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第1弾 黄色いリボン
Dreamer③(夢見るヒト)
しおりを挟む「それより、何で、お前がバッキーの中に入ってんだよ?」
ジョーが追及する。
「実は、どうしても騎兵隊に入りたくてキャストのオーディションを受けたんです。――でも、書類選考で落っこちちゃって」
「えっ?お前、馬、乗れんの?」
「いえ、まったく」
「そりゃ、落ちるだろ」
「でも、どうしてもショウのキャストになりたくて、そしたら、キャラクターのバッキーなら身長がちょうどいいって言われて」
ショウの常連客の太田はバッキーの振り付けを完璧に覚えていたので即採用となったのだ。
「ふううん、お前、仕事は?」
ジョーはさらに詰問した。
「辞めるつもりです。学習塾の講師をしているんですけど、4月に開校する教室に移動させられることになって、そこは遠いんでタウンに通えなくなりますから、それで決心しました」
バッキーの太田はハキハキと答えた。
学習塾の講師。
それなら仕事は学校が終わる夕方からだ。
どうりで連日の昼間からショウに通っていた訳である。
「はああ、オタク・パワー炸裂だな。あ、ウェスタン馬鹿と言ったほうが聞こえがいいか?」
ジョーが感心しつつ、訊ねた。
「いいですよ。どっちでも」
バッキーの太田は投げやりに答える。
カツ。
カツ。
足音が近づく。
「あんまり、お勧めしないな。今の仕事、続けたほうがいいと思うけど」
背後からの声に振り向くと、騎兵隊キャストのマーティが立っていた。
マーティは後ろから地下通路を歩いてきて太田の話を聞いていたらしい。
「――あ、騎兵隊の――」
憧れの騎兵隊キャストの登場にバッキーの太田は目を輝かせた。
「俺達、騎兵隊キャストと先住民キャストはショウとパレードに出るだけじゃ食っていけないから、みんなショウの後はバイトしてるし」
マーティは現実的な話をする。
「はあ、たしかにギャラは安いんですよね」
バッキーの太田はやる気をくじかれたようにガッカリとうなだれた。
「それでも好きだから、やってる訳だけど、――結婚――とか考えると、やっぱりキビシーよ」
マーティがそう言って思い悩んだような顔をした。
「へえ、マーティ、結婚なんて考えてんだ?」
ジョーが物珍しげに訊ねる。
「そりゃあ、まあ、俺、今年29歳になるし」
マーティは照れ笑いして鼻の頭を掻く。
「あ、俺はそんな心配いらないですから。結婚なんて遠い別世界のことだと思ってますから。自分には関係ないですっ」
太田は確信するようにキッパリ言い切った。
「――そ、そう?」
マーティは太田の気合いに気圧され気味になる。
「マーティ~、ティッシュ足りなくなっちまったよ」
「そっちにあった?」
通用口のほうから騎兵隊キャスト2人が顔を出す。
「ああ。今、貰ってきた」
マーティはティッシュの箱を振って答えて、ジョー達にペコリとして急ぎ足で地下通路を出ていった。
ショウのキャストの男子更衣室。
コスチュームから着替えるジョー、メラリー。
バッキーの中から出た太田。
「――そうだ。これ、メラリーちゃんに。騎兵隊キャストを目指す決意の意味で買ったんです」
Tシャツに短パン姿の太田がロッカーをガサゴソしてメラリーに小さな紙袋を手渡した。
「――?」
メラリーが不審な顔付きで袋の中身を引っ張り出す。
シュル。
出てきたのは――、
黄色いリボン。
「プ――ッ」
ジョーが呆れ顔で吹き出す。
「黄色いリボン~?コスチュームのドレス、ピンクなのに合わないじゃん」
『黄色いリボン』の意味するところをメラリーは分かっていない。
「――メラリーちゃん、ウェスタンの知識は?」
太田がジョーに訊ねた。
「ぜんっぜん」
ジョーが力強く首を横に振る。
「――そうですか」
太田は気落ちして、ガックリとうなだれながら更衣室を出ていった。
「――?」
キョトンとして黄色いリボンを眺めるメラリー。
ジョーがメラリーの手からリボンを取って、
「黄色いリボンは騎兵隊の恋人のシンボル。騎兵隊に想い人のいる娘が黄色いリボンを着けて意思表示するんだぜ~」
キュッ。
メラリーの頭のてっぺんにリボンを結びながら説明した。
「――ケッ」
メラリーは間髪置かず、頭からリボンを引っこ抜いて放り投げる。
「あ、似合うのに~」
残念そうに言いながらジョーはリボンをキャッチするとポケットにねじ込んだ。
「キャ~バリ~、キャ~バリ~♪」
太田はバッキーのボディとヘッドの入った大きな袋をサンタクロースのように背負って寂しく『黄色いリボン』の歌を口ずさんで廊下を歩いていった。
その頃。
騎兵隊の詰め所。
「……」
ダンがうつむいたままで部屋に入り、
キュッ。
キュッ。
今日も壁のカレンダーに赤ペンで×印を付ける。
「……」
ふと、窓際に見返り、
「――っ」
ダンはハッと目を見張った。
窓際にティッシュペーパーで作った大量の照る照る坊主が吊り下がっている。
「――みんな――」
照る照る坊主を見つめ、ダンは感無量の表情になった。
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