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第8弾 降っても晴れても
I'm so lonesome I could cry(泣きたいほどの淋しさ)
しおりを挟むその昼過ぎ。
野外ステージの楽屋では、
「……(メソメソ)」
ジョーが昼前のメラリーの絶交宣言からずっと途絶えることなくメソメソしていた。
「もう、ジョーったら、いつまでメソメソしてるの?うっとおしい」
マダムが「いい加減にして」という調子でジョーを横目で睨み付ける。
「――だってよ。メラリーが俺を無視するって。――絶交だって言うんだぜ――?(メソメソ)」
ジョーは半泣き顔で子供がお母さんに言い付けるようにマダムに訴える。
「……」
メラリーは困惑顔をした。
憎々しいスケコマシ笑いのジョーだからこそガンガンと撃ちまくれるのだ。
それなのに、あんなに憐れっぽくメソメソされては気が引けて撃ちにくいではないか。
「メラリー、騙されるな。あれはお前の憎いあんちくしょう撃ちを封じ込めるためのジョーさんの作戦だぞ」
「メソメソ作戦だな」
トムとフレディが忠告する。
相変わらずジョーを陥れるためならコロッとメラリーの味方にもなる2人だ。
「気にせずガンガン撃ちまくれっ」
「ガンガンとなっ」
「……」
メラリーは珍しくトムとフレディに励まされて力強く頷いた。
やはり、今日もキャラクターのメラリーになっているので口は利かないのだ。
そうこうして、ガンマンデビュー3日目のジョーvsメラリーのガンファイトが始まった。
ガン!
ガン!
『Miss!』
『Miss!』
「初っぱなからミスっ?」
「ジョーさんまでっ?」
トムとフレディがビックリ顔をする。
ガン!
ガン!
『Miss!』
『Miss!』
ガン!
ガン!
『Miss!』
『Miss!』
「――ああっ、ちょっと、投射機ストップっ」
楽屋2階の実況室にいたゴードンは慌ててクレーの投射を止めるようにスタッフに指示を出すと、階段を駆け下りて地下通路から野外ステージへ上がっていった。
「ちょっと、ジョーちゃん。何やってんの?真面目にやんなさいよ」
酒場のセットのカウンターの後ろからコソッとジョーに注意する。
「――涙で曇ってよ、クレーが見えねえんだよ――。(メソメソ)」
ジョーはぐったりとウィンチェスターライフルを地面に突き、哀愁の表情で空を見上げた。
いつかと同じドラえもんブルーの空がジョーの涙目に沁みる。
「もう、仕方ないわね。メラリーちゃん、絶交宣言を取り消しなさい」
ゴードンがメラリーにピシッと命じた。
「――ええ~」
メラリーは顔をしかめる。
「このままじゃショウが台無しよ。早くっ絶交宣言を取り消しなさいっ」
ゴードンは急かすように叫ぶ。
あまり長くショウを中断させている訳にはいかない。
「……」
メラリーは観客席にチラと目を向けた。
ゲストはみな「あれ?クレーが出ない」「故障かな?」などと言ってキョロキョロしている。
せっかくチケットを買って観てくれるゲストにマトモなガンファイトを観せなくてはとメラリーはきっちりした金銭感覚で思った。
「――分かりました。絶交宣言は取り消します」
メラリーはしぶしぶとジョーとの絶交宣言を撤回した。
「メラリー~っ」
ジョーはたちまちスカッと爽やかな笑顔になる。
「オッケーよ。スタートして」
ゴードンがスタッフに再開の指示を出す。
ガン!
ガン!
『Hit!』
『Miss!』
ジョーはケロッといつもの調子に戻った。
さすがにスイッチが秒速で切り替わる男だ。
(あっ、ちゃっかり命中?ズルイっ)
メラリーはジョーの立ち直りの早さに舌を巻く。
ガン!
ガン!
『Hit!』
『Hit!』
メラリーもなんとか巻き返したが、
結果は、
ジョー13発10中。
メラリー13発7中。
やっぱり、負けた。
次のジョーvsロバートとの騎乗撃ちのガンファイトでも、ジョーがパーフェクトで勝利という絶好調ぶりだった。
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