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第2弾 いつか王子様が

ApplePie(アップルパイ)

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 再び、キャスト食堂。

「――今にして思えば、運命的な出逢いだった訳よね~。あの時、たまたま、わたしがあそこを通り掛からなかったら」

 味噌ラーメンを食べる手を止めたままゴードンはうっとりと思い出に浸っていた。

「たまたま、友達がコンビニの福引きでチケットを当てなかったら」

 メラリーはセルフサービスで取り放題の福神漬けをこんもりと皿に取った。

「なるほど~」

 太田は納得してグビリと食後のお茶を飲む。

「ゴードンさん、ラーメン伸びてる」

 マダムがポソリと注意する。

「――あ、あらっ」

 ゴードンは慌てて味噌ラーメンを啜り込んだ。


「ほらよ、アップルパイ」

 ジョーがキャスト食堂のデザートコーナーで買ってきたアップルパイをメラリーの前に置いた。

「やたっ♪アップルパイ♪なんか思い出したら食べたくなっちゃうんすよね~」

 バリ。
 バリ。

 嬉々としてアップルパイを頬張るメラリー。

「ジョーさん、何でメラリーにだけっ?アップルパイ、俺等にはっ?」

「俺等だって後輩なのにっ、すぐ差別してっっ」

 トムとフレディが不満を顕わにする。

「2人は前にジョーさんの奢りでキャバクラ行ったじゃんっ。俺だってキャバクラ行きたかったのにっ。アップルパイよりキャバクラのほうがず~っと高いじゃんっっ」

 未成年のためにキャバクラに誘われなかった恨みが再発し、たちまちメラリーはぶんむくれた。

「――メ、メラリーちゃん、キャバクラ、キャバクラと連呼しないで下さいっ。イメージが壊れますからっ」

 太田は嘆かわしげに眉をひそめる。

「ああ、もぉ、思い出話から脱線しないでよ。――で、メラリーは高校卒業してからすぐにタウンに入ったのよね」

 すかさずマダムが軌道修正する。   

 馬鹿な男どもの手綱を締めるのがマダムの役目なのだ。

「うん」

 メラリーはアップルパイをモグモグしながら頷く。

「けど、西部劇なんてひとっつも観たことなかったし、ここへ来た時はビックリの連続だったな~」

 メラリーはまた遠い目をした。

「もう去年の春か――」

 つられて遠い目をするジョー。

 それは1年前の春のこと。
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