただその領地は豊かとは言い難く、特産品もない鄙びた土地で、煌びやかな生活に慣れた王子が住むにはひどく退屈な場所である。
せめてもう少し栄えた領地に住まわせてあげたいという親心もあり、国王はダメ元でレイモンドの婿入り先を探しはしたが、結果は全滅。あんな愚行を犯した王子を婿にもらってくれる家などあるはずもなかった。
ならせめて生活で苦労しないようにと、資金援助してくれそうな家の令嬢を妻にと考えていたのだが、先ほどのレイモンドの発言でその気遣いすら無駄だったと気づく。
あの瞬間、国王はレイモンドを完全に見限った。
親の苦労も気遣いも台無しにするような息子にこれ以上かけてやる情はないと。
「どこでどう教育を間違えたかの……。すでに皇太子妃となったブリジット嬢を己の正妃にすると世迷言をほざくとは……。自分が彼女に何をしたのか理解しておらぬのだろうな……」
あれだけブリジットを蔑ろにして罵倒していたにも関わらず、また己の妃にしようなどと考えるレイモンドに国王は失望した。しかもそれがビクトリアを助けるためだと言うのだから救いようがない。
「皇太子妃となられたブリジット様に接触されても困りますからね。皇太子殿下のブリジット様へのご寵愛ぶりは我が国にも伝わるほどですから」
「ああ、万が一にでもレイモンドがブリジット嬢に接触を図ろうとしたら今度こそ我が国は終わりだ。さっさとビクトリアと婚姻をさせ、監視付きで領地に押し込める。当人たちがその場所から出たら始末させることにしよう」
本来であれば国王もここまでするつもりはなかった。
だが皇太子妃となったブリジットを愚弄するような発言が出たため、息子を危険視し、生涯監視下に置くことを決意した。
「ビクトリアが後妻に入る前にケンリッジ家に王命を下す。娘をレイモンドの妻とするようにとな」
ビクトリアを後妻に入れ、資金を得ようとしたケンリッジ元公爵の思惑はこれで潰え、あの家は衰退の一途をたどるだろう。散々王家を馬鹿にしたケンリッジ家に一泡吹かせられるな、と国王は薄く笑った。
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