193 / 297
第9弾 お熱いのがお好き?
That is a misunderstanding(それは勘違いです)
しおりを挟む一方、
男子更衣室では、
「はあぁ、昨日、クララちゃんにプロポーズしてオッケー貰ったのに今日になって破局宣言なんてあんまりっすよ」
アランが食後の歯磨きをしながら大袈裟に嘆息した。
騎兵隊キャストのマーティ、ヘンリー、ハワードと楽団のケントもズラリと洗面台の前に並んで歯磨きをしている。
「マジであんな人通りの多い駅前で片膝を突いてプロポーズしたのか?」
ケントは信じられないという顔をする。
「ああ。こうやって王子様みたいに格好良く」
アランは得意げに片膝を突いて再現してみせた。
「――ん?あれ?お前、プロポーズで右手を差し出したのか?」
「そこはフツー左手だろ?」
「右手を胸に当てて、出すのは左手だよな?」
マーティ、ヘンリー、ハワードが今さら手遅れのダメ出しをする。
「えっ?そうなんすか?」
「左手を差し出して彼女の左手を受け取るんだよ。エンゲージリングをはめるのは左手なんだから」
「あ、そうか。でも、急だったからエンゲージリングなんか用意してなかったし」
「お前、いちいち馬鹿だな」
「だいたいサプライズで女のコが喜ぶと思ったのが勘違いなんだよ」
「女のコには心の準備もおめかしの準備もいるんだよ」
「駅前で断られて赤っ恥を掻かされなかっただけでもクララちゃんに感謝しろよ」
ヘンリーとハワードが人差し指でアランのオデコを突っつきながら責め立てる。
「もぉ、いいっすよ。次はちゃんとエンゲージリング買って再チャレンジしますからっ」
アランは煩そうに2人の手を振り払って立ち上がると鏡に向かって前髪をちょいちょいと直した。
「――あ、そういえば、アラン、その頭」
ケントはハッと思い出した。
「――え?」
アランはドキリとする。
「いなご新聞の争奪戦で転けた時、その頭がズレたの見たんだよ。どうして丸坊主なんかにしたんだよ?」
ケントはアランが丸坊主にしただけだと思っている。
「……」
「……」
「……」
マーティ、ヘンリー、ハワードは内心ハラハラしながらも努めて素知らぬ顔で歯磨きを続けている。
すると、
「あっ、もしかしてパーマ代の節約?お前、すごい癖っ毛でパーマ当てないと髪がまとまらないって言ってたもんな。騎兵隊キャストはギャラが安いからパーマ代も苦しいんだろ?」
ケントはそう早合点した。
高校時代にアランが毎月のパーマ代で小遣いが消えると愚痴っていたことを思い出したのだ。
まだハゲる前のことだ。
「う、うん。そうなんだ。ウィッグならカットもパーマもいらないし、経済的だし、楽チンでさ。もう丸坊主のままで髪を伸ばす気にもならないっていうか」
アランはケントの有り難い早合点に調子を合わせてペラペラと誤魔化した。
丸坊主といっても実際のハゲは頭頂部だけで、アランは毎朝、電気シェーバーで全体をツルツルに剃っている。
もう自分のハゲに気付いてから3年以上は経つ。
鏡も見ずに頭を剃るのも手慣れたもので今ではハゲのサイズがどのくらいになっているのか自分でも分からなかった。
「はは、俺等はアランの丸坊主、知ってたけど」
「さすがに風呂では外すしな」
「知らずにいきなり見たらビックリだよな」
マーティ、ヘンリー、ハワードもここは話を合わせることにした。
「なんだ。みんな丸坊主のこと知ってたんすね」
ケントはすっかりアランがパーマ代の節約のために丸坊主にしてウィッグを被っていると信じたようだ。
(なんだ。これで誤魔化せるならクララちゃんと結婚してもハゲの秘密を墓場まで持っていけるかも知れないな)
(いや、ハゲじゃない。丸坊主に剃っているだけだ)
(パーマ代の節約のために丸坊主にしてウィッグを被ってるんだ)
アランは自分にそう暗示を掛けるように繰り返した。
ほどなくして5人が廊下へ出ていくと、
「ちょっと、ケント。話があるの」
マダムが鬼の形相で待ち伏せていた。
「――え?俺に?」
ケントはなにやら怒っている様子のマダムをキョトンと見返す。
「こっちへいらっしゃい」
マダムがクルリと踵を返し、命令口調でケントを先導していく。
マダムはケントを促して今の時間帯には使用されていないダンスの稽古場へと入っていった。
「――話って何だろ?」
「ケントはいつも託児所のボランティアでマダムと一緒だし、仲良かったよな?」
「めちゃくちゃ怒ってなかったか?マダム」
「ケント、いったい何やらかしたんだ?」
アラン、マーティ、ヘンリー、ハワードもこっそりと盗み聞きするつもりでダンスの稽古場まで足音を忍ばせて向かった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる