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第8弾 降っても晴れても
I feel very feverish.(とても熱っぽい)
しおりを挟む「――メラリーちゃん、なんだか顔が赤いですけど?」
太田がメラリーの顔を覗き込んだ。
「――え?そう?」
メラリーは自分の両頬を押さえる。
そういえば、さっきから頬が火照っている感じがする。
トムとフレディとやり合ってカッカしたせいかと思ったが、まだ冷めないどころか火照りが増してきた。
「熱があるんじゃ?すぐに帰って休んだほうがいいですよ」
太田が心配そうな顔をする。
「――うん」
外を見るとちょうど巡回バスが着いたところだ。
「あ、俺、ちょっと買い物してから帰るわ。あとで部屋、行くからよ」
ジョーは急に思い付いたように送迎バスの停留所のほうを見やった。
バックステージの施設をグルグルと回るのがキャスト用の巡回バスで、タウンと駅前を往復するのがキャストもゲストも利用する送迎バスだ。
「あっ、俺、着替えてこなきゃ」
太田は自分のカウボーイファッションを見下ろした。
家族に退職したことがバレないように講師をしていた学習塾で仕事してきたという体で帰宅しなくてはならない。
「じゃ、お先に~」
メラリーは1人で巡回バスに乗ってキャスト宿舎へ帰っていった。
ほどなくして、
ジョーが駅前でタウンの送迎バスから降りてきた。
荒刃波温泉の駅前には温泉客が旅館の浴衣に丹前を着てブラブラと歩くにも調和する昔ながらの店構えのアラバハ商店街がある。
(――う~ん?――薬局は――と――)
めったに駅前で買い物などしないのでキョロキョロして薬局を見つけると、白衣姿の爺さんが棚の商品のラベルの向きをせっせと直していた。
「いらっしゃいませ~。――お?ジョーちゃんじゃないの~」
振り返った爺さんが満面の笑みを見せる。
「あ~、ガンマン会の――」
そういえば、『ガンマン・メラリーの援護射撃する会』の爺さん連中はみなアラバハ商店街の店主やご隠居さんなのだ。
「ジョーちゃんが買い物に来るなんて珍しいね~」
「体温計とオデコ冷やすヤツ買おうと思ってよ」
「体温計?いっぱいあるよ~。これなんか最新式のオデコに当ててピッと測れるヤツ。これは口に咥えて基礎体温を測る婦人用のヤツ――」
爺さんは店番で暇を持て余していたらしく体温計をカウンターに並べながら、いちいち商品説明を始めた。
(何故、婦人用の基礎体温計まで並べる?)と思いながらもジョーはふんふんと頷きながら説明を聞いていた。
一方、
「――う~ん――、――あ?まだ8時ちょっと過ぎじゃん~」
メラリーは枕元の目覚まし時計を見た。
ちょっと寝ただけで汗をいっぱい掻いてスッキリした気分だ。
布団からズルズルと這い出て、キッチンの冷蔵庫を開ける。
「――あ、なんにもない――っ」
空っぽの冷蔵庫に茫然とする。
4時頃にステーキ丼を食べただけなので、もう腹ペコだった。
普段なら今頃はバックステージで射撃練習を終えてキャスト食堂で夜食をモリモリと食べている時間なのだ。
ジョーは「あとで部屋、行く」と言っていたが、『あとで』とは何時頃のことだろう。
「なんか美味しい物、買ってきてくれるのかな~?」
しかし、もうお腹と背中がくっ付きそうに腹ペコで、ジョーの帰りなど待っていられそうもない。
「――む~ん、面倒臭いけど、買い物、行って来よっかな~」
メラリーは溜め息をついて、汗を流しにバスルームへ入った。
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