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第9弾 お熱いのがお好き?
That is a misunderstanding(それは勘違いです)
しおりを挟む一方、
男子更衣室では、
「はあぁ、昨日、クララちゃんにプロポーズしてオッケー貰ったのに今日になって破局宣言なんてあんまりっすよ」
アランが食後の歯磨きをしながら大袈裟に嘆息した。
騎兵隊キャストのマーティ、ヘンリー、ハワードと楽団のケントもズラリと洗面台の前に並んで歯磨きをしている。
「マジであんな人通りの多い駅前で片膝を突いてプロポーズしたのか?」
ケントは信じられないという顔をする。
「ああ。こうやって王子様みたいに格好良く」
アランは得意げに片膝を突いて再現してみせた。
「――ん?あれ?お前、プロポーズで右手を差し出したのか?」
「そこはフツー左手だろ?」
「右手を胸に当てて、出すのは左手だよな?」
マーティ、ヘンリー、ハワードが今さら手遅れのダメ出しをする。
「えっ?そうなんすか?」
「左手を差し出して彼女の左手を受け取るんだよ。エンゲージリングをはめるのは左手なんだから」
「あ、そうか。でも、急だったからエンゲージリングなんか用意してなかったし」
「お前、いちいち馬鹿だな」
「だいたいサプライズで女のコが喜ぶと思ったのが勘違いなんだよ」
「女のコには心の準備もおめかしの準備もいるんだよ」
「駅前で断られて赤っ恥を掻かされなかっただけでもクララちゃんに感謝しろよ」
ヘンリーとハワードが人差し指でアランのオデコを突っつきながら責め立てる。
「もぉ、いいっすよ。次はちゃんとエンゲージリング買って再チャレンジしますからっ」
アランは煩そうに2人の手を振り払って立ち上がると鏡に向かって前髪をちょいちょいと直した。
「――あ、そういえば、アラン、その頭」
ケントはハッと思い出した。
「――え?」
アランはドキリとする。
「いなご新聞の争奪戦で転けた時、その頭がズレたの見たんだよ。どうして丸坊主なんかにしたんだよ?」
ケントはアランが丸坊主にしただけだと思っている。
「……」
「……」
「……」
マーティ、ヘンリー、ハワードは内心ハラハラしながらも努めて素知らぬ顔で歯磨きを続けている。
すると、
「あっ、もしかしてパーマ代の節約?お前、すごい癖っ毛でパーマ当てないと髪がまとまらないって言ってたもんな。騎兵隊キャストはギャラが安いからパーマ代も苦しいんだろ?」
ケントはそう早合点した。
高校時代にアランが毎月のパーマ代で小遣いが消えると愚痴っていたことを思い出したのだ。
まだハゲる前のことだ。
「う、うん。そうなんだ。ウィッグならカットもパーマもいらないし、経済的だし、楽チンでさ。もう丸坊主のままで髪を伸ばす気にもならないっていうか」
アランはケントの有り難い早合点に調子を合わせてペラペラと誤魔化した。
丸坊主といっても実際のハゲは頭頂部だけで、アランは毎朝、電気シェーバーで全体をツルツルに剃っている。
もう自分のハゲに気付いてから3年以上は経つ。
鏡も見ずに頭を剃るのも手慣れたもので今ではハゲのサイズがどのくらいになっているのか自分でも分からなかった。
「はは、俺等はアランの丸坊主、知ってたけど」
「さすがに風呂では外すしな」
「知らずにいきなり見たらビックリだよな」
マーティ、ヘンリー、ハワードもここは話を合わせることにした。
「なんだ。みんな丸坊主のこと知ってたんすね」
ケントはすっかりアランがパーマ代の節約のために丸坊主にしてウィッグを被っていると信じたようだ。
(なんだ。これで誤魔化せるならクララちゃんと結婚してもハゲの秘密を墓場まで持っていけるかも知れないな)
(いや、ハゲじゃない。丸坊主に剃っているだけだ)
(パーマ代の節約のために丸坊主にしてウィッグを被ってるんだ)
アランは自分にそう暗示を掛けるように繰り返した。
ほどなくして5人が廊下へ出ていくと、
「ちょっと、ケント。話があるの」
マダムが鬼の形相で待ち伏せていた。
「――え?俺に?」
ケントはなにやら怒っている様子のマダムをキョトンと見返す。
「こっちへいらっしゃい」
マダムがクルリと踵を返し、命令口調でケントを先導していく。
マダムはケントを促して今の時間帯には使用されていないダンスの稽古場へと入っていった。
「――話って何だろ?」
「ケントはいつも託児所のボランティアでマダムと一緒だし、仲良かったよな?」
「めちゃくちゃ怒ってなかったか?マダム」
「ケント、いったい何やらかしたんだ?」
アラン、マーティ、ヘンリー、ハワードもこっそりと盗み聞きするつもりでダンスの稽古場まで足音を忍ばせて向かった。
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