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第2弾 いつか王子様が

17Memory②(セブンティーン・メモリー)

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「ちょっ、ちょっと待って――っ」

 ステーキハウスのあるメインストリートへ向かって歩き出したメラリーをゴードンは慌てて内股走りで追いかける。

「――?」

 メラリーは面倒臭そうに振り向いた。

「あ、あなた、高校生?何歳?名前は?地元のコ?」
   
 興奮気味に矢継ぎ早に質問するゴードン。

「な、何だ?あのオッサン?」

「また芸能事務所のスカウトじゃん?しょっちゅうだもんよ。メラリン」

「あの根性なしのメラリンに芸能界なんて絶対、無理っ」
   
 伊集院、二階堂、西園寺は口々に言う。

 都内の名門私立大の付属校に通うメラリー達は初等科からの腐れ縁である。

 大学受験のない暢気な身分なので高3の夏休みにこんなところで遊んでいるのだ。


「お待たせ~♪」

 メラリーがニコニコ顔で戻ってきた。

「あのオッサン、このタウンの偉いヒトなんだって。ショウの観覧チケット貰っちゃったっ」
   
 チケット4枚をヒラヒラさせてみせる。

「えっ?マジ?ラッキ~♪」

 伊集院、二階堂、西園寺が嬉々として声を上げた。

「おまけにタウンのレストランのクーポン券も貰っちゃった♪――ステーキハウス、行こ~♪」

 クーポン券は50セントずつ10枚綴りで気前良く4人分ある。

 ウェスタン・タウンでは500セントは5000円だ。
   
「やった~~♪」

 もはや、何の異論もなく、ステーキハウスに向かって高校生4人は「ウヒョウヒョ」と駆け出していった。

 
 野外ステージ。

「はあ~、ランチセットのステーキ、美味かった~。3時のオヤツは何、食べようかな~?アメリカン・ホームメイドパイの店のアップルパイとか美味そう~」
   
 観客席に座ったメラリーはまたガイドマップを開いて眺める。

 ゴードンに貰ったクーポン券はまだ半分も残っている。

「今から3時のオヤツ選んでんの?」

 伊集院が呆れ顔をした。

「あ、ドーナツも美味そう~」

 メラリーは目をクルクルさせて夢中でスイーツのページのカラー写真を見ている。

「ウゲ、ステーキのゲップが出そう~。昼飯、消化する前にドーナツなんて言うなよ~」

 西園寺はホントにゲフッとして胃を押さえた。

 
 ~~♪

 楽団の演奏が始まった。

「――あっ、おい、もう始まるって」

 二階堂が口にチャックの仕草をした。

『大いなる西部』の曲が流れ、

『ウェスタン・ショウへようこそ~~』

 馬のバッキー、白兎のバミー、乳牛のバーバラのキャラクタートリオが登場し、ノリノリで踊り始めた。

「ぷぷ、なんだ。チビッコ向けのショウじゃん?」

 メラリーは小馬鹿にした表情でステージを一瞥し、またガイドマップを見続けた。

 ステージでは酒場のセットで寸劇が繰り広げられ、
 
 ガン!
 ガン!

 銃声が鳴り、

 パッカ!
 パッカ!

 ジョーが愛馬ダイヤを駆って登場した。


 「きゃああああ~っ、ジョ~~ッ」

 観客席の前列のほうで女のコの集団の黄色い声援が飛ぶ。

「――?」

 思わずガイドマップから顔を上げるメラリー。

 やがて、
 
 ガンファイトが始まった。

 ガン!
 ガン!

 ガン!
 ガン!

 宙を縦横無尽に飛び交う色とりどりのクレーを騎乗から撃つジョーとロバート。

 『Hit!Hit!』

 ガン!
 ガン!

「うおっ?馬に立ち乗りして撃ってるよっ。すっげー」

 西園寺が身を乗り出して叫んだ。

 ガン!
 ガン!

 グーッと背をのけ反った体勢で背後のクレーを撃つジョー。

「お~っ、イナバウアーっ」

「すげ~。あの体勢で飛んでるクレーに当たっちゃうんだぜっ」

「人間技じゃねえっ」

 野外ステージを馬で駆け回るジョーとロバートを目で追う3人。

「……」

 パサ。

 いつしかメラリーもガイドマップが膝から足元に落ちたのにも気付かずガンファイトに目が釘付けになっていた。


 ショウの終演後。

 ゾロゾロと野外ステージのゲートを出るゲスト達。

「思ったより、ず~っと迫力あったじゃ~ん?」

「な~?こんなド田舎の温泉地のテーマパークであんなの観られるなんて思ってねえもんっ」

「知名度のわりにはゲストが来る訳だよなっ」

 伊集院、二階堂、西園寺は興奮気味に声を上げた。

「……」

 メラリーは3人の後ろをポ~ッと放心状態で歩いている。

「メラリン、さっき、ここのショウのヒトにスカウトされたんだろ?」

「無理無理。メラリン、シューティング・ゲームすらやったことないじゃん」

「乗馬だってしたことないしさ~。――あれっ?さっきのオッサン」

 ゴードンが野外ステージの楽屋のほうから駆けてきた。

「ど、どうお?ショウを観て――」

 ハアハアと肩で息をしながら、期待いっぱいの面持ちでメラリーに問い掛けるゴードン。

「――俺、やってみようかな?――ここ、入ろうかな?」

 夢うつつのようにポカンとした顔で呟くメラリー。

「ま、まあ――っ」

 ゴードンの目が歓喜に輝く。

「メ、メラリン?」

「マ、マジ?」

「だ、大学進学は?」

 呆気に取られる伊集院、二階堂、西園寺。

「……」

 メラリーの目がキラキラと前途に一筋の光明を見たように輝き出した。
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