188 / 297
第9弾 お熱いのがお好き?
I will get mad at you.(わたしはあなたを怒る)
しおりを挟む「ロバートさん、毎晩、外食って聞いてたけど、今晩は鰻っすか?」
アランが話の切り出しに分かりきったことを訊ねた。
「ああ、ウルフはまだ鰻を食べたことがないらしいんでな」
ロバート家族はクリスマスの日から毎晩、外食をしているが、回転寿司、中華料理、イタリアン、また回転寿司、また中華料理、釜飯屋、年越しの蕎麦屋、そして、今晩の鰻屋という具合だった。
そこへ、
「あのぉ?ロバートさん、すみません。一緒に写真、撮って戴けますかぁ?」
40代半ばくらいの主婦らしき4人が席を立っていそいそと近寄ってきた。
どうやら年齢的にロバート推しだったようだ。
「勿論。喜んで」
ロバートはニッコリと応じて、キャッキャッとはしゃぐ主婦らしき4人と写真を撮るために活け花の飾られた壁際の一角へ向かった。
「へへえ」
タイガーは悪役ガンマンとはいえモテモテの父親にちょっと誇らしげだ。
主婦らしき4人はロバートと写真を撮るとお会計を済ませて帰っていった。
おかげでテーブル席はウェスタン・タウンの内輪だけで気楽にのびのびと出来る。
2つある座敷はやけに静かで客がいるかどうかも分からなかった。
「あ、そうだ。クララちゃん、こないだ貰ったクッキーとブラウニー、すっごい美味しかった」
タイガーが「なっ?」とウルフに同意を求める。
「おいしかったっ」
ウルフも元気いっぱいに答えた。
「うふ、ありがとう。また作るね」
クララもニッコリする。
「ホントにお店で買うよりずっと美味しかったわ。こんなに可愛くて料理上手な娘さんと結婚前提のお付き合いなんて、あなた、果報者ねぇ」
加代が微笑みながらアランに目を向けた。
「ええまあ」
アランはデレッとニヤける。
「え?何でそれを?」
クララは誰がロバートの母親にまでそんな余計なことを吹き込んだのかと思ったが、
「ほらっ、いなご新聞っ。おばあちゃんと見てたんだっ」
タイガーがいなご新聞のアランとクララのツーショットのページを突き出した。
「――ん?」
クララはいなご新聞を手に取って二度見する。
「ああっ?」
さっきは写真しか見なかったが、よくよく見たらコメントに『タウン公認、結婚前提のラブラブカップル。今年ゴールインでーす♪』などと載っている。
(この『今年ゴールインでーす♪』って何?)
クララはクラクラした。
「な、何で、こんなコメントが?」
こんなコメントが付くなんて何も聞いていない。
「ああ、俺達にもケント達みたいにラブラブなコメントを付けて貰おうと思ってさ。あの撮影の後、広報部の社員さんに頼んだんだ」
アランは「えへっ」と照れ笑いで白状する。
「えへっじゃないわよっ」
バシンッ。
クララは怒りに任せてテーブルにいなご新聞を叩き付けた。
「な、何でわたしの知らないうちに勝手にコメントを頼むのよっ?アラン、交際宣言だってわたしの知らないうちに勝手にしたわよねっ?今日だってわたしの知らないうちに勝手にラウンジでデートって、何でわたしに断りもなく勝手に決めて、わたしより先にみんなに報告する訳っ?」
クララは立ち上がってアランに詰め寄る。
「あ、そういえば、いつもそうだったっけ?なんか、つい気持ちが先走って、黙ってらんなくて」
アランはたじたじとのけぞった。
ショウのキャストみなに結婚前提の交際だと宣言したが、考えてみたらクララ本人にプロポーズもしていないのだ。
「まあまあ、クララちゃん。なにしろアランは騎兵隊デビューでジョーの馬の走路妨害したくらいのそそっかしい馬鹿で、タウン始まって以来の馬鹿だからよ。勘弁してやってくれよ」
ロバートがよく分からない言い分で2人を取り成す。
「そそっかしい馬鹿だから?馬鹿だから仕方ないって言うんですか?だいたいショウのキャストで最年長のロバートさんがそうやって甘やかすからアランがちっとも反省しないんですっ」
クララはキッと振り返ってロバートにまでピシャリと言った。
「あ、いや、まあ、馬鹿なコほど可愛いってヤツかな?」
ロバートもたじたじとする。
「クララちゃん、強え~っ」
タイガーが歓声を上げて、ウルフは目を丸くして、祖母の加代は感心している。
その時、
「ごほんっ」
いきなり嗄れた咳払いが響いた。
「――?」
みなが一斉に振り向くと、
座敷の襖が開いて和服姿の爺さんが現れた。
座敷はやけに静かだったが爺さんが1人で食べていたのだ。
店員が棚から草履を出して、爺さんは座敷の上がり框から土間へ下りてきた。
年齢の頃は80歳前後の白髪で口髭と顎髭をたくわえた雛人形の左大臣のような立派な風貌の爺さんだ。
「――っ」
アランは爺さんを見て(マズイ)という顔になった。
「あ、騒がしくてすみません」
ロバートが慌てて爺さんにペコリとする。
「いえいえ、お気遣い戴きまして恐縮に存じます。いつも孫の新哉がお世話になっております」
爺さんはロバートに折り目正しくお辞儀した。
(シンヤ?)
クララはアランの本名すら知らなかった。
アランの本名は荒井新哉だ。
「ああ、ご挨拶が遅れました。わたしはこういう者です」
爺さんはロバートに名刺を差し出す。
「これはどうも。アランのお祖父さんでしたか」
ロバートはアランのことを『そそっかしい馬鹿』『タウン始まって以来の馬鹿』と言ったのを祖父に聞かれてしまったのかと焦ってペコペコとする。
「それで、こちらのお嬢さんが新哉が結婚前提にお付き合いしているという」
爺さんは目を細めてしげしげとクララを見た。
「あ、あの、それは、わたしは結婚前提なんて、そんなつもりはございませんので。どうぞご安心なさって下さい」
クララはまさかのアランの祖父の登場に焦りながらも結婚前提の件は全力で否定した。
「――え?やはり、先ほど怒っておいでだったように新哉が先走って勝手に決め込んだだけだと?」
爺さんはとたんに意気消沈する。
「はい。左様でございます」
クララは爺さんに合わせて折り目正しく受け答えした。
「そうでしょうな。お嬢さんのように賢くしっかりされた方がこんな軽はずみで馬鹿な新哉などと」
爺さんは残念そうに呟くと、
「新哉、騎兵隊は薄給だろうが?鰻など贅沢しおって、あまり見栄を張るものではないぞ」
そうアランを叱咤してお会計を済ませて鰻屋を出ていった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる