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第2弾 いつか王子様が
17Memory①(セブンティーン・メモリー)
しおりを挟む「そういえば、西部劇に興味のないメラリーちゃんが、どうしてウェスタン馬鹿の集まるタウンのキャストになったんです?」
ふと、疑問を感じたように太田が訊ねた。
「――え?え~と」
メラリーは「何でだっけ?」という顔をする。
「メラリーちゃんは、わたしがスカウトしたのよ」
ゴードンが味噌ラーメンをのせたトレイを持ってやってきて、同じテーブルに着いた。
「どうせ、顔で決めたんじゃねえの?」
「だなっ」
トムとフレディがクサす。
「何、言ってんの?当ったり前でしょっ」
ゴードンはさも当然という口調で言い放つ。
「――う――」
「――ぐ――」
トムとフレディはハンバーガーが喉に詰まったように返す言葉もない。
「――あれは、メラリーちゃんが高3の夏。早生まれのメラリーちゃんはまだ17歳、セブンティーンだったわね」
うっとりとして言うとゴードンはやにわに遠い目をした。
「は、はあ――」
つられてメラリーも遠い目をする。
それは2年前の夏休みのこと。
2年前の夏。
ウェスタン・タウン。
エントランス前の広場の丸太のベンチに座ってガイドマップを見ているメラリーと同級生3人がいた。
「あ、ステーキっ♪ウェスタン牧場直営のステーキハウスだって。美味そ~。昼、ステーキにしようよっ。ステーキ♪」
メラリーはガイドマップに載っているステーキの写真を示す。
「ステーキぃ?高っいよ。ハンバーガーでいいじゃん。どっちも牛肉じゃん」
同級生の伊集院が言う。
「やだ。ステーキが食べたいっ。ランチメニューならお手頃価格だしっ」
メラリーは譲らない。
「それより早く昼飯にしないと昼過ぎのショウに間に合わないぞ」
同級生の二階堂が時計を気にしながら言う。
「ショウ~?」
興味なさそうに聞き返すメラリー。
「ここのウェスタン・ショウって馬なんか30頭くらい駆けまくって迫力あって面白いんだってよっ」
同級生の西園寺が熱心に言う。
その声をとたんにキャッチし、
「――あら?」
タウンを歩いていたゴードンがピタッと足を止めた。
ウェスタン・ショウの担当者としてゲストの評判には敏感に耳が反応するのだ。
その時の聴力は並外れていた。
(高校生かしらん?なかなか感心なコじゃないの)
ゴードンは案内板の陰に隠れてニンマリとする。
その時、
「――あぁっ?」
チケットを見ていた二階堂が突然、素っ頓狂に叫んだ。
「このチケット、ウェスタン・タウンの入場だけだってよっ。ショウの観覧チケットは別に買わないと観らんねえらしいぞっ」
「えぇえ~っ?やっぱしコンビニの福引きの4等で当たったチケットだよな。ケチくせ~」
伊集院がガッカリと肩を落とす。
「あ~、ショウのチケット高いじゃん。それよりステーキ食べたほうがいいって」
メラリーはガイドの料金表をチェックする。
(――んまっ、ショウよりもステーキですってぇ?)
ゴードンは不満げにメラリーの後ろ頭を睨む。
「ウェスタン・タウンに来てウェスタン・ショウを観なくて、どうすんだよ~」
ショウを楽しみにしている西園寺が怒ったように言う。
(そうそう。あなたの言うとおりっ)
うんうんと頷くゴードン。
「じゃ、お前等だけでショウ観てきていいよっ。俺1人でステーキ食うもんっ」
どこまでもステーキに固執するメラリー。
(な、なんて、食い意地の張ったコなの?)
ゴードンは唖然とした。
「あ~、また、メラリンの自己チューが始まった」
二階堂が呆れ顔をする。
「メラリンって言うな」
メラリーがポソッと抗議する。
「うちの学校の牛肉王子だもんよ。メラリンは」
伊集院が吐息する。
(――牛肉――王子ぃ?)
ゴードンが怪訝そうに顔をしかめた時、
「――え~と、ステーキハウスは――、こっちかな?」
丸太のベンチから立ち上がったメラリーが案内板のある後ろを振り返った。
「――っ」
思わず目を見開くゴードン。
(――ま、まさに王子っ?――か、可愛いコじゃないのっ)
ゴードンは打って変わって歓喜の表情でメラリーを見つめた。
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