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第8弾 降っても晴れても
to be infatuated with a girl(女のコにうつつを抜かす)
しおりを挟むその頃、
「ありがとうございました~」
「そいじゃ」
ジョーはやっと薬局での買い物を済ませて送迎バスの停留所へ向かって歩き出したところだった。
前方から歩いてきたウェスタンファッションの美女とすれ違う。
「――あっ、ジョーちゃん~?」
美女が振り返って呼び止めた。
「――え、えと?」
ジョーは名前はいちいち覚えないが、顔は覚えているので何度か交遊したハニーの1人であることは分かった。
「幾代よっ。もぉ、ずっと前に『一緒に薔薇風呂、入らねえ?』とか電話よこしたっきり音沙汰ないんだから。わたし、普段、東京なのよ。いきなりお風呂入りに行ける訳ないじゃない」
フツーの名前なのでタウンのキャストではないらしい。
「――あ、あ~。そだ。イクヨ、イクヨ。ケータイ、風呂に浸けちまってメモリー全滅したからよ」
イクヨ、たしか年2回ほどしか逢わない期間限定のハニーだ。
「ええ?やっだ。ケータイ貸して」
イクヨはジョーのケータイをひったくって自分のアドレスを登録する。
「――あ、やっだ?どしたの?マダムのマリーさんだけ?他に女のコのアドレス全然ないじゃない?」
「最近、清らかな生活してるから」
「えへ~?正気?――ねっ、わたし、そこのホテル泊まってるの。時間ある?」
イクヨはピョンと飛び付くようにジョーの腕に抱き付いて上目遣いで訊ねる。
「あ、ああ」
とたんにジョーはデレッと鼻の下を伸ばした。
「良かった。行こ行こっ」
「手っ取り早い女だな」
「忙しいんだもん。うっとりしてる暇ないのよ。明日、朝一で東京に戻らなきゃなのっ」
せっかちらしくイクヨはジョーの腕を引っ張り、ずんずんとホテルへ向かって歩いていく。
その時、
「――あっ、ジョーさん?」
クララが駅前の美容院から出てきた。
「――あっ、ジョーさん?」
太田はタウンの送迎バスから降りてきた。
2人は美女と腕を組んで歩いているジョーに気付き、ほぼ同時に駅前の顔ハメ看板の後ろにササッと身を隠した。
ドン。
両側からお互いのお尻をごっつんこする。
「あ?クララちゃんまで?何で隠れるんですか?」
「あ、やだ。なんとなく。それよりジョーさんはっ?」
2人はハッとして顔ハメ看板の穴から顔を出して外を見た。
顔ハメ看板は『ウェスタン・タウン』に『お江戸の町』というテーマパークのある温泉地らしくガンマンと忍者が露天風呂に浸かっている絵柄だ。
ジョーとイクヨは太田とクララが顔を出している顔ハメ看板には目もくれずに前を素通りして駅前のホテルへ入っていった。
「ジョーさん、具合の悪いメラリーちゃんを心配してすぐに帰るかと思ったら女のヒトとホテルにっ?見損ないましたよっ」
太田は顔ハメ看板の後ろ側から出て、ホテルを睨んで怒りの目を剥いた。
「――え?メラリーちゃん?」
クララがキョトンと指差すほうを「え?」と太田も見やると、道路を挟んだ向かい側のコンビニからメラリーが出てきた。
「メ、メラリーちゃん」
太田が慌てて声を掛けたが、その声も駅前の喧騒に掻き消された。
今は冬休みで大勢の温泉客でアラバハ商店街は縁日のような賑わいだ。
メラリーは太田の呼ぶ声に気付かずにタウンへ戻る送迎バスに乗ってしまう。
「メラリーちゃん、熱があるのに出歩いたりして大丈夫ですかね」
太田は走り去るバスを心配そうに見送った。
(――はぁ、なんか、出歩いたせいかエネルギー消耗した)
メラリーはバスの一番後ろの座席に向かってフラフラと歩いた。
「……」
座席に着く前に力尽きてズルズルとしゃがみ込んでしまう。
「――メラリーちゃん?大丈夫かっ?」
送迎バスのドライバーのカール(軽部道則)が運転席から振り返った。
それから約1時間後。
「わたし、朝、早いから寝る~。バイバイ。今度、こっち来る時、電話する~」
事が済むや、イクヨはさっさと布団を被り、ベッドの中からジョーにバイバイと手を振った。
「あっさりしてんな~。簡単でいいけど」
ジョーは服を身に着けながら、イクヨの手荷物をチラッと見た。
テーブルの上にA4サイズのファイルが置いてある。
やっぱりイクヨがどこの誰だったか、ちょっと気になる。
ファイルを開くとフレンチカンカンのドレスのデザイン画があった。
(――あ、そっか。思い出した。イクヨってショウのコスチュームのデザイナーじゃん)
ショウは年2回リニューアルされるのでイクヨは新しいコスチュームの打ち合わせで年2回タウンへやってくるのだ。
ファイルをめくるとメラリーのドレスのデザイン画もある。
「――あ――っ」
ジョーはハッと我に返った。
椅子の上に放り投げてあった薬局のレジ袋を取って猛スピードでホテルを駆け出ていく。
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