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第7弾 明後日に向かって撃つな!

Cruel treatment(酷い仕打ち)

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 その早めの昼食時。

「――あ、メラリー。醤油?」

 ジョーはいじらしくメラリーのご機嫌を取ろうとテーブルの醤油差しを取ってやる。

「ブルマン。醤油、貸して~」

 メラリーはジョーを無視して先住民キャストのテーブルから醤油差しを受け取って自分の朝定食の納豆に掛けた。

「……」

 ジョーは醤油差しを持ったまま固まる。

「あ、ジョーさん。醤油、いただきますね」

 太田が気を遣ってジョーから醤油差しを受け取って自分の納豆に掛けた。


「――ん?メラリーのヤツ、ジョーとケンカか?」

 レッドストンが意外そうな顔をした。

 昨日からメラリーはジョーと口を利いていないのだが、キャスト食堂ではみなとしゃべっていたので気付かなかったのだ。


 アランは朝定食のトレイを持って騎兵隊キャストのテーブルに着いた。

 最近は定位置になっているマーティの隣の席でヘンリーとハワードの向かい側だ。

「アラン、お前、もうクララちゃんとケンカしたのか?」

 マーティが通路を挟んだ隣のガンマンキャストの後ろ側のテーブルを指した。

「――え?あっ?」

 アランはビックリと声を上げる。

「……」

 クララは大きなスケッチブックを開いてテーブルの通路側に屏風びょうぶのように立てている。

 アランに自分の顔を見られないための対策だ。

 しかも、スケッチブックには『Don't look at me!
』(わたしを見ないで!)と赤いマジックで書いてある。

「そ、そこまでするっ?」

 アランは思わず叫んだが、クララはツンとしてスケッチブックの位置を直し、さらにアランの席から顔が見えないようにした。

「ああ、お前がクララちゃんのことジロジロと無遠慮に見てたからか?」

「やっぱり天然記念物乙女だしな、恥ずかしくて食べるところなんか見られたくないんだろ?」

 ヘンリーとハワードが納得顔する。

 そもそも交際宣言までしたカップルなのに一緒に食べないのも天然記念物乙女のクララが恥ずかしがり屋だからとみなは思っていた。

「……」

 アランは渋面しながら洋食の朝定食のトーストにベタベタとウェスタン牧場の特製バターを塗って齧り付く。


「……」

 クララはいつもどおりにガンマンキャストのテーブルに聞き耳を立てた。

 アランに気付かれていようがやめるつもりはなかった。


「べつにケンカなんかじゃないのにさ~」

 メラリーは箸で納豆の糸をクルクルしながら口を尖らせた。

「メラリーがジョーさんを憎いあんちくしょうにする秘策は楽屋にいたガンマンキャストとキャラクタートリオしか知らないしな」

「だな」

 他のショウのキャストにいちいちジョーとケンカかと気にされるのは面倒臭い。

 なにしろショウのキャストはガンマン、騎兵隊、先住民、フレンチカンカン、楽団と大人数なのだ。

「いちいち『ケンカか?』って聞かれて答えるのも手間だし、みんなにも説明しとこっと」

 メラリーは「ちょっと報告がありま~す」と言って椅子から立ち上がった。

「何だよ?メラリー?」

「まさか、お前まで彼女が?」

 みな先日のアランのように、(すわ、メラリーまで交際宣言か?)とばかりに注目する。

 だが、

「――というワケで、俺、メラリーは日常的に普段からバックステージでもジョーさんを憎いかたきと思って無視することにしました~っ」

 メラリーはみなに満面の笑みでジョーを無視することを宣言した。

 交際宣言とは真逆の絶交宣言だ。

「――」

 ジョーはピキンと凍り付いたように固まった。


「ブラボー。メラリーちゃんっ」

「まあ、すごいわ」

「たいしたプロ根性だぜ」

「いいぞ。メラリーっ」

「だなっ」

 ゴードン、マダム、ロバート、トム、フレディはメラリーの絶交宣言を絶賛する。

「ガンファイトのために普段からかたきとしてジョーに接するとはメラリーの奴、クールだぜ」

「可愛い顔に似合わぬ非情なガンマンってか」

 レッドストンと先住民キャストもこれぞ『西部魂』とでもいうように感心している。


「――え?ま、待ってくれよ?――メラリーが俺と絶交――?普段から――?え~――?」

 ジョーは当惑した表情でみなの顔をキョロキョロと見回した。

 パチパチパチパチ、

 ショウのキャストみながメラリーの絶交宣言を拍手で称えている。

「メラリーちゃんの気合いに触発されて俺も騎兵隊キャストのオーディションに燃えてきましたっ」

 太田はブルブルと武者震いしている。


「――そ、そんな~」

 ジョーは半泣きの顔で椅子からズルズルと崩れ落ちた。

 バサッ。

 弾みでクララのスケッチブックが床に落ちる。

「……」

 その時、クララが腹黒い笑みを浮かべたのをアランは見逃さなかった。


「――メ、メラリー~――」

 ジョーは床に瀕死ひんしの白鳥のように倒れ込み、すがるようにフルフルと震える手を伸ばした。

 しかし、その手はメラリーには届かない。

 メラリーはプイとジョーに背を向け、ご飯のおかわりをしに配膳台へ行ってしまったからだ。

「――メ~ラ~リー~」

 今、この時からジョーはメラリーロス、略してメラロスという厄介な心の病を発症したのである。



 第8弾に続く
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