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第9弾 お熱いのがお好き?
There's nothing I can do.(わたしは何をすることも出来ない)
しおりを挟む「――ほら、マーサさん。頼まれた買い物、どれもガンマン会の爺さん連中のアラバハ商店街で買えたぜ~」
ジョーが大きな紙袋からパジャマ3着、バスタオル2枚、フェイスタオル3枚、洗面用具、プラスチックのコップ、靴下3足、スリッパなどを出してベッドのテーブルに並べた。
パジャマは3着とも花柄でピンク、ライラック、クリームと明るい色合いだ。
スリッパはローズピンクでフェルトの薔薇の花が着いている。
「おやまあ、ちょっと、わたしには派手じゃないかい?」
マーサはそう照れながらも華やかなパジャマとスリッパに嬉しそうだ。
「病室じゃこのくらい明るくパアッとしねえと気分が上がんねえだろ?――あと、これは俺からのお見舞い」
ジョーはもう1つの紙袋からパープルのガウンを取り出した。
「――まあ、素敵ぃ」
マーサは病院のレンタルのグリーンのストライプの安っぽい寝間着の上から豪華なガウンを羽織ってみた。
「ほら、メラリーちゃん。『おしん』で乙羽信子がホテルのモーニングを食べてる時に着てたみたいなガウンだよ」
マーサは大喜びだ。
いくら金持ちとはいえ、ケチ臭い世代なので部屋着に豪華なガウンなど着ることはなかったのだろう。
何故に『おしん』が出てきたかというと、さっきからマーサとメラリーは橋田ドラマの話題で盛り上がっていたのだ。
「――あ、これ、これ。メラリーが正月だから『坊主めくり』やろうって言うからよ」
ジョーはさらに紙袋から買ってきた百人一首を取り出してテーブルに置いた。
(――正月だから坊主めくり?嘘だろ?メラリーの奴、俺に対する当てこすりの思い付きだろ?)
アランは苦虫を噛み潰したような顔をする。
(いいなぁ)
クララはジョーから素敵なガウンを貰ったマーサを羨ましく眺めていた。
(襟に花の刺繍があって、わたしの好みにピッタリのガウンだわ)
そのうえ、これからジョー達は百人一首で坊主めくりをして遊ぶつもりだという。
(わたしも一緒に坊主めくりがしたい)
クララはここで「わたし、坊主めくり大好きなの」とでも言おうかどうしようかと迷っていた。
「これ、仕舞っとくな」
ジョーはテキパキとタオル類を洗面台の棚に置き、パジャマをクローゼットのハンガーに掛けた。
「メラリーちゃん、その『うまや』の和菓子、荒刃波温泉で一番、美味しいんだよ」
マーサがゴードンのお見舞いの和菓子の包みを指す。
「わぁい、詰め合わせで4種類ずつある。お茶、お茶」
メラリーは包みをガサガサと開けると和菓子より高い漆塗りの箱には目もくれずキッチンへ立った。
(――はっ、わたしってば、パジャマを仕舞うのはジョーさんで、お茶を淹れるのはメラリーちゃんだなんて。気の利かない女のコだと思われちゃうっ)
クララは焦って自分がお茶を淹れると言おうとキッチンへ振り返った。
メラリーはきちんと湯呑みを温めて、「ふんふん、高い煎茶だからお湯は70℃、抽出時間は1分30秒ってところかな」などと呟いている。
どうやらメラリーはグルメ漫画や料理番組から得た知識で美味しいお茶の淹れ方もちゃんと知っているらしい。
(わたし、いつもコーヒーか紅茶だし)
クララは日本茶の美味しい淹れ方は知らないので自分が淹れるとは言えなかった。
(――あ、だけど、お茶も淹れられない女のコだと思われちゃうっ)
(でも、わたしが淹れたお茶が不味かったら恥ずかしいし)
(ど、どうしたらいいの?)
クララはどうしたらいいか分からなかった。
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