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◆番外編◆ 消えないもの~side要~

#6

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ムシャクシャして放った俺の言葉を聞いた夏目は、いつものようにヤレヤレって感じで。

ジャケットのポケットから出したハンカチで俺が乱暴に置いたカップの所為で零してしまったコーヒーを拭いながら、

「『好きにしろ』って、そんな心にもないことよくいうよなー。要のことだから無自覚なんだろうけどさぁ? 

まぁ、多少はマイペースでせっかちなとこもあったけど、元々は冷静沈着で穏やかな性格してるクセに、アレになっちゃってからは煩わしいのが嫌だからって、わざと傍若無人に振る舞って。

女を寄せ付けないどころか人を寄せ付けないオーラ醸し出して、いっつもブリザード吹き荒らしてたクセに……。

美菜ちゃんのことになると、そんなフリも忘れて、自分見失って、思い通りにいかないと感情剥き出しでイライラして。

挙げ句、可哀想に、美菜ちゃん本人にまで当たっちゃって、酷いことしちゃったり、言っちゃったり。

そーかと思えば、美菜ちゃんのご機嫌とるために、地の自分丸出しで、ワザワザ店舗まで出向いて、自らアクセサリーまで用意して、王子気取りで優しくしちゃってたりさぁ。

今だって、冷静沈着を絵に描いたような要が、コーヒーぶちまけちゃうほど取り乱して怒っちゃうんだもんなぁ?

ここ最近は書斎に閉じこもってウジウジウジウジしてるし、全然、自分のことコントロールできてねーじゃん。

自分見失うほど美菜ちゃんのことが大事だなんて、美菜ちゃんが知ったら泣いて喜んじゃうんだろうなぁ?」


軽い口調で茶化すように言ってくると、ハハハなんて可笑しそうにワザと大きな声を立てながら笑って見せる夏目。

コーヒーを拭ったハンカチをヒラヒラさせてテーブルの端へと置いて笑いを堪える夏目の姿に、間抜けな俺は『してやられた』ことに気付く羽目になった。

さっき夏目が言ったことはきっと、俺のことを挑発するためにワザと放ったモノだったんだろう……。


「……」

「今度は、まだ処女で穢れを知らない美菜ちゃんのことが大事過ぎて、俺なんかが触れて穢しちゃうのが怖くて触れることもできないってか?」


夏目に何もかもを見透かされてしまってたことが悔しいが、これ以上痛い腹を探られて余計なことを口走らないためにも……。

黙って口をつぐむしかないと無言を決め込んだ俺に、夏目は尚も追い立てるようにして言葉を投げてよこす。

しかも的確に、僅かなブレもないドストレートなモノを……。

長い付き合いだとはいえ、夏目にまさかここまで言い当てられてしまうとは思いもしなかった俺は、いたたまれない気持ちになって。


「仕事に戻る」


そう言って自分のデスクに戻ろうとするも……。


「言い当てられて、いたたまれないからって仕事に逃げるのかよ?」


これ以上何かを突っ込まれてしまうのが嫌で、背中を向ける俺に、素だといつもはヘラヘラしているくクセに、ここぞとばかりに尚も食らいついてくる夏目。

とうとう逃げ場をなくしてしまった俺が、


「自分でもどーすりゃいいか分かんねーんだから仕方ないだろ? 笑いたきゃ笑えよ?」


開き直って、やけっぱちな言葉を放って。 

それでも、こんな情けない顔を晒したくなくて……。 

自分のデスクまで戻った俺は、椅子に身体を深く沈めてから窓の外へと視線を定め、夏目の視線から逃れるように椅子ごと背中を向けて腕を組んで脚を高く組み上げ、傍若無人ポーズを決め込んで見せた。 

そんなどこまでも情けない俺に、夏目はホトホト呆れたのか、「はぁ」と大仰な溜息を吐き出した後。


 「開き直りやがって。これだから、お坊ちゃんは……」


ボソボソと呟きを落として。 

今度は気を取り直すように、短めに息を吐いたかと思えば……。


 「ならさぁ? なんで、美菜ちゃんと契約なんて交わしたんだよ? 

そんなに穢しちゃうのが怖いんなら、美菜ちゃんが処女だって分かった時に、関わんなきゃ良かっただろ? 

それを無理矢理、契約交わさなきゃならないように、ワザワザ美菜ちゃんのこと追い込んどいてさぁ……。

自分の都合で、美菜ちゃんのこと巻き込んだクセに。好きにさせたら放置って、自分勝手にも程があるだろ? 

何? 今度は、放置プレイでも楽しんでんのか?」 

「……」 


美菜と契約を交わした時のことまで夏目に持ち出されて……。

あの日、俺は美菜に逢ってすぐに、何故か自分から美菜に近づいて、『俺のことが怖いか?』って訊いたことを思い出してしまい、余計何も言えなくなってしまった。 

あの夜、昼間初めて逢った美菜とバーで居合わせて、俺に懐いて抱き着いて離れなくなってしまった美菜。 

あんまり懐くもんだから可哀想で、俺は夏目が止めるのも聞かずに部屋に連れ帰って。

可愛がっているうちに、酔いが醒めてしまった美菜が俺のことを見た途端、態度が一変、俺に怯えたような素振りを見せた美菜に無性に腹が立って仕方なかった。 

あの時は、自分がどうしてそんなに苛立っているのか分からなかった。 

ただ無性に腹が立って腹が立って、何が何でも契約を交わさせてやるってことしか考えられなかった。 

――あんなに『副社長がいい』って言ってたクセに……。 

あんなに懐いて、抱きついて離れようとしなかったクセに……。

どうしてあんなに苛立ってたかなんて、そんなの簡単なことだ。

どうしてかなんて、そんなことは自分でもよくは分からないが、美菜には嫌われたくないって思ったからに他ならない。

だから、『俺のことが怖いか?』なんてワザワザ訊いてみたり、バーで抱きつかれた時には嬉しかったり、酔いが醒めて俺に怯える美菜には、無性に腹が立ったに違いない。

夏目の言う通り、美菜に懐かれたからじゃなく、初めから全部、俺から仕掛けたことだった。

美菜に出逢う前は、EDのこともあり、女が寄ってくるのが煩わしくて、ワザと遠ざけて怖がられるような態度をとってたっていうのに……。
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