PictureScroll 昼下がりのガンマン

薔薇美

文字の大きさ
上 下
183 / 297
第9弾 お熱いのがお好き?

Surprise(サプライズ)

しおりを挟む


 2人が停留所に着くと15分置きの時間どおりに送迎バスがやってきた。

 まだ夕方の5時半でこんなに早く帰ってしまうゲストなど滅多にいないのでバスに乗るのは仕事帰りのキャストだけだ。

 すると、

「ちょっと待って~ぇ」

 ゴードンが内股走りで追い掛けてきた。

「わたし、昼前にお医者さんの説明を訊いただけで手術中の付き添いはアマンダさんに任せてタウンへ戻ってしまったからマーサさんに逢ってないのよ」

 アマンダ(天野あまの多江たえ)はいなご新聞の争奪戦に参戦したマーサと仲良しのキャスト食堂の調理係だ。

「やっぱり、アランちゃんがきっちりとお詫びを言えるか心配だから、わたしも一緒にお見舞いに行くことにしたわ」

 ゴードンはアランのせいでマーサが大怪我をしたと思っているのでショウの担当者としての責任を感じているのだ。

(俺のせいじゃないのに~)

 アランはゲンナリだった。


「お見舞いを買っていかなきゃね。左腕の骨折だけだから何を食べてもいいだろうし」

 送迎バスを降りるとゴードンは駅前の商店街をキョロキョロした。

「マーサさん、あのお店の和菓子が大好きなんですよ」

 クララが老舗の和菓子屋『うまや』を指し示す。

 温泉街なのでお土産の和菓子屋は数多くあるが、それだけに昔からの地元民は美味しい店を厳選している。

「ま、そうお?クララちゃんが一緒で助かっちゃったわ」

 ゴードンは和菓子屋で3万円もする詰め合わせをお見舞いに買った。

 20個入りの和菓子が何で3万円もするかというと和菓子を納めた箱が豪華な漆塗りなのだ。

 やはり、タウンの地主のマーサにはそれ相応の礼を尽くさなくてはならないらしい。

 アランは今まで配膳係のマーサのことはいつもメラリーにだけオカズをオマケして自分には一度もオマケしてくれない『気に食わないババア』と率直に思っていただけにバツが悪い。

(それにしても、俺はルックスではメラリーなんかに引けを取らないはずなのに、何だってマーサさんはメラリーにだけオカズをオマケするんだろう?)

 騎兵隊キャストはみな貧乏で腹ペコなイケメン揃いだというのにアランは納得いかない。

 そんなことをモヤモヤと考えているうちにすぐに病院へ着いた。


 病院の受付カウンターで用紙にいちいち患者名と続柄と面会時間などを記入して提出してからロビーを進んでいくと、

 やけに背の高いウェスタンファッションの男がエレベーターを待っていた。

「――お?ゴードンさんも来たんだ?」

 振り返った男はジョーだった。

(ジョ、ジョーさんっ)

 クララは嬉しいサプライズに心臓がドキドキと小躍りする。

「ジョーちゃん来てたの」

 ゴードンはジョーの荷物に目を向けた。

「メラリーがお見舞いに行くって言うからよ。俺はマーサさんに頼まれた買い物してきたところ」

 ジョーは大きな紙袋2つを高くかかげてみせる。

 ジョーとメラリーの2人はゴードンとアランがコスチュームルームでスーツなどを選んでいる時にとっくに病院へ来ていたのだ。


 マーサの病室は5階の特別室だった。

 寝室と応接室がくっ付いたような広い病室でコンパクトなキッチンにトイレまである。

(ふええ――)

 アランは水戸黄門の印籠を突き付けられたように「お見それしました」という気分になった。

 やはり、キャスト食堂の配膳係のオバサンのマーサは世を忍ぶ仮の姿で、その実体は大地主の奥様なのだという認識を強くする。

「ほほほっ」

 マーサはリクライニングベッドの背凭れを起こして座って上機嫌でメラリーと談笑していた。

 メラリーは『ガンマン・メラリーを援護射撃する会』の爺さん連中もまんまと手懐けたし、ジジババのご機嫌を取るのはお手のものなのだ。


「マーサさん、ホントにこの度はうちのアランちゃんのせいで大怪我をさせてしまってお詫びの言葉もございません」

 ゴードンはお見舞いの和菓子の包みを差し出し、「ほらっ」とアランを促して一緒に深々と頭を下げた。

(俺のせいじゃないのに~)

 アランは不承不承に頭を下げる。

「おやまあ?アランちゃんのせいじゃないのにぃ。わたしが強引にアランちゃんの背中によじ登って、頭を引っ掴んでアランちゃんをけさせちゃったんだからぁ」

 マーサは自分の怪我がアランのせいになっていることにビックリしたようだ。

 それどころか、

「わたしのせいで周りのみんなまで巻き添えにして、何人もバタバタ将棋倒ししちゃったでしょぉ?どうしようって責任を感じてたんだよぉ」

 マーサは眉を八の字にして視線を下に向けたままオロオロと言う。

 面目なく合わせる顔がないというようなしおらしい態度だ。

(な、なんだ。ヒトの背中によじ登って、頭を鷲掴みしてきた時にはとんでもないババアだと思ったけど、意外にマトモなオバサンだったんだ)

 アランは心の底からホッと安堵した。

「気にしなくて大丈夫だよ。怪我したのマーサさんだけだし」

 メラリーがケロッとマーサを励ました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

処理中です...