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第9弾 お熱いのがお好き?
Let's go to the hospital(病院に行こう)
しおりを挟むその頃。
(――ええと、『山田のおばちゃんが左腕を骨折して手術して入院したので帰りに駅前の病院へお見舞いに寄るから遅くなります。(´・ェ・`) 』――と)
クララはバックステージのロビーの窓際の椅子に座って自宅のパン工場の母親にメールを打っていた。
正月でもパン工場は年中無休だ。
すぐに母親から返信が来て、
『病院の面会時間って何時まで?間に合ったらわたしも行くけど。入院に必要なものがあるか山田のおばちゃんに訊いて、あんたが買ってきてあげなさい。(=`ェ´=) 』
などと指示してきた。
マーサは昔気質でケータイを持たないので本人にメールして訊くことが出来ないのだ。
(ええ~?そしたら、買い物してから病院にまた戻るの?面倒臭いじゃない。でも、山田のおばちゃんにはお世話になってるし)
山田家とは祖父の代から家族ぐるみの付き合いである。
実をいうとクララがウェスタン・タウンに就職が出来たのもマーサの口利きのおかげだったりする。
要するにコネを使ったのだ。
新卒でタウンの正社員に採用されるのはなかなかの難関なのだ。
それというのもタウンでは勤続年数が長く有能な準社員から正社員に昇格することが多いからである。
(――ええと、病院の面会時間はと、休日は午前10時から午後8時までか)
クララが駅前の荒刃波病院のHPで面会時間を確認して母親に返信していると、
「クララちゃん。ごめん。待たせて」
アランが長い廊下を駆けてきた。
「あら?アラン?」
予想外のアランのスーツ姿にクララはハッと目を見張る。
「ゴードンさんが借してくれたんだ」
アランは照れ笑いして蝶結びのスカーフを摘まんでみせた。
「そ、そうなの」
クララはあまりのアランの貴公子っぷりにドギマギしてしまう。
まるで中世ヨーロッパもどきの世界を描いた少女漫画に出てくる王子様のようだ。
(もぉ、アランってばルックスがモデル系だからなんでも似合うんだからぁ)
クララは努めて平静を装いながらも内心でキャアキャアと舞い上がってしまった。
「クララちゃんはオシャレだから俺もオシャレして合わせないとね」
アランはいつもオシャレに抜かりないクララを感心して眺めた。
今日のクララは胸元と裾にフリンジのあるウェスタンなアイボリーのワンピースで、手にターコイズブルーの幾何学模様のコートを持っている。
足元はベージュのウェスタンブーツだ。
まるでカップルでコーディネートしたかのようにアランのブルーグレイのスーツと色合いがバッチリである。
(ひゃあ~、寒い~)
クララはバックステージの建物を出たとたんにブルルと震えた。
日が沈んで一気に気温が下がったようだ。
日中はポカポカ陽気だったし、正絹の振り袖は薄地のわりに意外と温かいのである。
膝上丈のワンピースだとタイツだけでは下半身がスースーする。
今日は振り袖を着るので防寒対策のマシュマロパンツを穿いてこなかったのだ。
(やだぁ。お腹とお尻が冷えちゃう。やっぱり、マシュマロパンツは必需品だわ)
クララは明日からはしっかりマシュマロパンツを穿いてきて振り袖の着付けをして貰う直前に脱げばいいと思った。
セキュリティ・ゲートを出た2人は30cmほどの間隔を開けて並んで歩いた。
「だけど、普段はホテルのバイトもあるんでしょ?今までホテルには何を着て行ってたの?」
クララはアランがジャージの上下しか着替えがなくてゴードンにスーツを借りたと訊いて意外そうに訊ねた。
「騎兵隊のコスチュームのマントだよ。駅前で送迎バスを降りたらホテルアラバハの通用口がすぐだから、ホテルではユニフォームに着替えるし」
アランはギャラの安い騎兵隊キャストなのでオシャレな私服など買う余裕はないのだ。
なにしろウェスタンファッションは結構な値段がする。
ホテルのバイトは忙しい時に忙しい所へ呼ばれるアバウトなバイトなので収入は安定していない。
今もスーツの上は騎兵隊のコスチュームのインディゴブルーのマントだ。
(ふうん、わたしはタウンの正社員だから冬のボーナスも出たばかりでリッチだけど、アランは貧乏なのよね)
クララはモデル系のルックスのアランがタウンのお仕着せだけでオシャレも出来ないのはあまりにもったいないと思った。
もしも、実際に自分がアランに恋する彼女だったらオシャレな服くらいポポンとボーナスをはたいて貢いでしまったかも知れない。
(あ、だけど、アランみたいにモテモテなら貢いでくれるリッチな彼女とだって付き合えるだろうに、わたしなんかと付き合うなんて何を考えてるのかしらね?)
クララは自分と付き合ってアランにいったい何のメリットがあるのかさっぱり思い当たらなかった。
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