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第9弾 お熱いのがお好き?
He is something of a celebrity.(彼はちょっとした有名人)
しおりを挟む駅前の裏通りにある鰻屋は風情ある蔵造りでいかにも老舗らしい古めかしい店構えだった。
夏の土用の丑の日は痩せた鰻で美味しくないので鰻を食べるなら12月の冬眠に入る前に獲れた丸々と肥えた鰻だ。
「んふ、身がふっくら。美味しい~」
「ん~っ、鰻丼にして良かったね」
クララとアランはテーブル席に向かい合って特上の鰻丼に舌鼓を打つ。
2人がひたすら鰻丼をモグモグと味わっていると、
斜め後ろのテーブル席から女性客のヒソヒソ声が聞こえてきた。
「ウェスタン・ショウの騎兵隊のアランよ」
「スーツも格好良いわね~」
「鰻屋でデートなんて好感度が上がるわぁ」
「ホントにぃ」
先ほどの女子高生と違って40代半ばくらいの主婦らしき4人だ。
ウェスタン・タウンはローカルのテレビ局では頻繁にコマーシャルが流れていてショウのキャストが出演している。
地元ではショウのキャストはちょっとした有名人なのだ。
(ホント、荒刃波ではどこへ行ってもショウのキャストは顔が知られてるのよね)
クララはタウンの外まで他人にチラチラと見られるのは迷惑だが、主役のガンマン・ジョーの彼女になった暁には尚更に見られるに決まっているので、
(これもジョーさんの彼女になった時の予行練習みたいなものよね)
そうポジティブに考えることにする。
こじんまりした店は個室の座敷2つと土間のテーブル席が4つだけで、空いている2つには『ご予約』の札が置いてあり、テーブル席の客はアランとクララと40代半ばくらいの主婦らしき4人だけだった。
「うふふ、鰻で精力を付けちゃってねえ?」
「この後は彼女とホテルって流れでしょ?」
「そりゃあ若いんだもの」
「元日からヒメハジメね」
40代半ばくらいの主婦らしき4人はとんでもない下世話なことをヌケヌケと抜かしてキャッキャと笑い声を上げた。
テーブルには日本酒のお銚子が何本も並んでいるので、すっかり酒が回って良いご機嫌のようだ。
(なによ。あのヒト達、失礼ねっ)
クララはカアッと赤面する。
あんなことを言われるとアランと一緒に鰻丼を食べていることが無性に恥ずかしい。
(あっ、まさか、わたしが鰻丼を食べたいって言ったのはアランに精力を付けさせてムラムラさせようとかなんて勘違いされてたらどうしよう?)
そんな杞憂に頬がさらに熱くなる。
アランにどんなコと思われてもいいと思っていたが、ふしだらなコと思われるのだけはイヤだった。
(あ、そういえば、わたし、今日はマシュマロパンツを穿いてないっ)
クララは下半身がスースーした感覚に心許ない気分になった。
腹巻きと毛糸のパンツが兼用のダサいマシュマロパンツはクララにとって貞操帯に等しいアイテムだというのに穿いてないのだ。
しかも、今日は振り袖の着付けをしてくれる女性社員に下着を見られても恥ずかしくないように、あくまでも同性に対しての見栄のためにランジェリーショップで買った可愛いブラジャーとパンティーを身に付けてきた。
(やだ。まるで準備万端みたいじゃないの)
(勝負下着をアランに見せるつもりは全然ないのにっ)
(鰻丼を食べてホテルなんか行く訳ないのにっ)
クララは見せびらかしたいほど可愛いランジェリーを身に付けているだけで貞操観念が揺るんでしまうような頼りなさを感じた。
(クララちゃん、茹で蛸みたいに真っ赤になっちゃって。さすがに絶滅危惧種の天然記念物乙女だなぁ)
アランも主婦らしき4人の話し声は聞こえていたが努めて平然とした顔で鰻丼をモグモグと咀嚼していた。
(けど、ホントに鰻でそんなに精力が付いちゃうものなのかな?)
(べつに鰻を食べなくても精力旺盛な年頃だけど?)
(ええ?ヤバくね?)
言われてみると急にムラムラしてきたような気がしてアランまでカアッと赤面した。
(やだ。なんだかアランも意識しちゃってるみたい)
(きっとムラムラしちゃったんだわ)
(は、早く食べて帰ろう)
クララはせかせかと鰻丼を掻き込んだ。
特上の鰻丼を食べ残すなどという罰当たりなことは考えもしない。
当然、ご飯の一粒たりとも残さずに食べるのだ。
その時、
ガラッと店の格子の引き戸が開いた。
「いらっしゃいませ~」
威勢の良い店員の声に被さって、
「あっ?アランとクララちゃんだっ」
元気いっぱいの男児の声が聞こえた。
「――?」
アランとクララが振り向くと、ロバートの息子のタイガーだ。
「こんばんは。予約した大庭です」
続いてロバート、ウルフ、祖母の加代も暖簾をくぐってきた。
「なんだ。お前等、鰻屋でデートか?」
ロバートは意外そうに2人を見た。
(はあぁ、良かったぁ)
クララはホッと吐息する。
(ロバートさん達が来てくれて妙な雰囲気を脱した)
アランも同じくホッと吐息した。
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