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第8弾 降っても晴れても

I do not permit it(俺が許さない)

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 ジョーとメラリーはロビーのソファーに向かい合って座った。

 外のバス停留場のベンチでは寒いのでキャスト宿舎に帰る巡回バスが来るまでロビーで待つつもりだ。

「いつも一緒に射撃練習やってんだろ?何で今日はアイツ等、怒らせてんだよ?」

 取り敢えずジョーはいざこざの発端を追及する。

「――ん~、俺が『ガンマン向いてないのかな~』って言ったら、トムとフレディが『何だ?てめっ』『向いてないなら辞めちまえっ』って急に怒り出して」

 メラリーにしたらキャスト控え室で着替えながらロッカーに向かってポロッと呟いた独り言に過ぎない。

 それを背後でのんべんだらりと漫画を読んでいたトムとフレディがいきなり漫画雑誌をテーブルに叩き付けて怒鳴ってきたのだ。

「あ~、そりゃ、アイツ等なら怒るだろ?ガンマンなりたくてキャストになってよ。後から入ってきたお前が先にガンマンデビューしただけで気に食わないのに『向いてない』とか言われちゃ、そりゃ立つ瀬がねえだろ?」

 ジョーはトムとフレディに同情したように嘆息する。

「――『タツセ』って?」

 メラリーには漢字変換が出来ない言葉だ。

「そんなとこ深く追究すんなよ」

 ジョーは面倒臭そうに顔をしかめる。

 そこへ、

「つまり、『立場がない』『面目が立たない』と言う意味ですよ」

 太田が歩いてきて口を挟んだ。

 今日は乗馬の特訓の後にクラブハウスでコーヒータイムをせずに早々と戻ってきたのだ。

「お、バッキー。それだよ。それ」

 ジョーは頼もしい援軍が現れたとばかりに太田に自分の横のソファーを勧める。
 

「やっぱり、タウンのヒト達はみんな西部劇オタクだし、ウェスタン馬鹿だし、無駄に暑苦しいし、俺とは温度差がある感じで、ホントはなんか俺だけ場違いなのかな~って気がずっとしてた」

 メラリーはまた暗雲をどんよりと背負っている。

 ガンマンデビューから気分が晴れたり曇ったりと不安定だ。

「――そ、そんなことねえよ。熱いウェスタン馬鹿の集団にお前が交じってることで、ややクールダウンされて落ち着くんじゃねえかよ」

「そうですよ。メラリーちゃんがいなかったら、俺等、ヒートアップし過ぎて、焼け死にますよ」

 ジョーと太田はなんとかメラリーの暗雲を吹き払わんとする。

「バッキーみたいにオーディション目指して頑張って努力してるヒトからしたら、俺なんかゴートンさんにスカウトされて簡単に入っちゃってズルくないかな」

「そ、そんなことないですよ」

「ああ。トムだってゴードンさんが巨漢キャラを欲しかっただけでスカウトされたんだぜ?――それに、フレディなんかトムの高校時代の同級生で一緒にショウを観に来て『俺もやりたい』ってよ、トムのオマケでくっ付いてきただけなんだぜ?」

 身体能力が高く均整の取れた巨漢のトムは是が非でもキャストに欲しかったのでゴードンはトムを口説き落とすためにフレディをオマケに入れてやったのだ。

 ゴードンが『だけど、あなた、地味なのよねぇ』と渋い顔をしたのでフレディは『金髪にしますっ』と染めてきたが、金髪の地味な男になっただけだった。


「……」

 メラリーはどんよりと無口になる。

 たしかにゴードンから熱心にスカウトされた自分が『向いてない』と言ったら、スカウトもされないのにオマケでキャストになったフレディはよっぽど気に障っただろう。

 メラリーは今頃になって自分がトムとフレディにとって、いかに目障りな存在だったのか思い知らされた。

 ジョーがガッと荒々しくメラリーの両肩を掴む。

「お、お前、辞めたいとか思ったら承知しねえからなっ。トムとフレディなんか酒場の客のカウボーイ役だけで、もう4年近くやってんだぜ?『向いてない』とか、そんな贅沢な悩み、持つこと自体、許さねえからなっ」

 ジョーはメラリーに目を据えてブンブンと肩を揺さぶる。

「――う、うん」

 一応、メラリーは「うん」とは答えたが、ジョーに強引に言わされたとしか思えない、まったく気持ちの入らない「うん」だった。
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