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第9弾 お熱いのがお好き?

She has a very strong mind.(彼女はとても心が強い)

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 アランとクララが病院を出て駅前の通りをホテルアラバハへ向かって歩いていると、

「――あ?ほら」

 ファストフード店から出てきた女のコ6人が一斉にアランとクララを見た。

 この女のコ6人はタウンの年パス常連の地元の女子高生だ。

 以前、野外ステージの楽屋でトムとフレディが「追っ掛けなんてブスばっかりなんだよっ」と自分達の外見を棚に上げてブス呼ばわりしたメラリーファンの女子高生である。


「あ、騎兵隊のアラン」

「私服も格好良いぃ」

「彼女とデートかぁ」

「どうせ遊びでしょ。あんだけモテモテなら女のコなんて選り取りみどりじゃない」

「テキトーに可愛いコを引っ掛かけてヤリ捨てするタイプよね?」

「顔を見れば分かるよ。すごいハンサムだけど見るからに女たらしって感じ」

 女子高生は勝手放題にディスりまくる。


(だ、誰が女たらしだよ?すぐにヒトを見た目で判断して。遊びじゃない。結婚前提なんだけどっ)

 アランは込み上げる怒りをグッと抑える。

(なによ。失礼なコ達ねっ)

 クララはすれ違いざまに女子高生をキッと睨み付けた。

「あ、睨んだ」

「ちょっとゲストにああいう態度?」

「いや、ここ駅前だから、わたし等、今ゲストじゃないから」

「どっちにしても、彼女、性格悪そう」

「ああいう見た目が清純派タイプが一番、裏表が激しいんだよね」

 女子高生は背後で聞こえよがしに言う。


(性格悪そう?)

(裏表が激しい?)

(やだ。何で分かったんだろう?)

 クララはあの女子高生は人相学でもかじっているのかと感心してしまった。

「気にすることないよ。クララちゃんが可愛いからひがんで言ってるだけさ」

 アランは気を取り直してクララに笑顔を見せる。

「ううん。ちっとも気にしてないわ」

 クララも作り笑顔で答えて、「早くラウンジに行きましょう」とアランの背中を押してホテルアラバハへ入っていった。

(ブスに何を言われたって1㎜も傷付かないわ)

(だって、わたしは可愛いんだもん)

(性格は悪いけどねっ)

 クララは好戦的に顎をツンと反らしてエレベーターの階数ランプが6、5、4、3と移り変わるのを眺めた。

(このクララちゃんの気の強さ。まさしく理想の奥さんだな)

 アランはクララの横顔を見つめながら自分の目に狂いはなかったとニンマリする。  

 チン。 

 2人はエレベーターに乗り込むと最上階のラウンジへ向かった。
 

 一方、

「もぉ、みんなアランの彼女のことディスらないでよ。彼女、タウンの正社員でしょお?わたし、高校卒業したらタウンで売り子のバイトしたいんだから印象悪くなっちゃうじゃない」

 他の5人の女子高生にプリプリと文句を言ったのは例のメラリーファンのドスコイ体型のコだった。

「ええ?ラム。本気ぃ?」

「わたし等レベルでタウンの売り子が出来る訳ないじゃない」

「そうだよ。タウンのキャストは美男美女しか採用されないって有名なんだよ」

「だいたいラムに着られるサイズのドレスなんか無いってば」

「ムリムリ」

 女子高生5人は軽く一笑して受け流す。

 ドスコイ体型の女子高生は見た目に似合わず良夢らむというキラキラネームだった。

「まだ高校卒業まで1年以上あるんだから、それまでにダイエットして痩せるもんっ。わたしは痩せれば可愛いんだからっ」

 ラムは両手を握り拳で力強く言い放つ。

「絶対、高校卒業までに45kg痩せて、タウンで売り子のバイトして、可愛いドレスを着て、メラリーちゃんに接近するのっ」 

 それがラムの目標だった。



「わぁ、ドラマで観たのと同じぃ」

 クララはエレベーターを降りるとラウンジの天井までの一面の窓を見上げた。

 ラウンジの入り口には譜面台の上にコジャレた筆記体のメニューが置いてある。

「――え?うわっ?高いっ。ケーキセットでこんな値段?」

 クララはあまりのぼったくり価格に思わずムードもへったくれもないことを口にした。

「うん。ここはアフター6からメニューが高くなるんだ。綺麗な夜景込みの価格設定なんじゃないかな」

 アランはこのホテルでバイトしているのでラウンジのメニューがぼったくり価格だとは知っていた。

 ゴージャスなホテルの気取ったラウンジなのだから価格もそれなりなのだ。

「ねえ?病院の5階の窓から見える夜景と同じよね?」

 クララは身も蓋もないことを言った。

「たしかに同じだね」

 アランも同意する。

 ホテルアラバハと病院は同じ通りに面しているのだから夜景も何ら変わりはない。

「わたし、このラウンジより駅前の鰻屋さんの鰻丼のほうが良いなぁ。ケーキはタウンのスイーツ・ワゴンで飽き飽きしてるんだもの」

 ラウンジのケーキセットと鰻屋の鰻丼がほぼ同じ価格なのだ。

「え?ホントに鰻屋でいいの?女のコはロマンチックにオシャレなラウンジのほうが好きかと思ったのに」

 アランも同じ価格ならケーキよりは鰻丼のほうが食べたい。

「そんなことないわ。鰻丼のほうが良いわ」

 クララはアランには無神経な女のコと思われようが、つまらない女のコと思われようがどうでも良かった。

「じゃ、駅前の鰻屋へ行こう」

(クララちゃんは経済感覚もしっかりしてるし、ますます理想的だな)

 またクララは思いがけずアランの理想の奥さんポイントを上げた。

(だって、ロマンチックより鰻丼よね)

(仮の彼氏のアランとなんてムードを出したって仕方ないんだから)

(それより、鰻、久々だなぁ)

 クララはアランとさっさとホテルアラバハを出てルンルンと駅前の鰻屋へ向かった。
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