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第1弾 黄色いリボン
Dreamer②(夢見るヒト)
しおりを挟む地下通路。
カッツン。
カッツン。
バックステージへ戻るキャスト達。
「……」
バッキーが背後でジョーとメラリーをジットリと見つめている。
「――?」
ジョーが視線を感じて振り向く。
「――(動揺)」
焦ってジタバタするバッキー。
バコ。
ボコ。
とたんに踵を返す。
「なんっか怪しい。あのバッキー」
後を追うジョー。
「えっ?」
メラリーもつられてジョーの後に続く。
「――っっ」
バッコ!
ボッコ!
慌てて逃げ出すバッキー。
バッコ!
ボッコ!
だが、キャラクターの短い足とデッカイ靴では走りづらい。
ガッ!
バッキーの尻尾を掴んだジョーが背後から羽交い絞めにする。
「メラリー。ヘッド、取れっ」
「――え?――えいっ」
メラリーはバッキーの頭を掴んで思いっ切り引っ張った。
プチ!
バチ!
ボディとヘッドを連結しているスナップボタンが外れる音。
「わ――わわ――っ、やめて下さ~いっ。バックステージといえども困りますから~~っっ」
バッキーが羽交い絞めのままジタバタと抵抗した。
馬だけに馬脚を現したバッキー。
「――あっ?お前っ、連日、最前列でショウ観てるメラリーファンの常連じゃんっっ」
ジョーが驚嘆の声を上げる。
「――お、太田邦生です――」
バッキーの太田は観念したようにグッタリと脱力した。
「あっ、『あなたの謙虚なる従者。太田邦生』?こないだ俺に変なカード付けて薔薇の花よこしやがった奴、コイツだっ?」
メラリーがぞんざいに吐き捨てた。
乱暴な言葉。
ガサツな態度。
そんなメラリーを恨めしげに見て、
「――あの、出来たらショウのコスチュームのドレスの時にはバックステージといえども、しゃべらないでいただきたいんですけど。メラリーちゃんのイメージが壊れますから」
バッキーの太田が遠慮がちに頼んだ。
「あ、なんだ。メラリーが男だって知ってんじゃん」
拍子抜けしたようにジョーが言った。
「それくらい知っています。――でもっ、性別なんかっ問題じゃないんですっっっ」
バッキーの太田はキッパリと力強く断言する。
「――げっ?」
バッ。
とっさに危険を感じ、ジョーが自分の背後にメラリーを隠す。
しかし、バッキーの太田は主張した。
「俺にとってのメラリーちゃんは偶像であって、実像ではないんですっ。いわば架空の世界のキャラクターとして存在するんです。だから、ステージ以外のメラリーちゃんは、もはやメラリーちゃんではなく、メラリーちゃんの――」
ここまで一息に言って息切れしたバッキーの太田が息継ぎをする。
「――あ、要するにアレだ?バッキーの着ぐるみみてぇなモンなんだろ?コイツはコスチュームを脱いだら、ただの中身でよ」
ジョーが察し良く補足した。
(――着ぐるみと一緒?)
メラリーは気に入らない。
「バッキーとメラリーちゃんを同列にされるのは心外ですが。ま、平たく言えば、そういうことです。――それと着ぐるみは禁句ですから」
バッキーの太田が譲歩して頷く。
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